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『雉も鳴かずば撃たれまい 』
矢野 古代jb1679)&華桜りりかjb6883)&小野友真ja6901)&亀山 淳紅ja2261)&マキナja7016)&青空・アルベールja0732

 今日も今日とて独りで家にいる、矢野 古代。

 最近、娘がちょくちょく外に出かけているのは喜ばしくもあり、悲しくもあるなと、琥珀色の色が入ったグラスを傾ける。グラスから雫がポトリと落ちて床を濡らした。

 頭を振って外に目を向ければ、ベランダに見える服が見える。娘が今朝、出かける前に干した物たった。バスタオルでちゃんと日陰を作り、影で気持ち様さそうにゆらゆらと動いている服は古代がプレゼントした中でも一番のお気に入りだったと記憶している。ちゃんと取りこんでおくように、きつく言われていていたのを思い出す。

(いや、忘れていたわけじゃないぞ、思い出すのに時間がかかっただけだぞ、父さんは)

 いない娘へいいわけする古代。娘との約束なら忘れるはずもないが、娘の物へとなると少しばかり厳しかった。

 ――とその時、コトンと何かが投函される音がした。よっこいしょとすっかり重くなった腰をあげ、玄関へ向かい郵便受けを確認すると、久遠ヶ原から送られてきた小さな封筒が1つある。中身を確認すると2つ折りにされた小さな紙が。

「給与明細、か」

 何となくピンときた古代は紙に目を通すと、案の定。

 少しの予想外として予想以上の金額が書かれていたので、内約を確認して納得する。

「ははあ……べリ何とかさん討伐特別報酬か」

 そう呟き、こんなにもらえるのかとわずかな間、目を閉じて感動していた――自分1人ではなかったとはいえ、世界を救った金額として十分と言えるかどうか甚だ疑問に思うものだが、そんな風に考えもしないから撃退士というのはよく訓練された企業戦士である。

 それはともかく、古代は目を瞑ったまま使い道を考える。

 まずは当然、家計だろう。

 これは家長としての務めだ。

 そして貯金。

 それもまた、家長の務め。

 ただ、いくらぐらい入れるのか――

「半分くらいでいいか。残りは……遊びに使うべきだな。全額貯金は味気ないし、慰労もこめてパーッと使うとしよう」

 それなら善は急げと、知り合う連中が皆そろいもそろって若いため覚えた無料のチャットアプリで誘いに乗りそうな人を全員、トークに招待して呼びかける。

古代
『急な誘いですまない。今日、飲ま
ないか?金が来たから、今回は俺の
奢りだ。なんなら飲む以外でもいい
ぞ』

淳紅
『えっ奢り?本当?太っ腹!じゃあ
俺お肉食べたい!』

友真
『やったー行きます!俺も―!』

青空
『私もなのだ!
奢りなんてすごいぞ!太っ腹だ!』

マキナ
『ゴチになります』

 一瞬の既読から、怒涛の返信――しかし、1人少し遅れて遠慮がちな返信がくる。

りりか
『フルーツパーラー……に……行き
たいの……』

 フルーツパーラー。何となく知ってはいるけれども、自他ともに認めるおっさんである古代にとって、未開の地。娘がもっと食に対して興味があれば連れて行っていたかもしれないが、結局、そこまでの興味を抱く事がなかったので連れて行く事もなかった。

マキナ
『俺、行ったことないですね。
そのうち妹を連れていきたいとは思
うんですが』

淳紅
『あーええねー。自分あれ、一回メ
ロンのパフェ食べてみたいねん、
でっか  いの』

青空
『そこそこ高いから、少しずついっ
ぱい食べられるのは嬉しいのだ』

友真
『好き。尊い……』

(え、お高いのか? それに亀山君の妙な空白が気になる……)

 密かにおびえ始める古代。

 だが奢ると言ったのだし、他に希望を聞いたのは自分なのだ。後にも引けないし、無意味な意地もある。

古代
『じゃあお高いお肉で飲み会するか
そしてちょっと贅沢にお高いフルー
ツパーラーも行こう。
今回は少し早目に集合しよう。奮発
していい肉を出す所に連れていくか
ら、期待してくれ』

