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『依頼は一応果たせたけれど。 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 その日。

 別世界より異空間転移してこの東京に訪れた紫色の翼を持つ竜族――にして、現在は主に人の姿を取り魔法薬屋を営んでいるシリューナ・リュクテイアの元に飛び込んで来たのは、とある知人女性からのSOS。

 曰く、困ったトラブルが起きた、との事らしい。

 ちなみにその彼女は、色々な魔法が籠ったお菓子を作り出す魔法のお菓子職人、でもある。つまり今回のこのSOS――急ぎの依頼も、「そっち方面」でのトラブルに該当する。現場に行ってから詳細を聞けば、色々な魔法薬やお菓子の原料が予期せず混ざってしまった結果、偶然にもお菓子で出来た不完全な魔法生物――らしきものが生まれてしまい、それが色々手に負えなくなってしまったので止めて欲しい、との事だった。

 結果から言ってしまうと、その依頼の目的は、一応、きちんと果たせている。

 とは言え。

 …実のところその『内容』の方は、「依頼」をこなした方として、非常ーに納得が行かなかったりする。



 その話が飛び込んで来た時に偶然居合わせていた関係で、シリューナの同族にして魔法の弟子であり――妹のような存在でもあるファルス・ティレイラも付き添いとしてシリューナと共に現地に急行している。…シリューナの側での、取り敢えず人手は多い方が良さそうだと言う判断での同行。そして依頼人の方でも特に否やは無かったようで――と言うより、それどころでは無かったようで、現地に着くなり何やら強烈な――最早悪臭に近い程に濃くなっている甘い香りが漂って――と言うよりこれでもかとばかりに押し寄せて来るのが先だった。
 その源は、何と言うか、巨大な風船ガム。もしくはスライム。粘菌。…そんな感じのゲル状で、自発的にゆるゆると伸び縮みしつつ辺り一帯に肥大化し続けている「何か」。つまりこれが止めて欲しいと言う依頼の魔法生物、らしい。その動きと押し寄せる芳香の波動が比例している…気がする。確かにこれはSOSを出したくもなるだろう。つまり、何を措いてもとにかく「これ」への対応が先! と言う現場の状況。

「…す、すごいにおい…ど、どどどどうするんですかこれ…っ!」
「お願いシリューナに…ティレイラちゃんだっけ、何とかして助けてっきゃあああ」
「危ない!」

 言っている間にもスライム魔法生物(仮)の端と言うか縁に呑み込まれ掛けた依頼人を咄嗟に助けつつ、三人揃って魔法生物(仮)から飛び退る。…それだけでも空気が動き、凄まじい臭気が踊る。甘ったる過ぎて最早頭痛すら誘発しそうな芳香。嗅覚へのそんな「攻撃」だけで何だかもう色々と辟易するのに、肥大化して広がっていると言う直接的な物理攻撃まであるとなれば依頼を受けた側としても、正直、あんまり対峙したくない。
 とは言え、一度見てしまった以上は放り出せるものでも無い。…「コレ」をこのまま放置したらいったいどうなる事やらわかったもんじゃない。後が怖過ぎる。

「どうしてこんな事に、って呑気に話してる場合じゃないわね。貴方は下がってて。行くわよティレ」
「はい! …ってでもこれどうするんですかお姉さまっ」
「どうもこうも「出来そうな事」からしてみるしかないでしょう」

 取り敢えず「コレ」、広がるのを止める事から考えましょう。



 じわじわと版図を広げ続けるその魔法生物(仮)の周りに、ひとまずシリューナが展開してみたのは一番手慣れた手段である得意の封印魔法。とは言えまともな媒体が用意出来ていない状態の上、少々予想外――いや、現在進行形で肥大化しているスライムって――な対象である事もあってか上手く効いた気配が無い。…と言うか、ここと決め打ち封印魔法を展開した側からスライムがその封印で足りないサイズに肥大化しており、封印の外へと溢れ出す。仕方無く溢れた部分へも追加で封印の効果を広げると――既に封印した部分の方の効力が薄らいでしまいそちらが内圧で破られる。ならばと封印自体の効果を強めても、スライムが肥大化していくその速度の方が意外と速いわ溢れた部分の動き自体が予測し難いわで間に合わず、どうにも封印し切れない。そして封印し切れなかった部分から、またどんどんと肥大化が始まり――気が付けば元通りになってしまいもする。
 ティレイラはそんな溢れ出した部分を足止め(足では無いが)する為、こちらも得意の火の魔法を撃ち放って魔法生物(仮)の動きを牽制出来るか試している。少しでもお姉さまの封印魔法が間に合うように――と、思っての行動だったが、これもまたあまり効いた気配は無い。火を放たれる度、牽制が効いたようにびくりと一時退きはするが――スライムの縁と言うか端はまたすぐにじわりじわりと動き出す。そしてそもそも、火の魔法はあまり派手にバラ撒く訳にも行かない。周りに燃え移っても困るし、自分たちが行動するに当たり燃焼に酸素を使い過ぎても困るし、単純に周囲が熱くなってもまた困る。
 と言うか、結果として目的のスライムに大したダメージも与えられず、牽制の意味もほぼ無さそうだと言うのがある。一応、火の魔法が命中した部分のスライムが溶けはしたのだが――これはダメージどころか溶けて粘性が弱り液状になったスライムが周囲に流れて逆に広範囲に広がるスピードが上がると言う結果になってしまった。更には溶けて広がった先で火の魔法に因る熱が冷め、またゆるゆるとゲル状に粘性が戻り――元通り、と言うよりむしろ状況を悪化させてしまう事になってしまっている。
 そしてまたそこをシリューナが封印魔法で追い掛けるが――到底、間に合わず。

