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『あなたのハートにちぇすとー☆ 』
島津 景花aa5112)&ファリンaa3137)&世良 杏奈aa3447)&月夜aa3591hero001)&天城 初春aa5268)&リィェン・ユーaa0208

●初ライブは背水の陣!?
 不覚だ。地面へと倒れこみながら、島津 景久は後悔していた。H.O.P.E.の敷地内だからといって、敵に襲われる可能性はゼロでなかったのだ。うなじの鈍い痛みにうめき声を漏らしながらも、手足に力を入れ、立ち上がろうとする。
「あら、まだ意識が? 力が弱かったかしら」
「らしいな」
 近くで襲撃者らしき者たちの声がした。その声に聞き覚えがある気がして、景久は狼狽した。かけるべき言葉を思いつく前に、先ほどよりも強い衝撃がうなじを襲い、景久は今度こそ意識を失った。

 ぼんやりとした光に、景久は意識を覚醒させられた。薄暗い部屋。正面には真っ白なスクリーン。景久は円形に並べられた机の内側に閉じ込められるようにして座っていた。理解できたのは、自分がどこかの会議室へと連れ込まれたという事実だけだった。
「よく眠れたかの?」
 いたいけさと妙な落ち着きを併せ持つ声が、そう問いかけてきた。
「おかげさあで」
 皮肉っぽく言葉を返す。自分を取り囲むのは様々な背格好の6名。その中の一人は、どうやら天城 初春らしい。
「手荒な真似をして申し訳ございません」
 景久の真後ろから言ったのはスーツ姿のファリンだ。眼鏡をかけ、顔の前で手を組んで机に肘をついているため、表情はうかがい知れない。よく見ればバレッタで髪をまとめていて、キャリアウーマン風の出で立ちとなっているようだ。
 ファリンの右隣には天城 初春、さらに隣には月夜。左隣には世良 杏奈、そしてリィェン・ユー。皆一様に机の上で指を組み、こちらを凝視している。
「無駄話は好かん。要件を話せ」
 しびれを切らして鋭い声で要求する。考えの読めない忍び笑いが広がった。
「では景久アイドル化計画を開始する」
 言ったのはリィェンだった。
「な……」
 予想外の言葉に一瞬たじろぐ。
「ないごて俺がそげんこつばせなばいけんがじゃ!」
 答える代わりに、リィェンは無表情のまま指を鳴らす。スクリーンにはH.O.P.E.の雑談所での一コマが映し出される。話題はとある投票システムについて。景久は「かわいい100票集まったら、アイドルでも何でもやる」とはっきり宣言してしまっていた。
「あの投票、100票集まったよな。それなのにきみは一向にアクションを起こす気配がない。だから俺たちが代わりに動いてあげたんだよ」
 リィェンがダメ押しする。
「し、しかし……こげなこち加担しても誰も得せんじゃろ?」
「そんなことないわ。とってもおもしろそうじゃない」
 杏奈があっけらかんと答えた。彼女に情報を流したのは景久の英雄だそうだ。もう、どこにも味方はいないようだ。
「大丈夫! 私たちが全力でサポートするわ!」
 杏奈自身も、グロリア社広告部門からしばしばメディア露出を行っているのだ。アイドルリンカーの友人がいるだけでなく、彼女の英雄であり娘でもある少女も、アイドルとして活動を始めたのだという。
「これでも、アイドルについては多少の理解があるつもりだから」
 理解があるなら、自分がアイドルになるなんて話は無謀だとわかるはずだろうに。
「詳すはないが、芸能活動ちゅうもんにはそれなりの準備が必要じゃろ?」
「心配ありませんよ。ステージはもう用意してあります」
 言いながら、ファリンがパソコンを操作する。会場の写真がスクリーンいっぱいに映し出された。
「馬鹿な! 俺なんかが売るっわけない!」
「売れるのではなく売るのです! 人間とはなんとなく声の大きいほうに従うもの」
 アイドルとはプロパガンダ。それがファリンの自論である。
「これだけの人間の期待を受けておきながら、尻尾を巻いて逃げ出す気か? 薩摩隼人が聞いてあきれるな?」
 リィェンが挑発めいた言葉を投げかける。わるあがきする景久を横目に、杏奈がファリンに小声で尋ねる。
「チケット売上とか観客集めとか、財閥が絡んでたりするんですか?」
 ファリンはくすりと笑みを漏らし、傍に控えていた秘書らしき男をちらりと見る。彼が持つジュラルミンケースには気が遠くなるほどの金が詰まっているのだろう。
「何事にも初期投資は必要ですわね。サクラもごり押しも情報操作も、成功さえしてしまえば正義と言えましょう。景久様には投資するだけの価値があると考えておりますし……」
 上海の財閥令嬢は事もなげに答えた。
「でも今回に関しては、わたくしたちは小さな火種を投げ入れただけなのですわ」
「あのPVですね?」
 ファリンは、スクリーンに動画を映し出す。普段の景久を隠し撮りし、それらしいナレーションを淹れたプロモーション映像だ。真剣に農業に取り組む景久の姿は、すでに公共の電波に乗せられていた。SNSでは「かわいすぎる農家アイドル」などと話題になっているらしい。
「健康的で飾らない魅力、演技ではないリアルな農作業が、嫁不足に悩む農家の殿方の心を打ったのです!」
「ちなみにもうチケットは完売してるからな」
 リィェンが書類を差し出す。チケットの価格×販売枚数=みたこともないような大金。頭に血が上っていく。反比例するように背筋がひんやりと冷たくなる。
「もう……後戻いは出来ん、ちゅうことか」
「そういうことだな」
 景久――島津 景花は責任感の強い少女だった。そして、誰かが積み上げてきたモノを無視できない性質があった。普通の女子としての身の上を捨て、男として家を守ることを選択できてしまうくらいに。
「くそっ……煮っなり焼っなり好きにしろ!」
 皆の口元で組まれた指が解かれる。
「では早速、練習に移ろうか」
「今からか?」
 戸惑う景久に、本番まで24時間を切っているという事実がようやく告げられた。
「家事や畑のことなら心配いらないそうよ」
 安心させるような笑みを浮かべて杏奈が言う。
「家にも帰れんのか……」
 景久はがっくりと肩を落とした。

