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『Dear my sweet. 』
シールス ブリザードaa0199)&想詞 結aa1461

 インターホンが鳴る。
 彼が来た。彼女はインターホンが鳴りきる前にパタパタと廊下を足早に駆ける。
 それぐらいに浮き足立っていた。なにせ三十分前から「そろそろ来るかな」とそわついていたのだから。

「シールスさん、いらっしゃいです!」

 想詞 結(aa1461)は華やぐ笑顔でドアを開けた。
 来客の名はシールス ブリザード(aa0199)――結の最愛の人。「お邪魔します」と、彼は優しく微笑んだ。

 ケーキを作ろう。

 ある日、そんな話になった。
 だから予定をあわせて日曜日、今日はお菓子をたくさん作る日。

「いろいろ、準備はしておいたですから」
 整理されたキッチン。並んだ材料。置かれたレシピ。結はエプロンをふわりとなびかせシールスへと振り返った。
「結、ありがとう」
 買って来た材料を取り出し終えたシールスはエプロンを着けつつ結を見やる。彼女は可愛らしい猫のエプロンを身に着けていた。
「……?」
 結はその眼差しに気付いて――ハッと顔を赤くする。
「も、もっとかわいい系とかのが良かったですか?」
 いつもの猫さんエプロンですけど、とごにょごにょ言う彼女。その微笑ましさに、シールスはくすくすと笑みながら。
「結のエプロン姿も綺麗でいいなぁ……」
「そうですか? ……えへへ」
 大好きな人から褒められては、結もはにかみ笑いつつもその場でくるっと回ってみせる。それをシールスは目を細めて眺める。男心として、大好きな女性のエプロン姿と言うのはなかなかグッとくるものなのだ……なんて思いつつも、さあ、ケーキ作りを始めよう。







 まずは全ての基本、生地作り。
 ハンドミキサーで玉子をしっかり混ぜてゆく。
「玉子って、思いっきり混ぜるとこんな感じになるんだね」
「レシピには書いてあるですけど、実際に見るとなんだか楽しいですね!」
 もったり、いい具合に混ざる玉子。シールスがハンドミキサーのスイッチを切れば、隣り合う結が薄力粉をふるいにかけてボールの中に降り注がせた。慣れた手つきである、結は料理は得意なのだ。
「ふふ、雪みたいです」
 さらさらと生地に細かく降る真っ白な薄力粉は、結の言葉のようにまるで雪。「ほんとだ」と覗き込むシールスもそれに同意するが、
「でもヘラで混ぜないとー」
「あ〜〜〜」
 無情にも混ぜられ消える雪景色。なんて、きゃっきゃと笑い合いながらも生地作りは続くのだ。
 さて、混ざり合った生地は、型へと流し込んでゆく。
「なんだかこの時点でもうおいしそう……」
 注いだ生地はなんとも綺麗な薄黄色。トントン、と型を軽く台に落として空気を抜きつつ、シールスは型に収まった生地を見ている。
「ゴムベラについた生地、ちょっとだけペロッとしてみるです?」
 そんな彼に、結が先ほど生地を混ぜるのに使ったゴムベラを差し出す。
「うん、味見味見」
「じゃあ私も」
 二人して指先にちょっとだけ、ゴムベラに残っていた生地をつけて、ペロリ。
「「おいしい!」」
 揃う声。ころころと笑う声。
「生地の時点で十二分においしいから、焼けたらもーっとおいしくなりそうですっ」
「楽しみだね。今のところはわりと完璧じゃないか?」
 なんて、ちょっぴり自慢気な顔をしてみせるシールス。そのままフンフンと鼻歌交じりに予熱しておいたオーブンへケーキ生地を入れて――
「あつっ!?」
 ほんのわずか、ほんのちょっと指先がオーブンに掠めて。慌てて手を引っ込める。
「シ、シールスさん!? 大丈夫ですっ!?」
 ギョッとして駆け寄る結。「ちょっと指先を火傷しちゃった」とシールスの言葉、差し出される指。
「もう……慌てたりしちゃダメなんですからね」
 軽い火傷でよかった。安堵しつつ、「流水でしばらく冷やしておくですよ」とたしなめるように結は言葉を続けた。
「うう、せっかく上手くいってたのに」
 気をつけます、と謝りつつ。シールスは反省するのであった。そしてその後、彼の指先には可愛いうさぎの絆創膏が貼られたのであった。







 ふんわり、焼きあがった生地。
 冷ましている間に生クリームも作って、トッピング用のイチゴもカットして。
 クリームを生地に塗れば、みるみるうちにケーキらしいケーキになっていく。

 それと同時進行でチョコケーキも作成だ。さっき作った生地の分けておいたものにココアパウダーを混ぜて、チョコレートクリームを添えて、銀色のアラザンをまぶして……。

 タルトについては、市販の小さなタルト台を用意して、そこにシンプルなレシピの生地を流し込んだ。焼きあがった表面にカットしたイチゴを飾ったり、チョコレートペンでデコレーションしてみたり。

