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『蝙蝠娘の件が片付いて、見ていたように誰かから連絡が来た後の話。 』
黒・冥月2778

 まぁ、先が見えたのは僥倖、ではあるだろう。
 そうは思えど、釈然としないのも確かだが。

 ――――――『うちの子が次の土日なら空いてるんだけど、そのどっちかでいい?』

 紆余曲折した速水凛の件――つまり関係はするが『依頼』本筋からはやや逸れる脱線――の件が漸く落ち着いたところでの、『依頼』本筋の件でずっと連絡を待っていた当の相手からの連絡。このタイミングの良さはこちらの状況を監視していたのではないかと疑いたくもなるが――まぁ、この掴みどころのない相手の事だ。あれこれ考え込んでも埒もない。

 黒冥月は、さて、と思案を巡らせる。

 ここまで話が進んだならば、『最後の準備』をしておいて然るべき。
 即ち、これまでの経緯と現状を纏めて、『依頼人』へと報告する時が来た。



「で。…どうなってるのよ」

 虚無の境界の広告塔と言える霊鬼兵、エヴァ・ペルマネントの第一声はそれだった。
 そう。私の方で『依頼』についての現状を話す、と『依頼人』を――エヴァを呼び出した結果が、今になる。

 今、彼女と会しているこの場所についてはひとまず明かすつもりはない。相手への配慮と自分の都合両面からしてそれが一番適切な態度になるだろう。
 ともあれ、まずは呼び出した目的通りにこれまでの経緯と現状を話す。

 …『依頼』の内容。当初は「死ぬ事で虚無の境界から逃れた量産型霊鬼兵にして、再会の約束を守る為後に生まれ変わるなり何なりして戻って来る予定」であったノインの現状を知る事だった。が、現実として「何だかんだと条件が揃わず未だ戻れる状況にない」事が判明し、当の依頼が「依頼人とノインを再会できるようにする事」と変わる。そして色々と探る中、「今の」ノインと直接話せる可能性が現実的に出て来た為、そこを目指している事をまず伝えた。
 その為に他者の手を――アトラスに居た陰陽師を名乗る某心霊ライターや、エヴァもよく知るその師匠に当たる「掴みどころのない男」をはじめ、ノインの素体の血縁者に当たる人物二人の手も借りる算段が付いている事も伝える。
 また、草間興信所の手も借りている事を改めて伝えた。…とは言えまだ零には話していないが、とも注釈を付けておく。

「…とまぁ、そんな状況でな」
「…」

 エヴァは少々俯き加減のままで、そこまでの私の話を意外なくらい大人しく黙って聞いている。
 …かと思うと、何やら地獄の底から響いてくるようなドスの効いた声が聞こえてきた。

「…ユー」
「何だ」
「確かにわたしからユーに依頼をした事にはなっていたわよね。…草間興信所の手も借りるかもしれない、とも聞いていたわよ? …ええ。でも。…「あの男」についての懸念は伝えた筈よね? …ノインの素体の血縁者? っ――ああもうわたしに黙って勝手にどこまで話進めてるのよっ――!!」
「まぁ、依頼を受けてから随分待たせてしまったか、とは思っているが」
「ってそういう意味じゃないわよっ!!」
「そう怒るな。お前が絡むとややこしくなると判断しただけだ」
「でしょうねぇ! どうするつもりなのよもう…っ」

 と、そこまで嘆くように叫びつつ、エヴァは頭を抱えてしまっている。
 私としては可能な限り角が立たぬよう伝えたつもりだったのだが、それでもやはりこうなるか。…これでは凛がちょっかいを掛けて来た事やその顛末についてまでは到底受け入れられまい。…伏せておいて正解だ。
 が、まぁ――ある意味、今日の本題はここから、とも言う。

「とにかくだ。ノインと話す方法は用意できたが――実はな。その為にまだ足りないものがある」

 成否を分ける重要な要素だ。

 と、そこまでを口にした時点で、思わせぶりに言葉を切る。エヴァの視線が私に刺さる。覚悟すら籠った目――それを認めてから、私は予定していた「続き」を口にした。

「当日にノインへの恋文と手料理を作って来い、愛情を一杯込めてな」
「――」

 無言と言うより絶句だったかもしれない。折角なので勿体ぶって超真面目な表情と声音で言ってやったが、一拍置いて殆ど反射的に目の前のテーブル――まぁ、テーブルを挟んで相対しているような場所に今居る訳だが――の天板をエヴァが掌で叩き割ると言う反応がまず先に来た。…が、その顔が真っ赤になっている時点で、あまり迫力はない。

「っ――何かと思えばふざけないでよ殺すわよっ!?」
「何を言う、至極真面目な話だ。お前の奴への想いが成否を分けるのだぞ………ぷっ」
「…ちょっと。何今の」
「いや今のは別件の思い出し笑いだ、気にするな」
「ってそんな訳ないでしょっやっぱりふざけてるんじゃないのっ!!」
「ふむ。…どうしてもそう思う訳か」
「当たり前でしょっ」

