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『私が都市伝説?! 』
アガタ・ペルサキス8893

「ふぅ」

 深く息を吐いてアガタ・ペルサキス(8893)は窓の外を見た。
 大きな仕事が片付き、副業の仕事もない。明日は久々にゆっくり出来る完全なオフだ。

「ここに着いた時はどうなる事かと思ったけれど……」

 現状、案外何とかなっている。
 いや、多分上手くいっているという方が正しい表現だとアガタは思った。
 そして、転移してきた時の事を思い返す。

 ***

 初めて見る世界、初めての土地に降り立った彼女が最初に感じたのは胸や膝、踵の違和感だった。
 触れてもいないのにチクチクと疼くように痛む胸。
 違和感と痛みの間をいったりきたりする足。
 世界を転移したのだから、疲れているんだろうと、最初は気にしていなかったのだが、どうもおかしい。
 最初にそう感じたのは胸だった。
 転移してから時間が経つ程に服が窮屈になっている気がする。
 気になって鏡を見ると、いつの間にか付いていたはずのボタンがいくつもなくなっている。
 そのせいで弾けんばかりの大きな胸やが大胆な形で露わになっているではないか。
 いやそもそも転移してきた時、胸のふくらみは控えめなくらいだった。 

「え?なんで……」

 暗めの茶色に近かった髪も欧米人さながらの金髪になっている。
 こちらにきた時すぐに見た、平均的な現代風日本女性は身長だけはそのままでハリウッド顔負けのナイスバディな女性になっていた。
 鏡でじっと見ると程よく肉の付いていたはずの腕や足、腰回りも引き締まっているように見える。
 疲れでこんな風に体が変化するなんて聞いたことがない。
 大きくなったことで落ち着いたのか胸の痛みはなくなったが、先程と違い足は確実に痛くなっているし、体、特に背中が火照ってきている。

「体調でも崩したかしら。今日はもう休んだ方がよさそうね」

 これ以上何かあるとマズい。そう判断したアガタは適当なホテルに部屋を取り体の異変が収まるのを待つことにした。

「ん……」

 いつの間にか眠ってしまったようで、日の光で眩しいほどに明るかった部屋辺りは少し薄暗くなっていた。
 うつ伏せの体を起こすと白い羽が一枚手元に落ちてきた。

「……?」

 そう言えば、さっきより手が長いような気がする。それから火照りの増した背中が少し重い。

「お水……」

 冷静な頭なら色々考えたりもするのだろうがアガタは寝起きであったし、喉がすごく渇いていた。
 
 −ゴンッ−

 ボンヤリした頭でバスルームへ向かうと、鈍い音と共に目の前に星が飛んだ。
 額を入り口にぶつけたのだと分かったのは一瞬後のことだった。
 さっき、眠る前はそんなことはなかったのに。

「いった……」

 額をさすりながら顔を上げる。
 そして正面の鏡に映った長身の天使と目があった。
 白い一対の羽に引き締まった体。
 板チョコのように割れた腹筋。
 しかし、見れば見るほどその天使はアガタ本人だった。

「……」
 言葉は出なかった。
 驚きで。とか、戸惑いで。とかではなくそれどころではなかったのだ。

 内側から燃やされているような熱さと痛みに膝をつき耐えるアガタ。
 
 −バサッ−

 熱が頂点に達した時、耳の後ろで鳥が翼を羽ばたかせるような音がした。
 何が起きたか分からず鏡で確認しようと立ち上がる。

「何……これ……」

 バスルームの入口が自分より低く見える。
 少し視線を上げれば天井はすぐ目の前で少し手を上げれば届いてしまいそう……というか届いた。
 掌をべったりつけてもおつりがくる程、天井は低くなっていた。
 いやいやいや、そんなわけがない。
 自分が大きくなったのだと、アガタはすぐに気が付いた。

***

「女神の姿に戻っただけだって気が付くのに時間かかったのよね。……そういえば、その力もいつの間にか自分でコントロールできるようになってたなぁ。その後、この部屋で住み始めて……就活始めたんだっけ」