淳紅
『きゃー矢野しゃんすてきぃー!
友真君、年齢確認できるもん忘れん
ときや(』

友真
『超期待します
もう必要ないですーーーーーーーー』

青空
『こうしてまた集まれるのは嬉しい
限りなのだ』

マキナ
『昼忘れてたんで、腹空かせておき
ますね』

りりか
『たくさん楽しみます……です』

 そしてトークは少しの間続き、やがて静かになったあたりで古代はすっかりカラカラになってしまった喉の為にもグラスの残りをあおる。すっかりぬるくなってしまっていたが、それでも少しは気分が落ち着いた。

 自分は早まったのではないか――そんな思いがよぎってしまうが、パーッと使うと決めたのは自分なのだ。

「それに、こうして集まる事は今後、難しくなるしな……」

 卒業や進学が、もうすぐそこにある。

 これまでとほとんど変わらず会える人もいるだろうが、逆に全くと言っていいほど会えなくなる人もいる。とくに社会へ出れば、年に1回だって会えなくなる事はざらなのだ。

 だから今日は、今日くらいは、贅沢にすごそう。

「……下ろしておくか。念のため、小遣い分も全部」

 腹を決めた古代は麦茶が入ったガラスのポットを冷蔵庫に戻し、出かける準備を始めるのであった――




 古代が集合場所に到着すると、小野友真、青空・アルベール、マキナの3人が――いや。

(かつぎがわずかに見える。華桜さんも来ているのか

 華桜りりかのかつぎが3人の隙間からチラチラとしていて、4人が先に来ていると遠目にも見えた。知らない人が見れば変な誤解でもしそうだなと思ってしまうのは、自分が歳を取ったせいかもしれないと思いつつ、人見知りの激しいりりかが心配だったので急ぐ。

 ただ案外、大丈夫そうに見えた。

 こうして集まるのもそこそこあったわけだから、そろそろ慣れてくれたのかもしれない――そう考えると、古代はこんなおっさんが主催した飲み会でも役に立つものだなと、妙な満足感というか、達成感に包まれる。

(もう1人、娘が成長してくれたみたいな気になってくるな……そういえば亀山君の姿が見えないが――)

 見たところ、淳紅だけがいないような気がする。

(そういえば前にもあったな……居ないと思っていたら、実は見えなかっただけでしたとか)

 なら今回もそんなところだろうか。

 そんな可能性も考えつつ、4人へと声をかけた。

「遅れてしまったかな、俺が」

「そんなことないのだ!」

「ちょっと俺達が早すぎただけですよ」

「肉のためとあらば即参上の俺や! お肉大好き奢りは超好き。皆で行くんはもっと好きー! しかもいつもの面子で俺の心もうきうきウォッチングやな!!」

 いつもハイテンションの友真がそんなフレーズを口にするが、青空とりりかは首を傾けるのを見て友真は真顔になる。

「そろそろ通じない世代が出て来るんほんまこわない? とか思ってたんけど、まさかもう……?」

「俺はわかるから大丈夫だ、小野さん」

「まっきーーーー!!」

 感極まって友真がマキナに飛びこむと、マキナもハグで返すのはさすがクォーターというべきなのか、ノリがいいというべきなのか。そんな2人へさらに腕を回すのが古代だった。

「もちろん俺もわかるぞ、小野君」

「古代さん……!」

 3人の事はともかく、首を傾げていたりりかが首を戻し「小野さんの言っていること、わかるの……です」と、告げる。

「ネタがわかるん――!」

「こうしてみなさんとお酒を飲むのももう何度目なの、でしょう。みなさんと一緒にお話をするのも飲むのも、楽しいの――」

「そっちかい!!」

 ついツッコんでしまうのは性というものだが、相手が相手だけにバツが悪そうに頭をかく友真。

「いやまあ、りりかちゃんにそう言ってもらえるってんなら、それはそれで嬉しいっちゅう話な?」

「何の話なん?」

 あらぬ方向からの声に顔を向ける一同。そして青空がパッと顔を輝かせる。

「淳紅ー! 久しぶりー!」

「もうそんなに経つん? ついこの前会ったような気ィしたんけどな」

 顎に手を当てて首を傾げる淳紅は不思議そうな顔をしていた。

 淳紅が学生生活よりも自分の夢のための活動を続けているのは、古代も知っていた。そして決戦以降、少し知名度も上がってきて学園のではない仕事が忙しくなりつつある事も。

(だからだろうな。亀山君の場合、学生というよりもう社会人の感覚に近いんだろう)

