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『通学路オーバーヒート 』
天野 一羽aa3515)&ルナaa3515hero001)&ラレンティアaa3515hero002

 夏休みだ。ホームルームが終わった瞬間、天野 一羽(aa3515)は何とも言えない開放感に包まれた。
「一羽、昼飯どうする?」
 眼鏡をかけた友人が話しかけて来る。
「まっすぐ帰るよ。英雄たちもいると思うから、何か作って一緒に食べようかな」
「大変だな、能力者ってのも」
 一羽は曖昧に笑う。実のところ、男子高生なら誰もが喜びそうな状況ではあるのだ。だらだらとした流れに乗りながら、開け放たれた生徒玄関を潜った。
「あちーなー。このままでいいからプール飛び込みてー」
 別の友人が言った。
「俺は別に止めないぜ。ガキ臭いことしてマキちゃんに幻滅されても知らねぇけどぉ」
「バカ、声が大きいって!」
 背の高い少年が、坊主頭の少年の頭を抱え込む。
(そんなにくっついて、暑くないのかな)
 一羽は心でツッコむ。坊主の少年は懲りることなく続けた。
「苦労して、一緒にプール行く約束とりつけたんだもんなー。今が正念場だよな」
 しかし、長身の少年もやられてばかりではない。
「悪ぃ悪ぃ。お前は杉原さん誘えなかったんだもんな。当たりたくもなるか」
「く……今に見てろよ」
「ははっ! 俺、テンション上がって来たわー! この夏の間にぜってー告るし!」
 小競り合いは続く。一羽はそれをどこか別世界の出来事のように眺めていた。眼鏡の少年はそんな一羽に視線を送る。
「青春だなー。その点、一羽は落ち着いたもんだけど。クラスに気になる子とかいないのか?」
「えっ、あはは……今はそれどころじゃないっていうか」
 脳裏をかすめたのは、英雄たちの姿。
「ふーん。これがモテ男の余裕なのか?」
「……な?! モテ男って何のこと?」
「あー、気づいてないか」
 聞き捨てならない単語。一羽を溺愛して止まない英雄たちのことは、誰にも知られていないはずだ。一羽が詳しく尋ねようと思ったその時。
「一羽ちゃーん!」
 とろけそうなくらいに色っぽく、恋する乙女のように愛らしい声が彼を呼んだ。
(なにこれ、空耳?)
 だって、こんなところにいるわけがない。
「一羽、何をしてる? まだ夕方ではないぞ?」
 眼鏡の少年は太陽の光に負けじと前方に目を凝らす。
「嘘、ラレンティアまで……」
 降り注ぐ夏の陽光に映えるのは、2名のうるわしきお姉さま。今度こそ、疑う余地はなかった。



 時間は少しだけさかのぼる。ルナ(aa3515hero001)とラレンティア(aa3515hero002)は、焼けたアスファルトの上を歩いていた。とくに目的はない。退屈しのぎの散歩である。
「暑ぅい。溶けちゃいそうねぇ」
 ルナが言う。首すじににじむ汗が艶かしい。
「一羽の学校にはまだ着かないのか? すぐそこだと言っていただろう?」
「もうすぐよ。あそこなら緑が多いし、少しは涼しいと思うの」
 ラレンティアは日陰を選んで進んでいた。徹底的に日差しを避けた結果、塀の上などを歩くのもお構いなし。彼女のおでかけは普段からフリーランニングさながらなので、これくらいは朝飯前だ。
「それにしてもラレンティアちゃん、最近はお留守番が多かったのに珍しいわね」
「良い予感がした」
「そうなんだ? ラレンティアちゃんの勘、当たるものね」
 昼間は幻想蝶から出て外を出歩くことも多いので、学校の場所は把握済みだ。
「あ、ほら、あの子たち! あれって一羽ちゃんの制服と同じじゃない?」
「服なんてあまり気にしないからな。……ふむ、年の頃は一羽と同じくらいか」
 視線に気づいた少年が怪訝そうにこちらを見た。ルナが何気なく微笑むと、少年の顔が上気する。
「ルナは、今日は機嫌が良いな」
「えへへ。だって一羽ちゃん、明日からは一日中おうちにいるっていうんだもん♪」
「それは良い。いつもは帰りが遅くてつまらんからな」
「でしょー!」
 先ほどの少年たちの声がだんだんと聞こえてくる。
「……な、あそこにいる……」
「やべぇ、まじフェロモン……」
「……隣のケモ耳お姉さん……」
 断片を拾うだけで十二分にわかる。彼らの話題は明らかに彼女たちだ。しかし、お姉さまたちは意にも解さない。彼女らが興味がある相手は、ただ一人なのだから。



「い、一羽、知り合いなのか…?」
