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『理想のハンター 』
ハヒヤ・ベリモルka6620

 ハヒヤ・ベリモル(ka6620)は、いつになく真剣だった

 確かに木の上で枝に腰掛けて足をブラブラと遊ばせている。
 その傍らには辺境部族から購入したと思われる甘草の菓子――甘党でも一口食べれば満足すると評判の『アッヴェネンテ族のチェファラルジーア』。これを袋から取り出してハヒヤの口へと運び込む。
 口の中で広がる極度の甘さ。
 普通であれば衝撃を受ける程の甘さなのだが、ハヒヤの表情は変わらない。
 遠くを見つめて心ここに在らず、と表現するのがぴったりだ。

 端から見ればぼーっとしているように見えるこの状態。
 実はこうしている間にもハヒヤの脳裏には様々な思考が駆け巡っているのだ。
(我に一番似合う戦闘姿……にゃんだろうにゃー?)
 薄茶色の髪を風に揺らしながら、ハヒヤの脳裏にあったもの。
 それはハヒヤが戦っている姿であった。
 ハンターになって日が浅いハヒヤではあったが、いずれハンターである以上は歪虚と戦い事もあるだろう。その時、ハヒヤはどのような立ち振る舞いをしているのだろうか。
 はねた寝癖もそのままにハヒヤは将来の自分を想像する。
(思いつくのは……やっぱり戦士かにゃー。それも騎士がいいにゃー)
 ハヒヤの頭にかかっていたもやの先に現れるのは、剣を片手に戦うハヒヤの姿。

 巨大な剣を振り回し、歪虚の群れへ突撃。
 斬り倒しながら敵陣を蹂躙する。
 まさに体を張った屈強な姿。

 だが、ハヒヤは思わず首を傾げる。
(うーん、にゃんか違うにゃー。剣はとっても重そうだし)
 ハヒヤは齢14歳。自他共に認める天真爛漫で元気な女子だ。
 そんなハヒヤが刀身の大きいバスターソードを振り回せるのか。
 もし、そんな事をすればバスターソードの重さと遠心力が加わって、地面へ転がる事になる。
 ――ダメだ。騎士は却下だ。
(そうにゃると……狩人にゃんてどうかにゃー)
 次に思い浮かべたのは狩人だ。

 辺境部族の中にも弓を片手に動物を狩る者はいる。彼らは森の奥へ分け入り、自然と一体化しながら獲物が現れるのを待つ。
 そして、獲物が現れれば弓を番えて一撃で仕留める。
 まさに、サイレントキラー。敵が歪虚であればハヒヤに気付く事無く葬り去られるだろう。
 重い剣は持てないハヒヤではあったが、軽い弓であればハヒヤでも持つ事は可能だ。