 毎日のように顔を合わせ、気楽に集まる事が出来る学生生活では知る事も出来ないし、想像する事も難しい事だ。それをもう体験しているのだから、この中で淳紅は一番、大人に近づいたと言える。

 背と童顔のせいで幼く見られがちだが、ずいぶんと凛々しくて頼もしくなってきたような気もすると、古代は淳紅の成長にも喜ばしさを感じていた。

「今日は矢野さんの奢りっちゅーことでずっとウキウキして、昼も食べんで仕事しとったわ!」

(……気のせいだったのかもしれない)

 無邪気に笑う淳紅に、凛々しさも頼もしさも全部吹き飛んでしまった。

 ただこうして集まるのは本当に久しぶりではあるから、仕方ないのかもしれない。久しぶりに会えばハメを外したくなるのもまた、社会人なのだから――もっともそこに若さあってこそだが。

 しばらく立ち話に花が咲いていたが、マキナの腹の虫が盛大に「腹減ったー」と鳴くと、淳紅の腹の虫も応え、それが感染ったように友真の腹の虫も鳴き始めた。

 思わず笑みをこぼす古代は「積もる話は肉を食いながらにしようか」と、移動を始めるのであった。




「とりあえずビール」

 掘りごたつ式のテーブルに使い捨てのおしぼりを並べ、飲み物の注文を受けにきた店のおねーさんへの第一声が、まさかの淳紅であった。おしぼりで手を拭きながら、ごく自然に注文するその姿はだいぶ板についてきた。

「淳紅、ビール飲むのー? 私はやはり苦くて苦手なのだ」

「飲んで慣れてくうちに、ビールの良さがわかってきてん。最近暑いし、冷えたビールは最高やな」

「亀山君も言うようになったな」

 初めての飲み会が懐かしく思えてきた古代は、歳のせいか目頭が熱くなってしまい、おしぼりで目を押さえて誤魔化す。

「俺はお肉に合う酒とかよくわからないですから、矢野さん、何かありますか?」

「そうだな……マッコリなんてどうだろう。度数はビールよりちょっと高いが、米を原料にしているだけあってかなりマッチするぞ」

 古代のオススメに「じゃあそれで」とマキナは頷く。

「焼肉にライスは無敵やんなー。あ、俺、カルピスサワー」

「カルピス! 私もお酒の入ったカルピスで炭酸ないやつにする! りりかも同じのでいい?」

「う……はい、です」

 友真と青空、それとりりかの注文に少しの間、お店のおねーさんは固まっていた。そしておずおずと、その質問を口にした。

「あの、年齢確認できる物はございますで――」

「へへーん! ほら友真君、自分の言った通り必要やったろ!」

 得意げに指を向ける淳紅の指をつかみ、友真は悔しそうな顔をする。青空やりりかは特にこれと言った変化は見られない。

「なんでなん、なんで俺とかがひっかかって淳ちゃんは普通にスルーなん!?」

「友真君と違って、もう、大人の貫録をもってるんよ。これもお仕事効果かなー?」」

 手を腰に当て、笑みをたたえた淳紅は鼻がどこまでも伸びていきそうな様子だったが、そんな淳紅へ店のおねーさんは「亀山淳紅さん、ですよね?」と、まさかのフルネームで呼ぶ。

