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『新しき輪、楽しき日 』
雪道 イザードaa1641hero001)&羽柴 愛aa0302)&艶朱aa1738hero002

 日本のどこかにある、昔懐かしい風情の店舗。薬と香を扱うその店に珍しい客人が現れたのは、夏の盛りのことだった。一人は自分で獲ったという魚を手にした男。大きな体と赤い髪を持つ彼の名は艶朱。
 もう一人は、凪いだ表情と色素の薄さが目を引く細身の男。どこか遠慮がちに、しかし親しみを持って店内を見渡す彼は羽柴 愛と名乗った。
 艶朱の持ち込んだ魚は、二人を応対した雪道 イザードによって料理されることが決まり、客人たちは出直すこととなった。その後のイザードのご機嫌ぶりは彼の同居人たちが目撃していた。常より柔和な印象を人に与える彼だが、地面から数センチ浮いたような足取りでぱたぱたと動き回っていたらしい。
「本日はお越し下さりまして、誠にありがとうございます!」
 当日。イザードは柔らかな笑みを湛えて入り口に立ち、二人の客人を迎え入れた。語感の悪さを無視して呼ぶならば、彼はこの店の『副店主』。担当は主に、薬の調合だ。
「こちらこそお招きありがとうさん」
 軽くお辞儀しながら、愛が答える。
「おォ、美味そうな匂いだな。これ、土産な」
 艶朱は風呂敷を解いて、日本酒の瓶を手渡す。
「これはこれは。お気遣い頂きましてありがとうございます」
 イザードは受け取りながらも、愛の表情が少し曇ったのを視界の端に捉えた。
「どうかなさいましたか?」
「いや……実は俺も土産を持ってきたんだが……」
 おずおずと差し出されたのは、細長い紙袋。愛が持参したのもまた日本酒だった。魚料理に合うものということで選んだのだが、艶朱との兼ね合いまでは考えていなかったのだ。
「なァんだ、ンなことか」
 愛は不思議そうに目を瞬かせた。
「酒は多い方が良いぜ! 飲み比べも楽しいしな。なァ、イザード!」
「はい、そうですね」
 艶朱はイザードの肩をばしばしと叩く。補足するまでもないが、会うのはこれが二回目だ。そこに違和感を抱かせないのが艶朱という男なのだろう。
「さ、お二人ともお上がりください。奥の和室に用意が整っておりますので」
「ご相伴させてもらうよ」
 愛は小さく笑うと手土産をイザードへと手渡した。
「邪魔するぜェ!」
 艶朱は大きな声で言うと、さっさと履物を脱いでどかどか歩き出す。愛はひそかにほっと息を吐き、艶朱の後に続いた。
 店の奥は3名が暮らす住居スペースとなっていた。
「男所帯だっつゥのに綺麗にしてンなァ」
 最低限の必需品しか置かない主義らしく、がらんとしている。質実な暮らしぶりが随所にうかがえて好ましい。
 イザードが案内したのはそれなりの広さのある和室だ。3人でくつろぐには十分な広さだろう。隣にはこれまた時代を感じさせる雰囲気の台所がある。
 ちゃぶ台には客人たちの分の食器が置かれていた。二人が座ったのを確認して、イザードが皿を運んでくる。香りがぐっと強くなった。
「こちらが、頂いた魚で作ったものです」
 荒めの塩がふりかけられた塩焼き。飴色の薄布でもかけたような、美しい照りの煮付け。優しいみその香りを乗せ、盛んに湯気を立てているのはつみれ汁だ。
「少々お待ちくださいね」
 もう一度隣室へ消えたイザードは、酒のつまみを手に戻って来た。甘辛く味付けたつくね焼きと、青じそを巻いた鶏の竜田揚げ。漬物は夏が旬のなすときゅうりである。
「すっげェな! 全部イザードが作ったのか!」
 並んだ料理に、艶朱が目を輝かせる。愛もこくりと頷く。
「ええ、お口に合えば良いのですが。物足りないなど御座いましたらお気軽に申し付けください」
 そう答えると、イザードは再び立ち上がる。艶朱と愛は料理を指差して、何やら話している。魚を獲った時のエピソードが、グラスを盆に並べるイザードの耳にも聞こえてきた、その時。
「イザードお前もこっち来い! 食え食え!」
「……はい! ただいま参ります!」
 当たり前のように艶朱は言ったが、イザードにとっては特別に嬉しい誘いだった。彼は盆の上に自分の分の食器を追加すると、部屋へと戻る。勧められるままに酌を受け、艶朱の「乾杯」の声でグラスをかかげた。
「いただきます」
 愛は静かな声で言うと、煮付けに箸をつける。ほくほくの塩焼きをぱくりとやった艶朱は、目をかっと開き、しばし沈黙したまま咀嚼する。
「イザードお前……天才か!」
 かと思えば迫真の表情で言い放つ。愛はふ、と息を短く吐いた。口元がわずかにほころんでいる。
「ああ、とても美味い。語彙力がなくて申し訳ないが」
 愛もゆっくりと味わった後、イザードへと視線を向ける。一見すると無表情だが、それが彼の笑みの形なのだ。イザードは短い観察の中で気づいていた。艶朱は子供のような表情で「美味ェ美味ェ」と箸を進めている。
「それから艶朱、気を悪くしないでほしい。笑うつもりはなかったんだが、あまりに素直な反応だったものから」
「はっはァ! 美味そうに食うってよく言われるわ!」
「そうだな。見ていて気持ちがいいよ」
 艶朱に促されて、愛が味噌汁をすする。「美味いな」「だろ?」と頷き合う姿はイザードの心を温かくさせた。
「お二人とも、ご飯は召し上がりますか?」
「ありがとう。頂くよ」
「俺も頼む」
 普段食べているのは五穀玄米ブレンドの米なのだが、好みが分かれるものなので今日は白米を炊いた。
「手慣れているな。普段も雪道が料理を?」
 つやつやとした白米を受け取りながら、愛が尋ねる。しっかりと味付けられた料理は、酒だけでなく米にもよく合うことだろう。
「ええ。ですがうちは、能力者ももう一人の英雄もあまり食事を取らないほうで……。誰かに振る舞うと言うのは少々浮かれてしまいますね」
 イザードは華やいだ笑みを浮かべた。
「そうかァ! 俺ァ食うのと呑むのが得意だから丁度良いな」
 艶朱はかっかと豪快に笑う。
「こんな料理が食べられるのに、食に興味が薄いとはもったいないな」
 愛が言うと、イザードは耐えかねたように照れ笑いする。慣れぬ大絶賛はくすぐったいが心地良い。
「ありがとうございます。今日は見た目も普通に仕上がってよかったです」
「見た目も?」
「お恥ずかしながら、いつもはもう少し大雑把な料理なんですよ」
 イザードはスタンダードなものだけでなく、創作料理にも凝っているという。味は良いと言われるのだが、見た目は大分豪快な仕上がりらしい。今日の大成功は気合のたまものである。
「それでも、大した腕だ。魚をさばくのなんて難しそうだしな。俺なら大雑把どころの騒ぎじゃない」
 慎重に言葉を選びながら、愛が言う。性格も手先も、不器用。愛を知る者はたいてい彼をそう評す。
「こういうものは慣れだと思いますよ。自分でもできるくらいですから」
「味が良いに越したこたァないが、とりあえず焼きゃあ食えるしな!」
 大きな口を開け、豪快に艶朱が笑う。励ましにしてはあまりに雑だが、憎めない。今度は愛だけでなく、イザードもふっと息を漏らした。
「もし挑戦するとしたら……まずはカップ麺の湯切りからか」
 神妙な顔で愛が呟く。
「ははっ! そりゃ相当のモンだなァ!」
 3人分の笑い声が重なり合う。
「考えてみると、自分にはむしろカップ麺の方が難しいかもしれません」
 雪道が言えば、愛が興味深そうに答える。
「雪道の元の世界は、この世界とはかなり様子が違いそうだな」
 艶朱は小気味よい音を立てて漬物にかぶりつく。音の方向に目をやった愛は艶朱のグラスが空だったことに気づいた。
「酒は……ああ、そっちか」
 料理の上に体を伸ばし、酒瓶を取ろうとする。
「あっ」
 イザードが短く声を上げた。「危ない」と続ける前に、愛の体はグラスをひっかけて倒してしまった。グラスを半分ほど満たしていた酒が、甘く豊かな香りと共にちゃぶ台に広がる。
「……悪い」
「大丈夫ですよ。服は濡れていませんか?」
 すかさず台拭きを掴んだイザードが助けに入ったため、愛のズボンは被害を免れたようだ。
「悪い。艶朱の土産の酒を無駄にしてしまった」
 いたたまれないといった様子で愛が言う。艶朱は愛の掴もうとした酒を手に取って笑った。
「宴じゃよくあることだ。まァ、呑め。こっちは愛の持ってきたやつだったな」
「ありがとう」
 愛は艶朱から酌を受けると、二人にも酒を注いだ。仕切り直しの乾杯だ。
「お、こりゃ美味ェ!」
 艶朱がくうと息を吐いて、目を細める。
「はい! すっきりとしたお味で料理によく合いますね」
 イザードは塩焼きの身を綺麗に剥がして口に運ぶ。
「それは良かった」
 愛は短く答える。さんざん悩んで酒屋の店主を苦笑させた甲斐があったようだ。そのことを口にすれば、また食卓から笑い声が上がった。