 お姉さまたちへ視線を釘付けにしたまま、友人の一人が問うた。
「あー……うん」
 一羽は観念した
「ふたりとも僕の英雄、です」
 野太い悲鳴がいくつも立ち昇る。一羽が能力者であることは知っていたが、英雄の正体までは聞いたことがなかったのだ。
「ずるい! 羨ましいぞ、このー!」
 長身の少年が、今度は一羽にヘッドロックをかけようとする。
「痛っ!」
 しかしその手は一羽へ触れる前に叩き落とされた。
「おまえ、うちの一羽に何をする?」
「うちの?」
 ラレンティアは一羽をぎゅっと抱き込むと、鋭い視線で少年を射抜いた。
「す、スイマセン!」
 少年は勢いよく頭を下げる。
「ラレンティア! あれは友達同士のスキンシップみたいなもので……」
「そうなのか?」
「うん、だから……離してほしいなって」
「断る」
 汗が流れていく。それはこの身を包むぬくもりのせいか、一羽を射抜く視線たちのせいか。――先ほどより視線の数が増えているのは気のせいだろうか。
「もーう、ラレンティアちゃんずるーい! 私だって一羽ちゃんに会いたかったんだからー!」
 両側からむぎゅっと抱き着かれた形になる一羽。どこからか女子の悲鳴が聞こえた。
(そりゃ、驚くよね。お願いだから、先生だけは呼びに行かないで……)
 一羽は「皆に紹介するから」と言って、なんとかふたりを振りほどくことができた。
「英雄のルナとラレンティア。こっちが学校の友達。眼鏡かけてるのがトモヤ、背の高いのがユウキ、坊主にしてるのがマサト」
「皆にはマーちゃんって呼ばれてます! よろしくっす!」
「マー君ね。よろしく」
 あえてニックネームを変更するルナに坊主の少年が首を傾げる。
「ごめんね。男の子に『ちゃん』付けするのは一羽ちゃんだけって決めてるの」
 語尾にハートマークをつけてにっこり笑うルナ。またしてもギャラリーがざわついた。
(もうみんな帰ろう? ここ、暑いしさ! ね!)
 一羽の心の叫びは誰にも届かない。
「その……ルナさんは、一羽とお付き合いを?」
「んーん、まだなの。一羽ちゃんがなかなか『うん』って言ってくれなくて。でも私は今の関係も幸せだから……」
 愁いを帯びた笑みもまた、どうしようもなく色っぽい。少年たちの心を鷲掴みだ。ついでに、男女のお付き合いに興味津々な彼らが『今の関係』という言葉を邪推するのは、無理もないことである。
「つまり、ラレンティアさんも『恋人』ではないんですね?」
「そうだな」
 少年たちは深い深いため息を吐く。
「一羽……お前が一番奥手だと思ってたのに……」
「まさかそんな奴だったなんて……う、羨ましいなんて思ってないんだからなッ!」
「違う! 皆、ものすごく失礼な想像してない!?」
 真っ赤になって否定する一羽。『年上キラー』? 『魔性の少年』? そんなのは誤解だ。だらだらと汗が流れ、息が乱れる。
「一羽ちゃん、大丈夫? もしかして体調悪いの?」
 ルナは一羽の頬を両手で包むと、彼の額と自分の額をくっつける。
「だ、大丈夫……風邪とかじゃない……」
 顔が近すぎるせいで、語気が弱まる。
「だって最近、寝相が悪いじゃない。暑いから仕方ないけど、体壊したら心配だなーっていつも思ってたのよ?」
「……ん、何でそんなこと知ってるの? 寝るときはいつも幻想蝶に入るよね?」
「ふふ♪ 一羽ちゃんの寝顔、可愛かったぁ♪」
 その様子は、ギャラリーからするといちゃついているようにしか見えないわけで。
「……ナニコノ雰囲気? ……ていうか、寝相とか寝顔とか聞こえたの俺だけ?」
「俺も聞こえた……」
 心なしか片言気味に、ざわざわ囁き合う友人たち。そんな周りはお構いなしにルナは正面から抱き着き、耳元で言う。
「ねぇ一羽ちゃん、帰ったら何する? ずっとお休みなんだから、今日はゆっくり過ごすのもいいよね?」
「うん、その話は後でね! こんなとこで抱きついたらダメだって!」
「暑かった? ごめんね」
 寂しそうに微笑むルナ。一羽の心にちくりと痛みが走った。それにしても、興奮のせいか急にかいた汗のせいか、少し疲れてきた。まわりに友人さえいなければ、今日くらいは冷房の効いた部屋で彼女の抱き枕になるのも悪くないだろうか。妄想の中の彼女はこれ以上ないくらいの幸せな表情で一羽を抱きしめる。ふと、至近距離で目が合う。ルナの桃色の唇が、一羽の唇へと吸い寄せられるように近づいて――。
(って、何考えてるんだ僕はー! だめだめ、絶対ダメ!)