 どうしても憤るエヴァを余所に、私はふと思案するよう目を逸らす。そして――敢えて、小声で。けれどエヴァにも一応聞こえる程度の声で。ひとりごちるようにして。

 零なら喜んで用意するな、零の想いだけで呼び出すか――と、ぽつり。呟きながらも、内心でニヤリ。

 それを耳にしただろう時点で、エヴァはまた俄かに焦りを見せた。勿論、それもまたこちらの思惑通り。では他にも用があるから私は帰るぞ、正確な日時は後日伝える、きちんと用意しておけよ――そこまでを、エヴァの新たな反応を待たない内に残すだけ残して、言葉通りにその場を辞す。

 …これだけ押せばあのエヴァが動かないとは思わないが、さて。



 草間興信所。

 他の用と言うのはこちら。つまりは――エヴァに伝えたのと同じ話を、零にもする、と言う事になる。…恋文と手料理。まぁ、こちらの場合はエヴァ相手のように弄る気にはならないし、真摯に伝えるべきだと自然に思う。人徳の為せる業、とでも言ったところかもしれない。…こっちの場合は弄るなら義兄の方だ。

「…。…恋文と手料理、ですか」
「…ああ。少しでも確率を上げる為にお前の想いを強く込めてくれ」
「…」

 一通り話を聞いた零は、驚いたように目を瞬かせている。…まぁ、私が動いていたのがノインに関わる話だったとなれば、確かに驚くか。だが驚くだけでもなく、零の方でもすぐに勘付いた。前に言ってた頼み事って――と、改めて私に問う。
 ああ。と私も首肯した。

「そうだ。他に必要な事は全て私達で整えておくから頼むぞ」
「はい。わかりました。でも…それは、逆です」
「?」
「それは、私が頼まれるんじゃなくて、私の方でお願いしますと頼むべき事だと思います!」
「…そうか」

 まぁ、どちらでも構いはしない。
 思いつつ、宥めるように零の頭を撫でる。

「承った。…ああそれとな。エヴァにも同じ事を頼んでいる」
「…そうなんですか?」
「ああ。目的と行為を共有する事で少しでも判り合えればいいな」
「…。…はい」
「心配か?」
「いえ…あの」
「?」
「…あの子の居るところだと、お手紙書いたりお料理したりする事自体、難しそうかも、って」

 そこか。
 …まぁ言われてみれば否定もできない気はするが、虚無側の状況と考えても「あの男」も噛んでいる事だし何とかするだろうとも同時に思う――と。
 不意に玄関扉を叩く音がした。空襲警報めいた爆音のブザーを鳴らさない、と言う時点である程度この場所の事を理解している来訪者であるとは判断が付く。零もすぐに応対に動いた。はーい、と声を掛けつつ玄関へと向かい、扉を開ける。

 そこに居たのは、喪服と見紛う黒の上下を着た四十絡みの男。
 威圧的とも取られかねないそんな風体の割には、温顔な上に物腰も柔らかい。

 お初にお目にかかります、探偵さんは御在宅ですか――そんな風に零へとあっさり訪ねてのけたその男の瞳は、何処かの刑事と同じく、緑色。
 ついでに言うなら、醸している雰囲気自体が何処か、誰かと似ている、とも思える気がした。





 曰く彼の用件は、元々頼まれていた『お届け物』と、新たに暁闇で預かって来た話についてのちょっとした相談、らしい。





【蝙蝠娘の件が片付いて、見ていたように誰かから連絡が来た後の話。
 来る来ると言っていた人が漸く来ました】



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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■PC
【2778/黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)/女/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】

■NPC
【NPCA017/エヴァ・ペルマネント/女/不明/虚無の境界製・最新型霊鬼兵】
【NPCA016/草間・零/女/-歳/草間興信所の探偵見習い】

(名前のみ)
【NPC5488(旧登録NPC)/ノイン/男/?/虚無の境界構成員(元)】
【NPC5487(旧登録NPC)/速水・凛/女/14歳/虚無の境界構成員】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております。
 OMCリニュ後商品は初になりますが、今回も発注有難う御座いました。

 何だかんだで結局また期間いっぱいまで使ってしまってお待たせしております。
 最後に出て来た人物で次への引きになるかはやや微妙な気はしますが、さすがにそろそろ直接顔は出すだろうとの判断で。ちなみに興信所に来る前に暁闇に立ち寄り、その時に話を預かって来た、と言う流れです。「何の話か」はお察し頂ければと。
 なお、この時点での草間興信所所長の在不在はお任せします。

 それからNPCについてですが、「これまでの経緯で登場していても、今回発注文に名前が直接出されてなかった面子」についてはあちこちぼかした形にもなりました。
 リニュ後の東京怪談ノベルの形式ですと、その辺りが線引きになるようですので。

 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、次はおまけノベルの方で。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年08月31日

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