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『―流されて夢の島・10(Survive Ver.)― 』
海原・みなも1252

 岩礁を離れた筏が、太陽の進む方角へ向かって進んで行く。
 噴煙を立ち昇らせている山頂も、次第に水平線の下へと沈んでゆく。筏が順調に島から離れているという証拠である。
「船は、2週間であの近海まで来たって言ってたよね?」
 そう問うのは、半身を海に浸しながら動力代わりに尾で水を掻いている、幻獣ラミア――海原みなもである。
「ええ。しかし、潮流に流されて行くと、またあの島まで戻ってしまいます。対流に乗るまで、暫くは人力で潮流に逆らわなければ駄目です」
 応えるのは、船に乗って東の大陸『アルマーナ』からやって来たという、魔術師の少女であった。
 彼女との出会いが無ければ、みなもは絶海の孤島で生涯を終えるまで過ごさねばならなかったかも知れなかったのだ。まさに、救いの女神が降臨したかのようなシチュエーションであっただろう。
「何も見えないね? 目印とか無くて、心配じゃない?」
「昼は太陽が、夜は星の流れが目印になります。天を流れるものは全て、東から西へと進みますからね」
 魔術師はトレードマークのローブを脱ぎ、腰のみを覆う短いボトムにシャツのみという姿で、筏の上に座してパドルを漕ぎ、少しでも針路をずらさないようにしていた。
 マスト代わりの支柱には帆が設えてあるが、完全に凪いだ海は無風であり、帆はピクリとも動かない。風力以外は無動力の上、海図も無ければコンパスも無い。天測と人力だけが頼りの、無謀とも言える航海であった。
「これ、あたし達が漕いでいる間は良いけど、夜はどうするの?」
「敵を捕縛する為の術があるので、それがアンカー代わりになります。長さは対象に届くまで無限大で、一度発動してしまえば、念を送り続ける必要が無いので大丈夫です」
 成る程、考え無しに出港した訳では無いんだなと、みなもは思わず感心していた。
「ずっと上に居たんじゃ、暑いでしょ? 水の中は涼しいよ、漕がなくて良いから入ったら?」
「そうですね……じゃあ、お言葉に甘えて!」
 海水が乾燥すると、塩分で体がベトベトになる。最初二人はこれを嫌ったが、どうせ汗をかけば同じ事になる。ならば涼んだ方が得だろうと思ったのだろう。よほど暑いのを我慢していたのか、魔術師は海に入り『涼しい!』と歓喜の声を上げていた。

***

 5日目。この日は追い風が吹いて、帆がなびいていた。が、幾分か南に向いた風であった為、船が南に向かうのを防ぐための修正舵が必要となった。
「結局、海には入らなきゃダメなんだね」
「すみません。船上からパドルを入れるより、水中から力を加えて貰った方が効率が良いんです」
 とか何とか。多少の危機感を覚えつつも、二人は楽しそうであった。まだ体力的にも余裕があったし、何よりも非日常の連続は、彼女たちにとって大きな刺激の連続で、厳しさを感じるよりも『楽しんでしまう』感覚が先に立つのだろう。
 それに、彼女たちが楽観的に見えるのは、魔術師による天測の正確さが裏付けとなり、進行方向だけは間違っていないという自信があったからである。とにかく真東に向かえば大陸には到達する、この情報だけは確かだったのだから。
「ラミアさーん、10時の方向に雨雲です!」
「やったぁ、真水が手に入るよ! 桶! 桶を甲板に置いて! 樽の蓋も開けてね!」
 まさに恵みの雨である。海上には水は沢山あるが、全て海水。飲むには適さず、洗濯にも使えない。強いて利点を挙げるなら、干せば塩が採れるぐらいのものだ。そして雨雲が上空に到達すると、凄い勢いの真水が天から降ってきた。
「キャー、気持ちいい!」
「天然のシャワーですね! 丁度いいから、お洗濯もしちゃいましょう!」
 二人は衣服を全て取り去り、叩きつけるような雨水のシャワーを利用して衣服を洗濯した。同時に、髪の毛や体もしっかりと洗い、甲板に寝そべって心行くまで汗と汚れを洗い流した。
「あれ、今日は恥ずかしがらないんだね?」
「え……あ、あまりジロジロ見られたら恥ずかしいけど、今はそれどころじゃないですからね」
「ごもっとも!」
 やがて水桶も樽も全て真水で満たされ、凡そ1週間分の飲用水が確保できた。今度はいつ雨が降るか分からない為、この補給は非常に有難いものとなった。