 東京に来てから覚えたWEB技術を生かせないかと職探しをする日々。
 その傍ら、毎日発生する生活費を稼ぐために、某動画投稿サイトに動画を投稿していたアガタに雑誌モデルのスカウトの連絡が入ったのは、プログラマーの内定をもらってから少し経ってからだった。
 世の中は何がどう転ぶか分からないもので、聞けば女神姿への変身シーンの反響がきっかけだという。

「そう言えば、あの動画ってどうなってるのかしら」

 パソコンをつけ、某動画サイトにアクセスする。
 日銭稼ぎに投稿した動画は未だに再生数を稼いでいた。

 いくつかある動画のうち、何気なく開いた動画は怪力自慢の動画だった。
 動画は冒頭、金髪の巨乳美女が出てきたことに沸いていた。

 アガタが最初に、週刊少年漫画を背表紙から半分にちぎってみる。

『余裕』
『そのくらい出来るっしょ』
『外人やべーなwww』

 等のコメントに交じって

『50?s以上』

 の文字が見えた。
 次に紙トランプをちぎってみる。

『は?www』
『ちょ、おまwww』

 の文字に交じって

『90kg以上』

 の文字が見える。

 その後も、硬式のテニスボール、世界でも100人しかクラッシュできないと言われるハンドグリッパーとこなしていくうちにだんだんwの文字とツッコミのコメントが増えていき最終的に

『やべぇwww』
『何こいつこわいww』
『合成じゃねーの?』
『ゴリラでも勝てねぇ!』

 等の文字が増えていき、最終的にコメントが画面を埋め尽くし動画が見えなくなった。

 その後確認すると、彼女のあげた動画にはすべて

【怪力変身女】
【恐怖の都市伝説】

 というタグが付けられ、モデル事務所が言っていた変身動画には

『でけぇwww』
『隣歩けねえわwww』
『ここまでくると逆に面白いw』

 等の書き込みが多数あった。

 まさかと思いながらタグ名でインターネット検索すると、転載動画や派生動画、巨大掲示板等に書き込まれた個人の創作が独り歩きしてるとしか思えない噂等が凄まじい量ヒットした。
 これが本当なら都市伝説では済まない気もするが、読めば読むほど動画のタグがしっくり来ているように感じる。
 確実にへこみながらアガタはそっとパソコンの電源を落とした。

「そういえば……あの時の動画も上がってたなぁ」

 こちらの生活にも慣れてきた頃、何気なく入ったゲームセンターにキックマシンがあった。最近ではあまり見なくなった景品付きのやつだ。

 息抜きに100円入れ蹴ってみると、

「ん?何か当たったか?ははっ顔洗って出直してきな!」

 と機械が言った。

 もちろんランクによって自動で流れる音声なのだが、カチンときたアガタは変身してからもう一度やった。
 実力を出せばこんなものだと思い知らせたかっただけだった。

 結果、凄まじい音と共に測定不能の記録を叩き出してしまった。

 何事かとやってきた店員に賞品をもらったが、大騒ぎになった店内から帰るのに酷く苦労したのだ。
 その時の事を思い出すだけで顔から火が出るほど恥ずかしいのに。
 もうあのゲームセンター、いや、パンチングマシーンやキックマシンのあるにゲームセンタ―に行くのは止めよう。
 改めてアガタはそう心に誓った。
 
 ***

 その他にもいろいろなことを思い出したが、不思議と元の世界に帰りたいとは思わない自分に気が付いていた。
 この世界は人が多く雑多でせわしない。
 それが煩わしいと感じることもある。
 それでも、この世界、この東京という街に悪い印象を抱かないのは

「案外気に入ったのかも」

 そう呟いて女神は更けゆく夜の空を見上げた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8893 / アガタ・ぺルサキス / 女性 / 20歳 / 都市伝説の女神 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 はじめまして。今回はご依頼ありがとうございました。

 東京に来てすぐ起きた急成長はアガタ様の戸惑いに、動画については視聴者の反応に重点を置き執筆させて頂きました。そういったものが感じられる文章になっていれば幸いです。

 お気に召されましたら幸いですが、もしお気に召さない部分がありましたら何なりとお申し付けください。

 今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
 またお会いできることを心からお待ちしております。
東京怪談ノベル(シングル) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年08月31日

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