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『花咲く奇跡を待っている 』
ガルー・A・Aaa0076hero001)&オリヴィエ・オドランaa0068hero001


「邪魔するぞ〜」

 遠く蝉の声がするクーラーの効いた部屋のなかで猫たちの写真を整理していたオリヴィエの元をガルーが訪ねたのは、10時すこし手前のことだった。

「ちょっとそこまで、日帰りだ。ツーリングに付き合ってくれ」

「この暑いのに、物好きだな」

 こんな暑いなか外に出なければいけないのかと思うと、オリヴィエは眉間にしわを寄せた。

「子供は外で遊ぶもんだろ?」

 子供扱いされてムッとしたオリヴィエをガルーは脇に抱えると、まるで自分の家のように手際よく戸締りなどを確認して外へ出た。

 バイクの後ろにオリヴィエを乗せて、ヘルメットをかぶせる。

「しっかり掴まってろ」

 ガルーの言葉に、オリヴィエはガルーの背中にしがみついた。

 住宅街を抜けて大通りに出ると、ガルーは高速道路に乗った。バイクのスピードはどんどん加速するが、オリヴィエはその切るような風に心地よさを感じる。

 暑さにじわりと汗が滲み、額から頬に一筋流れ落ちる。

 高速道路を降りると、太陽の光を反射して輝く海が見えた。

「……」

 オリヴィエは思わずその景色に見入る。

 海沿いの道にあった道の駅でガルーはバイクを停めた。

「ちょっと休んでいこうぜ」

 道の駅ではその土地の名品や軽食、手作りアクセサリーや雑貨なども売っていた。

 オリヴィエが猫をモチーフにした小物を見ていると、飲食店のほうへ行っていたガルーがソフトクリームを二つ持って戻ってきた。

「アイスはひとり分でも食えるだろ」

 ひとつをずいっと目の前に差し出され、オリヴィエはそれを受け取る。

「……」

 ソフトクリームを受け取りながら、オリヴィエはガルーの小指に光る指輪をちらりと見やる。

 ガルーが自分のを舐めて、「うん、うまい!」と口元をゆるめたのを確認してから、冷気を放つ純白のクリームに口をつける。

「……あまい」

「目的地はもうちょっと先だから、しっかり休憩しとけよ」

 ガルーは最後の一口になったコーンの部分を口に放り込み、焼きイカを売っているお店に向かった。

 焼きイカを売っていた男性と何やら熱心に喋っているガルーを見つめていたオリヴィエの指に冷たい雫が落ちて、慌てて手元を見るとソフトクリームが溶けてきていた。

 オリヴィエは慌ててそれを舐めとる。

「リーヴィ! このイカ、うまいぞ!」

 イカにかじりつきながらオリヴィエの元に戻ってきたガルーはオリヴィエの手に気づき、慌ててソフトクリームの上の部分を大きな一口で食べた。

「ほら、残り、さっさと食えよ」

 ソフトクリームはあっという間に半分になり、それ以上こぼれないようにオリヴィエは残りを急いで食べた。

 二人は再びバイクに乗り、走り出す。海の景色が続き、それだけのことなのに、オリヴィエの心はワクワクと弾んでいた。

 港に着き、ガルーがバイクを停めた。

「着いたぞ」

「……釣りでもするのか?」

「いや……その辺にいるはずなんだけどな……」

 ガルーがきょろきょろと辺りを見渡すのを真似て、オリヴィエも周囲を見渡して気づいた。

 車の陰や岩陰、釣り人のバケツの脇や仕事をしている漁師の足元……いたるところに猫がいた。

「っーーー!」

 猫を見つけた途端にキラキラと輝き出すオリヴィエの瞳に、ガルーは思わず笑いそうになり、口元を軽く押さえた。

「……お前さんが喜ぶと思ってな」

 ガルーの言葉にオリヴィエは素直に笑顔を見せて、猫たちの元へ駆けて行った。

 滅多に見ることのないオリヴィエの笑顔に、ガルーのほうがすこし頬を赤くする。

 オリヴィエは人慣れしている猫を慎重に見極めて近寄り、挨拶の代わりにそっと手を差し出して猫に自分の匂いを嗅がせた。

 猫は匂いを嗅いでからオリヴィエを認識したことを伝えるようににゃぁと鳴く。そして、オリヴィエの手にその頬を甘えるようにすりつけた。

「……」

 簡単に消えてしまいそうな命の前にも、オリヴィエは膝をつき、小さな命を尊重し、歩み寄る。その命の熱を感じることが怖いと感じる自分とは違い、その命を尊いと知っているオリヴィエをガルーは尊敬していた。