「まだ全然露出はないですけど、テレビに出てますよね……? 私、亀山さんの歌声、大好きなんですよ」

「それはありがとうございます、そう言ってもらえると一層の励みになりますよ。これからも俺の応援、宜しくお願いできますか」

 淳紅の差し出した手をしっかり両手で包み込み、「もちろんです!」と店のおねーさんは目を輝かせていた。

「はー、淳ちゃんのファンかー……まあそれはともかく、肉頼もうで、肉」

 切り替えの早い男、友真がドリンクのページをめくり、肉のページを見た瞬間、真顔になった。そして隣に座る古代へ顔を近づけ、小さく小さく、そっと。

「ほんまこれ大丈夫……?」

 りりかも覗きこみ、その小さな目が少しだけ大きく丸くなる。

「……もし、たりないくらい高くなってしまったら少しは出した方が良さそうなの……ですよね?」

「ヒーローのお財布もちょっとうるおったから、遠慮せずサポートはするで――たぶんメイビー」

「君らが気にすることじゃないさ……遠慮しないで頼んでくれ」

「ほるもんとおーがにっく野菜盛り合わせお願いします、です」

「俺とりあえず塩タン上ロース上カルビイチボにハネシタとユッケ、ライス中で!」

「じゃあ自分、上から順に2人前ずつ。せっかくやから、ライスなしで肉だけで腹一杯にやな」

(さすがだ……遠慮に躊躇ないな)

 ゴクリと喉を鳴らす古代は、自分の頬に流れる汗が炭火のせいだと信じたかった――




 注文の順番を前後してもらって、テーブルの上に肉と野菜とライスがすべてそろってから、ドリンクを運んできてもらった。所狭しとなってしまったが、どの皿も千円を軽く越えているという点も含め、圧巻の一言であった。

 隙間へねじ込むようにドリンクが置かれ、みんなに行きわたったところでマッコリ片手にマキナが腰を浮かせた。

「えっと、1人もかけることなく、何とか無事にこうやってまた集まれたことを祝してですね――」

『乾杯』「……です」

 掲げられたグラスがそのまま口へと運ばれ、りりかは2口3口で止めるが男連中は競うかのように、グラスの角度がみるみるうちに垂直へ。

「――ッかぁーーーーー! この一杯が染みるんな!!」

「わかるけども亀山君、慣れ過ぎが一周しておっさん臭いぞ」

「古代さん、青ちゃん、淳ちゃん、まっきー、同じんもう一杯でいい? あ、りりかちゃん、サラダとかいる? だいじょぶ?」

「大丈夫なの、です」

「いいのだ」

「あ、マッコリ・やかんが気になるので、やかんでお願いします」

 次の注文をなんて言っている間にも、網の上を野菜とホルモンが浸蝕していく。それを見た淳紅は瞬時にトングを2つ持って腕を交差すると、「ダブールトング!」と2つのトングを駆使して肉を並べていく。

「淳ちゃん、かっこええな、それ! 俺もやる―!!」

 淳紅に触発された友真も「トング・ダブル!」とトングの二刀流で挑み、網の上でトングとトングがぶつかり合う。そしてそのうちに肉ではなく相手のトングを掴み、またそのトングを掴み、最終的には打ちあいながら上昇していく。そこへマキナも加わろうかというところで――

「遊ばない」

『はい』

 古代にたしなめられ2人が肩を縮こまらせ、マキナは知らぬ顔で肉をひっくり返すと、りりかは本当に小さく、笑った。古代としては娘以外の前で笑うのを初めて見たかもしれない。

「かわいいの、です」

 一番かわいい枠にかわいいと言われ、解せぬという顔の2人を微笑ましく傍観する、青空。

(あれだけ激しい戦いの後、こうしてまた一緒に飲めるなんて本当に嬉しいな。誰1人欠けなくて、本当によかったのだ……)

 感慨にふけっていると、タレ皿にダブルトンガー達が「青ちゃん食べてる? めっちゃ食べて力つけなヒーローとしてやな……」と肉をモリモリと盛っていく。

「まっきーもほらほら食うてるんか、この辺りのお肉最高やで食べよ!?」

「食べてます! お高いお肉美味しいです!!」

 見た目通りと言わんばかりにモリモリお肉を食べるマキナは、そのまんまヤカンで出てきたマッコリを直接注ぎ口から飲み、友真の示した最高のお肉に箸を伸ばし――目の前で淳紅がさっと奪う。