 これならば我にも――そう考えていたハヒヤであったが、致命的な問題に気付いてしまう。
(あれ? 我って弓が使えたかにゃ?)
 元気いっぱいで本能のままに生きるハヒヤ。
 森に墜ちていた枯れ枝を使って弓の真似事をした事はある。だが、本格的に弓の訓練を受けた事は一度も無い。兎一匹捉えた事も無ければ、本格的な弓の弦を引いた事すらない。
 今から訓練を積むにしても、敵に命中させられるのはいつになるか。
 いくら軽い弓なら持てるとしても上手く矢を当てられなければ意味がないのだ。
(これもだめだにゃー。そうするとやっぱり我にぴったりにゃのは……)
 霊闘士。
 辺境部族に多いとされるクラスである。部族が崇める祖霊を自らの体に降ろし、様々な能力を保有させる事を可能にする。祖霊や精霊の力をより強く引き出す事ができれば、戦闘能力を強化する事もできる。
(『地を駆けるもの』で移動するのは分かるにゃー。森を駆ける感じって、風ににゃったようで気持ちいいにゃー)
 ハヒヤの脳裏に、ある日の森を思い浮かべた。
 森に差し込んだ太陽の光を浴びながら、全力で森を駆け抜ける。
 追い風でハヒヤの背中が押され、猛然と突き進む。まるで体が風に溶けて森中を駆け回っているかのような錯覚。あの心地良い感覚を、ハヒヤは忘れる事ができない。
(まさに動物って感じがしていいにゃー。大自然の一部とにゃって戦うって感じにゃー)
 霊闘士は祖霊や精霊の力を借りて戦うスタイルだ。
 辺境部族に多いのも自然と近しい存在だからなのかもしれない。
 そして、ハヒヤは戦闘している姿を思い浮かべてみる。
(祖霊を降ろして闘って……で、歪虚と対峙して……あっ! 歪虚に叩かれて転んだにゃ! ……立ち上がろうとして……ああっ、怪我をしているにゃっ!)
 自分の戦闘姿を思い浮かべるハヒヤ。
 歪虚と戦った想像の自分は、一撃を受けて歪虚の前で転倒する。
 立ち上がろうとする瞬間、膝に走る激痛。
 見れば、膝を大きく擦りむいている。
 ハンターとして戦うのであれば普通に起こりえる状況だが、既にハヒヤの中ではパニック寸前だ。
(にゃ!? にゃ!? ど、ど、どうすればいいにゃ?
 えーと……そ、そうにゃ! 自己治癒にゃ!)
 霊闘士にはマテリアルを全身に巡らせる事で自身を治療するスキルが存在する。
 その存在を思い出したハヒヤは、想像した自身に自己治癒を使わせる。全身が光で包まれ、膝の傷が治癒していく。
(おおっ? これって良い感じじゃにゃいかにゃ?)
 少し想像してみただけだが、霊闘士のハヒヤは悪くないようだ。
 自身の傷を癒す為に自己治癒を使っていたが、霊闘士ならば能力も多彩だ。
 地面に武器を突き立てて周囲のマテリアル汚染を取り除く『祓いしもの』。
 他人の体に巣くう不浄を自らの体に転写して引き受ける『トランスキュア』。
 戦いは何も前衛だけじゃない。後衛として他人を支える事や、戦闘以外でマテリアル汚染を浄化する事も立派なハンターの仕事だ。
 ハヒヤは霊闘士というクラスに好感触を覚える。
(やっぱり霊闘士が良い感じだにゃー。これしかにゃいって感じ。困った時にも便利だにゃー。
 ……あ、そういえば我が困った時に、お婆ちゃんがいろいろと教えてくれたにゃー)
 ふと、ハヒヤの脳裏に浮かぶ祖母の姿。
 自分が思い悩んだ時、決まって祖母がハヒヤの身を案じてくれた。
 何をすればいい? その疑問に対して、祖母は自分の経験と知識を生かしたアドヴァイスをくれる。
 疑問の答えではない。しかし、祖母ができる精一杯の言葉はハヒヤにとって導きであった。
 あの祖母の言葉があったからこそ、今のハヒヤが存在する。
 ハンターとなって歪虚と戦う決意をしたのも、ある日の祖母がくれた言葉が発端だ。

『好きなようにすればいい。大事なのは後悔しない事。
 もし、後悔をしてしまうような事があっても前だけを見るの。顔を上げれば、きっとすべてがうまく行くから』

 だから、ハヒヤは思うままに生きてきた。
 まだ幼さが抜けない顔立ちではあるが、その分ハヒヤには未来がある。
 祖母は、ハヒヤに前向きな心を教えたかったのかもしれない。

「……あれ? 気付けば、また口ずさんでいたにゃ」
 ハヒヤは、一人呟いた。
 祖母の事を思い浮かべる度に、口ずさんでしまう思い出の歌。
 眠るときによく聞かせてくれた、祖母の大好きな歌。
 この歌を口ずさむ度に、ハヒヤには懐かしい思い出が蘇ってくる。
 その思い出がどうしても、ハヒヤの心を熱くする。
 懐かしい日々は心地良く、ずっと浸っていたくなる。
 だが、同時に悲しみも連れてくる。
 祖母と会えぬ悲しみが、ハヒヤの顔を曇らせる。
「だ、だめにゃ! 悲しい顔は、お婆ちゃんも悲しませるにゃ!」
 気合いを入れ直すハヒヤ。
 感傷的な気持ちを吹き飛ばして登っていた木から飛び降りる。
 そして、いつもの元気を取り戻して走り出す。

 新たな依頼を求めて、ハンターズソサエティへ――。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6620/ハヒヤ・ベリモル/女性/14/霊闘士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。近藤です。
この度は発注、ありがとうございました。
戦いへ赴く前の状況であれこれと悩むのも面白い状況ですね。戦場で悩むと危ないですが、まだ平和な時期にどう戦おうかと妄想するのも楽しいものです。
これから様々な戦いに身を投じる事になると思います。
ハンターとしての人生でこのノベルが良い切っ掛けになる事を願っております。

それでは、また機会がございましたら宜しくお願い致します。
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近藤豊 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2017年08月30日

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