▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『かささぎの橋 』
Robin redbreastjb2203

 綺羅星が夜空を埋め尽くす。
 天の川がいっそう輝いて見える今宵は、年に一度の七夕祭。浴衣姿の人々が行き交うさまを、Robin redbreastはどこか懐かしい想いで眺めていた。
「Ethnic Fesから、一年経ったんだ……」
 金魚色の浴衣に身を包み、初めての七夕祭りを経験した夜。あれから自分にも願いや目標ができ、ずいぶん多くのことが変わったと思う。

「これが七夕祭りですか。情緒があっていいものですね」
 背後で聞こえた声に振り向くと、そこには紫陽花柄の浴衣を身につけたアテナが微笑んでいた。その後ろにはシスやミカエル、オグンの姿も見える。
「……ったく、監視つけてまで引っ張り出すなんざ、つくづくあんたらのやることは理解できねぇよ」
 アテナ達とはやや距離を置き、濃朱の浴衣を羽織ったシリウスが呆れ気味にぼやいた。その隣に寄り添うアルヤは、警戒しつつも物珍しそうに辺りを見渡していて。

 天使たちと過ごす一夜。
 七夕祭りが初めての者も多いため、ロビンは一年前に学んだ内容を伝える。
「この短冊っていうのに願いごとを書くと、叶うらしいよ」
 天使達は並べられた短冊から一枚を手にすると、思い思いに書き付けていく。
「あれ、シリウスは書かないの?」
 ロビンの言葉に、獣天使は肩をすくめ。
「星に願いをなんざ、性に合わねえからな」
「えーつまんない。じゃあさじゃあさ、あたしの見る?」
 いの一番に書き終えていたアルヤは、見せつけるように桃色の短冊を掲げた。

 ”ずっとシリウスと一緒にいたい”

「……予想通り過ぎて言うことはねぇな」
「もーもーシリウス冷たいし! てか、あんたも何か言いなよ!」
 無茶ぶりされたロビンは少し考えたあと。
「シリウスはどう思ってるの?」
「何がだ」
「アルヤと一緒にいたいの? いたくないの?」
 単刀直入な質問に、天使は一瞬返答に窮する。それを見たアルヤの瞳に、不安げな色が浮かんだ。
「もしかしてあたしといるの嫌なの……? マジなら超ショックなんだけど!!!!」
「ちょっと待て、誰もそんなこと言ってねぇだろうが」
「……じゃあ、一緒にいてもいいの?」
 すがるようなまなざしを受け、シリウスは困り果てたようにロビンを見やる。
「ったくあんたも余計なこと言ってくれたな……」
「え?」
 きょとんとする彼女に、ため息を漏らしたあと。答えを待つアルヤへ、シリウスは諦めた様子で告げた。
「好きにしろ。俺は構やしねぇよ」

 結局シリウスの願いごとは聞けなかったものの、楽しそうなふたりを見てロビンは満足だった。
「他のみんなは短冊に何を書いたの?」
 彼女の問いかけに、アテナが結び終えた短冊を差し示した。
「私はこれです」
 空色の短冊には、柔らかく丁寧な字が並んでいる。

 ”この世界で暮らす皆さまが幸せでありますように”

「アテナらしいね」
「そうですか? ふふ、ありがとうございます」
 言葉には出さなかったが、きっと”皆”には彼女の兄が含まれている。ロビンはなぜだか、そう確信できた。
「ミカエルとオグンは?」
 朱色の短冊を手にしたミカエルは、やや不安そうに首を傾げ。
「これでよいのかわかりませんが……」
 そう言いつつ示された短冊には、流れるような達筆で次の言葉が記されていた。

 ”もう少し踊りが上手くなることを願います”

「……結構気にしてたんだね」
 大規模作戦時の噂は、耳にしていた。どうやら彼なりに「こいつはあかん」と思ったのだろう。
「こういったものに願いを書き付けるのは、慣れないものでな」
 オグンが差し出したのは、橙色の短冊。

 ”生涯鍛錬”

「神頼みという年でもないのでな。残り少ない生だが、日々修練し続けたいものよ」
 オグンらしいと思いながら、ロビンは短冊を結び終えたシスに声をかけた。
「シスの願いごとは前に聞いたね」
「あ、ああ。そうだな」
 乳白色の和紙に大きく書かれているのは、昨年教えてもらった願い。

 ”エルとソールが幸福な家族を得るよう願う”

 実はこれ以外にもう一枚書かれていたことを、ロビンは知らない。
 皆から見えない位置に結ばれたそれは、新たに増えた願い――

 ”ロビンが故郷で家族に会えるよう願う”



 宵が深まるにつれ、周囲のにぎわいも緩やかなものになってくる。
 ロビンは祭が終わる前に、皆が今後どうするのかを尋ねてみた。
 まずシリウスとアルヤについては、天界で引き取るという話がついたらしい。その後の処遇についてはミカエルの働きかけもあり、そう悪いことにはならないだろうとのことだった。
「シリウスは天界に帰ったらどうするの?」
「先のことなんざ、考えちゃいねぇよ」
 そういう生き方はしてこなかったんでな、と返す天使にロビンはふうんと頷いて。
「あたしはシリウスもアルヤも幸せになれるといいな、って思ってるよ」
「しあわせとか、よくわかんないし。あたしはシリウスと一緒にいられればそれでいいもん」
 アルヤの言葉にシリウスは苦笑したあと。
「ったく、お前はもうちょっと考えろ。……まあ、あんたらに生かされた命だ、せいぜい気が済むまで生きのびてやるよ」

