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『それぞれが思うもの』
鬼塚 小毬ka5959)&本多 七葵ka4740

 自由都市同盟にある冒険都市リゼリオ。
 今日も青い空が美しく、海から来る風も爽やかで……昼時が迫るこの時間は特に、多くの人で賑わっている。
 何とも穏やかで平和。そんな空気感が漂う中で、金鹿は目の前にいる空五倍子色の髪を持つ男性に鋭い目線を送っていた。
「……七葵さんは一体ここで何をしていらっしゃるの?」
 妙な厳しさのある彼女の言葉。
 まあ、これにはちょっと事情がある。
 先日開催することが決まった東西交流の祭。
 金鹿の可愛い妹分であり、宴の主催という立場となった九代目詩天三条 真美は、リゼリオに来てから昼夜問わず視察、会合と忙しそうに走り回っている。
 休みを取れたのも、皆と一緒に誕生会を行ったあの日だけだ。
 何事も一生懸命な真美。遊びたい盛りの娘が公務漬けというのも可哀想な話であったし、何とか余暇を挟めないかと真美に予定を聞いたところ、今日は宿泊先で1日書類を片づけると教えてくれた。
 外には出られなくても話し相手にはなれるかもしれないと、昼食を差し入れに来たのだが……そこで金鹿を出迎えたのが真美ではなく、七葵だった、という訳で。
「……自分ですか? 真美様の執務の手伝いに来ております」
「手伝い……?」
 ――女性が独りで泊まっている宿屋に男性が一人で?
 男は皆オオカミ。故郷の兄様からそう伺っておりましてよ。騙されませんわ……!
 七葵の言葉に目線がいよいよ鋭くなる彼女。
 そこにひょっこりと、真美が顔を出した。
「あ! 金鹿さんの声がしたと思ったらやっぱり……!」
「ごきげんよう、真美さん。声で気づいて下さったんですの? 嬉しいですわ」
「お姉さんの声ですもの。間違ったりしません!」
 笑顔で飛びついてきた真美を受け止める金鹿。
 真美がこうやって出会い頭に抱きついて来るようになったのはいつからだっただろう。
 こうして全幅の信頼を寄せてくれているのが可愛い。とにかく可愛い。可愛いったら可愛い。
 元々、兄がいる家庭で過保護気味に育てられてきた金鹿。
 『妹』という存在が出来て何とも言えない嬉しさと共に……己が見て来た兄と同じような行動に出てしまうのは仕方がないことなのかもしれない。
 そう。お手本が悪かったというやつだ。
 ――そうですわ。こんなに可愛い妹なんですもの。私が守って差し上げなくては……!!!
「金鹿さん、どうしてこちらへ?」
「お昼ご飯の差し入れに来たんですのよ。良かったら一緒に戴きませんこと?」
「わあ……! 嬉しいです! 書類、キリのいいところまで片づけちゃうのでちょっと待ってて下さいますか? 七葵。すみませんが、金鹿さんにお茶をお願いします」
「かしこまりました」
 ――呼び捨て!? 今呼び捨てにしました!!?
 私ですら「さん」付けなのに呼び捨て……!!!
 真美に笑顔を向けながら内心ブリザードが吹き荒れる金鹿。深々と頭を下げる七葵に再び鋭い……視線で人が殺せるなら恐らく七葵は3回くらい死んでいるであろうそれを向ける。
「それじゃ、急いで片づけて来ますね!」
「慌てなくていいですわよ。無理しないでくださいませね」
「はーい!」
「金鹿殿、お待たせして……」