「ふう」

 夢中になって作っていた。ほどよく体に感じた疲労感に二人が一息つけば、時計の針は想像以上に進んでいた――。
「いっぱい作ったですね」
「我ながら圧巻……」
 二人の目の前にはイチゴのショートケーキ、チョコレートケーキ、イチゴのタルト。どれもこれも、真心こめて作った逸品達だ。

 さあ、となれば、あとはお楽しみの時間。

「お茶が入ったよ」
 ふわり、こうばしい香り。ティーポットを手に、キッチンからシールスが戻ってくる。
「シールスさん、ありがとうございますです」
 結は着席して待っていた。「どういたしまして」と微笑む彼はテキパキと、ティーカップに黄金色の紅茶を注いでゆく。温かな湯気が香りを乗せて、優しく部屋に広がった。
 テーブルの上には、切り分けられたケーキが可愛らしくお皿にもりつけられていた。銀のフォークがキラキラと添えられている。結が、シールスが紅茶を淹れている間に準備していたのだ。
 見るもお洒落なティータイム。シールスは結の隣の椅子に座り、彼女と寄り添う。近い距離に、結はチラと彼を見やっては心臓をドキドキさせてしまうのだ。
「それじゃあ、」
 そんな彼女へ目配せするシールス。結もコクッと頷いて、手を合わせ。

「「いただきます」」

 ――甘いケーキ。甘い甘いクリーム。甘酸っぱいイチゴ。
 フォークを刺せばふんわりと、軽やかな生地。

「はい、あーん」
 はにかみながら、結はケーキを彼へと差し出した。
「あーん」
 それに応えるシールス。ケーキを頬張り、「おいしい!」と無邪気に笑む様はあどけない愛らしさがある。
 結はそんな彼の表情を見ているだけで、心が満ち溢れるような幸せを感じるのだ。目を細め、シールスを見……ふと、そのほっぺに生クリームがついていることに気が付く。
「あ。シールスさん、ちょっとじっとしてるです――」
 伸ばす指先。頬に触れて、そっと拭う。
「ほっぺにクリームついてたですよ」
 拭った指先を、結は舐め取ってイタズラっぽく笑んでみせる。目があったシールスは照れくさくって照れくさくって、イチゴよりも顔を真っ赤に言葉を失っていた。
「……や、」
 それを見ていた結も、みるみる顔が赤くなっていき。
「やっぱり恥ずかしいです!」
 うわー、と両手で覆った顔を背ける結。自覚できるぐらい顔が熱い。なんとなくノリと雰囲気でやってしまったけれど、猛烈に恥ずかしい。「無理かもです」なんて背を丸くしてプルプルしている。
「結、結」
 そんな彼女の肩を、シールスが指先でちょんちょんと叩く。「ふぇ?」と結が顔を上げれば、彼がおもむろにその腕で彼女を優しく抱き寄せるではないか。
 乱暴ではない、しかし力強くて――そんな男らしさに、結の心がドキッと跳ねる。
「結も。はい、あーん」
 差し出されるケーキ。カットされたイチゴが乗っている。お返し、と言わんばかりだ。結は一瞬目を丸くして、それからはにかみ笑いを浮かべつつ、しかし心から嬉しそうに、差し出されたイチゴのケーキを頬張るのであった。
「おいしいです」
「おいしいね」
 不思議なものだ。ネットで拾ったレシピで、材料も市販のものだったりするのに、これまで食べたどんなケーキよりもおいしく感じるのだから。

 スポンジと生クリームの甘さに、イチゴの甘酸っぱさが絶妙なショートケーキ。
 チョコレートのコクがなんとも病みつきになってしまう、しっとりとしたチョコレートケーキ。
 香ばしさと食感が魅力的な、デコレーションまで可愛らしいイチゴのタルト。
 それに、シールスが淹れてくれた芳しい紅茶。濃い目に淹れた大人の味のストレートが、ケーキの甘さにちょうどいい。

「ぷは」
 空のティーカップを置いた。息を吐いたシールスの前にあるお皿は空っぽ。結のお皿も同じく空っぽだ。
「おいしかったです〜……おなかいっぱいです」
 ふう、と結も満足気だ。
 あまったケーキは持って帰って、また後で味わおう。タルトは小さなものをたくさん作ったので、英雄や友達にプレゼントするのもいいかもしれない。なんて思いつつ、二人はどちらからともなく眼差しを合わせた。満腹感と幸福感に、笑みがこぼれる。
「楽しかったですね、シールスさん」
「うん。またケーキ作りしようね。あ、今度はケーキ以外でもいいかも」
「クッキーとかも楽しそうですね。それとか、スコーンとサンドイッチとケーキでアフタヌーンティーをしてみるのも楽しそうですっ」
「ああ、あのテレビで見るような、大きいタワーみたいなお皿でやるやつ? いいねぇ」
 他愛もない話。けれど二人は楽しそうに、いつかの予定の話題は尽きず。
 お腹も心も満たされて、寄り添いあう二人はずっと笑顔で。


 これはきっと、ささやかな幸せ。
 それでも二人で過ごすひと時は――どんな時より甘くて幸せ。



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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シールス ブリザード(aa0199)/男/15歳/命中適性
想詞 結(aa1461)/女/15歳/攻撃適性
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2017年08月28日

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