●ひみつの作戦会議♪
 数日前。同じ会議室にて。リィェン・ユーは例のポーズでこう切り出した。
「今日集まってもらったのは他でもない」
 景久のデビューライブについて、協力者たちの意見を仰ぐためである。
「……とにかく可愛い歌とだんすにしましょう」
 月夜が言う。
「衣装や歌には日本要素がほしいのぅ。月夜殿、いけそうかの?」
 初春の問いに、月夜はゆっくりと頷いた。
「簡単に覚えられるキャッチフレーズとか仕草も欲しいですね」
「なるほど。お客さんに真似してもらえるようにですね」
 杏奈が頷く。
「ええ、彼女という存在を観客の意識にすり込まなくては」
 ファリンはさりげなく物騒なことを言っている。
「景久といえば……芋好き?」
 妙にもったいぶった調子でリィェンが言う。
「『お☆いも』なんて、どうでしょう?」
 右手と左手でOKサインを作り、顔の傍に掲げる月夜。表情は真剣そのものである。
「ついでにういんくもつければ、あいどるらしさがでるかと」
 月夜と杏奈を中心にもう一つの振り付けも完成し、それぞれの振りを活かしたオリジナル曲が作られることとなった。衣装の制作は月夜に託されることが決まり、一同の話題は物販へと移る。
「ラバーストラップはどうかしら? 景久ちゃんをデフォルメしたデザインとか可愛いと思うの」
 杏奈の提案を受け、さっそくファリン付きの黒服が動き出す。
「やはり食べ物は必須じゃろう」
 初春が提案したのは、島津印のお饅頭。
「中身はサツマイモ餡。表面にはアイドル姿の島津殿の顔を焼き印として入れるのじゃ」
「素敵ですね! 他にはクッキーあたりが定番でしょうか? せっかく農家アイドルとして売り出しておりますし、『手作り』を前面に押し出してまいりましょう」
 ファリンが同意を示した。
「材料は足りるのか?」
 リィェンが問う。
「なにも100%使用する必要はないからの。2〜3本ほど畑から拝借して、他のものと混ぜてしまいましょうぞ」
 幼女はくつくつと喉を鳴らした。令嬢も罪の意識などまるで感じていない様子で微笑んでいた。

