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『『ひと夏の妄想』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 ある夏の日。
 ディラ・ビラジスは、アレスディア・ヴォルフリートが連日のようにニュースで流れる、水難事故報道に眉を顰める姿を見た。
(これは……いける!)
 ディラは手にしていた『おすすめ海水浴場♪』のパンフレットをめくり、真剣な面持ちでアレスディアに言う。
「水難事故を未然に防ぐためには、ライフガードというものが必要なようだ。
 下見も兼ねて、明日、この海岸に行ってみないか!」
 それは都心からそう遠くない場所にある、若者達で賑わうビーチだった。
「下見か。そうだな、現地でライフガードを募集しているようなら、働かせてもらおう」
 アレスディアはディラが人命を護るライフガードの仕事に興味を持ったことを、純粋に嬉しく笑みをこぼした。
 尤もディラが興味を持ったのは、仕事じゃなくて『水着姿!』。
 海岸に集う綺麗なおねーさんたちのものではなく、アレスディア・ヴォルフリートの『水着姿!』。
「とりあえず明日は下見だからな。客に混ざって危険性を見極めるぞ。下見だぞ!?」
「? ああ」
 そんな彼の思惑に気付くはずもなく、アレスディアはディラと約束を交わしたのだった。

 翌朝――。
 下にはいてきた海水パンツ姿になり、ディラは海岸にパラソルを立てて、アレスティアを待っていた。
 海岸には既に沢山の若者達の姿があり、それぞれ家族や恋人、友人達と海水浴を楽しんでいる。
 ディラには周りの人々も、綺麗なおねーさんの姿さえも、全く視界に入らない。
 アレスディアがどんな水着姿で訪れるのか、それだけを楽しみにドキドキワクワク待っていた。
 真夏の今でさえ、護ることばかり考えている彼女は、しっかり着込んでがっちり守りを固めている。
 だからディラは薄着の彼女をまだ見たことがない。
 しっかり着込んでいても、どんな立ち振る舞い、言葉づかいであっても、彼女の女性らしい魅力的な体は外に現れ出てしまっている。
 普段は気にしないようにしているが……やはり、見たい。
 男としては、気になる女性の素肌がみたいに決まっている。
 シックなビキニ姿で、『似合うか?』などと言いつつ、少し照れた顔をする彼女。『ああ、とっても似合っている』とか言いながら、肩に手を回す自分。
 そして海へと誘って、水の冷たさに2人して驚いて、かけあって……なんて妄想している彼の肩を叩く手が!
「待たせたな」
「…………」
 一瞬にして、ディラの顔から緩みが消える。
(ああ、わかっていたよ。わかっていたさ……)
 そして彼は、どこか遠くを見るよな目をした。
「どうした? 皆が楽しい思いを胸に帰路につけるように、警備をするぞ!」
 そうやる気満々、意気揚々な彼女。
 アレスディアの格好は、半袖ハイネックのセパレート水着……露出度はかなり低かった。
 下見。そう、彼女にとってはそれも警備である。
 正式なライフガードとして雇われていなくても、賃金発生しなくても警備をするに決まっているのだ。
「だから、今日は客に交じって、同じように過ごしながらだな……」
「無論、海の中に危険な場所がないか、調べるつもりだ。さあ、行くぞ!」
 気合十分、颯爽と海へと向かっていくアレスディア。
 落胆しながらも、まあ……そうだよな……と、彼女に従うディラ。
 いつもの2人の姿だった。

 その翌日から3日間。ライフガードの仕事を務めた2人。
 遊泳禁止区域に向かいそうな者、危険行為をしている者を発見したのなら、直ぐに駆けつけて注意し。
 気分が悪くなった者がいれば、大の大人であれ担いで救護所に連れて行き、泣いている子供があれば保護者を探し、ゴミを捨てるものがいれば、注意してゴミ捨て場を教える。
 海の状態に気を配りつつ、浴場を走り回り、自身は少しも遊ぶことなく、アレスティアはライフガードと警備の任務を果たし、ディラは彼女に付き合った。
「さて、帰るぞ」
 最終日。仕事を終えて着替えた後、挨拶をすませてとっとと帰ろうとするアレスディアの肩を、ディラがガシッと掴んだ。
「待て。ボーナスがあるそうだから、貰って行こうぜ」
 ディラが指差したのは、雇い主の壮年の夫婦だった。
「今晩、海岸で花火大会を行うんですよ。見ていってください」
 そう言って、夫婦はアレスティアとディラに冷たいドリンクを差し出した。
 今晩は他に予定は入っておらず、目上の人からの気遣いを固辞するのも失礼かとも思い、アレスディアは「それでは、少しだけ」と答えた。
「先に行ってる」
 ドリンクを受け取り、ディラは夕焼けに染まる丘を指差した。少し会場から離れていて、人の姿がない場所。
「貴女に、お貸ししたいものがあるんです。彼もこの3日間、とても頑張りましたしね」
 雇い主の夫婦が微笑みながらそう言う。
 アレスティアには意味がよく分からなかったが、夫婦の気持ちを受け取ることにした。

 ディラは人混みを避けて、誰もいない丘の上に来ていた。
(なんでこんな仕事受けたんだ。いや、俺が誘ったのか……)
 大きくため息をついた。
 日焼けで体が痛くて仕方がない。ディラの妄想の中の、ビキニ姿のアレスディアもしっかり半袖ハイネックのセパレート水着日焼け後姿である。もうため息しか出ない。
 彼女は殆どここには留まらず、花火の側で、人々に危険が及ばないよう、警備につくのだろうなと諦めていた。

 ドーン、ドドドドーン、パパパパーン

 最初の花火が打ち上げられた直後。
「待たせたな」
 空に咲いた光の華を纏うように、彼女はディラの前に現れた。
 ディラは驚いたような顔で、彼女を見た。
 彼女――アレスディアは、藍色の浴衣を纏っていた。
 派手ではなく、落ち着いた大きな花の絵に、水色の帯。
 長い髪は、後ろで纏められて花の飾りが留められている。
 今まで、見たこともない彼女がそこにいた。
「なんだ? ああ、最初の花火か。凄かったな」
「そうじゃなくて、どうしたその格好」
 ディラが尋ねると、アレスディアは自分の装いに目を向けて気恥ずかしげに言う。
「あ、ああ……ボーナスなんだそうだ。ディラ殿の分もある……いや、ディラ殿への贈り物でもあるとか言っていたな」
 アレスディアはディラ殿が女性ものの浴衣など必要なわけがないのにと不思議そうに続けた。
「は、ははははは……」
 ディラは何ともいえない笑みを浮かべると、おもむろにアレスディアの肩に手を回して、座らせた。
 そのまま抱き寄せ……たりできる関係ではないけれど。
 腕を降ろし、少し身体を引いて座って。
 彼女の後ろ姿と、艶やかな項と、彼女の背景の花火を眺める。
「悪くない報酬だ」
 花火が大きな音を立てて打ち上げられ、ディラの呟きを飲み込んだ。

 空にまた、大きな花が咲く。
 見上げる二人の顔は、多くの花火を楽しむ人々と同じように、穏やかだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸です。
ご依頼、妄想へのお付き合い、ありがとうございました。
もー、なんだかすみません(笑)。
そして最後にディラへの思わぬ特別報酬、本当にありがとうございます。
大変楽しませていただきました!
イベントノベル(パーティ) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年08月23日

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