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『「生まれてきてくれてありがとう」を伝える日・夏 』
フィアナaa4210)&ユエリャン・李aa0076hero002

 八月一日、午前。

 ぴーんぽーん――インターホンがセミの鳴く空に響いて。しばらくしてドアの向こうから聞こえたのは、ゆったりとした足音だった。
『どちら様かな?』
 電子越しに、艶のある中性的な声。落ち着いた大人の声音に、インターホンの前にて佇む『来訪者』は、薄紅色の唇に笑顔の花をいっぱいに咲かせて。
「私!」
 と、来訪者――フィアナ(aa4210)は答えた。
『おお、フィアナか』
 途端、インターホンの向こうの声がニコヤカになる。綺麗に身支度を済ませたユエリャン・李(aa0076hero002)がドアから現れたのは、それから間もなくであった。
「迎えに来てくれてありがとう」
「どういたし、まして、なの、よ!」
 言葉と共にフィアナが差し出したのは――ポピーの花束だ。ユエリャンの髪色に似た、鮮やかな赤い色をしている。
「ん、と……赤いポピー、の花言葉は……ありがとう、って、意味!」
「花束……我輩に?」
「うん! この赤い、色、ユエの髪の毛みたいで、とっても綺麗と、思った、ので」
 えへ、と照れ隠しのようにはにかむフィアナ。それから子犬のように言葉を弾ませ、言葉を続けた。
「それに、ね、プレゼントボックスも、あるのよ。だって、ふふ。だって、今日は――」

 ユエの誕生日だから。

 ――八月一日。
 それはユエリャンが生まれた日。
 四月二一日にユエリャンが祝福してくれたように、今度はフィアナが、友人が生まれてきてくれたことに「ありがとう」を伝える日。

「なの、で……お出かけしません、か?」

 真ん丸な瞳がユエリャンを見上げる。
 そういえば……とユエリャンは思い出していた。前に誕生日を聞かれ、今日の日を答えたことを。
(思えば……誕生日を祝われるのは初めてかな)
 記憶を辿れど、いつかの今日を祝った記憶はなく。そもそも屋外へ出た記憶さえなく。そう思うと急にむず痒いような照れ臭いような気持ちになっては、誤魔化すように笑いながら答えるのだ。
「ありがとう、フィアナ。勿論であるとも。……それで、どこへ行こうか?」
「夏の、海! この前は海、まだ寒かったもの、ねー」
「ああ、」
 確かに、と思い返すのは白い花で埋め尽くされた三月の海。あれは寒かった。寒すぎて寒い以外の記憶が曖昧だ。そんな思い出に思いを馳せつつ、ユエリャンは頷いた。
「ではすぐに支度しよう。車くらいなら運転できるぞ」

 それは眩いほどの太陽に照らされた、ある夏の一日。







 まだ午前中だというのに暑さは容赦がなく、セミの声がジワジワ響くアスファルトはまるで熱されたフライパンだった。
「これは……徒歩だと死んでいたな」
 エアコンを全力で効かせた車の中、ユエリャンは外界に遠い目をしていた。
「今日、猛暑日、なので、水分補給しっかり、って」
「で、あるな。折角の絹の白肌が焼けてしまわぬよう、日焼け止めもちゃんと塗るのだぞ」
「はーい」

 ラジオから流れるのは、ちょっと昔のヒットソング。夏を謳った、よくある定番のラブソング。
 誰が付けたか、バックミラーからぶら下がる「交通安全」のお守りが揺れる。
 夏休みが始まった道路はそれなりに混んでいて……しかし、ほどなく走れば車は疎らに。
 それから、ややあって。

「あ!」

 流れる景色を眺めていたフィアナが身を乗り出して。
「ユエ、海! 今、海、ちらっと、見えたの、よ!」
 建物と建物の隙間。また一瞬、また一瞬。
「ほどなく到着であるな」
 早くもうきうきとした様子のフィアナに微笑ましげな気持ちになりつつ、ユエリャンは車を走らせるのであった。







 海。
 はたしてそれは海だった。
 青空よりも深い青。
 地平の果てまでそんな色。

「青いな! 前の時とは違う色だ」

 サーフパンツにラッシュガード。水着に着替えたユエリャンは、夏の海の青さに感動していた。フィアナの手前、冷静であろうとはしているものの、その目の煌きは隠しきれていない。
 なんとも言えない、普段の生活ではまず嗅ぐことのない潮の香り。波の音。白い砂浜。海水浴場は人で賑わい、色とりどりの水着や浮き輪が行き交っている。
 三月の海とはまるで違う。というかあの時は白い花で景色は塗り潰されていた。今は青、青、青い色。太陽がそれらをビビッドに輝かせている。
「いっぱい楽しみましょう、ね」
 ユエリャンの傍らにはフィアナ。フリルのビキニに、上から薄手のパーカーを羽織っている。横を見やればユエリャンの瞳に輝きに、ホンワカと笑みを浮かべた。
「行ってみま、しょっ」
 ユエリャンの手を引く。砂浜へ。意外と砂利が足裏にチクチクするし、真夏に熱された砂は熱々で――「暑いぞ!」「あつー、い!」なんて笑いあって、水着の人々といくつかのパラソルを追い抜いて、波打ち際へ。
「浅いところなら歩いても大丈夫であろうか」
 おそるおそる、そしてソワソワと、ユエリャンは波打ち際にて寄せて返す水を眺め――途端、大きめの波がざざーーーっと砂浜を駆け上がる。ユエリャンとフィアナのくるぶしまで海の潮で濡らしてゆく。
「つめ、たーい」
「おお……これが……!」
 冬の時は冷たくてキレそうになったそれも、夏であれば心地よくて。「もう少し進んでみても良いか!?」と振り返るユエリャンに、フィアナはニッコリ頷いた。
「深いとこもお手々繋いでたらきっと大丈、夫っ。何かあっても私、泳いで連れてく、しっ」
「……むっ。で、では腰の辺りの深さまでだ、腰の辺りまで」

