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『堕ちる聖人と望まれた翼』
花邑 咲aa2346)&ブラッドリー・クォーツaa2346hero001

 11月のイギリス、紅葉シーズンは過ぎて少し寂しく感じる木々が風に揺れる中、小さな田舎に建てられた一軒家の一室で大きな産声と共に小さな命が産まれた。
「良く頑張った。ほら、お前にそっくりな女の子だ」
 と、身なりの良い男は、ベッドに横たわる女性に白い布で包んだ赤子をそっと抱えさせる。
「貴方にも似ているわ」
 女性は我が子の小さくふっくらとした頬を撫でる。
「名前はどんなのにしようか」
「マリアテーレズ……マリアテーレズ・オルドリッジ、素敵じゃない?」
 と、母となった女性は、父となった男性に優しい笑みを向けた。
 蝶よ花よと、父から母以外からも沢山の愛と幸福を注がれて育った。
 エージェントとして、各地を飛び回る母は依頼の合間にマリアテーレズと合ったり、仕事の話もしてくれた。
 そして、どんなに忙しくともマリアテーレズを気にかける父は、祝い事には必ず家に居て両手一杯の花を渡しながら祝いの言葉を嬉しそうに言ってくれた。 
 そんな両親の事を思い出しながら、10歳のマリアテーレズ・オルドリッジこと花邑 咲(aa2346)は薄暗い個室で親友を抱き締めた。
 名家の娘であるマリアテーレズを、彼らは身代金目当てで下校中の二人を連れ去ったのだ。
「マリア、私……恐くて、恐くて」
「ええ、わたしも恐いです」
 震える親友を抱き締める腕に力を入れ、マリアテーレズはゆっくりと瞳を閉じる。
 すると、銃声が響き男達の怒鳴り声が二人の耳に入る。
「銃を手から離せ!」
 勢い良く開かれた扉から、黒い影が二人の前に立ち塞がり電灯の明かりの眩しさに、二人のは思わず顔を反らした。
「さもないと……人質の友達を殺す!」
 男はマリアテーレズを蹴り飛ばし、親友の腕を掴み引き寄せると口に銃口を突っ込んだ。
 興奮状態の誘拐犯達を見て、警察はハンドサインで指示を出す。
 発煙筒が投げ込まれ、小屋は白煙で満たされ様々な声が、音が、ニオイが遠い何処かで起きているかのように感じた。
「ーーーッ!」
 声にならない悲鳴を聞こえた気がしたマリアテーレズは、立ち上がり足を進めた。
 真っ白な視界にうっすらと映った人影に駆け寄ると、そこには口の中を銃で撃たれた親友の姿がマリアテーレズの瞳に映る。
 力無く地面に倒れ、薄汚れたフローリングに赤い水溜まりが親友を中心にしてゆっくりと広がる。
 『何故?』と呟くとマリアテーレズは、呆然とただその姿を警察が突入し、誘拐犯達を押さえる音と怒声が入り交じる中で見つめる。
「大丈夫ですか? ご友人は……残念ながら」
 そう言いながら警察が肩に手を置くと、マリアテーレズは親友が死んだ事実をやっと理解した。
 見開かれた瞳に目蓋を下ろし、己の無力さと巻き込んでしまった後悔が胸を締め付ける。
「何故、彼女が殺されなければいけなかったのでしょうか」
 マリアテーレズは、冷たくなっていく親友の亡骸を抱き締めながら涙を流した。
 家に着くと、父や乳母等が涙で頬を濡らしながら出迎えた。
「良かった……良かった……」
「でも、親友は殺されてしまいました……わたしは、わたしは……っ!」
 抱き締める父を見上げると、マリアテーレズは俯きながら声を上げた。

 そして、悪い事は続く。

 同年にエージェントである母が、任務中にマリアテーレズと同じ年の子を守って死亡した事をH.O.P.E.ロンドン支部から伝えられた。
 それから5年後、マリアテーレズは母が眠る墓標の前に手向けの花束を置く。
「母が守った子供は、今も元気に暮らしています」
 と、マリアテーレズは墓標に向かって言った。
 乾いた風が冷気を運び、空を流れる雲は次第に鉛色となり雪を生み出す。
 マフラーを口元まで上げると、マリアテーレズは足早に自宅へと向かった。
 明日はクリスマス、その為にマリアテーレズは自宅で待っていたフィアンセと合流し、いつも通っている教会へと肩を寄せ合いながら向かう。
「マリア、いらっしゃい。今年もミサのケーキ作りの手伝いに来てくれてありがとうね」
 教会のシスターが優しい笑みを浮かべながら、マリアテーレズとフィアンセを出迎えた。
「いえ、この教会は第2の実家みたいなものですから」
 と、屈託のない笑みでマリアテーレズは答えた。