***

 10日目。
 人間である魔術師には些か疲労感が見え始め、はしゃぐ余裕は無くなって来たのだろうか。それでも、笑顔を絶やさないのは立派であった。
「大丈夫? カンカン照りだからね、暑いでしょ? 水に入る?」
「平気です。ちょっと暑気あたりしてるだけ……泳ぐと逆に疲れちゃうから、このままで。ラミアさんは元気ですね?」
「一応、戦闘種族だからね。多少のダメージなら平気だよ。この辺、海底が見えるよ。貝かなんか居ないか、探してみるね!」
 ニコッと笑うと、みなもはそのまま海中へと潜っていった。このところ、口に入れるものは魚ばかり。栄養価的には問題無いのだが、長く食べ続けていれば飽きてしまうだろう。偶には変わったものも食べてみたいと考えるのは、当然の事である。
(んー、ナマコかな? これって食べられるかなぁ……おっと、海藻発見! これはサラダに出来るね)
 まさに海女の如く、潜っては獲物を捕らえて戻り、桶に蓄えていく。これの繰り返しを、みなもは何度も行った。
 そんな彼女を、魔術師は心配そうに見守っていた……が、その時。
「やったぁ! 大物だよー! 見て見て、エビだよ!」
「凄い、御馳走ですね! 見ているだけで元気になるわ、ラミアさん凄い!」
「えへへ、元気だけが取り柄だからね。でも、これぐらいで充分かな?」
「ですね、もう桶がギチギチです」
 見れば、ナマコに貝、海藻類にエビ。陸上ではきっと高価で売れる、海鮮珍味のオンパレードだった。
 惜しむらくは、これらを全て生で食べなくてはならぬ事。イカダの上で焚火をしたら、大変な事になってしまう。しかし……
「エビはお刺身でも美味しいけど、貝は火を通したいですね。待っていてください、準備しますから」
「え? 準備ったって、ここイカダの上だよ?」
 大丈夫ですよ、と魔術師はニコリと笑う。そして空中に風船のような球体を作って浮かべると、その中に手を突っ込んで貝類を並べ、最後に呪文を唱えた。
「ファイアー・ボール!」
 それは本来ならば、攻撃用の魔法なのであろう。彼女の手先から火球が放たれ、風船の中で燃え続けた。威力はかなり抑えてあるのだろう、火力が強すぎて獲物が焦げてしまうような事は無かった。
「おー、いい焼け具合! 久しぶりの焼き物だぁ、嬉しいな!」
「お魚も、こうすれば焼けますよね……もっと早く思い付いていれば良かったですね」
「良いの良いの、思い付いてくれただけでお手柄なんだもん! 今日はもう、これ食べて休もう! 鋭気を養わなきゃ!」
 航海に出て10日目、そろそろ疲労も出て来る頃合い。まだ日は高いが、早々にアンカーを打って、今日は休もう。みなもは
そう決めると、久方ぶりの温かい食事に舌鼓を打った。

***

「いま、どの辺かなぁ?」
「船の時より速度は遅いですし、時折、針路を修正しながら進んでますから……まだ行程は半分、ってトコでしょうね」
 先は長いね……と、二人は苦笑いを浮かべながら顔を見合わせ、満点の星空を仰ぎながら波に揺られ、まだ遠い陸地を思い描きながら、励まし合うのだった。

<了>

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【1252/海原・みなも/女性/13歳/女学生】
【オリジナルNPC/魔術師/13歳/女性/黒魔術師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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オリジナルキャラクターとして、この世界観の案内役であるウィザード(女性)を登場させています。
2年前に一度打ち切り状態となった作品の続編になります関係で、前回の閲覧には少々手間が掛かるかと存じますが、予めご了承ください。

VR空間内でモンスターに扮して楽しむゲーム……の世界観に取り込まれ、完全にモンスター化してしまった海原みなも。
彼女はサバイバル生活の中で、近海にて難破した船から辛くも脱出した少女を助け、共同で人間の住む大陸へと旅立って行きました。
大海原を、たった二人で乗り切る大冒険……になる筈でしたが、他のモンスターや大型海洋生物に襲われ、迎撃するシーンを折り込んでは、最悪の場合、イカダが破壊されて航海そのものが不可能になる危険も孕む為、敢えてそれは回避させて頂いております。
海洋の大自然と戦うだけでも、充分なサバイバルとなりますので。
依頼者様のご期待に添えれば幸いで御座います。
東京怪談ノベル(シングル) -
県 裕樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年09月25日

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