▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『俺達の戦いはこれからだ』
矢野 古代jb1679)&カーディス=キャットフィールドja7927)&ゼロ=シュバイツァーjb7501)&ミハイル・エッカートjb0544)&華桜りりかjb6883


 2017年、初夏。
 ベリンガなんとかは倒れ、戦いは終わった。
 人類は遂に勝利をその手に――

「いや、この勝利は俺達だけのものじゃない」
 戦勝気分に浮かれる空気の中で、矢野 古代(jb1679)は厳かに告げた。
「人類はもちろん、天使も冥魔も――アウルを持たない人々も含め、今を生きる多くの者達が望んだからこそ、楽園は今ここにある」
 いや、今を生きる者ばかりではない。
 志半ばで斃れた者達の想い、これから生まれてくる者達へ繋いだ希望。
 その全てが、ここに通じている。

 楽園、それは――

 やたら美味しいお肉、美味しい魚、酒、スイーツ……

「そう、楽園はここにある」
 都内某所、丘と名が付くにも関わらず見渡す限りの高層ビルが建ち並ぶ複合商業施設。
 高級ブランドや高級料亭、高級ホテルなど、頭に「高級」が付く店がひしめくその一角の中でも、特に最高級とされる老舗の料亭。
 一般的なサラリーマンなら、軽く食事をしただけで一ヶ月分の給与が飛んで行きそうなその奥座敷に、五人の戦士が顔を揃えていた。

 上座に座るのはリーダーのレッド古代。
 脇を固めるのはクール担当のブルー、ミハイル・エッカート(jb0544)、癒やしのピンク華桜りりか(jb6883)、アウトローのブラック、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)、そしてマスコット枠のカーディス=キャットフィールド(ja7927)である。
 いずれもこの戦いを勝ち抜いた歴戦の猛者、しかし彼等は勝利を掴んでもなお気を緩めない。
 緩め、な……い……?

「いえーい おつかれさまでーす!」
 かんぱーい★
 もふもふ黒猫カーディスは、いつもはあまり飲まないアルコールを手に乾杯の音頭を取る。
「皆さん頑張った後のお疲れさま会ですもの、たまにはお酒もいいと思いますの(もふ」
 ここの酒類は撃退士さえも酔わせる特別仕様、カーディスが選んだ軽いカクテルでも酩酊効果は抜群だ。
 でも酔っ払ったっていいじゃない、だって私達あのベリンなんとかさんを倒した英雄ですもの。
(「実は私べりなんとかさんのいる戦場へは行っていないのですがいいですよね〜」)
 歌って踊るのも立派な戦いなのです。
「これぞ勝利の美酒、この芳醇な香りと深い味わいは歳月を重ねた本物だけが持つものだ」
 ミハイルは世界に数本しか残されていないレベルの超高級ワインをイケ渋ダンディーらしく飲みながら、高級和牛のヒレステーキを優雅な動作で口に運ぶ。
 なんとか牛とかいうブランド物の、しかも仔牛肉だ。
「俺たちは大仕事をこなしたんだ、これくらいの贅沢は許されるさ」
「んむ、とりあえず美味しいものは楽しまなくてはいけないの……」
 甘いお酒とスイーツを楽しみながら、りりかがこくこくと頷く。
 フルーツ系のカクテルに、チョコレートリキュールのミルク割り、スイーツはどれも最高級の材料を使って超一流のパティシエが作った逸品ばかり。
「あれ? りんりんなんでお酒飲んでるんや?」
 ゼロさんはいつものアレですね。
 でも「つめこみ」はもうしません、だって……ねぇ?
 せっかく勝利を手にしたのに、その余韻を味わうこともなくここでリタイアなんて切なすぎますもの。