 彼女の幸せは

 悪魔に喰われたかのように

 影を落とす

 蝙蝠の様な羽を広げた従魔達は、口を少し開けて牙を剥き出しにすると息が白く吐き出され鉛色の空へと吸い込まれていった。
 群れの中でも一際大きな従魔は咆哮を上げると、後ろに居る従魔達は小さな町に向かって滑空する。
 屋根を破壊し、真っ黒な瞳に映る人間の体に牙を立て食らう。
 悲鳴を上げる暇も無く食われる者、逃げようと駆け出す者や隠れる者でさえ見付け出してしまう。
 逃げ場は無い、と絶望し恐怖に支配された小さな町。
「プリセンサーの予測とはズレたか……被害を最小限に! 避難させながら護衛! それと、ロンドン支部に応援や支援要請を!」
 槍を手にした女性エージェントが仲間に指示を出す。

「あら、何だか騒がしいわね」
「逃げて! 従魔が! 町を!」
 シスターが外に視線を向けた瞬間、教会のドアが勢いよく開かれ入ってきた男は声を上げた。
「シスター、子供達と避難を」
 マリアテーレズは立ち上がり、子供達の小さな手を取り裏口へと駆け出す。
「でも、この人を見捨てるわけにはいけません」
 シスターは、片腕を無くした男の元へと駆け寄りタオルで傷口を押さえた。
「わたしもお手伝いします」
 マリアテーレズが駆け出した瞬間、闇夜に紛れて従魔が3人に向かって滑空する。
「マリア!」
 それに気が付いたフィアンセが従魔の前に立つ。
 振り下ろされる刃が、街灯の明かりを浴びて鈍く光る。

 噴水の様に舞う血

 冷たい空気に触れてぽたり、とマリアテーレズに降り注ぐ

 分からない

 否

 分かりたくない

 逃げるように

 目の前の現実を

 忘れる様に

 頭が全てをマヒませる

 ただ

 彼女は狂った

 守れなければ、私が守れば良いと

 駆けつけたエージェント達により、助けられたもののマリアテーレズはフィアンセを失った。
「すまない……」
 と、エージェントが悔しそうに呻く。
 そんな時、亡骸を抱えてうずくまるマリアテーレズの前に3対の翼を持つ青年が歩み寄る。
「逃げなくていいのかい」
 と、ルトアスフィールことブラッドリー・クォーツ(aa2346hero001)は優しく声をかける。
 従魔が吠え、エージェント達と剣を交える音が響く。
 オレンジ色に燃える町に照らされるマリアテーレズを見つめたままルトアスフィールは、もう一度同じ問いを口にする。
 しかし、少女は唇をきゅっと噛みしめたまま雪はその身に積もらせる。
「捨ててしまうのかい、その命を」
 と、言葉をルトアスフィールが紡ぐと、マリアテーレズは目を見開くと顔を上げた。
「捨てない……この命だけは。だって……」
 マリアテーレズは、ルトアスフィールの問いに初めて答えると亡骸を抱き締める腕に力を入れた。
「大切な人たちが、残してくれた……守ってくれた命だもの……」
 そうマリアテーレズが言葉を紡ぐと、ルトアスフィールに手を差し出す。
 彼は差し出された手を取ると、2人は契約の言葉を口にした。
「『大切なものを失わない(喪わない)為に力を尽くす事』」
 そして、握られた手の内には契約の証である指輪型の幻想蝶が。
 ルトアスフィールの体から3対の羽は崩れ、羽根が風に乗って宙へと舞うと体に戒めの様にタトゥーが刻まれた。
 それから5年後、マリアテーレズ・オルドリッジという名を捨て日本人である母の名字に名は自分で付けた名前でH.O.P.E.のエージェントに登録をした。
 その英雄となった彼は、ルトアスフィールという名と元の世界での記憶を失いマリアテーレズの父に名を付けて貰った。
 これは、屍の道を歩いて何処か狂ってしまった女性『花邑 咲』と、そんな彼女と契約した優しき英雄『ブラッドリー・クォーツ』が契約するまでの物語り。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa2346/花邑 咲/女性/20/幽霊花の風】
【aa2346hero001/ブラッドリー・クォーツ/男性/27/殿軍の雄】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度は、パーティーノベルをノミネート発注をしていただきありがとうございました。
徐々に、ぐるぐると落ちる螺旋階段の様に、緩やかに落ちて地面に着けばこれ以上は落ちない。
そんな風に狂った感じに書かせて頂きました。
気に入っていただけたら幸いです。
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2017年08月28日

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