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『風鈴祭り 』
志鷹 都ka1140)&志鷹 恭一ka2487

 チリ、  ン  チリン ……

 陽気なお囃子に幾重にも重なる風鈴の涼やかな音色。
 鳥居を潜った恭一は目の前に広がる光景に目を瞠った。境内に連なる色とりどりの風鈴、風鈴、風鈴。
 それが風に揺れてまるで楽を奏でているようである。
 流石風鈴祭りと言われるだけはあるな、とひぃ、ふぅ……数え始めた恭一に隣の都が笑う。
「数は沢山だよ。想いの数だけ」
「想いの?」
「遠くにいる大切な人へ風鈴の音色に乗せて想いを届けようとしたんだって」
 短冊に何かが書かれているのはその名残、と都が風鈴の一つを指さす。尤も今は風鈴の音色で暑さを乗り切ろうって暑気払いの意味合いも強いけど、とおどけたように都が加えた。
 都の実家に帰省中、二人は祭りへと。四人の子供たちは都の両親が預かってくれている。「夫婦水入らずで楽しんでおいで」と。
 動物の形を模したもの、朝顔が描かれたもの、色硝子のモザイク――境内で揺れる風鈴は実に多様でみているだけでも楽しい。
「お土産に一つ買って行こうよ」
 一般的な祭りでみかける屋台に混じって風鈴を扱っている屋台も多い。そのうちの一軒を二人は覗く。
「どれも素敵だね。恭、どれがいい?」
 白地に笹百合の浴衣も涼し気な都が恭一が贈った玉簪でまとめた髪から落ちる後れ毛を耳に掛ける。妻の何気ない仕草に目を奪われていた恭一は「恭?」と不思議そうに名を呼ばれ慌てて風鈴へと目をやった。
「そうだな……」
 さも風鈴を眺めてましたという風に思案気に顎に指など宛がって。
「涼し気なものだといいか……」
「じゃあ、これはどうかな?」
 都が選んだのは赤と黒の大きな金魚とその後ろを泳ぐ小さな四匹の金魚が描かれた風鈴。まるで自分たちの家族のようだと恭一に反対する理由はない。
 会計をしている間、屋台から一歩離れて周囲を見渡す恭一は眩い夏の陽射しに煌めく風鈴に思わず目を細めた。

 すべてを白く灼くような強い陽射し。
 突き出した庇が濃い影を作る縁側。
 軒下にぶら下げられた風鈴の――音……。

 恭一の脳裏に蘇る光景。
 あの日もこんな夏の日だった――師と仰ぐ人物が亡くなった日も。
「お待たせ」
 ポンと軽く背を叩く手に恭一の意識は現実に引き戻された。
 都の持つ風鈴を受け取る。
 もしも……。
 風鈴の音色が遠くへ行ったしまった人へ想いを届けてくれるなら、生きることに意味を見出せなかった子供が大切な人とこうして祭りに来て家族への土産を選んでいる姿も届くだろうか。
 手の中にある割れないように薄紙で包まれた風鈴に恭一はそんなことを思った。

 時折屋台を冷かしつつ都と恭一は連れだって祭りを練り歩く。時折風鈴の音色に耳を傾けながら。
 並ぶ夫の幾分高い所にある横顔を都は見上げる。
 結婚する少し前――今となっては一昔。二人で此処を訪れたことを。あの時は少しだけ恭一のほうが先を歩いていたような気がする。
 都が遅れていないか時折振り返りつつ。
 互いに「ちょっと待って」「もう少し遅くしようか?」などと声を掛け合えばよかったと今にして思う。
 だが再会を果たし紆余曲折の末ともに歩んで行こうと決めたばかり。幼かった頃と違うことに戸惑いを覚え距離感が掴めなかったのだ。
 今二人の歩調は何も言わずとも同じ。そして示し合わさずとも飴細工の屋台の前で一緒に立ち止まったことに都は肩を揺らす。
「あ……この仔」
 並ぶ飴の中に一つ紅い首飾りを着けた黒い柴犬がいる。
 都はそれを愛しそうに両手で掬い上げた。
「愛嬌のある顔だな」
 黒柴を覗き込む恭一に「可愛いでしょう」と都は少し得意気に。
 この黒柴は一人暮らしを始めたばかりの都が飼っていた仔によく似ている。優しそうな目元が特に。そう思うと自然と顔が綻んだ。

