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『花愛でる竜翼の乙女 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 ある日のこと。シリューナ・リュクテイアはファルス・ティレイラをお供に、知人の女店主の元を尋ねた。
「魔法のお店のお手伝い、ですか?」
「ええ、急なんだけど。あなたにも手伝ってほしいのよ、ティレ」
「私にできることなら、喜んで」
 知人の女性が営むのは魔法ガラス細工の店。作成から展示、レンタルまでをこじんまりとした店舗一つで行っている。スタッフは彼女の他にはいない。今回は急に大口の注文が入ったために、猫の手も借りたい状態なのだという。
「私も、ウチのティレも、猫よりはお役に立てると思うわ」
 シリューナが悪戯っぽく微笑すると、店主の顔もほころんだ。シリューナの薬づくりの腕を見込んでの依頼だったらしい。大好きなお姉さまが尊敬のまなざしを向けられているのを見て、ティレイラは誇らしい気持ちになった。
「シリューナさんには魔法の液の精製を、ティレイラさんには花のガラス細工作りを手伝ってほしいんですの」
 店主がバックルームへと続く扉を開ける。皆の目に飛び込んできたのは、小部屋を埋め尽くさんばかりの色とりどりの花。
「綺麗……! まるでお花畑ですね」
 ティレイラは無邪気な笑顔を浮かべ、シリューナの顔を見た。
「ティレ、数が多いということはそれだけあなたの責任も重大ということよ。失敗しないよう、しっかり説明を聞きなさい?」
「はい、お姉さま!」
 真っ赤な薔薇を手にした店主はくすりと笑みをこぼし、年代物のポンプにも見える機械のそばに立つ。レバーをきこきこと上下動させると、ラッパ型に開いた噴出口から透明な球体が生まれた。
「切花を一本、取っていただけますかしら?」
「あ、はい」
 ティレイラは真っ赤な薔薇を店主に手渡した。
「こう、茎の下の方を持って膜に近づけて……手を離します」
 店主はシャボン玉のような魔法ガラスの膜へ向けて、薔薇を持った手を伸ばす。3分の2ほど差し込んで手を放すと、薔薇の切り花はそのまま飲み込まれていく。
「危ないので、膜には直に触れないようにしてくださいね」
 ティレイラがどういう風に危険なのか訊こうと思った矢先、花を丸呑みにしたシャボン玉の内部で変化が起き始めた。
「わっ、すごいです!」
「成程。そういう仕組みなのね」
 中に入った花がみるみる萎んでいく。花は数秒のうちにすっかり見えなくなったかと思うと、次の瞬間には花の形のガラスが出来上がっていた。
「どうかしら、ティレ?」
「これなら私にもできそうです」
 思っていたよりずっと、作業が簡単だったことに安心する。それは自分の不器用さを認めているようで、ちょっぴり悔しくもあったのだけれど。試しに店主の前で1本目を作ってみると、すぐにお墨付きがもらえた。
「では、よろしくお願い致します」
「はい! 終わったら、そちらへ声をかけますね」



 最初はおそるおそるだった手付きも、数分で慣れたものへと変わる。ティレイラはいつしか、小さな声で鼻歌を歌い始めていた。
 そのとき。
「あっ……!」
 茎をつかんだ指先が膜に触れた。ガラスの材料というのが信じられないくらいに柔らかい。
 直に触れないように。店主の言葉が蘇る。身を引こうとする意志とは裏腹に、体は膜の方へと前のめりに傾いでいく。
(ダメッ……!)
 ティレイラは咄嗟に翼を生やし、膜を破ろうとする。しかし膜は、とても薄いのに弾力に富んでいて、こちらを解放してはくれない。
 最後に残った足が宙に浮き、椅子を蹴飛ばしてしまう。硬い大きな音が聞こえたときには、全身が膜に包まれてしまっていた。
(息は、苦しくないみたい……でも)
 膜はじわじわと萎む。翼や尻尾の先から、薄膜が体に密着していく。パックのような感覚が体の表面に広がっていくのは、癖になりそうなくらいに気持ちが良かった。しかし膜は心地よさの代償に、体の自由を奪っていく。ウエストから胸、首、とせり上がる感触。ティレイラは思わず悲鳴を上げた。
「今の音は?」
 一足先に仕事を終え、店主とお茶をしていたシリューナの耳にけたたましい音が飛び込んできた。その中に悲鳴が紛れていたのをシリューナは聞き逃さなかった。すかさず立ち上がり、ドアを開ける。
「ティレ?」
 返事はない。しかしシリューナがもう一度、少女の名を呼ぶことはなかった。アンティークランプの優しい灯りの下、竜少女のガラス細工が鎮座していたからだ。
「……素晴らしいわ!」
 シリューナの声を震わせたのは、溢れんばかりの歓喜。赤い瞳は『美』を愛でる悦びで、猫のように細められる。もし何か粗相があれば、彼女を得意の呪術でオブジェに変えることも考えていたが――。否、心のどこかではこんなハプニングを期待していたのかもしれない。
「この顔は驚いているのかしら? 怖がっているようにも見えるわ。……嗚呼、なんて可愛らしいの」
 感嘆の声を上げ、シリューナはガラスの表面にそっと触れる。ひんやりとした温度が心地良い。同時に、自分の体が熱を持ち始めていることに気づいた。白い指を滑らせ、なめらかさを味わう。徐々に高揚していくのは止めようのないこと。せめてこの場で爆発させないよう、ぐっと堪える。
「どういたしましょう?」
 不安げな視線を向けてくる店主に向けて、シリューナはゆったりと微笑んだ。
「この子は生きているのでしょう?」
「ええ、命に別状はありませんわ」
 思った通りの答えだ。自分の力があればすぐに元に戻せるだろう。シリューナは店主を安心させるように、柔らかな声音で言う。
「驚かせてしまったわね。一生懸命な子なのだけれど、少しそそっかしい所があるの。こういう失敗も初めてじゃないのよ」
「そ、そうでしたか……」
 シリューナは尋ねる。
「お仕事の方はどうかしら? まだ手が必要?」
「いいえ、ひとりでこなせそうな数ですわ。お弟子さん、よく頑張ってくださったみたい」
「だったら、このまま連れ帰っても構わない?」
 妖艶に微笑むシリューナ。店主はいつになく上機嫌な彼女に、色良い返事と感謝の言葉を告げるのみだった。
「それでは、ご機嫌よう」
 はやる気持ちを優雅な仕草で覆い隠して、家路を急ぐ。オブジェとなったティレイラの造形美を楽しむのは、彼女の至上の楽しみなのだ。
「とっても綺麗ね、ティレ。今度はいつまであなたのその姿を楽しもうかしら」
 抗議の声は聞こえるはずもない。あと数時間、あるいはシリューナが満足するまで、ティレイラは彼女の最上のコレクションとして在り続けるのだ。
 この生ける芸術作品に題を贈るならば『花愛でる竜翼の乙女』といったところだろうか。そんなことを考えながら、シリューナは紅い唇を三日月型に歪めた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【シリューナ・リュクテイア(3785)/女性/212歳/魔法薬屋】
【ファルス・ティレイラ(3733)/女性/15歳/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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東京怪談
2017年09月11日

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