「……うまッッ!! 柔らかいお肉から出てくる脂がまた甘くて、そっから旨みが舌で次々と連鎖しとる……!!」

 拳を握り、淳紅の食レポに喉を鳴らす友真も最高のお肉を口に――

「……!! ヒュー、人のお金で食べる肉最高やない!? 美味しい!」

 わーいとダブルトンガー達はトングを打ちあわせ、美味さを表現するのだった。

「肉にこだわっている分、魚介類は無い店だったけど小野君、大丈夫だったかい?」

「十分満足でっす! 魚介無い分、お肉3倍食べますから!!」

 トングを握りしめたまま三本指を立てる友真が、美味さにいちいち大きなリアクションを取っているのはカルピスサワー2杯が燃料である。

 そして今、「飲み物が入ってないままにすると失礼だと聞いているの、ですよ」とりりかが友真のグラスにヤカンのマッコリを注いでいた。その時、自分のグラスが倒れそうになったが、とても自然な動きで青空が倒れそうなグラスを押さえるあたり、さすがの青空である。

 淳紅も2杯目のビールが消え、それに注ごうとしたりりかへ手でストップする。

「いや、この後もあるからアルコールはここで止めて、コーラかジンジャーでも飲むん。ほどほどが一番やんな?」

 何かを思い出したのか遠い目をする淳紅と目を合わせ、りりかと淳紅が頷くと、友真とマキナ、青空までもがうんうんと頷く。

「んぅ……程々に楽しく飲むのが良いの、です」

「亀山君、華桜さん……!」

 目頭を押さえ、天を仰いでしまう古代はどうしてこの2人がこんな事を言っているのかは、知らない覚えてない古代悪くない。

 ダブルトンガーから片手に切り替えた淳紅が、「それにしても」と肉を焼きながらに呟く。

「いや、長かったような短かったような……皆、卒業後はどうすんの? 友真君とか――卒業できそう? 試験大丈夫??」

「そんなん……ユッケうまーい。最近、食える店減っててなー」

 触れてはいけなさそうなのでそっとしておき、肉をひっくり返しながらマキナを見る。

「マキナ君は――わりと上手く生きていけそうやな」

「ま、ぼちぼちですね」

 箸を休める事を知らないマキナへそっと、「妹さんと末永くお幸せに……」と小声で付け足す。

「私はどうしようかなー」

「……私もどうするか、です

「青空君とりりかちゃんは……ぽえぽえとしてればええんちゃうかな。妖精さん枠だし。矢野さんは?」

「俺は――」

 話を振られた古代は少しだけ言い淀み、「ま、ぼんやりと考えているさ」と少し濁すような気配を見せる。それを察した淳紅はさっと、「自分はこのまま芸能活動やなー」と自分の話に切り替るのだった。

「夢はもっと大きな舞台でってのもあるけど、今は目先に小さな夢もあるんな」

「へぇ、小さな夢かい。どんなのだい、亀山君」

「あー……内緒や」

 そう言って淳紅はジンジャーエールを口にすると、古代をちらりと見る。

 淳紅の目先にある小さな夢――それは。

(学園を無事卒業できたら1回、奢り返そう。そのためにも頑張らなな)




 十二分に焼肉とそこそこの飲酒で少し余裕を持たせた状態で店を後にし、古代の提案で立ち寄ったコインシャワーには若者連中は「初めて見た」などと言い、こっそりと古代は傷つきながらもシャワーを浴びる。

 衣類には消臭を吹きかけ、マウスウォッシュで口臭も少しは抑えた。

 入念に準備を整えた古代が出てきた時にはもう全員が出ていて、肉と酒の匂いは軽減されてフローラルな香りで統一される――ただりりかだけはなぜかみんなと違い肉の匂いもアルコールの匂いもしないで、いつもの甘くていい香りを漂わせているあたり、謎である。

「女の子の七不思議、か」

 古代がそう呟いたのだが、マキナの脳裏には魔王という言葉が過ったとかなんとか。

 それはともかく、いよいよやってきた決戦の地。店構えとガラス越しに見える若い女の子だらけな様子に、古代はすでにたじろいでいた。

 ここはおっさんが来ていい所ではない――ベリ何とかさんの超重力空間以上に踏み入る勇気が沸いてこなかった古代だが、そんな古代の躊躇もどこ吹く風と、青空が「一番乗りなのだ」と入っていけば「2番ーー!」と友真も続き、りりかも「3番、です」と少しだけ乗ってくれた。