「……ところで。七葵さんは真美さんとどういったご関係ですの?」
 パタパタと小走りで奥へ消えていった真美。お茶を持って戻って来た彼にズバッと切り込んだ金鹿。
 彼女の問いの真意が分からず、七葵は首を傾げる。
「どういった、とは……? 自分は三条家の家臣で、それ以上でもそれ以下でもありませんが……」
 七葵は詩天の出身であり、代々詩天を治める三条家に仕える家門の者。
 それ故、己の主である真美の手伝いをするのはごく自然なことなのであるが――。
 あ。痛い。金鹿の目線がすごく痛い。
 何だろう。先日からやけに彼女から向けられる目が厳しいような……。
 いくら鈍感な七葵でも流石に気づく目線の鋭さ。金鹿は深々とため息をついて続ける。
「本当にそれだけですの? この間の視察の際も、真美さんに洋服を贈られていたではございませんか」
「ああ、あれは……目立たぬ方が視察もし易いと思った次第で」
「……勿論、女子に洋服を贈るという意味をご存知なんですわよね?」
「……?? 真美様に似合うものを贈ったつもりではありますが、何か問題でも……?」
 嫌味たっぷりの金鹿に受け答えしつつ、先日の様子を思い出す七葵。
 いざ服を贈ろうと思い至ったはいいものの、どんなものが良いか分からず店員に真美のイメージを伝えて選んで貰ったものだったのだが……フリルのついた淡い色のドレスに、華奢なデザインのブーツは幼い主にとても似合っていた。
 可憐な主。どんな服でも似合ってしまうのではないだろうか。これからの成長が楽しみだ――。
 自覚なく顔が綻ぶ七葵。反して金鹿の赤い瞳は鋭くなる。
「まさか香水や櫛まで贈っていませんわよね? あまつさえたばこの煙を噴きかけたりとか」
「……??? そうですね。香水は真美様にはまだちょっとお早いかと。ああ、でも櫛は長い黒髪を梳くのに宜しいですね。……自分、たばこは吸いませんが」
「ですから、男性から女性に対する、贈り物や行為が示す意味を知っているのかとお伺いしているんです……!」
 あまりの話の通じなさに身を乗り出す金鹿。やはり意味が分からないのか、七葵はキョトンとしている。
 ――これは、想像以上に手強いですわよ……!
 いいえ。金鹿。ここでめげてはダメ。可愛い妹を守る為、鬼にも蛇にもなりましょう……!
「御存知ないようですから教えて差し上げますけれど。男性から女性に服や香水を贈る行為は、その方を口説く意味がございますのよ。櫛は求婚の意味があるとか……」
「成程。そういった意味があったのですか……」
 感心するように頷く七葵。
 ――真美に服を贈った際、友人に『情熱的』と評されたのはそういうことだったのか。
「七葵さんが、そういうことを自覚なくされた上で……その、真美さんから呼び捨てにされていらっしゃるでしょう? 誤解を受ける方もいらっしゃるかと思うのですわ」
「真美様が自分を呼び捨てにされるのは、深い意味はなく、幼い頃から存じ上げているからかと。……幼少のみぎり、真美様と共に秋寿様と遊んで戴いたこともありますから」
 続いた金鹿の言葉に、遠い目をする七葵。
 まだ八代目詩天が健在であった頃。
 氏時と父が話をしている間退屈していた自分を誘い出し、一緒に遊んでくれた秋寿のことを思い出す。
 恐縮する自分を抱き上げるあの人の大きな手。
 秋寿の肩車から見た空は、何だかとても近くに見えて――。