 ざぶ、ざぶ、ざざーーん。

 くねる波は太陽に煌き、人々の喧騒に瞬いている。
 二人とも日焼け止めはしっかり塗ってきたが、それでも刺さるような真夏の日差しだ。けれど不思議とそれを厭う気持ちはない。暑いけれども、だからこそ海の冷たさが心地いいのだ。あるいは夏の暑さに心まで浮かされたか。もしくは両方か――。
 ついつい、もっと深くへ歩いて行きたくなるが、ユエリャンは腰の辺りの深さでガマンした。流石に、年下のお嬢さんに砂浜までひっぱって泳いでもらうのは気が引けたのだ。

「綺麗、ね……」

 海の風に、フィアナは白銀の髪をかきあげる。水平線に目を細めれば、彼方では遠泳している若者達の姿、もっと遠くには船が横切って行くのが見える。
 そして、繋いだ手を辿って友人を見れば、その英雄もまた『真夏の海』というものを感じ取っているようだった。目で、鼻で、耳で、肌で、心で。
 その横顔を見ると、海を提案して良かった、とフィアナは思う。四月に誕生日を祝ってくれて、とってもとっても嬉しかった。その嬉しいを、ユエリャンにも贈ることができたなら……。
「ね、ユエ。……貝殻拾いなんて、どう、かしら?」


 波打ち際、波に洗われる砂の中、目を凝らせば貝殻が幾つも。割れてしまった欠片が多いけれど、中にはちゃんと形のあるものもある。
「貝、というものは知識としては知っているが……」
 小さな貝殻を掌に、ユエリャンはそれをじっと眺めている。
「不思議なほど繊細な造形であるな……美しい」
「ユエ! 見て、見て!」
 そんなユエリャンに声をかけ、フィアナが掌を差し出した。そこに乗っていたのは、
「宝石か!?」
 ユエリャンは目を丸くする。鮮やかで透き通るマリンブルーの欠片。
「シーグラス、っていう、の。ガラスが、波でまぁるくなったん、だって」
「な、なるほどな……」
「ユエに、プレゼント」
 そのまま、ユエリャンの掌に乗せる海の欠片。「太陽に、すかしてみて」とフィアナの言葉に従えば、柔らかく透き通る青い光。
 透明な眩しさ。まるでフィアナのようだ。そんなことを思いつつ。海とフィアナを思い出せるシーグラスは、ユエリャンにとって今日という日の何よりの土産。
「……、」
 こみ上げる温かくて柔らかい気持ち。シーグラス越しの海の景色。
 フィアナはニコニコとそんな友人の様子を見守っていた。が。
「あ、ユエ。あんよの上、に、カニさん」
「え? ――ほォ゛わアッ!!!」
 虫がダメなユエリャン的に、パッと見で足がいっぱいある生き物が足の甲に乗っている光景は非常〜に心臓に悪かった。







「カニは美味しく頂けるのに、急に足に乗られるのは頂けないのである」
「あはは。ビックリ、した、ねー」

 海の家、屋根の下。首を振るユエリャン、クスクス笑うフィアナ。
 潮風に揺れる「カキ氷」の旗、テーブルの上にはビニール袋に大事に入れた貝殻とシーグラス。海の思い出。

 間もなくして店員がカキ氷を持ってくる。二人とも、海のように真っ青なブルーハワイ味だ。ブルーハワイってなんだろう? 何がどうハワイなんだろう? そんな素朴な疑問が、並んでいる最中にフッと湧いたものでして。
 いただきます。声を重ねて、同時に食べる。なんとも説明し難い風味。それからとりあえず甘い。
「ブルーハワイとは結局、何の味なのかね?」
「何味、だろー?」
 首を傾げる二人。何口食べても、結局答えは出なかった。
 一気に食べると頭が痛くなるから、青いそれをゆっくり食べる。
 そんな中、フィアナがふと顔を上げて。

「ユエ、お誕生日おめでとう。ユエがいてくれて、良かったっ。ユエと一緒にいると、ぽかぽかするの、よー」

 にぱ、と心から幸せそうに笑うのだ。
 ユエリャンも表情をほころばせる。そうか、これが、「幸せ」「嬉しい」という気持ちか。

「こちらこそだ。我輩の誕生日を覚えていてくれて、……祝ってくれて、ありがとう」

 こんなに幸せな八月一日は、生まれて初めてだった。
 自分は、褒められたような人間ではないけれど。
 それでも……ここにいていいんだという、そんな温かな許容感。

 生まれてきてくれてありがとう。
 誕生日おめでとう。

 それはまるで魔法のようで。



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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フィアナ(aa4210)/女/17歳/命中適性
ユエリャン・李(aa0076hero002)/?/28歳/シャドウルーカー
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2017年08月22日

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