 境内を流れる清流の傍ら、大きな楠の丁度いい具合に張りだした枝が作る木陰に休憩所がある。
 川に面した座敷にあがって一休み。
 せせらぎに風鈴の音、木漏れ日が風に揺れてとても涼し気だ。
 都が先程買った飴を眺めていると恭一が口を開く。
「昔……師匠が祭りで飴細工を買ってくれたことがあってな……」
 懐かしいと細められる双眸。
「飴と言えば、私のお父さんが病気で亡くなって今の両親に引き取られたころ……」
 恭一に倣うように都も子供の頃のことを話しだした。
 今では本当の両親と同じくらい養父母のことを想っているが、当時は中々「お父さん」「お母さん」と呼ぶことができなかったこと。そんな時塞ぎがちだった都を元気づけようと養父母が祭りに連れ出してくれたこと。そこで養父が飴細工を買ってくれたこと。
「厳つい鬼の飴細工でね、お母さんに『女の子なんだからもっと可愛いのにしないと』って笑われていたの」
 どれが欲しいと遠慮して言わない都の代わりに養父が選んでくれたのは病を払ってくれるという厳つい鬼。
 「ありがと……ぅ。お父さん、お母さん」消え入りそうな都の声に父と母はとても嬉しそうだった。
 二人の前に甘味と茶が運ばれてくる。都の前にはあんみつ、恭一の前にはみたらし団子。
「師匠が好きだったんだ」
 先程の飴の話といいぽつり、ぽつりと語られる夫の過去に都は耳を傾ける。
 都も詳しくは知らないがそれは過酷なものであっただろうと想像に難くない。でも語るときの彼の目をみれば苦しい事ばかりだったのではなかったのだろうとも思えた。
 それが表情に出ていたのだろうか「どうした」と尋ねられた都は「ね、覚えてる?」と話を切り替える。
「流れ星の欠片……」
 そう言って川の方へ顔を。
「ああ、都が暑さでバテたやつか」
 沢山流れ星が降った翌日、都が「流れ星の欠片を探しに行く」と河原に恭一を連れだした。だが幼い都は暑さに負けて動けなくなってしまう。恭一はそんな都を背負って帰って行ったのだ。
 そして二人ともそれぞれの親にとても怒られた。「お前がついていながら都ちゃんに」「恭一君に迷惑をかけて」と。
「あの時は本当に怒られた。でも……その日の夜に親父が寝ている俺のところに来て『流れ星の欠片は夜の方がみつかりやすいんだ』って……」
「うん、寝込んでた私に届けてくれたの覚えてる」
 明かりで照らしてやると反射して光るから、と父と息子二人で夜中にこっそり家を抜け出し河原に探しに行ったらしい。
 多分それは石英か何かの欠片だと思う。でも都にとって本物の流れ星の欠片だ。
「結局抜け出したのが母にばれて父と二人並べて怒られたよ」
 散々だったと恭一が肩を竦める。
 互いの両親が未だ健在だった幼き日々――何もかもが煌いて、自分たちの前には希望しか広がっていないような気がしていた。
 いやそんなことすら思っていなかったかもしれない。当たり前のように毎日続いていくのだと信じ切っていた。幼い自分は。
 父がいて母がいて、恭一がいて。恭一の父と母もいて。優しい時間だった。宝物のような――。
 でも……。都は白玉を匙で口に運ぶ。
 戻りたいわけじゃない。子供や養父母、そして夫――大切な人々と過ごす今も都にとってはとても愛しい時間なのだから。
 夏の終わりの夕暮れのような、幾許かの郷愁と寂寥なのだろう。胸の奥に広がる少し痛いような甘い感覚は。
 夫も遠くをみていた。そこにはないなにかが見えているような。ひょっとしたら同じ気持ちなのかもしれない。
 それからも二人はかわるがわる夏の思い出を語る。朝顔や白粧花で草木染をしたこと、河原で花火をしたこと。中でも稽古の後、恭一と師匠と水浴びをしているところに瓜が流れてきて二人で追いかけた話では声を立てて笑った。

