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『全き人間、再び』
イアル・ミラール7523


 うっすらと綺麗に腹筋を浮かべながら格好良くくびれた胴、むっちりと形良い左右の太股。
 これら魅惑的な部分を惜しげなく露出させた、水着のような甲冑。それに盾と長剣。
 鏡幻龍の戦巫女としての、正装である。
 正々堂々、命のやり取りを辞さず。
 戦う者としての意志と礼儀を露わにしながらイアル・ミラールは、このマリンスポーツ専門店を訪れていた。
「や……やあイアル・ミラール。今日は何の用かな? 随分と物々しいようだけど」
 店主の女性が、愛想笑いを浮かべている。
 その笑顔に、イアルは長剣の切っ先を突きつけた。
「……貴女たちに1つ、お願いがあるの」
「これは……お願いをする時の態度とは思えないが、どうかな」
「私もいい加減、学習したのよ。貴女たちに頼み事をする時はね、頭を下げては駄目。弱みを見せたら、徹底的につけ込んで来るのが魔女のやり方……脅しながら、高圧的に行くしかないのよね」
「悪魔を召喚した時と同じだね」
 突きつけられた長剣を恐れる様子もなく、女店主は微笑んだ。
「で……私たちに、何をさせたいのかな? 見たところ、あれはもう生えていないようだけど。いや、少しもったいない事をしたねえ。もうちょっと楽しんでおけば良かったよ」
「……カスミの身体も、同じ事になっている。元に戻してちょうだい」
 イアルは言った。
「そのくらいの事、してくれてもいいでしょう。私もカスミも今まで散々、貴女たちの玩具になってあげたんだから」
「もちろん、何とかしてあげたいのは山々だけどねえ」
 魔女結社の生き残りである女店主が、小さく溜め息をついた。
「響カスミを人間に戻す……そのためにイアル、お前も出来る限りの事はしたのだろう?」
「ま、まあね」
 カスミの身体から生えた、女としては有り得ない器官から、イアルは大量の汚物を搾り取った。己の肉体の、様々な部分を遣ってだ。
 そうしなければ人間としての理性と正気を失ってしまう状態が、しかし長く続き過ぎた。
 今もカスミは、獣のままである。
 そうでない時は石像となって、リビングに安置されている。
 石化を解いた瞬間、イアルに襲いかかって来る。いずれヒミコも襲われかねない。
「阿部ヒミコ……いや、今は影沼ヒミコか」
 女店主が、思いもかけない名前を出した。
 魔女結社の関係者が、どういうわけか彼女の事を知っている。
 その時点でイアルは思わず、長剣の切っ先を魔女の口内に突き込んでしまうところであった。
「阿部……というのが誰の事かわからないけれど、影沼ヒミコなら確かに私の知り合いよ。彼女にまで手を出そうと言うのなら、もう容赦はしない。魔女結社の残党は皆殺しに」
「落ち着きたまえ、そんなつもりはないよ。私が言いたいのはね……『誰もいない街』の支配者が、その力を使い果たしてようやく、お前を元に戻す事が出来たという事実だよイアル・ミラール。響カスミを助けるためには、それと同程度の力が必要という事さ」
 ヒミコが自分を助けてくれた。
 イアルは、覚えてはいない。だが言われてみれば、そんな気もする。
「……ヒミコが私を助けてくれたのなら、同じ事を私がカスミにしてあげる。具体的なやり方、教えなさいよ」
「同じ事、は無理だよ。たとえ鏡幻龍の力を使いきったとしてもね。影沼ヒミコは『誰もいない街』が消滅するほどの力を、お前に注ぎ込んだのだよ? 鏡幻龍の力、程度ではね」
 言いつつ魔女が、何やら思案したようだ。
「だけど、お前に出来る事が何もないわけじゃあない……響カスミのために何でもする、その覚悟が本当にあるのなら」


「あー……何だか、ひどい目に遭っていた気分。いや覚えていないんだけど」
 響カスミが、そんな事を言いながら、己の全身にボディソープをぶちまけている。
「ああもう臭い! 臭い臭い、何なのよこれはもぉーッ!」
「ほら落ち着いてカスミ、背中流してあげるから」
 本当に、久しぶりの会話だった。
 会話が出来るようになったカスミと2人きりで今、イアルはバスルームにいる。
 ヒミコが学校へ行っている時間帯である。
(あの子が帰って来たら……何て言おう?)
 カスミの背中を流しながら、イアルは思う。
 リビングに置いてあった悪趣味な石像が、帰って来たら生身の女に変わっている。ヒミコは一体いかなる反応を見せるだろうか。
 出て行け、などと騒ぐかも知れないが、ここはカスミのマンションである。
 それなら自分が出て行く、などと意固地になってしまうかも知れない。カスミと2人がかりで、ヒミコをなだめる事になるのだろうか。
「……なぁんにも覚えていないわ。だけど私、また何か変な事になっていたのよね」
 カスミが、頭を押さえている。
「学校……どのくらい休んじゃったのかしら。今頃もうクビになってたりして」
「明日、学校へ謝りに行きましょう。私も一緒に行ってあげるから」
「ありがとう、イアル……」
 カスミは俯き、そして振り向いた。
「今度は私がイアルの背中、流してあげる……」
「そ、そう? ありがとう……ってカスミちょっと、そこは背中じゃないから!」
 悲鳴を上げるイアルの、女として有り得ないものを生やした部分に、カスミの繊手がぬるぬるとボディソープを塗りつけてくる。
「……本当はね、何となくだけど覚えているの。これって元々、私の」
「何を言っているのかわからないわ。それよりカスミ! お願いがあるの。実はね、もう1人、居候を」
「居候でもペットでも、イアルが拾って来たのなら大歓迎よ。それよりも!」
 カスミは、己の両脚を開いた。
「これ……私のじゃないわ。この形、色……イアルのでしょう? 私、貴女の身体は隅々まで知っているんだから」
「……そうだったわね」
 魔女結社の、秘術である。
 カスミの身体から生えたものを、消滅させる事は出来ない。無理矢理に切除などしたら命に関わる。
 だが、交換可能な何かがあるのなら取り替える事は可能だ。
 だから取り替えた。ただ、それだけの事である。
 結果、カスミの肉体は、人間の女のそれに戻った。
 イアルの肉体は再び、女としては有り得ないものを生やしている。
 ただ、それだけの事なのだ。
 禍々しい特異点も、すでに消え失せている。こんなものを生やしたところで、イアルが正気を失ったり獣に変わったりする事はもはやない。
「イアル……こんなに、腫れてしまって……」
「そっそれはね、カスミがさっきからヌルヌル触ってくるからよ」
 そのせいでイアルはもう、どうにも我慢が出来ない。
 カスミの手の中で、おぞましいものが隆々と膨らみ固まってゆく。
「ねえイアル……我慢出来なくなったらね、これを……わ、私に……」
 カスミの、声が震え、瞳が潤んでいる。
「イアルのために出来る事、私……他に、何にもないから……」
「カスミ……」
 そろそろヒミコが帰ってくる。
 ただいま、と言っても返事がない。その代わりバスルームから変な声が聞こえてくる、となれば。
(ヒミコに……見られちゃう……)
 そう思うだけでイアルは、カスミの手の中で、ますます我慢が出来なくなっていった。


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登場人物一覧
【7523/イアル・ミラール/女/20歳/裸足の王女】
【NPCA021/影沼・ヒミコ/女/17歳/神聖都学園生徒】
【NPCA026/響・カスミ/女/27歳/神聖都学園の音楽教師】
東京怪談ノベル(シングル) -
小湊拓也 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年08月14日

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