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『真夏の太陽よりも熱い恋人達 』
鬼塚 雷蔵ka3963)&浪風 白露ka1025

「はあー……。更衣室が狭かった」
 水着に着替え終えた鬼塚 雷蔵は、男性用の更衣室から出てくるなりため息を吐く。
 海の家の隣にある更衣室は個室なのだが、190cmも身長があり筋肉質な体型をしている雷蔵にとっては狭かった。着替えている間に何度も壁や天井に体の至る所をぶつけてしまったので、着替えただけで何だか疲れてしまったのだ。
「白露は……まだみたいだな。まあ女性の着替えは時間がかかるというし」
 最近恋人になった浪風 白露が女性用更衣室に入って行くのを見届けた後に、雷蔵は男性用更衣室に入ったのだが、出てくるのは雷蔵が先だった。
 だがすぐに、水着に着替えた白露が外へ出てくる。
「雷蔵、ゴメン。待った? 個室がなかなか空かなくて……」
「いや、そんなに……ぐほっ!?」
 声をかけられた雷蔵は、白露の姿を見て仰け反った。
 白露は銀色の長髪に映える黒のスポーツビキニを着ており、いつもとは違う見慣れぬ姿に雷蔵は鼓動が高まるのを感じる。――だが、しかし。
「ごほっごほっ!」
 激しい動悸のせいで、思わずむせてしまう。
「だっ大丈夫? 喉、乾いた?」
 慌てて白露が近付いてくるも、雷蔵は息を切らしながら手で止める。
「いや、大丈夫っ……だ。それよりその水着……」
「女性の店員さんに勧められて、買ったんだよ。私はこの世界の水着の流行とか知らないんだけど、店員さんが言うには今年はコレが流行りなんだって」
「そっそうか……」
「雷蔵の水着、よく似合っているね。鍛えている身体に黒の水着はバッチリだよ」
「あっありがとう。その……白露もその水着、とても似合っている。えぇっと、……泳ぎやすそうだな」
 雷蔵はどう褒めたら良いのか分からず、ついおかしな褒め方をしてしまったが、白露は嬉しそうに水着を見下ろす。
「うん、私もそう思う。ちょっと派手かなとも思ったんだけど、動きやすいのが良いと思って」
 雷蔵は平静を取り戻す為に、咳を一つした。
「ごっほん! ……あー、とりあえず少し砂浜を歩くか」
「そうだね」
 二人は少し照れながらも、自然な流れで手を握って歩き出した。
 波打ち際を歩いていると、ふと白露は少し遠い目をする。
「……この世界の海も、あちらの世界の海とそう変わらないね。みんな水着姿で、楽しそうに泳いでいるよ」
「俺もこっちの世界に海の家があるとは思わなかった。でも考えてみれば俺達みたいな転移者は昔から大勢いただろうし、あちらの世界とそう変わりないというのはある意味、ありがたいな」
 リアルブルーからの転移者である二人は、こちらの世界に馴染むまでが大変だった。なので似た部分があると、ほっとするのだ。
「今日はあんまり人がいないね。八月ももう終わりだからかな?」
 白露の言う通り、暑い日だというのに人気はまばらだった。
「夏休みを終えるヤツらが多いからだろう。俺達は逆に忙しい日々が過ぎて休みがとれたから、ちょうど良い時に来たな」
「うん」
 二人は眼が合うと、にっこり微笑む。
 普段、開拓者として多忙な日々を過ごしている二人は、すれ違うことが多い。それでも夏の思い出を作ろうと、何とか二人で休みを合わせて取ることができた。
「でも依頼以外で海に来るなんてあんまりないから、結構新鮮な気分だよ。……やっぱり、雷蔵と二人っきりで来たからかな? 水着の色もお揃いで黒だし、恋人に……見えるよね?」
 握っている白露の手が不意に熱くなった気がして、思わず雷蔵はパッと離してしまう。
「あっ、悪い。やっぱり喉乾いたから、ちょっと飲み物買ってくる。ここら辺にいてくれ」
 言い終えるなり、雷蔵は素早くその場から走り去った。
 残された白露は複雑な表情で、離された手をじっと見る。
「……思っていた以上に、ウブだったわ」

 そして雷蔵は白露から見えない場所に隠れると、ぜぇぜぇと肩で息をした。
「おっ思っていた以上に、恋愛に対して熱いヤツだった……。はあ……、少し落ち着いてから戻るか」

 一人で波打ち際をウロウロしていた白露はふと、女の子達の悲鳴と怒声を聞いてそちらを見る。
「ちょっとどいてよ!」
「アタシ達、アンタらに用なんかないんだからね!」
 白露と同じ歳ぐらいの女の子二人組が、三人組の男に囲まれて、身動きができなくなって困っていた。
「まあまあ、そんなつれないこと言わないでさぁ」
「オレ達と一緒に遊ぼうよ〜」
「何でも奢っちゃうよん♪」
 女の子達が嫌そうな態度を見せても、男達はヘラヘラと笑っている。
(この季節によく出る悪質なナンパか……。何度か依頼で追っ払ってきたけれど、どの海にもああいうのはいるものね)
 開放的な季節と場所のせいで、羽目を外す者はどうしても多くなり、開拓者ギルドにはそういう者達を懲らしめる依頼が何度かきたことがあるのだ。
 そういう依頼の場合、女性開拓者はあえて派手で目立つ水着を着てナンパを誘い寄せる役をして、男性開拓者が後から来て懲らしめる――という手段をとっていた。
(今回もそういう風になりそうだよ)
 困っている人を、見捨てるわけにはいかない。
 白露は軽く息を吐くと、真っ直ぐに彼女達の所へ歩き出した。
「彼女達、嫌がっているんだろう? いい加減にしなよ。みっともない」
 突然声をかけられて、男達はムッとしながら振り返る。しかし白露を見た途端に、ダラーンッと鼻の下が伸びる。
(呆れるほど分かりやすい……)
「あっ、キミも一緒に遊ぶ?」
「一人なの?」
「どっから来たのかな? 家、ここら辺?」
 男達が白露の方を向くと、女の子達は急いでその場から離れた。 
(とりあえず、女の子達を逃すことには成功。後はどうやって、コイツらを撒くかだな。雷蔵が戻る前に、何とかしないと……)