 次に、オグンについてだが。
 アテナやミカエルを始め、彼の天界復帰を望む声は多いらしい。
 しかし本人は既に新しい世代へ未来を託したことから、中央への復帰は考えていないとのことだった。
「天界には帰らないの?」
 ロビンの問いかけに、オグンはゆるりとかぶりを振り。
「双方の許しがあるならば、いずれ帰るつもりではおる。だがいまだもう少し、この世界の行く末を見守りたいのでな」
 ベリンガムによる崩壊は免れたものの、天冥界や地球が抱える問題はまだまだ山積だ。
 それらひとつひとつを若い世代がどう乗り越え、新たな時代を紡いでいくのか。今は純粋に見届けたいという想いが強いのだという。
「あの時生きる選択をしたことは、確かに意味があった。おぬしらのおかげと言えよう」
 
「シスたちはどうするの?」
「俺様は天界でやらねばならんことが、山ほどあるのでな」
 地球での諸々が片付き次第、ツインバベルにいる者の多くは帰還するのだという。
「生き残った方達が奮闘してくれているとは言え、今の天界は混乱状態が続いています。一日でも早く皆が穏やかに暮らせるよう、務めなければなりませんね」
 アテナの言葉に、ミカエルも頷いてみせ。
「速やかな復興のために、私も尽力するつもりです」
 既に次のステージは始まっている。新たな一歩を踏み出す彼らを見て、ロビンは嬉しく思うのと同時に、なぜだかほんの少し胸がきゅっとなる。
「……そんな顔をするな」
 シスの困ったような視線に、ロビンは小首を傾げ。
「あたし変な顔してた?」
「い、いやそうではないが。それより、貴様は今後どうするつもりなのだ」
「あたしはどうしようかな……撃退士をやめて故郷に帰る選択もあるけど」
 でももう少しだけ、みなと過ごしたいとも思う。
「だから卒業までは撃退士を続けようと思うよ」
「そうか。精進するといい」
 シスの言葉に頷いて、少し考えたあと。ロビンはポケットからいつも持ち歩いている物を取り出した。
「あのね、シスのピアスなんだけど。もう少し預かっててもいいかな」
「ああ、構わないぞ。貴様が返すときがきたと思ったときに、返してくれればいい」
 実のところを言えば、もう返さないといけない気がしている。でも――

「……あたしも、シスたちみたいになれるかな」
「俺様たち?」
 怪訝そうに聞き返す相手に、ロビンは騎士団やミカエルたちのことを挙げ。
「いつかあたしも、信や絆で結ばれた関係になれたらいいなって」
 それを聞いたシスの顔が、何とも言えず複雑なものへと変わった。やがてため息交じりの声が届く。
「まったく……貴様は何を言っているのだ」
「え?」

「俺とロビンは、もう既に”そういう間柄”だろう」

 見ればシスは半ば呆れたような、怒ったような表情をしていて。
「というかだな! そう思っていたのは俺様のほうだけとか、普通にショックだぞ!」
「ごめんね。あたしこういうの、まだよくわかってないみたい」
 長く他者との繋がりを排除されてきた彼女にとって、本当の意味で”繋がり”を理解するには、もう少し時間がかかるのだろう。
 ピアスを持っていたいと言ったのも、今返してしまったら相手との繋がりがなくなってしまうのではないか――そんな不安をおぼえてしまったから。
「……まあ、いい。これからの時代、地球と天界は自由に行き来できるようになっていくだろう。俺様も折を見てここへ来る。だからたまには貴様も、天界へ来るといい」
「あたしが行って、迷惑じゃない?」
「迷惑なわけないだろう。貴様が顔を見せれば、アテナ様も喜ばれるし…………………まあ、俺も、嬉しい」
 もごもごと口ごもるシスの後方で、アテナが微笑みながら頷く。
「そ、それにだな! これからは天使と人間や他の種族との交流を進めていきたいと、俺様は考えている。そのためには、ここまでの道を共に作った貴様のような存在が必要なのだ」
「……そっか。あたしにもできることがあるなら、嬉しいな」
 以前は捨てられないために、役に立たなければと思っていた。でも今は誰かのためにやれることが、純粋に嬉しい。

「あのね、シス」
「なんだ?」
 ロビンは星空を見上げると、天の川を指さす。
「七夕の夜にはね、彦星と織姫が逢えるように、かささぎっていう鳥が翼を並べて橋を作るんだって」
「ほう。なかなかに夢のある話ではないか」
「あたしも、かささぎの橋をつくれたらいいな」

 人と天と。
 そしてこの世界に住む多くを繋ぐ、希望の橋。

 聞いたシスはちょっと迷ってから、ロビンの頭をぽんとやり。どこか優しげなまなざしで、ふっと笑みを漏らした。

「ああ。皆で創っていこう」

 ひとりではできなかったことも、共にならやり遂げられる。
 君と創る未来は――きっと輝きに溢れているから。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号/PC名/性別/これから】

【jb2203/Robin redbreast/女/鵲の橋を繋ぐ撃退士】

参加NPC

【jz0360/シス=カルセドナ/男/新しい時代を創る騎士】
【−/アテナ/女/世界の平和を紡ぐ新天王】
【jz0401/シリウス/男/新たな生をいきる元王権派】
【−/アルヤ/女/小さな幸せを望む元王権派】
【jz0327/オグン/男/世界の行く末を見守る元騎士団長】
【jz0397/ミカエル/男/新しい天界を導く司令官】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
歩んできた軌跡、これからの未来――
改めて振り返ると、本当にいろいろなことがあったなと感じています。

多くの想いを寄せてくださり、本当にありがとうございました。
字数の関係で少々駆け足気味となりましたが、
それぞれの想い、選ぶ道、うまくお届け出来ていれば幸いです。

シングルノベル この商品を注文する
久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年08月15日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.