●輝くために……!
 再び、現在。一同はレッスン室へと移動していた。
「素材はよろしいのです、あとは料理次第ですわ」
 ファリンが自信満々に宣言する。
「はい、これが歌詞よ! ダンスの練習もあるから、3回以内に覚えてね」
 杏奈と初春が歌唱やしぐさ、そしてMCの指導に当たる。
「覚えられなかったら、今日のメシは芋抜きだ」
 リィェンは鬼教官と化していた。
「ステップ遅れたぞ! 普段の威勢はどうした!」
 振り付けを間違えたときはもちろん、動きに少しでも迷いが生じれば容赦なく怒声が浴びせられる。スパルタ指導が功を奏したのか、あるいはアイドルとしての才能が開花したのか、日付が変わる頃には通し稽古ができるほどに成長していた。
「3分休憩! 速やかに水分と塩分を補給しろ!」
 リィエンの声を聞き、景久はその場にへたり込む。
「もう腕が上がらん……」
「はいはーい、ボトル持っててあげるから飲みましょうね?」
「すんもはん……」
 杏奈の差し出してくれたドリンクのストローをくわえ、ごくごくと飲む姿はまるで雛鳥である。
「お、終わったよー……」
 そこへふらふらとやってきたのは月夜だ。手にしていたのはライブの衣装。着物の生地が使用されており、桃色の地に花が舞っている。袖やスカート、襟元にはふんだんに白いフリルがあしらわれ、ダンス映えしそうだ。赤い帯が巻かれた背中には大きなリボン。薄々勘付いてはいたが、それはど真ん中の女性モノだった。
「お、俺に男を捨てろちゅうがか!?」
 もともと男ではない、と全員が思ったが、あえて口には出さなかった。
「中途半端な格好で舞台に立てると思ってるのか?」
「踊りが綺麗に見えるように工夫して作ったんだよ! 着てくれないと悲しい!」
 鬼教官のひと睨みと月夜の泣き落としに負け、しぶしぶ試着する羽目になった。数分後に現れたのは恥じらいに頬を染める可憐な少女。
「似合ってるじゃなーい♪」
 杏奈は思わず抱きつく。
「腕周りとか、動かしにくいところがあったら言ってね? 明日までに直すから」
 満面の笑みを浮かべて、月夜も寄ってくる。表情に似合わないか細い声と、血走った目が不気味だ。景久はスカート丈の短さを指摘したが、受け入れられることはなかった。

●アイドル、ただいま見参!
 会場は景久の登場を待つファンたちの熱気に包まれていた。
「ご健闘をお祈りしております」
 いつになく良い笑顔の初春は、右手で親指を立てて激励すると、物販用の屋台へと向かった。
「ファリン殿、売れ行きはどうかの?」
「順調ですわ」
 販売員たちは「アイドルが芋から手作りしたさつまいもクッキー!」と盛んに宣伝をしていた。
「ま、嘘はついとらんからの」
 高級感のある缶の裏には原産国:中国の文字。スカスカの缶の中に詰まっているのはきっと『夢』か何かである。
「いよいよか……」
 舞台袖。景久はきりりとした表情で喧騒に耳を傾けていた。この会場にいるのは景久のファン、あるいはスタッフたちだ。つまりは景久を愛し、支える者たちがこのざわめきを成しているのだ。
「ふふふ、ふふふ、頑張ってね」
 振り返れば、幽鬼の如き笑みを浮かべる月夜が立っていた。目の下には真っ黒なクマができていた。休んだ方が良いのではと恐る恐る提案したが、案の定却下された。
「会場、あったまってるぞ。準備は良いな?」
 舞台上にてコールの指導にあたっていたリィェンが戻ってくる。景久は決意を込めて頷く。
 暗転。静まり返った客席に、うぐいす嬢さながらの杏奈のアナウンスが響き渡った。
「皆様お待たせいたしました。薩摩からやってきた前のめりアイドル、我らが島津 景花ちゃんの登場です」
 輝きの中へ足を踏み出したのは、彼女自身の意思だった。軽快なイントロが耳から流れ込み、体を駆け巡る。
「景花ちゃーん!」
 その熱気に少しだけ、ほんの少しだけ、心が震えた。数か月ばかり離れ離れになっていたその名が、不思議と懐かしかった。
「みんなー、今日はアタイのライブに来てくれてありがとう! 楽しんでいってよね!」
 一曲目のタイトルは『おいもが大好き☆』。装着した『イメージプロジェクター』でノースリーブにオーバーオール、麦わら帽子の衣装を映し出す。