 ――だがすぐに、雷蔵の耳にこの事は入る。
 逃げた二人組の女の子は、人の多い海の家まで走って来た。
「はあはあっ……! 逃げてきちゃったけど……、今度はあのコが捕まっちゃったわ!」
「海の監視員の人達に言って、助けてもらおうよ!」
 二人の会話は、たまたま海の家で飲み物を買おうとしていた雷蔵の耳に入る。
「俺は開拓者をしている者だが、どうかしたのか?」
 雷蔵に声をかけられた女の子達は、気まずそうに話し出す。
「浜辺にしつこいナンパ野郎達がいて、さっきまであたし達が捕まっていたんだけど……」
「突然、知らない女の子が声をかけてきて、あいつ等の気がそれたところで逃げてきたの。でもアタシ達の代わりに、その女の子が捕まっちゃって……」
 そう言って二人は、浜辺の方を指差す。
 雷蔵は眼を細めてその場を見た瞬間、突然走り出した。

「――しつこいなぁ。私にはツレがいるって言ったでしょう?」
 白露はいくら言っても離れない男達に、うんざりしはじめる。
 ここで開拓者としての技を披露してもいいのだが、そうなるともう休日どころではなくなってしまう。絶対に後日、開拓者ギルドで始末書を書かされることになるからだ。
(はあ……。もうバレない程度に、スキルを使おうかな? ――いや、ダメだ。そうなると覚醒状態になって、素足に模様が浮かんでしまう……)
 開拓者である証拠が身体に浮かび上がってしまう為に、なかなかスキルを使う気になれない。体術を使っても、どうしても目立ってしまう。
 考えている隙に、男の一人がいきなり白露の腕を掴んできた。
「っ! ちょっと、離し……」
「おい、いい加減にしろよ」
 そこへ突然、雷蔵が現れる。しかも鬼のような形相で暗雲を背負い、白露の腕を掴んでいる男の頭を片手でがっちりと掴んでいた。
「そいつのツレは俺だ。勝手に触ってんじゃねぇ!」
 そう言って、頭を掴んだ男を砂浜に叩き付ける。
 残り二人の男は悲鳴を上げながら逃げて行き、砂まみれになった男も逃げようとした。
「待ちやがれっ!」
「雷蔵、ダメっ! これ以上はもうっ……」
 慌てて白露が雷蔵に飛びつくと、動きがピタッと止まる。
 その隙に、男達は遠ざかって行った。
 姿が小さくなっていくのを見て、白露はほっと安堵のため息を吐く。
「はあ……。助けてくれたのは嬉しいけれど、やり過ぎると後が大変だからね。でもありがとう」
 離れて見上げた雷蔵は、タコのように真っ赤な顔になっていた。
「らっ雷蔵?」
「あっああ……。こっちこそ、止めてくれて助かった。白露があいつらに絡まれているのを見た瞬間、怒りで頭の中が真っ赤になったからな」
 頭を軽く振って、雷蔵は冷静さを取り戻す。
「はあ……。やっぱり白露を一人にすべきではなかったな。いくら人気が少ないと言っても、全くいないわけじゃないんだし……」
「まっ、ああいうヤツらはいる時にはいるからね。でも女の子達を助けられて良かったよ」
「休みの日にまで人助け、か……。職業病だな」
「お互い様じゃない?」
 二人はようやく落ち着いた笑みを浮かべる。
「ああ、でも喉乾いちゃった。雷蔵、飲み物は?」
「あっ、いっけねぇ! 注文の途中だった!」
 海の家を見ると、心配顔の女の子達や店員がこちらを見ていた。
「それじゃあ一緒に行こうよ」
 白露は雷蔵と再び手を繋ごうとしたが、雷蔵の手はするりっと逃げる。不安に思っている白露の腰に、雷蔵の手が回った。
「えっ?」
「白露が一人じゃないことを、見せつけないとな」
 雷蔵の言葉は事務的だが、腰に触れた手は熱い――。
「うん……、そうだね」
 白露も照れ笑いを浮かべながら、雷蔵に寄り掛かる。
 そして二人は真夏の太陽に負けないぐらいの熱々さで、海の家へ向かう。


<終わり>


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3963@Wt10/鬼塚 雷蔵/男性/20/猟撃士(イェーガー)】
【ka1025@wt10/浪風 白露/女性/16/疾影士(ストライダー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびはご指名していただき、ありがとうございました(ぺこり)。
 真夏の熱さにも負けないような、お二人の熱々ぶりを書かせていただきました。
 楽しんで読んでいただければ、幸いです。

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2017年08月29日

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