『……七葵。私に何かあった時は真美のことを頼みますね』
『……秋寿様? 縁起でもないこと言わないでください。秋寿様は自分がお守りします』
『七葵は良い子ですね。さすが本多家の一子だ』
『まだまだです! これからもっともっと、秋寿様のお役に立ってみせます! ……肩車をされながら言うようなことではありませんが』
『あはは。ちょっとは私に年上らしいこともさせて下さい。七葵はまだまだこれからですから。成長が楽しみですね……』

 ……七葵の心にいつもある、温かくて、そして少し切ない記憶。
 大きな流れの前に力及ばず、秋寿は守れなかったけれど。
 幼い従妹を案じたあの人の言葉は、せめて守りたい……。
 ぽつりと呟く七葵に、金鹿の目線が少し柔らかくなる。
「……七葵さんは生前の秋寿さんをご存知なんですのね」
「はい。とても優しく、懐の深い方でした」
「ちょっと、羨ましいような気もしますわね……」
 彼は、長いこと三条家に仕えていて――秋寿やあの子の……私の知らないことを知っている。
 でも逆に、彼女の『姉』であり『友達』である私は、彼が知らない一面を沢山知っている筈だから……。
「金鹿殿?」
「いいえ。何でもございませんわ。……ともあれ、そういった誤解を受けることは慎むべきだと思うんですのよ」
「確かに。その発想はありませんでした。自分はともかく真美様に何か変な噂が立っては困りますね。流石、金鹿殿は聡い。自分はとんでもない過ちを犯すところでした」
「あの。そんな風に言われると申し訳ないと言いますか……。七葵さんは真美さんが信頼なさっている家臣の方ですし。それは分かっていたのですがつい……私こそ大人げなかったですわ」
「いいえ。ご助言感謝致します。自分は真美様の幸せの為なら努力は厭いません。今後も真美様の臣下として精進したいと思っています」
「七葵さんと立場は違いますけど……私も真美さんには絶対幸せになって欲しいですもの。その為でしたら何だってしますわ」
「そうですか! 心強い味方を得たような気分です。自分は何分、そういった機微に弱いものでして……今後も是非、ご指導戴ければ助かります」
「こちらこそ、よろしくお願いしますわね」
 しっかとお互いの手を握る七葵と金鹿。
 そこにパタパタと足音が聞こえて来て……2人の大事な妹分が顔を覗かせる。
「すみません、遅くなりました……!」
「あら。真美さん、お仕事はもう宜しいのかしら?」
「はい! 二人とも何だか盛り上がっていたみたいですが、何をお話していたんですか?」
「金鹿殿に女人と接する時の心得を教わっておりました」
「そうなんですか? 金鹿さんにそんなこと教わるなんて……。七葵、好きな人でもいるんですか?」
「はっ? いえ、そのようなことはないのですが……! 真美様が困ることがないよう、勉強をしておかねばと」
「……?? 七葵が女性の扱いを覚えることと、私が困らないことがどうして繋がるんです……???」
 真美と七葵のやりとりをじっくり観察していた金鹿。
 その目線が、段々と険しくなっていく。
 何故って。金鹿と接している時はにこりともしなかった七葵が、真美が来た途端、真顔のままではあったが柔らかい表情になっており、西方の男性もびっくりするほどのエスコートぶりを見せていたので。
 これを無自覚でやらかすのはやっぱり問題だし。
 何より、見えないはずの尻尾がぶおんぶおん振られているような気がして……!
 これは忠義の家臣というよりは忠犬……?
 いやでも、この変わり身はどうなのか!!?

 彼が忠義者であることは認める。
 けれども。
 それとこれとは話が別だ……!!
 やっぱり! お姉ちゃんは! 許しませんよ!!!

「真美さん。お腹が空いたでしょう。お昼にしましょうか」
「あ、はい! とっても楽しみにしてたんです!!」
「七葵さん、お茶淹れてくださいます?」
「……??? はい。分かりました」
 さりげなく真美と七葵の間に割り込む金鹿。
 彼女の目線がまた痛い気がして、七葵は首を傾げる。
 おかしい。彼女とは分かり合った筈なのだが……?

 シスコンと忠義をこじらせたハイブリット朴念仁と鉄壁お姉ちゃんの攻防はまだまだ続く……のかもしれない。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka5959/金鹿/女/18/鉄壁お姉ちゃん
ka4740/七葵/男/17/ハイブリット朴念仁

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

金鹿ちゃんと七葵くんの真美を巡るお話、いかがでしたでしょうか。西方視察の後日談となります。少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
金鹿ちゃんのお姉ちゃんガードですとか、七葵くんの朴念仁っぷりを出してみたりしましたちょっとやり過ぎたような気がしなくもないです。
金鹿ちゃんも七葵くんも、他人のことには敏いのに自分のことには鈍感そうなので人を無自覚に惚れさせて気付かず振って泣かせてそうだなと思いました。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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2017年09月05日

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