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『哀恋のお人形 』
イアル・ミラール7523

 イアルの親交が深かった響カスミが姿を消してから、数ヶ月が経っていた。
 居所も原因も知っているのに、萌もイアルも手出しできない場所に、彼女は捕らわれている。洗脳され、今では下僕という扱いであった。
 魔女結社である。
「どうやら……カスミは今、このアロマオイル店に出入りしてるみたいなの」
「……それは、罠じゃないのかしら?」
「私もそうかと思ったんだけど、見て……」
 萌が掴んできた情報を元に、イアルと萌が向かい合わせで座っている。
 イアルの目の前に差し出したスマートフォンには、確かに響カスミと思わしき人物が映し出されていた。
 路地裏の店から、出てきた所を写真に撮られている。
 それを見て、イアルはほっとすると同時に、悲しい気持ちにもなり表情を曇らせた。
「とにかく、もう少し私が探りを入れてみる。この店に、イアルの体を変えてしまった魔女もいるみたいだから」
「大丈夫?」
「私のパワードプロテクターは、こう云う時のためにあるんだよ。潜入捜査は得意中の得意なんだから、任せて」
 萌は努めて明るくそう言った。
 光学迷彩が相手に通用しないということは、すでに身をもって体験している。
 だがそれでも、エージェントである自分が適任だ。
「何かあったら、連絡するよ。このスマートフォンはイアルが持ってて」
「ええ、分かったわ」
 萌はそう言いながらゆっくりと立ち上がり、部屋を出た。

 この間のブティックとよく似ている、と萌は思った。
 雰囲気から店構えまで、魔女が展開しそうな装いなのだ。
 近くの廃ビルから様子を窺っていると、若い女性たちがよく出入りしている。入る前は不安気な表情である彼女たちは、店を出てからは晴れやかな表情をしているのに気がついた。
 手にしている小さな袋。アロマなのだろうが、それが原因なのだろう。
 取り敢えず、今のところは女性たちが捕らわれている気配はないので、萌はその件を一旦は保留とした。
 今は、カスミとあの魔女の動向を優先すべきであるからだ。
「…………」
 萌は人気が無くなったことを確認してから、廃ビルを後にしてその店の二階バルコニーへと降りた。
 その間の物音は一切なく、まさしく忍者そのものの動きであった。
 窓に鍵がかかっていないことを確かめ、静かに潜入する。
「……っ」
 すると、空間内には甘い匂いが立ち込めていて、萌は思わずフラついてしまった。
 甘美でいて、強い印象が一瞬で鼻の奥に届くかのような香り。
「――良い香りでしょ?」
 その香りに気を取られていると、背後からそんな声が掛けられた。
 聴き覚えのありすぎる声は、あの魔女のものであった。
「お客さんにも大評判なの。夢を見るようだって」
「……貴女、は……っ」
 魔女は不敵な笑みを浮かべつつ萌に歩み寄ってくる。その場を満たす香りと相まって、魔女の姿がより妖艶なものに見えた。
「ふふ、私の授けたアレ、随分楽しめてるみたいね?」
「なんで……そんな、こと」
「分かるのよ。透視……とでも言えば良いのかしらね? 貴女のココに、溜まっているモノがね」
「!」
 魔女は囁くようにそう言って、萌の体に触れてきた。
 その指先は小さな体のラインをゆっくりと沿った後、彼女の下腹辺りに到達して、軽く撫でる。
「IO2でもこれは見抜けなかったかしら? イアルの放つアレには、呪いがあるのよ。貴女、随分と気に入ったのね、私のプレゼントが」
「しまっ……」
 萌の体が、足元から硬直し始めた。それに目をやれば、石化しているようだ。
 愛しい人との求め合いの結果がこれだとすると、悲しいものがある。
 思い返せば、イアルを受け入れてからと言うもの、その快楽に萌はあっさりと溺れてしまっていた。
 時間さえ有れば、彼女と体を重ねた。
 お互いが同じくらい気持ちの良くなる術を、萌はその過程で知ってしまったのだ。
 身体で受け止め、たまには自らの唇で飲み込んだりもした。
「……ッ……」
 萌はイアルに手渡したスマートフォンを思い出し、後ろ手で通話ボタンを押した。
 その直後、彼女の全身は完全に石化してしまい、スマートフォンは床に落ちてしまう。
 魔女はそれを笑いながら見るだけに留め、相手の反応を待つことにした。

