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『黄金の意志 』
蓮城 真緋呂jb6120

 これは最後の大規模作戦が始まる、少し前のお話。
 獣天使シリウスとの決戦を終えた撃退士は、つかの間の休息を得ていた。
 蓮城 真緋呂は傷ついた仲間の介抱をしながら、同行していた天使の元へ歩み寄る。
「ミカエルさんお疲れ様。怪我は大丈夫?」
 彼女の問いかけに、深緋の瞳がこちらを向いた。ツインバベル司令官――ミカエルだ。
「ええ、私の傷は大したことありません。あなた方のおかげです」
「『”あれ”を受ければ、あなた方も無事では……!』ってミカエルさん言ったけど、無事だったでしょ?」
 皆で考え、信じ、護り抜いた結果。
 えへんと胸を張る真緋呂に、ミカエルは頷いてみせ。
「正直なところ、驚きました。シリウスの神器をあなた方が止められるとは思っていなかったので……」
 自分が考えていたよりも人は遥かに成長し、強くなっていて。
「しかも貴女はあの刃を受けてなお、傷を負っていなかった。見事なものです」
「面と向かって褒められたら、ちょっと照れるかも……。でも、ありがとう」
 真緋呂は気恥ずかしげにそう告げると、仲間の方へ視線を馳せた。
 その瞳がほんの少し深みを帯びたように見えたのは、恐らく気のせいではないだろう。

「――私ね、大切なひとたちを護れなかったことがあるの」
 護る力を持たずに、嘆いた過去。
 再び失うのが怖くて、ずっと”特別”を避けてきたようにも思う。
「黄金の羽根を得た時も、全然届かなくて……悔しかった」
 生きて欲しかった。でも、叶わなかった。
「……私も貴女と同じです。自身の力の無さを、ずっと戒めてきました」
 前王を護れず、部下を護れず、友さえも護れなかった。
 かつて政権の中枢にいたにも関わらず、何も出来なかった己の愚かさを、どれほど呪ったかわからない。
「ツインバベルに派遣されたあとも、穏健派統治時代の生き残りとして何が出来るのか……自問自答する毎日だったように思います」
 人と天の在り方。
 司令官としての、己の在り方。
 何が正しくて、何が間違っているのか。出口の無い迷路の中で、ずっともがいてきたようにも思う。
「答えは出たの?」
 真緋呂の問いにミカエルはええようやく、と首肯して。
「結局のところ、私ひとりで答えが出せるものではなかったんですよね。あなた方と言葉を交わす中で、そのことに気づきました」
「そうね。私もたぶん、ひとりじゃ答えは出なかったと思う」
 すべてを奪った天魔への憎しみが、消え去ったわけじゃ無い。
 けれど今の自分は種族に関係無く、共に歩むべき存在と手を取り合いたいと願っている。
「そう思えるようになったのは、出逢ったひとたちのおかげ。ルスさんのことも悲しい経験だったけど……決して無駄じゃなかった」
 彼女の”生きたい”という想いが、”いきなさい”という願いが、今の自分を形作ってくれたと思うから。
「ええ。どのような出逢いであれ、きっと意味はある……私もそう思います」
 たとえ悲しい結末になったとしても、やりきれない想いに駆られたとしても。誰かと出会い心を交わすことは、己の生を彩り、ときには強く染め付けてくれる。
「シリウスとのこともそうですが、きっと私は難しく考え過ぎていたのでしょうね」
 ミカエルはかつての友から受けた傷に視線を落とすと、ひとり言のように呟いた。
「立場は違っても、共に在りたい……そう、言えばよかっただけなのに」
 相手がどう思うかより先に、自分がどうしたいのかを伝えるべきだった。そんな簡単なことが、互いにすり減らし切るまで気づけずに。
「これからの私はもう少し、己と向き合わねばなりません。あなた方を見て、そう思うようになりました」
 それは個を殺すよりずっと難しいことだけれど、自身の愚かさを嘆く日々はこれからの未来に必要無いのだから。
「そう思えるようになったのなら、私たちも頑張った甲斐があったわ」
 嬉しそうな真緋呂に、天使はその整った顔に微苦笑を浮かべた。
「実のところ、最初は少々面食らっていました。ああまで気持ちをぶつけてこられたことがなかったもので」
 彼らは立場など関係無く、まっすぐな想いを投げかけてきた。
 規律や階級の厳しい天界ではまずなかったことで、だからこそ深く刺さったのだとも思う。
「恐らくシリウスも、同じだったのでしょう。”どう対応していいのかわからない”ようでしたから」
「最後まで本音を聞けなかったのが、ちょっと悔しかったんだけどね」
 彼女の言葉にミカエルはいいえ、とかぶりを振り。
「あれは十分本音を語っていたと思いますよ。普段の彼を思えばありえないことですから」
 自身の内を見せず、語らず。
 そんな男が漏らしたわずかな”戸惑い”は、自分たちが思っている以上に大きなことだったのかもしれない。
「そっか。ミカエルさんがそう言うんなら、私もそう思うことにする」
 真緋呂は納得したように頷くと、遙か先に見える神塔を見やった。
 あの場所でこれから何が起こるのかは、わからないけれど。