 妄想のせいで、にわかに疑念も湧き上がる。
「ところで、ルナ……夜中に、……スとかしてないよね」
「え?」
「……き、キスとか」
 蚊の鳴くような声で問う一羽。ルナはぱちくりと目を瞬かせる。
「してないわよ?」
 そして、にっこりと笑った。
(一羽ちゃん、私の行動パターンを理解してきたのかも。なんだか嬉しいな)
 本当はこっそり、頬にキスしてしまったことがあるのだ。炎天下でゆでダコになってしまうのはかわいそうだから、懺悔タイムはおうちに帰ってから。
「一羽ちゃんが望むなら、いつだってしてあげたいんだけどな。あ、明日からちゅーで起こしてあげよっか?」
「ルナ、声が大きいって!」
 一羽のツッコミも虚しく、男子たちは湯気を出してショート中。ふたりの会話に、必死で聞き耳を立てているからしょうがない。
「ネェ、俺、ちゅーとか聞こえたんダケド……」
「奇遇ダナ……俺モダヨ……」
「一羽ったら、お姉さまから手取り足取りレッスンを……」
 生唾を飲み込む少年たち。
「馬鹿! 何言ってるのさ!」
「手取り足取りなんて……そんなことないわよ? 一羽ちゃんが初めてだから、まだ全然慣れなくて」
 年頃の少年たちが「(恋愛のステップを踏むのが)初めて」と発想してくれるはずもなく、場は静まり返った。サキュバスとして生きていたルナだが、一羽との関係の進展はもどかしいくらいにゆっくりだ。
「……大人になってたんだな、一羽」
「俺も天野にあやかって、この夏、男になるぜ」
 友人たちやら、よく知らない上級生やらに遠い目で肩を叩かれる一羽。
「こいつはどう見ても子供だと思うが」
 言ったのはラレンティアだ。まさかの方向から助け舟が来た。
「だが一羽は、私たちが責任持って大人にしてやる。見ていると良い」
 泥船だった。ラレンティアのことだから、単純に『子育て』という意味なのだろう。――そうだと信じたい。
「油を売ってないで帰るぞ。いい加減、暑い」
 ラレンティアが一羽の腕にぎゅっと抱きつき、引っ張っていく。
「あ、待って」
 ルナは反対側の腕に抱きつく。
「またね、皆」
 振り向き際の妖艶な笑みは、友人の彼女(誤解)ということを差し引いてもどきりとさせららた。
「一羽、頑張れよ〜!」
「しかし、あいつが年上キラーだったとは。確かに可愛い系の顔してるもん、な……」
 坊主少年は自分を刺す鋭い視線に気づいて、言葉を詰まらせた。上級生の女子たちが自分を睨みつけている
(いや、恨むなら一羽のほうだろ?!)
 案の定、噂はすぐに駆け回ったという。スマホ社会って恐ろしい。ついでに、数人の女子生徒――主に上級生――が枕を涙で濡らしたとか何とか、そんな噂も彼らのネットワークを駆け巡ったそうな。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【天野 一羽(aa3515)/男性/16歳/防御適性】
【ルナ(aa3515hero001)/女性/26歳/バトルメディック】
【ラレンティア(aa3515hero002)/女性/24歳/シャドウルーカー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております。高庭ぺん銀です。
ハピネスランドから始まり、ついに学校へと広まったモテ伝説はこれから続く……といったところでしょうか。悪気はないけど愛はあるお姉さまたちのことも、楽しく書かせていただきました。
作品内に不備などありましたら、どうぞリテイクをお申し付けください。それではまたお会いしましょう。
イベントノベル(パーティ) -
高庭ぺん銀 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2017年07月31日

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