 そして古代と、古代ほどではないがためらいがちのマキナの背中を「さ、行くで」と淳紅が押すのであった。

 魔境へと踏み込んだ古代――店内は白くおしゃんてぃとどこまでもきらびやかで美しく、若い女の子ばかりでは無いのが少し意外に思えたが、それでも貴婦人という言葉がぴったりで、客までもがきらびやかに見える。

 自分なんてただの擦れた褌でしかないとかそんな自虐的な思いに囚われていたが、すでにちょこんと席に座っているりりかがどことなくソワソワしているような気がして、古代は勇気を奮いたたせる。

「やーさすがやな、フルパラが似合うオブ似合うスイーツ系女子りりかちゃん。青空君も……底知れんわ……」

 りりかと青空、2人がフルーツパーラーで並ぶと溶け込み過ぎてJKにしか見えない説が淳紅の中で浮上する。友真も引けを取らないが、メニューを見てうわーうわー言っているので、減点。

「あー妹が好きそうですね、この店。今度連れてこようかな」

 古代がまだ一歩踏み出せていない間に、さすがの若さでもう順応したマキナは淳紅と一緒になってスタスタと行ってしまう。残された古代は1人残されている方が恥ずかしいと、歩き始める。

 横目にだが、じろじろと見られている――

(みんなが俺を笑っている――そんな感覚というのは、こういうことか)

 やっとの思いで席に座り、すでにみんな何を頼むのか決まっているらしく、メニュー表を閉じていた。何を頼むのか聞かれた気がして、「任せるよ」と答えるのが精一杯だった。

 頼んだ物はそれぞれが「らしい」代物で、淳紅は宣言通りにでっかいメロンのパフェ、青空は色んなものとちょっとずつということで一番フルーツの種類が豊富な旬のフルーツ盛り合わせ2人前(1人前よりも種類が増えているらしい)、友真は迷った末にどちらも頼んだフルーツあんみつにプリンアラモード。マキナは他の店にもよくあって馴染み深いフルーツポンチ、古代に運ばれてきたのは果物をくりぬいた容器にたっぷりのゼリーと少量のフルーツという物だった。

 そして一番楽しみにしていたであろうりりかは――小皿に1品ずつフルーツが少しだけ盛られているのが5皿ほど。単純な量で言えば一番少ないのが明白だった。

「遠慮、しなくてもいいんだよ。華桜さん」

「いろいろな種類を食べます……です。それに、たくさんは難しいの……」

 それもそうかと納得する古代はゼリーを口に含み、そして驚愕する。

「俺の知っているゼリーじゃない、これは……!?」

 水っぽくて甘くて柔らかいが古代にとってのゼリーだったが、これは果実がふんだんに使われていて弾力性があり、瑞々しく果物の甘みが口いっぱいに広がる。

「うま……こんなん……最高やん……」

 一口一口に感動するも語彙がすでに奪われている友真の反応が大げさではないと、古代はゼリーを食べただけで実感した。そしてきっと友真との会話はもう成り立たないなと思えるほど、友真は知能を失っているように見えた。

「これは是非とも連れてきたくなります」

「妹さんと出かける口実やんな――って自分のパフェー!」

 一口食べられて憤慨する淳紅がマキナに詰め寄っている隙に、青空がひょいひょいと淳紅のパフェをいただいている。気が付いた淳紅が「誰なん!?」と顔を向けてる間に、マキナがひょいひょいと。

「上品な味って、こういうのなんですかね。これならいくらでも食べられるって気持ち、わかります――?」

 りりかの視線に気づいたマキナは、自分のフルーツポンチに注目する。入っているフルーツは量の違いがあるくらいで、それほど珍しい物はない――がこの中で唯一、イチゴが乗っている。

 笑うマキナはフルーツポンチのグラスをりりかに寄せ、「イチゴ、いいですよ」と伝えると、りりかは最初かなり躊躇していたがやがてフォークに刺して、イチゴと同じように赤い唇の開けイチゴを口にする。

(きっと妹もこんな感じだろう)

 妹と来た時もフルーツポンチを頼もうと心に刻む、マキナであった。

 イチゴで幸せな気分になっていたりりかだが、ふっと思い出してしまい、寂しそうな顔をする。

(もうすぐ気軽に集まれなくなるのかと思うと少しさみしいの……でも今はたくさん楽しみます、です)