「私ね、夢は見ないことにしてるの」

 振り向いた彼女の瞳には、強い意志の光が宿っていて。
「叶えて”現実”にする――それが私の信条」
 本当に遂げたいことは、自分の手で。
 そんな想いから我武者羅に努力し、ようやく少しは自信が持てるようになったと思う。
「でもね。私の自信は、仲間を信じてるからこそでもあるの」
 自分の手が届かなければ、誰かが届けてくれる。そう信じられるからこそ、迷いなくここへも来られた。
「成る程。良き仲間に巡り会えたようですね」
「あら、ミカエルさんだってそうでしょ?」
 今だって傍らに付き添っている騎士団員や、彼の帰りを待つ多くの天使たち。そして――
「私たちだって、もう仲間よね」
 その言葉にミカエルは微笑むと、確信のこもった響きで言い切った。
「ええ。その通りです」

 ※※

 その後、ミカエル達はツインバベルで指揮を執るため、地球に戻ることになった。
 別れ際ちらちらと視線を向けてくる真緋呂に気づき、不思議そうに問う。
「どうかしましたか?」
「ううん。四国の天使には特別なモノかもだから、どさくさに紛れて持って帰るかもとか思ってないです」
 その言葉にミカエルは瞬きをしたあと、何かに気づいた様子で懐に手をやった。
「す、すみません、もちろん返すつもりでしたよ」
 取り出したのは、決戦前に真緋呂から預かっていた”黄金の羽根”。
 ミカエルはどこか懐かしげにその羽根を見つめてから、彼女へ差し出した。
「あの方の”いきなさい”という想い、貴女の”いきなさい”という想い……どちらも強く尊いものでした。ありがとうございます」
「はい。確かに”貴方の手で”返してもらったわ」
 真緋呂は受け取った羽根を大事そうにしまうと、満足そうに微笑んだ。
「じゃあ、一旦お別れね。今度は私たちに力を貸してほしいな」
「ええ、もちろんそのつもりです」
 互いに健闘を祈り、それぞれの向かうべき地へ赴く。
 次に会うときは、再び手を取り合えると信じて――


●そして

 約束した”そのとき”は、思った以上に早く訪れた。
 四国・高知――よさこい会場。
 急遽準備された特設会場には、撃退士の呼び掛けで集まった大勢の人で溢れかえっている。
 真緋呂はツインバベルから出向いてきた天使達を見つけると、嬉しそうに駆け寄った。
「来てくれたのね、ミカエルさん」
 神界で決戦に挑む仲間へ、地球から想いの力を届ける。
 彼女たちはより多くのエネルギーを送るために、地球在住の天魔にも協力を求めていたのだ。
「じゃあはい、これ」
「これは……?」
 真緋呂から渡された見慣れない物体を、天使達は不思議そうに眺めている。
「鳴子といって、よさこい躍りには欠かせないものなの」
 そう説明する彼女の笑顔が告げていた。

 おう踊れや

 直後、賑やかな音楽が流れ始め、会場の雰囲気はヒートアップしていく。
「さあ、よさこい始まるよ!」
 色とりどりの衣装に身を包んだ踊り子たちが、曲に合わせて鳴子を鳴らす。
 軽やかに舞う彼らの姿を、ミカエルはしばし唖然と見つめていたが。
「……なるほど。これが今作戦の要ということですね」
 納得した様子で頷くと、真緋呂や部下達を見渡して言い切る。
「わかりました。私もツインバベルの司令官として、やってみせましょう!」


 <●><●> カッ


 舞い踊る人波が、大通りを埋め尽くす。
 よさこい独特のフレーズが流れる中、”その一団”は妙な異彩を放っていた。

 ♪よっちょれよ♪
 ♪よっちょれよ♪

 やたら白い天使が威勢良く大旗を振る隣で、謎の動きをしている司令官。
「……うん。何となく予想はしてたけど」
 先頭で踊るミカエルを見て、真緋呂は生暖かい微笑みを浮かべた。

 なんか予想以上にアレだった(まがお)。

「っ……これしきのこと、剣術の鍛錬に比べれば……!」
「ミカエルさん何と戦ってるの」
「!? 鳴子がいつの間にか手からありません。消失術がかかっていたのですかっ」
「さっき自分で飛ばしてたわよ。腕を振った拍子に」

 四苦八苦する天使(ノリノリな一部を含め)の集団は、人々の注目を大きく集めていた。
 天魔の出現に眉をひそめる者も中にはいたが、ぎこちなくも一生懸命な彼らを見て、次第に会場は一体感に包まれていく。
 人も、天使も、悪魔も。
 自身も踊り祈りながら、真緋呂はこの地で共に協力出来ることを、改めて嬉しく思う。

(――ルスさん、見てくれてる?)

 多くの悲劇があった。
 数多の葛藤があった。
 それでも諦めきれず立ち上がり、ひとすじの光を信じた者だけが見られる景色がある。

 大河に落とされた一滴が、やがて大きな流れを生んだように。
 黄金の想いが、受け継がれ縁を紡いでいったように。

 私たちはいま、共に未来をのぞむ同志として果てなき路を歩み始めたのだ。



 ――いきなさい



 光に溢れた魂。
 あなたの世界(いのち)を、めいいっぱい。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/所属/息づかせたもの】

【jb6120/蓮城 真緋呂/女/撃退士/ルス(光)】

参加NPC

【jz0397/ミカエル/男/ツインバベル司令官/縁】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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書き切れなかった、あの日の一場面。
書いてみたかった、真緋呂ちゃんの想い。
書ける機会をいただけて、とても嬉しかったです。

”黄金の天使”の名前はその由来を聞いていましたので、どうしても使ってみたかったのでした。
光あふれた縁が、この先も紡がれてゆきますように。

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エリュシオン
2017年08月15日

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