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『 魅惑のカレーなる世界 』
星杜 焔ja5378

 星杜 焔の脳内は、既にスパイスで支配されていた。
 鉄板ステーキ店で味わったガーリックステーキセットの余韻が、未だ口の中に健在。もう少しガーリックを焦がした方が良い事は分かっている。
 だが、それ以上に脳の方がターメリックとクミンの芳醇な香りを欲しているのだ。

(う〜ん、この感じだと今日はどんなカレーが良いかなぁ〜)
 鉄板ステーキ店から帰る途中、既に焔はカレーの選別に入っていた。
 そもそも、カレーと言っても実に多様な選択肢がある。

 小麦粉とカレー粉を混ぜたタマネギとのハーモニーが魅力の和風カレー。
 それとも、数十種類のスパイスを混ぜ合わせた大陸系のカレー。

 しかし、ここで焔は記憶の糸を手繰り寄せる。
(この間食べたネパールのカレーっていろいろ良かったかなぁ〜。
 パキスタンや北インドのスパイスたっぷりのカレーも良いけど、ネパールのカレーも良いねぇ〜)
 焔は、先日味わったネパールカレーの店についての記憶を呼び起こす。
 そこにはインドカレーと比較してスパイスの量は全体的に少ないが、お祝いの時に食べるというヤギのカレーがあった。
 少しとろみのある肉。それに負けないよう少し辛めの味付けだった事は、焔に衝撃を与えていた。
 だが、今の焔の胃には少々厳しい。
(辛いカレーって感じでもないなぁ〜。それにネパールのカレーでもまだちょっと胃にはキツいかなぁ〜)
 残念だが、今の胃の状態では辛い味付けを欲していない。
 ならば、南インド系のカレーか。
 日本の出汁にも似た水分が豊富でスープのようなカレー。
 それだけではなく、スパイスに加えてアチャールのアクセントが忘れられない。
 あの酸味――思い出されると同時に口の中へ広がっていく。
 カルダモンやガラムマサラの誘惑も捨てがたいが、胃の中にいる牛肉200グラムのガーリックソースを考えると……北インド系のカレーはちょっと重たい。
 ならば、ここは酸味と辛みを兼ね備えたカレーが胃にも良い刺激になってくる。

 ――よしっ、今日は南インド系のカレーにしよう。

 だが、ここで焔が大事な事を思い出す。
(……あっ〜、そういえばカレーを何で食べようかなぁ〜)
 カレーならば、必ずセットに頼む物がある。
 和風カレーならばライスが一緒にあれば、大抵は問題ない。
 だが、大陸系のカレーとなれば話が変わってくる。
 それはカレーに供されるのがライスだけ、とは限らないからだ。
(どうしようかなぁ〜。
 バスマティライスも良いけど、さっき鉄板ステーキ屋でライス食べちゃったからなぁ〜。
 それならドーサにしようかなぁ〜?
 あ、でもやっぱりミールスも捨てがたいなぁ〜)
 焔の脳内議会は、既に白熱していた。
 南インド系のカレー屋ならば、ドーサと呼ばれるクレープのような鉄板で焼かれた生地が供される。これを少しだけ千切ってサンバルと呼ばれる酸味のあるスープと共に食す。
 いや、ここは敢えてライスに拘ってミールスと呼ばれる南インド系のカレーセットをチョイスするのも悪くはない。
 サンバルやアチャールも一気に混ぜて、スプーンで一気に胃の腑へ流し込む。
 口の中いっぱいに広がる芳醇な味わい。
 それを思い出すだけで涎が止まらなくなる。
(……あ、でも〜。チャパティと一緒なのも悪くないかなぁ〜)
 焔の中で、突如浮上したパンの仲間。
 通常、日本ではナンが一般的であるが、インドの一般家庭ではフライパンで作成可能なチャパティが多い。全粒粉と水で捏ねた生地を発酵させずに薄い円形に伸ばして焼く。
 ナンはインドでもレストランの味なのだが、このチャパティで食べるカレーはまるでインドの家庭で食べている雰囲気を味合わせてくれる。
(そうだなぁ〜。やっぱり久しぶりにバスマティライスが良いからミールスにしちゃおうかなぁ〜。お米大好きだしねぇ〜)