「何せ矢野さんのおごりなの」

 名を呼ばれた気がした古代が顔を向けるも、りりかは何でもないというように首を横に振り、小さな果実を口に入れるのであった。




 フルーツパーラーのお会計で、メニューを見ていなかった古代は予想を遥かに上回る金額に少し冷や汗をかいたが、予算内に収まったので何とかセーフだった。

(やはり亀山君のパフェが一番高かったのかな)

 そう思いながらもレシートを見て、二度びっくり。りりかの頼んでいた一品一品全てが群を抜いて高く、さすがは最高級品と銘打っているだけあるなと、今更ながらに魔王という言葉に震え上がる。

 外へ出ると通り雨の匂いが辺りに立ちこめていて、もう間もなく降るなという気配がしていた。

「さて、ここで解散します?」

「そうだな……もうじき雨も降るだろうから、若者はどこかで雨宿りついでに何かで楽しんでおいでよ。おっさんはもう帰るから」

 財布から、予備にと下ろしておいた自分の小遣いのうち一万をマキナに渡す。

「古代はこないのー?」

「娘がもう帰ってくる時間だからね。ただいまにおかえりと返ってこないと、寂しいだろうさ」

 あからさまに残念という顔をする青空だが、その目には羨望もあった。父親を知らない彼にとって、古代は憧れの父親像だから。

「それは大事やんな。こっちは自分が引率するから、安心して帰りや」

 そう言う淳紅が一番悪ノリしそうなのだが、やはりそれでも頼りになる先輩なのだと、青空は改めて思う――やっぱり内緒だけど。

「今日はごちになりましたー!!」

「ごちそうさまでした、ですの」

「ああ――それじゃまたね、みんな。達者でやってくれ」

 踵を返す古代の背中にあと3つのごちそうさまがかけられ、そして楽しそうな声が遠のいていく。立ち止まりふり返ってみると、若い者達が楽しそうに迷いなく歩く様が見える。

 ――彼らはもう心配ない。

 自分の役目が1つ終わったのかもなと思いつつ、帰路へ着く古代であった――








「うん、見事に降ってきたな」

 家に到着する直前にパラパラと降ってきて、家に入ると同時に屋根を叩く雨音が激しいものへと変化する。ずぶ濡れが回避できたのは日ごろの行いがいいからかと笑っていると、スマホが鳴った。

 娘だ。

「はいもし――ああ、うん。家にいるよ――そうか、もうじき帰ってくるんだね」

 おかえりも間に合った、よし。今日の自分は乗っている――そう思い始めた時だった。

「うん? ああ、洗濯ものね。それは、うん……大丈夫」

 大丈夫と答える古代の目に見えるのは、ベランダで激しく雨に打たれている娘の服。

 スマホを切った直後、チャイムが鳴る。

 古代はかつてない戦慄に見舞われた。

「……すまない、みんな。せっかく生き残ったのに、俺は今日ここで、死ぬかもしれない――」





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【jb1679 / 矢野 古代     / 男 / 40 / ぼくはいかしてもらった 】
【ja0732 / 青空・アルベール / 男 / 21 / 静かなる悪ノリ 】
【ja2261 / 亀山 淳紅     / 男 / 22 / おっさんを受け継ぎし者 】
【ja6901 / 小野 友真     / 男 / 22 / 知能は甘味で蕩けてしまった 】
【ja7016 / マキナ        / 男 / 21 / 多分一番の良心 】
【jb6883 / 華桜りりか     / 女 / 20 / 油断大敵ちょうまおー 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
毎度になってしまっていますが、お待たせいてしまい申し訳ありません。遅くとも日曜がずるずるとさらに伸びてしまった事も大変申し訳ないです。
書いているうちに書きたい事もどんどん増え、最終字数は大規模以上になってしまった大ボリュームです。きっと飲み会ノベルは本当にこれが最後なのでしょう。寂しくもありますがその分、深く、大きな思い出になれれば良いなと思います。
Eが終わってしまいますが、Gに行きますしライターも続けますので、もしもまたどこかでご縁がありましたらよろしくお願いします。
イベントノベル(パーティ) -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年08月23日

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