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『帰り道』
齶田 米衛門aa1482)&十影夕aa0890


 齶田 米衛門(aa1482)と十影夕(aa0890)は人通りのほとんど無いその道を、ふたりでのんびりと歩いていた。
 今日は小隊レイヴンの拠点で掃除が行われたのだが、夕とその英雄も手伝いに来てくれていたのだ。
「だいぶ、遅くなったッスね……」
 赤く染まった西の空を見て、米衛門が呟く。
 いろいろと想定外のことが起きたせいで掃除は思ったよりも時間がかかってしまった。
「別に大丈夫だよ。齶田さん、送ってくれてありがと」
 労働の後の怠い身体を涼しい風が優しく撫でる。
 日中ずっと太陽に照らされたみずみずしい緑の匂いが去り行く一日を名残惜しんでいるかのようだった。
「送るって言ったは良いッスけど、どこまで送れば良いスか?」
 尋ねた米衛門に、夕はここからそう遠くないその場所を伝えた。
 掃除が終わった後、時間に気付いた米衛門は「遅くなってしまったから送る」と夕に申し出たのだ。
 ──そんなに子供に見えるかな。
 夕は近くを歩く、背の高さはそう変わらない青年を観察した。
 髪色は夕と同じ黒、瞳は赤、肌は健康的な小麦色で、そのせいか日に焼けていない自分よりは少し逞しく見える……気がする。
 ──齶田さんも、あんまり俺と変わらなそうな歳に見えるけど。
 彼と比べて自分が子供、という気はしない。だから、夕は米衛門の申し出に少し戸惑った。
 一緒に掃除に参加した幼い姿の自分の第一英雄ならともかく、自分はもう高校生で、しかも経験を積んだエージェントだ。
 しかし、一方で親切を受けるのは嬉しく、最終的に夕は彼の厚意に素直に甘えることにしたのだ。
 もちろん、出会って間もないこの気の良さそうな青年のことをもっと知りたいという気持ちもあった。
 ……ちなみに、一緒に掃除に参加した件の夕の第一英雄はというと。
 得意顔で『わたしにかかれば、そうじなど、あっというまだよ』などと豪語していたものの、一通り終わった後はやはり疲れが出たのかすでに別なメンバーに送ってもらっていた。

「掃除、来てけでありがとうッした! かなり助かったッスよ!」
 くしゃりとした笑顔で米衛門が夕に笑いかけた。表情が豊かではない夕にはそれは眩しく見える。
 実際、米衛門の言葉はお世辞でも無く、彼らの『掃除』は夕の存在にだいぶ助けられた。
「気分転換にもなったし、楽しかったよ。いつもあんな感じなの?」
 淡々と言葉を返すが、それが彼の普通であって別に不機嫌というわけではない。
 米衛門もそうは感じなかったようで温かな笑顔のまま言葉を続ける。
「そッスね、いつもあんた感じッス! 賑やかで良いッスよね!」
 ──賑やか。
 あれを賑やかという一言で括って良いのだろうか。
 掃除が進むにつれて部屋が綺麗になるにつれて、何故か破損するモノが増えてゆく……そんな『掃除』であった。
 しかし、まるで『物が壊れるのは元気な証拠!』とでもいうような能天気さでカラリとそれを受け入れている米衛門。
 それをひっくるめて、夕は感心した。
 ──掃除するだけなのに物も壊れまくってすごかった。
 人並みに家事をこなせる夕には、小隊の掃除で景気よく物が破壊されていく状況は衝撃的であった。
 ──でも、賑やかでかなり自由な雰囲気だった。
 楽しそうに掃除を行う米衛門たちの姿が脳裏に過る。
 あの雰囲気は嫌いではない。むしろ──。
「もし、居心地悪くなかったらまた来てくださいッス! オイも皆も喜ぶんで!」
 まるで夕の心情を読み取ったようなタイミングで米衛門が言った。
 彼の背後で沈みかけた夕陽が輝いていたが彼の笑顔に影が落ちることは無かった。ただ、捲ったパーカーから覗く機械化された銀色の腕がキラリと光った。
 眩しいかな、と夕は感じた。
「齶田さんの手、渋いよね」
 ──銀色でシンプルな感じが。
 自らもアイアンパンクである気安さから反射的にそう言ってしまって、夕は口を閉じた。鈍感と言われる彼ではあるがこの話題を好まない人間もいることは知っている。会って間もない米衛門がどう受け取るかわからなかった。
 けれども、夕の柄にもない煩慮をよそに米衛門はさらりと会話を続けた。
「大分型が古いッスからねぇ、手入れもし易く殴るのにも丈夫でシンプルイズベストって奴ッスね!」
 歴戦のエージェントらしい答えが返って来た。夕はアイアンパンクを受け入れた米衛門の答えに安堵する。
 それから、今まで自分とそう変わらないと思っていた青年が自分よりずっと大人なのだと、なんとなく感じた。──年齢ではなく。
「──右利き? 左利き?」
「箸や筆持つのは左ッスね!」
「齶田さんて大学生?」
「農家なんで……社会人ッスかね? 十影さんは? 中学生ではないッスべ」
 米衛門の問いに夕は僅かに苦笑した。
「高校の、受験生だよ」
「大変ッスね! 野菜は好きッスか?」
 唐突な質問は田畑を愛する生粋の農家である米衛門が、年下の新しい友人にずっと尋ねたいと思っていた質問であったが、もちろん、夕にはわからなかった。
「え? 色々作るけど……」
 質問の真意を測りかねて曖昧に応える夕。
「んなば、夏は色々取れるッスからね。出来たらお裾分けに行くッスよ!」
 受験に挑むには栄養を摂って精をつけねば、とのことらしい。
 それは、だいぶ助かるし、うちの英雄たちも喜ぶかなと話すと米衛門は喜んだ。
「姉さんとたんと届けるッスよ!」
 米衛門のお国言葉を聞いていて、夕は聞こうと思っていたことをふと思い出した。
「前はどっか遠いとこ住んでたの?」
 耳に心地よい彼の言葉がどこのものか、単純に気になっていただけだった。けれども、尋ねてしまってから、夕はその流れで次に自分に振られるであろう質問にすぐに思い当った。彼にとって彼の過去は『ふつー』であったが、この超元気な知人に気を遣われるのは少し残念な気がした。
「秋田の限界集落ッス! 米が美味いんスよ!」
 しかし、米衛門は元気よく答えるとこう言った。
「十影さんは家事ができるしっかり者ッスよね!」
 いつもの癖で相手の赤い瞳をじっと見つめていた夕に、彼は言った。
「それに、とても良い目、してるッスね!」
 米衛門は他意なく、夕の眼差しに対してそう言ったのだと夕自身にもわかった。
「……よくわかんないけど」
 金の瞳が夕焼けを映して輝いていた。
 夕の両目はずっと昔、幼い頃に事故でなくしてしまった。それからずっと──元の瞳から世の中を見ていたよりもずっと長い時間──彼の目はこの金の瞳だったが、それが『良い目』だとか考えたことはなかった。もしかしたら、彼の英雄たちがそう評することはあったかもしれないが。