 焔は、決断した。
 今日は――ミールスだ。

 よく考えれば、ミールスならばサンバルだけではない。
 その日によってカレーもチキンカレーやマトンカレーを添えてくれたりもする。様々な味わいを一緒に混ぜ合わせ、一気に口の中へ頬張る。
 こんな幸せな時間が、他にあっただろうか。
(時間が早ければティファンを間に挟みたかったけど〜、夕方の時間ってなればやっぱりミールスだよね〜)
 ティファンは所謂夕食以外の時間で食べる軽食である。
 ドーサだけではなく、ワダと呼ばれるウラド豆をペーストにしてスパイスと共にドーナツ型に整形して揚げたもの等も一緒に出される。
 だが、既に鉄板ステーキ屋で思いの外時間がかかってしまった。
 やはりミールスを選択して、早々に夕食を取るのがベストだろう。
(ああ、バナナの葉の上に並べられたおかずの数々〜。
 それが扇状に目の前に並べられて〜……あ、その日のよってちょっと辛いときはヨーグルトも混ぜて辛さを緩和させたりするといいんだよね〜)
 ここで焔の中では、重要な事が起こっていた。
 今まで食べて来たカレーを思い返し、その幸せな時間を反芻していたのだ。

 脳は記憶と共に舌で感じた味を再現。
 そう、まだ食べてもいないのに――舌の上にミールスが再現され始めていたのだ。

 舌の上に乗せた具材。
 上顎と触れる食感。
 サンバルの酸味の後に広がる僅かな辛み。
 ヨーグルトがうまく辛みを中和してくれたようだ。

 続いて口に入れられるのは――チキン。
 それも皮付きのチキンだ。
 なるべく脂を逃がさないようにさっと焙ってカレーに満たされたフライパンへ入れられたのだろう。
 ギィの脂と相まって良い肉汁が染み出してきた。
 脂と脂のコラボレーション。
 このタッグに勝てる相手はそういないのではないか?

 いや、居た――マトンだ。
 マトンの少し硬いがカレーと共に煮込まれて、程よくスパイスを吸収している。
 さらに憎いのはマトンの脂だ。
 豚では味わえない、マトンの中にある宝石。
 水分を軽く飛ばされたマトンが抱え込んだ宝石は、口の中で燦然と輝き出す。
 まさにチキンとは異なる骨太の脂だ。

 チキンとマトンの戦い。
 この最終決戦が焔の口の中で勃発する。
 そしてこの戦いが、カレー界最強の脂を決める戦いへと――。

(……あっ、なんかお腹いっぱいになってきちゃったなぁ〜)
 焔は記憶を手繰り寄せ、妄想の中でカレー欲を満たしてしまっていた。
 もう自分の中にあったスパイスの渇望が消えていた。
 空腹もさっきのガーリックステーキが補ってくれた。
 
 先程まであったスパイスの渇望は、もうない。
 だが、代わりに手に入れたものがある。
 焔は、先程までなかった幸せな感覚を味わいながらゆっくりと帰路へついた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja5378/星杜 焔/男/18/ディバインナイト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。近藤です。
この度は発注ありがとうございました。
最初、エリュシオンのキャラクターでの発注という事で緊張致しましたが、発注文にはカレーに関する注文だったのでちょっと胸を撫で下ろしました。

ただ、今回はカレーそのものの選択肢よりも国によって変わるカレーのスパイスやカレーと共に食べる主食についても触らせていただきました。一昔前ならサフランライスと楕円形のナンというのが定番でしたが、日本でも様々な主食を味わえるようになりました。機会があれば是非味わってみて下さい。

あ、パキスタン系のカレーはスパイス得意じゃないと厳しいお店もあります。
シナモンを板状で大きめに入れてくるので、カレー食べている時に巨大な板を目撃する事になります。
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近藤豊 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年08月16日

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