「萌、どうしたの? 萌!」
 イアルは、萌の自室内でスマートフォン片手にそう叫んでいた。
 萌の身に何かが起こった。それは、容易に分かる。
 今まで何度も、こうした事を繰り返してきた。その度に戦い、抗ってきた。
 萌が大丈夫と言えば、何とか成るような気持ちになることも、イアルは知っている。
 だから彼女は、立ち上がることに躊躇いがなかった。
 これからだって、二人で立ち向かっていけるはず。
 イアルはスマートフォンに残された地図を頼りに、件の場所へと急行した。

「いらっしゃい、イアル・ミラール」
 イアルを出迎えた魔女は、堂々としていた。勝ち誇ったかのような笑みが、やけに印象に残る。
「萌はどこ?」
「よく見なさいよ、そこにいるわ。――ああ、でも、簡単には石化は解かせないわよ?」
 魔女はイアルをからかうような口調でそう言った。確信しているのだろう。イアルはこれから出す条件を断ることが出来ない、と。
「……これ以上、何を望むというの」
 イアルも努めて冷静に、言葉を運んだ。
 すると魔女は、目の前で楽しげに笑う。
「貴女バカなの? こんなもので私たち魔女が、満足するわけ無いでしょう? 貴女にはもっともっと……苦しんでもらわないとね。だから今回は、そうね……ドールがいいわ。あの子を解放してあげる代わりに、ビスクドールになりなさい」
「!!」
 イアルの返事を、魔女は待たなかった。
 そして彼女は、すらりと右腕を上げて、萌の石化を解いてやる。それと同時に、イアルの体をビスクドールに変化させて、着ている服を破り捨てた。
「……っ、イアルに何をするの!!」
 生身に戻った萌が、目の前に飛び込んできた光景にそんな声を上げた。
 魔女はそれを肩越しに受け止めて、微笑むのみだ。
「可愛い子猫ちゃん。貴女はまだ使えそうだから、このまま帰してあげる。また会いましょう」
「イアル……ッ」
 魔女は萌を、一歩も近づけさせなかった。
 高い魔力を放つ彼女に太刀打ちが出来ずに、萌はその場に転がされる。数メートル飛ばされた後、慌てて身を起こすも、その視線の先には魔女とイアルの姿は見えなかった。
「くっ……」
 萌は悔しそうな表情を浮かべて、握りこぶしを床に叩きつけていた。

 ――ここはどこかしら。私はどうなったの?
 ――ああ、そうだ……あの魔女にまた捕まって……。何だか、体が熱いわ。

「!」
 心での呟きを自覚した後、イアルは自身の体に起こっている異変に気が付き、動揺した。
 だが、外見ではそれは全く解らない。魔女によりビスクドールにされてしまったからだ。
「……なんて卑猥な光景なのかしら」
 魔女の声が聞こえてきた。
 どうやら彼女は、イアルの直ぐ側に居るらしい。

 ――苦しい、苦しいわ。それに、なんて酷い臭いなの……。

 イアルにはその悪臭に憶えがあった。
 自分の体にある、あの部分だ。
 萌が受け入れてくれて、口にすら含んでくれた、あの異物。自分の体と一体化してしまった今では、それを自身としか言いようがない。
「イアル・ミラール。澄ました顔して、どれだけ貪欲なの……! まだ出るわ!」
 魔女の声が、興奮しているようであった。
 そう考えると、自分の体の一部が、酷く反応していることに気がつく。
 触られている。そして弄られている。その部分だけ、おそらくは生身であるのだ。
「フフ……アハハ……ッ いい、いいわ。最高よ貴女……!」
 魔女は恍惚の表情を浮かべて、笑いながらそう言った。
 そんな彼女の周囲には、白濁とした液体が飛び散っていた。

 ――いや、嫌よ……。こんな辱め、耐えられない!

 イアルは心でそう叫んでいた。
 だがやはり、声にはならなかった。
 ビスクドールはその場で、快楽に震えながらも悲しくガタガタと震えていた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【7523 : イアル・ミラール : 女性 : 20歳 : 素足の王女】
【NPCA019 : 茂枝・萌 : 女性 : 14歳 : IO2エージェント NINJA】
【NPCA026 : 響・カスミ : 女性 :27歳 :音楽教師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつも有難うございます。
 魔女さんの願望というか欲望には、狂気に近いものを感じてます。
 また機会がありましたらよろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年08月14日

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