「そうか、暑いもんな」

 オリヴィエが猫との会話を楽しんでいる間に、他の猫たちもオリヴィエに寄ってくる。

「ここら辺の魚は、美味しいか?」

 挨拶に来る猫にオリヴィエは丁寧に接し、少し離れたところで見つめるガルーに視線を向けた。

「あそこにいるやつにも挨拶してきてくれるか?」

 オリヴィエの言葉にガルーが首を横に振る。

「いや、俺はいい……」

 ガルーが首を横に振ったのと同時に、数匹の猫もついっとオリヴィエから視線をそらして空や岩のほうなどあらぬところへ視線を向ける。

「ガルーが嫌がるから、猫たちも嫌だって」

「……なんだろうな、好かれても困るのに、ふられたような……この感覚は」

 ガルーの言葉にオリヴィエは笑う。

「結局はガルーも猫のことが好きなんじゃないか」

 オリヴィエは足元で寝始めた十キロ越えの巨体の猫のお腹を撫でる。

「お前なら、小心者のガルーも受け入れてくれるだろ?」

 オリヴィエの言葉を解したのか、猫はじとりとガルーを見、ゆったりと歩いていく。そして、ガルーの足元で止まると、ガルーの足にたしっと自分の足を乗せた。

「……なんだ? このたしなめられているような、慰められているような感じ……」

「『成長すれよ。若人』……って感じだな」

「マジか。こいつ何歳だよ?」

 オリヴィエは大きな猫と見つめ合う。

「……五十過ぎだって」

「見たまんま、おっさんだったか!」

 ガルーはしゃがむと、おっさん猫の頭におそるおそる手を伸ばす。すると、猫はその手をペシッと叩いた。

「……」

 再びチャレンジするも、またしてもペシッと叩かれる。

「……成長すれって言ったのはおっさんだろ?」

「『礼儀がなってない』……って」

「……」

 ガルーは先ほど見たオリヴィエの姿を思い出し、猫の顔の前に手を差し出すと、おっさん猫がガルーの指の先の匂いを嗅いだ。そのまま顔をずらしていき、小指の指輪の匂いも嗅ぐ。それから満足したのか、ガルーから目をそらして寝始めた。

 ガルーがおっさん猫に手を伸ばすと、今度は撫でることができた。

「……なんか、すげー複雑な気分なんだけど……」

「そうか? 俺はガルーが認められて嬉しいけどな」

 他の猫たちと遊びながらそう答えたオリヴィエの横顔を見ると、ガルーもなんだか素直にそう思えるような気がした。

 しばらくおっさん猫を撫でていたガルーだが、いつの間にか空に怪しい雲が出てきていることに気がついた。

「オリヴィエ、ひと雨来そうだ」

 猫たちに後ろ髪を引かれながらも別れを告げ、オリヴィエは再びガルーの背中にしがみつく。

 ガルーは家路を急いでバイクを走らせる。けれど、白かった雲が灰色になり、黒になるほうがずっと早く、雨粒がひとつ、ふたつと落ちてきたかと思うと、それはあっという間に二人をぐっしょりと濡らすほどの激しいものになった。

 道の途中、古い廃屋を見つけると、ガルーはバイクを停めて中に入った。

「悪かったな。天気が崩れるのは想定外だ」

 荷物のなかからタオルが出てくるのを見て、オリヴィエは思わず呟く。

「……主夫力?」

「主夫って言うな。まだ俺は誰のものでもない」

 ガルーはそのタオルで自分を拭く前にオリヴィエの頭をがしがしと拭いた。

「ッおい! 子供じゃない!」

 オリヴィエはタオルを奪うと、それをガルーの顔に投げつけた。

 タオルを受け止めて、自分の頭を拭くガルーは笑いながら「悪かった」と言う。

 その顔がまるで幼い子供のように見えて、オリヴィエは慌てて目をそらした。

「……花を育てていてな……」

 ガルーの言葉にオリヴィエが視線を向けると、タオルを差し出された。もっとちゃんと拭けという意味だと解釈して、オリヴィエも今度はおとなしく受け取った。

「まだ咲かねぇんだが、どんな花が咲くか、楽しみなんだ」

 ガルーの柔らかい微笑みから、その花を大切にしていることがわかる。

「それを見たら、俺様でも素直に、綺麗だと思えるような気がしてる……」

 前に進もうとしているガルーの隣に立ち、オリヴィエも素直な気持ちを伝えた。

「今日……ちゃんと、楽しかった……感謝する」

 ガルーはすこし驚いたようにオリヴィエを見、それからニカリと笑った。

「そっか、よかった!」

 オリヴィエの頭をくしゃくしゃっと撫でて、またオリヴィエに怒られたガルーは声を出して笑う。

「……雨、あがったみてぇだな」

 気づけば、屋根を打ち付けていた雨音が消えている。

「風邪ひく前に行くか」

 二人は廃屋から外に出て、バイクを引いて海沿いの道路に戻ると足を止めた。

「「……」」

 目の前、海の先に大きな虹がかかっていた。

「……綺麗だな」

 そう言ったオリヴィエの瞳の輝きがなによりも綺麗だということを、ガルーは知っている。

 けれど、それを口にすれば、その綺麗な瞳をもう二度と見ることができなくなるかもしれない……オリヴィエが非情に自分との関係を切り捨てたりはしないということは知っているのに、それでも、ガルーはそれが怖いのだ。

 それは、それだけ、隣に立つ少年の存在が大きいということで……。

 だから、いまはもう少しこのままで……せめて、あの花が咲くまでは……そんな風に願うほどに、臆病になっている自分にガルーは苦笑した。

 こんなカッコ悪い自分も悪くない……そんな風に思える日が来るなんて、どうやらこの世界では……
(……いや、リーヴィの隣では……か?)
 奇跡が、起こるらしい。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 aa0076hero001 / ガルー・A・A / 男性 / 32歳 / バトルメディック 】

【 aa0068hero001 / オリヴィエ・オドラン / 男性 / 11歳 / ジャックポット 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご依頼いただきまして、ありがとうございます。
二人の幸せはどこにあるのか、どんな未来へ向かって歩いているのか、そんなことを考えながら執筆させていただきました。
ご期待に添えていましたら幸いです☆
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2017年09月05日

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