 いつの間にか止まっていた足を動かして、ふたりはまた歩き出した。
 段々薄暗くなり始めた空を黒い鴉が大きく鳴いて飛んで行った。
「『故郷』が流れそうな雰囲気ッスね」
「ふるさと……?」
「田舎には夕方、家に帰る時間になるとスピーカーから音楽が流れる所があるッスよ」
「あぁー、童謡とかあるよね」
 それから、エージェントとしての仕事で訪れたあちこちの話題に移る。
 ふたりの会話はさっきよりずっとスムーズに流れた。
 だが、愉しく会話を交わしながらも夕はぼんやりと考えていた。
 ……掃除や片付けはあれで全部終わっただろうか。料理は掃除とは別に得意な人がいるのだろうか。
 いや、別に自分が手伝うことが無くてもいい。
『もし、居心地悪くなかったらまた来てくださいッス! オイも皆も喜ぶんで!』
 先程、米衛門が言った言葉を思い出す。
 ──そうだな、まあ、好きかも。居心地がいいよね。
 今日訪れたあの場所も、そして、この新たな友人の傍も。
 米衛門につられたかのように夕の口の端に傍目にはそれとはわからない小さな笑みが宿った。
「──あ、あの辺ッスね。気を付けて、また……」
 少し残念そうに言った米衛門の瞳を夕はいつものようにしっかり見つめて言った。
「うん、また明日、遊びに行こうかな」
 一瞬、驚いた顔をした米衛門はすぐに満面の笑みを浮かべた。
「ぜひ、待ってるッスよ!!」
 最後の夕陽の光が地平線でキラキラと光った。
 新しい友人たちは次の約束をして、ゆっくり手を振って別れた。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa1482/齶田 米衛門/男性/21歳/アイアンパンク】
【aa0890/十影 夕/男性/18歳/アイアンパンク】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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年齢もタイプも違うアイアンパンクのおふたりのお話なんだなあと思うと感慨深く、
できるだけそれぞれの個性が出るように気を付けて書かせて頂きました。
拠点からの帰り道もあまり無理のない範囲で描写するよう気を付けたのですが、
設定やイメージと矛盾がありましたらご連絡頂ければ可能な限り対応したいと思います。
今回はご依頼ありがとうございました!
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2017年08月14日

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