「くっ…」
「っごめんなさいお姉さまっ――って」

 驚きに目を丸くしたティレイラの視線が、中空に留まる。封印魔法を連続で行使していたシリューナの方が「それ」に気付くのにやや遅れた。

 …スライム魔法生物(仮)から蔓状に伸び出した先端が、シリューナとティレイラを威嚇するように複数本中空に振り上げられている。…そこに見出せるのは、攻撃の意思。それまではただ肥大化し広がり続ける事だけが目的だったとしか思えなかったのに、ここに来てどうやら二人の事を敵だと見做したらしい。

 そして勿論、「そう」であるなら振り上げるだけで済む筈も無く。
 振り上げられていたスライムの先端が、シリューナとティレイラに向かって――勢い良く躍り掛かって来た。



 殆ど反応する間も無く、シリューナとティレイラはその身に踊り掛かって来たスライムの先端にぐるぐると絡み付かれたかと思うと――その圧倒的な質量に全身丸ごと呑み込まれてしまった。途端、何を言う間も無く二人の身に流れ込んで来たのは――『魔法生物(仮)の基になった、魔法薬の成分らしき効力』諸々。即ち、魅了の魔力や快楽を刺激するような――精神に作用する魔力が不意打ちで流れ込んで来た事になる。

(――ッ)
(っうにゃあっ!?)

 それらの刺激にシリューナは声にならない叫びを上げる。ティレイラの方は実際に妙な叫び声を上げてしまっているのだが、その声は二人の全身を包み込んでいるスライムの中に吸収されてしまい碌に外には届かない。特にティレイラの方は流れ込んで来たその感覚に悶えつつも、暫しそのままじたばたと抵抗を試みる。が、長くは保たず、程無く脱力。ほへえ、とまるで夢見心地でいるかのようなあられもない惚けた表情を晒し――スライムの中でそれらの感覚にただ翻弄され続けている事になる。…恐らくもう理性は飛んでいる。
 シリューナもシリューナで刺激に流されそうになる己を必死で抑えてはいるのだが、正直、今にも理性は飛びそうな状態である。限界は近い。…大抵の精神攻撃ならば堪え得る自信があるが、それでも「コレ」はそろそろきつい。どれだけの薬が取り込まれてるのよ…! と、抵抗手段の一つがてら内心で毒づきつつも、なけなしの理性で思考を巡らせ、顔を紅潮させつつ対応策を必死で考える。

 …外から囲う対症療法の封印魔法では間に合わない。
 …ティレイラの火の魔法でこのスライムは一時的に溶けはした。
 お菓子の原料や魔法薬が元――お菓子用のガムが元なら、温度を下げれば硬くなって止まる筈!

 殆ど反射の領域でそう思い付いた時には、シリューナはその場で冷却魔法を炸裂させていた。すると今度こそ、スライムの動きが覿面に鈍くなる――版図を広げ続けていた伸縮の度合いも小さくなり、次第に粘性が強くなって――最終的にとりもちのようなべたっとした塊になって、狙った通りに魔法生物(仮)の肥大化も動きも停止した。

 が、同時に。

 魔法生物(仮)の中に居たままの二人もまた、そのとりもち状の塊に巻き込まれてしまっている訳で――そして動きは止められたにしても先程から続いている魔法薬由来の刺激までは止められるものでも無い訳で――…

 …――やっと一段落着いた依頼人に救出されるまで、シリューナもティレイラもそのままで居ざるを得ない事になってしまった訳である。



 そんな訳で。

 この魔法生物(仮)を止める、と言う依頼は一応果たせたけれど、シリューナとしては有り得ない醜態を晒してしまった事について納得が行かない訳である。…あれでティレを愛でる余裕があったならまだしも、そうは行かなかった時点で忸怩たる思いに駆られてしまう訳である。…魔法生物(仮)の動きを止められたと認識した時点での僅かな油断で、するりと滑り込んで来てしまった魔法薬由来の抗し切れない刺激。もっと早い段階で冷却魔法と言う対策が思い付けなかったのかとの己への叱咤。甘過ぎる香りと肥大化するスライム状の姿に惑わされて冷静な判断が出来なかったのかもしれない、との反省もある。

 それら諸々ひっくるめて、依頼は果たせたけれど内容が納得行かないと言う結論になる訳である。
 取り敢えず、あの醜態については口を噤んでおいてくれ、と依頼人に口止めはしてあるが。

 …思い出す度、何とも言えない溜息が出る。

【了】



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3785/シリューナ・リュクテイア/女/212歳/魔法薬屋】
【3733/ファルス・ティレイラ/女/15歳/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 紫の翼を持つ竜族な御二人にはいつもお世話になっております。
 OMCリニュ後商品は初になりますが、今回も発注有難う御座いました。

 そしていつもお世話になりつつも、ライターとしてまともにコメントを書くのはほぼ初めてのような気がしますが(いや納品テンプレートの関係でPCシチュエーションノベルにはライター通信が無かったからと言うのもあるのですが)、何だかんだで結局また期間いっぱいまで使ってしまって大変お待たせしております。
 OMCリニュ後は極力作成早めたいとか個室に書いていたのですが、実行出来てなくて申し訳無い。

 内容については…こんな感じになりました。本題部分がやや過去回想っぽい仕立てです。

 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2017年09月15日

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