 愛が最後の一口を飲み干した。ちゃぶ台の上には役目を終えた皿たちが鎮座している。文句なしの完食だ。
「ごちそうさん。どれも美味かったよ」
 愛が少し赤みのさした顔で微笑む。
「お粗末様でした。こんなに綺麗に食べて頂けると、作った方としても嬉しいです」
 イザードが答えた。
「成程、今度から何か美味い魚釣ったらイザードに持っていきゃ良いのか」
 名案を思い付いたという顔の艶朱。口元に手を当ててイザードが笑う。
「ええ、いつでもいらしてください。艶朱さんも、羽柴さんも」
「おゥよ!」
「うん、楽しみにしてるよ」
 もてなしたい相手がいること。あるいは、訪ねたいと思う友がいること。――その喜びをそれぞれの胸に残し、会はお開きとなった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【雪道 イザード(aa1641hero001)/男性/26歳/シャドウルーカー】
【羽柴 愛(aa0302)/男性/26歳/防御適性】
【艶朱(aa1738hero002)/男性/30歳/ドレッドノート】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、高庭ぺん銀です。この度はご指名を頂き、ありがとうございました。
「皆様に美味しくお食事して頂かねば!」と使命感に燃えつつ、書き上げました。
口調や行動などの違和感、その他不備などございましたら、お手数ですがリテイクをお掛けください。それではまたお会いできる日を楽しみにしています。
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2017年09月04日

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