 思い返せば、色々なことがあった。
「学園に来たばかりの頃は、こうしてお祝いが出来るなんて思ってなかったの」
 皆のグラスに酒のおかわりをどぼどぼ注ぎつつ、りりかが言う。
「それどころか永遠に続くんじゃないかと思ってたぞ――学生生活がな」
 ミハイルは戦いに終止符を打つことに関して特に不安を感じることはなかった。
 たとえどんなに手強い相手だろうと、どれほどの時間がかかろうと、この手で決着を付けるつもりだった。
 だが、世界を救った撃退士にもどうにもならないことがある。
 それが、卒業。
「大学は普通、四年で終わるものと思ってたぜ」
「ミハイルさんはまだ五年だろう、俺なんか七年生だぞ」
 医学部だって六年で卒業出来ると古代。
 入学のハードルは低いが一度入ったら出られない、それが久遠ヶ原学園。
 学園からの卒業に比べれば、ラスボスの成敗など行きがけの駄賃のようなものだ。
 しかし遂に、学生達を囲い込む難攻不落の壁も崩れ去る時が来たのだ。
「俺は学園を卒業するぞ」
 ミハイルは宣言した。
 そのためには卒業試験をクリアする必要があるが、普段の成績からすれば何も問題はないだろう。
「卒業して企業戦士に戻るぜ」
 真っ当なやつにな、と心の中で付け加える。
「俺もあと少ししたら学園を去ろうかと思うとる」
 ゼロはまだ大学部に入ったばかりだが、もはや学園に留まる理由はないと考えているようだ。
「それで、どうするんだ? 本格的にたこ焼きのチェーンでも展開するつもりか?」
「いやいや、どうせなら粉モン全般に手を広げ――ってなんでやねん!」
 ミハイルに裏拳でツッコミを入れ、ゼロは真剣な表情で語り始めた。
「天魔やら覚醒者やら一般人やら、そんな枠をとっぱらった新しい組織みたいなもん作ろうと思うとる」
「新しい、組織……芸能ぷろだくしょん、です?」
「せや、俺はバラエティ界の新星になる! ってせやからなんでやねーん!」
 なお、りんりんには裏拳ツッコミは入れません、だいm……女の子だからね!
「そうだな、とりあえず大きな戦いが終わったとは言え、世の中には色々な考えを持った人がいる」
 古代が頷く。
「しがらみを捨ててみんな仲良くとお題目を唱えるばかりでは、上手く行かないこともあるだろう」
 人類を天魔の脅威から守るという同じ目的を持って集まった久遠ヶ原学園の生徒でさえ、完全に一枚岩とは言えない現状だ。
 それを考えれば、この世界全体にはどれほど多様な想いがあることか。
「どんな組織になるのかは知らんが、きっと久遠ヶ原学園を世界的に拡大したようなものになるんだろうな」
 闇鍋とか鬼ごっことか真冬の海とか。
 世界に広がる久遠ヶ原スピリッツ、怖ろしくも楽しげで良いじゃないか。

「ところで、ベリ……なんだっけな」
 ラスボスの名前がどうしても覚えられない古代さん。
「ベリン○ンダム?」
 スーツの類は着てなかったと思います。
「ベリンボリン?」
 それは宇宙船に似たおせんべいに近いけど惜しい。
「ベリンガダルカナル?」
 それは別の戦争。
「ベリンガガンボ?」
 うん、ガガンボ並に弱かったら倒すのに苦労しなかったんだけどね。
「ベニヤ板のハリボテ?」
 ベしか合ってないし、あんまりだからやめてさしあげて。
「なんでもいい、とにかくそのベなんとかだ」
 ああ、可哀想なベリンガムさん。
「あれは本当にラスボスだったのだろうか」
「そーいえばゲームとかやとこういう時って大体真のラスボスとか出てくるよなぁ」
「そうなんだゼロさん、だから俺達は今こんなことをしている場合なのかと……」
 美味い食事に美味い酒、芸者は呼ばないがとりあえず紅一点が甲斐甲斐しくお酌をしてくれる。
 こんな天国気分を満喫している間に真のラスボスが現れ、今度こそ世界を出口のない闇へと突き落とすかもしれない。
「そう考えると、美味い酒も喉を通らなくてな」
 ぐびーっ。
 あぁ、純米大吟醸美味ぇ。