 帰り際、恭一は都に浴衣の袖をひっぱられて立ち止まる。
「最後に金魚すくい、やっていかない?」
「夕食後の後片付けを賭けようか?」
「そんなこと言っていいのかな」
 細められた瞳に悪戯めいた光が浮かんでいるのは恭一の金魚掬いの腕を知っているから。子供たちと、夫婦共通の友人たちと今まで何度も挑戦してきたがどれも恭一の負けであった。
 だが挑まれたからには受けないわけにはいかない。
「今日こそは……掬ってみせるさ」
 ぐっと恭一は拳を握る。
 腕を捲って勇んだ結果――……何度見てもポイに穴が開いていると首を傾げずにはいられない。師匠譲りの腕前は健在だったようだ、と零す苦笑。
 「金魚、持たせてあげるね」勝者の余裕を見せた妻の成果は三匹。
 日が傾く前に帰路に着く。ちゃんとお留守番してるかな、と子供たちの話をしながら。
 不意に耳をうつ風鈴の音。

「   」

 それに乗って師が己を呼ぶ声が聞こえたような気がして恭一は足を止めた。
 だが振り返ってもそこに見えるのは遠く小さくなった鳥居に白い大きな雲が湧き上がる夏の空。
 誰もいない。当然のことだが。
 空へ恭一は金魚を掲げる。
 小さな赤い金魚、黒い出目金、ひらひらと優雅に尾を靡かせる和金……蒼穹を泳ぐ金魚たち。
 師匠と祭りに行ったあの時、漸く自分が掬ったのは赤い金魚だったか。
 修行中、死を覚悟したことも数え切れない。

 でもこうして時折浮かぶのは――……。

 少しだけ視線を横に背けて殊更ぶっきらぼうに恭一の名を呼ぶ師匠の顔。
 恭一をどこかに連れ出してくれる時は決まってそんな調子だった。

 水に乱反射した夏の強い陽射しが煌いて眩しいからだと少しだけ鼻の奥が痛くなった理由を心の中で言い訳のように。

 立ち止まった恭一に都も足を止める。
 掬った金魚ごしに夏の空へと向けられた彼の視線。
 何を思っているのだろう。何を見ているのだろう。
 声を掛けるのが躊躇われしばらく都は黒い浴衣に包まれた夫の背を見つめていた。
 肩越しにちらと見える横顔。口元に淡く浮かんだのは少し寂しそうな笑み。
 あぁ、都の内に湧いて来る想いに胸を押えた。抱きしめたい、と。その背を。
 代わりに夫の傍らに進み、手を優しく握る。
 驚いた恭一が笑みを漏らし手を握り返してくれる。
 それを合図に再び歩き出す二人。
 夏の、照りつける溶けてしまいそうな。でも影が濃い、どこか寂しさが付きまとう陽射しの中を。
「都……」
「どうしたの?」
「風鈴の音は……きっと遠くに行った人の声も、届けてくれるんじゃないかな?」
 少し間をおいて「多分」と付け足された。
「うん」
 頷いて都は米神を夫の肩辺りに預ける。
 風に乗って風鈴の涼やかな音が聞こえてくる。優しく澄んだ。
 次第に遠くなっていくそれに二人耳を傾け家族の待つ家へと――。
 黒く濃い影は寄り添い一つになって。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1140 / 志鷹 都 】
【ka2487 / 志鷹 恭一】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございます、桐崎です。

夏のお祭りを巡るお話いかがだったでしょうか?
夏の強い陽射しのなかに感じるちょっとした寂しさが伝われば何よりです。
DTSでも描かせて頂いたお二人がFNBでも幸せにご家族と一緒に過ごしていらっしゃって嬉しかったです。

気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。
それでは失礼させて頂きます(礼)。
イベントノベル(パーティ) -
桐崎ふみお クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2017年08月18日

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