「次のラスボス?」
 こてんと首を傾げたりりかが不思議そうに尋ねる。
「なるほど、ラスボスはたおすと次にまたラスボス……ラストとは? なの……」
 なお類義語にファイナルというものが存在するらしいけれど、それはまた別のお話。
「そういうやつって大体身内とか近いとこにいたりしたりするよなぁ」
 ちらり、どこかに視線を投げるゼロ。
「んぅ? ゼロさん、どうしたの……です?」
 自分の顔に何か付いているのだろうかと首を傾げるりりかさん。
 そう言いつつもめっちゃ笑顔なのは、きっと視線の意味を理解しているからに違いない。
「いやいやいや何でもあらへんで、なぁカーさん!」
「もふ? ええ、このお料理とっても美味しいですの♪」
 みんなの話は猫の耳に念仏と右から左へ聞き流し、ひたすらせっせと食べていたカーディスは、とりあえず当たり障りのない返事をしてみる。
「それで何の話ですの?」
 え、ラスボス?
 それはもう倒したのでは――倒したから、今こうしてお疲れさま会してるんですよね?
「次のラスボス……なるほど、そういうことか」
 ミハイルは何かを納得したように厳かに頷き、じっくりと舐めるようにカーディスを見る。
「な、何がそういうことなんですのΣ」
 あらら、なんか話の雲行きがおかしくなってきましたのよ?(ふるえ
「この巨大猫、俺よりもでかい、俺よりも黒い、きっと強い」
「はわわわ、ミハイルさん何を言ってますの!? 自慢ではありませんが私ちっとも強くありませんのよ?」
「なるほど、賢い猫は爪を隠すか」
 この猫、きっと爪ばかりではなく他にも色々と隠していそうだ。
「実は中から……うじゅるうじゅる、と何かが出てくるんじゃないか?」
「何かってなんですのΣ」
「いあいあなんとか……という呪文だか何だかがあるだろう」
「いけませんのミハイルさん、それ以上言っては……SAN値直葬されてしまいますの!」
 はっ、まさか手にしているのは黄金の蜂蜜酒!?
「そこまで狼狽えるということは、やはり中身は召喚されては拙いものなんだろう」
 わきわき、ミハイルの手がカーディスの背後に伸びる。
「きっと背中のチャックから禍々しい翼がばさぁっとはみ出るんだ」
「ちょっとまってくださいラスボスからなんで私の中身の話になっておりますの?」
 中の人なんていませんから!
 背中にチャックもありません、時々脱いで洗濯してますけど!
 名状しがたきものではありませんし、翼も出ませんよ人間ですから!
「私の中身はラスボスではないのですよ? 心優しき青年ですのよ?(もふ」
 何を隠そう由緒正しき血統書付きのスコティッシュフォールド……じゃなかった英国紳士にしてリア充。
 この世の春を謳歌している真っ最中に、何が哀しくてラスボスになどなろうものか。
「くっ、なんてことだ、世界の危機が今すぐそこに!」
 いや、だからミハイルさん。
「俺の目の前にあるとは!!」
 人の話ちゃんと聞いてます?
 猫の話もちゃんと聞いてくださいね?
「はっ!? まさか……ついに人の着ぐるみを脱いだカーさんが本気を出すのか……!?」
 ゼロさんまで何を言い出すのかな?
 人の着ぐるみを脱いだ、つまり猫……今と何も変わらないな!?
「ちょっとまってちょっとまってですの、皆さん酔っ払いすぎじゃございませんこと?」
「そうだな、ここはひとつ落ち着こう」
 上座の古代が見た目最年長らしくその場を収めようと――すると思った?
「カーディスさんの中身がラスボスということは」
「まってですの、どうしてそこから始まるんですの!?」
「前提としてカーディスさんには中身があるということだな」
「ありますのよ、頭から尻尾まで猫の身がみっしりと!」
「常日頃から中の人などいないと豪語していたあれは、正体を隠すための方便……」
「ですから一度落ち着きましょうさあひっひっふーですのよ!」
「なるほど中身は火を噴くのか、さすがラスボス」
「噴きませんの!」
 でも今ひっひっふーって。
「噴かぬなら噴かせてやろうタバスコで」
 真っ赤な瓶を手に迫るゼロ。
「タバスコは飲み物ですよね?」
 ふるふるふる、懸命に首を振るカーディス。
「まあ待てゼロさん」
 古代が止めに入る――わけがなかった。
「ここで火を噴かれては困る、なにしろ高級料亭だからな」
 食事代の他に賠償金まで支払う羽目になってはせっかくの宴会が台無しだ。
「ここはひとつ穏便に済ませようじゃないか」
 中身が出る前に倒してしまえばどうということはないだろう?
「カーディス、言いたいことがあるんじゃないか?」
 ミハイルの攻撃!
「ですから先程から申し上げておりますの、私は人畜無害で善良なただの黒猫忍者ですの(もふ」
「今なら定価の3割引きくらいで許してやろう、今すぐ正体を現すんだ!!」
 ミハイルはアイテムを使った!
 銀の十字架が眩く光る!
 しかし何も起きなかった!
 カーディスは逃げ出した!
 しかし回り込まれてしまった!
「知ってるぞ、背中のチャック開けると中身が出るんだろう?」
「いけませんの、そこは禁断の領域ですの! 一族の掟で将来を誓った方以外に触られると本物の猫になってしまいますの!」
「ほう、それは面白い」
 古代の攻撃!
 背中のチャックに手がかかる!
「にゃーーーーーっ!!」

 カーディスは猫になった!
 元から猫だけど!

「この大きい猫さんはもふもふしても良いの、でしょうか?」
「にゃぁん」
「これはお許しが出た、ということでいいの、ですね?」
 もふもふもふ。
「可愛い大きいもふもふ……」
「待てりんりん、それは罠や!」
「そんなことないのですよ? ゼロさん、可愛いは正義という言葉を知らないの、です?」
 りりかは夏毛仕様のサラサラ毛皮を一心に撫でる。
「それにラスボスはわるいものとは限らないの、ですね」
 こんなに可愛くてもふもふな猫さんがラスボスなら、何匹いても構わない。
「ところでカーディスさんの中身とはいったいどういう事……です?」
 可愛いは正義で落ち着きかけた話題をだいまおーが蒸し返した!
 さすがだいまおー!
 いや、しかし。
「りんりん、今モフっとるのは誰や?」
「大きい猫さん、なの」
「ほならカーさんはどこにおるん?」
「カーさん……かーでぃすさんは、きっと都合が付かなくなってしまったの……」
 まさかのカーディス欠席説。
「私は最初からここにおりますのよ!」
 猫化の呪いが解けた!
「私はちょっとラスボスは荷が勝ちすぎるというか……」
 りりかを見る。
 見る。
「ラスボスにもっとふさわしい人もおりますの(がくぶる」
 りりかさんが何故だいまおーと呼ばれているのか、その理由の一端が理解出来た気がする。
「ラスボスが新しく出てきてもきっと何とかなるの、ですね」
 にっこり微笑むりりかさん、自分のことだとは露ほども考えていらっしゃらないご様子。
 やはり、っょぃ。

「まあ結局はあれだな、きっと人の数だけラスボスは存在するんだ」
 ミハイルが何やら哲学めいた言葉で場を締めようとしている。
「俺にとってはピーマンだな」
 倒せる気がしないが、永遠のライバル(?)という関係もまた良いものだ。
「そう、人の数だけラスボスが存在するなら……」
 やはり最後はリーダーの言葉で締めなければと、古代が言った。
「誰もが誰かのラスボスになり得るということ、つまり――やはりラスボスはカーディスさんだったのだ」
「どうしてそうなるんですの!?」
 消火活動のそばから油を注ぐ、古代さんこそがラスボスに相応しいのでは――!?

 そんなこんなで、彼等は今日も平和だった。
 ところで、この場の支払いは古代さんのお財布が血の涙を流してくださるということで、いいんですよ、ね?


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【jb1679/矢野 古代/男性/外見年齢40歳/真のラスボス(お財布的な)】
【ja7927/カーディス=キャットフィールド/男性/外見年齢20歳/ラスボス猫】
【jb0544/ミハイル・エッカート/男性/外見年齢32歳/ピーマンと書いて「とも」と読む】
【jb6883/華桜りりか/女性/外見年齢17歳/らすぼすだいまおー】
【jb7501/ゼロ=シュバイツァー/男性/外見年齢33歳/バラエティの星】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
いつもお世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

誤字脱字、口調等の齟齬などがありましたら、リテイクはご遠慮なくどうぞ。
パーティノベル この商品を注文する
STANZA クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年08月14日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.