――朝日さんにおはよう 眠い目こすって畑へれっつごー!
水しぶきキラキラ いっぱい吸って大きくなーれ☆
土の中ではむくむく あまーい希望が育ってるんだ
他の何かじゃ嫌なの 今日のご飯はおいもがいいな

 元気いっぱいに『景花』が歌い出す。考えるより先に、体と唇が動く。まるで魔法にかかったような気分だった。

――泥仕事も汗だくも気にしないで奮闘 そんな女の子はキライですか?

 野太い声たちが「大好きー!」と答える。勢いに乗ってサビへと突入する。

――朝昼晩、おやつに夜食もおいも☆
お芋が大好き、『お☆いも』

 OKサインを作った両手をかかげ、小首を傾げてウインク。ファンたちも同じ動きをしてくれたのが見えた。

――あったかほっくり! 夢中にさせちゃうおいも☆
みーんな大好き、『お☆いも』

 最後は決めポーズでフィニッシュ。息を乱しながら客席を見渡せば、サイリウムやうちわの波が彼女の健闘をたたえていた。
「どうも、ありがとー! みんなの『お☆いも』ポーズ、ばっちり決まってたよ!」
 大きく手を振りながら客席を見渡すと、最後列に初春の姿が見えた。サイリウムはもちろんのこと、はっぴまで用意してくれていたらしい。
「動画見てくれた人なら知ってると思うんだけど、アタイ、自分用の畑を作っちゃうくらいお芋が大好きなんだ! この曲はそんなアタイの日常をイメージして作ってくれた曲なんだって」
 そして彼女にはもうひとつ、苛烈な戦士としての一面がある。
「次の曲はさっきとは違う雰囲気のアタイを見てもらえるんじゃないかな? それでは聞いてください。『真剣☆恋の唄☆ちぇすとー』」
 ステージの照明が落とされ、中央に立つ景花がスポットライトで照らされる。彼女は胸の前で手を組み、顎を引いたまま客席を見る。教えこまれた通りの動きだ。
「決まった! 必殺・上目遣い攻撃じゃ!」
 初春は小さく叫んだ。
「あなたを遠くから見ている、それだけでよかった……でも、でも、嗚呼、愛してる、愛してる」
 切なげなピアノの音に合わせ、思いを乗せた言葉を発する。
「でもね、こんな気持ちにさせたあなたが悪いの。だ・か・ら『チェスト―!!』」
 割り込んできたのはメタル風のロックサウンド。ピアノも負けじと叩きつけるような和音を奏でる。

――置いてけー、置いてけ―! 問答無用でいざ勝負! 首を置いていけぇ!(ちぇすとー☆)

 「ちぇすとー☆」の掛け声に合わせ、刃に見立ててぴんと指を伸ばした右手を客席に向かって突き出す。

――置いてけー、置いてけ―! その首とは言わぬが、愛を置いていけぇ!
真剣すぎるこの気持ち、届いてるでしょ? だ・か・ら、答えが欲しいの(ちぇすとー☆)

「景花ちゃーん! 俺の首も取ってー!」
 曲が終わってからも、客席からは物騒な歓声が絶え間なく聞こえ続ける。残るは最後のMC。そう思った瞬間、景花ははっとした。覚えた台本が全部吹き飛んでしまっていたのだ。けれど、不思議と不安はなかった。
「今日は本当にありがとう! このライブのこと、ぜーったいに忘れないよ。みんな……みんな、愛しちょっよー!」
 予定調和のセリフを投げ捨て、思いのままに叫べば、ひときわ大きな歓声が答えてくれた。彼女は溢れそうになる涙をぐっとこらえ、笑顔で手を振りながら退場した。
 ――はずだったのだが。
「もうこれっきりじゃけの!」
 本番後、楽屋に集合した協力者たちに告げられたのはそんな言葉だった。ままあって、6人分の「……えっ?」という声が聞こえた。その反応がさらに神経を逆なでしたのか、景久はすねた様子でそっぽを向く。
「そうですか……残念なことですじゃ……」
 初春はしゅんとした様子で言う。景久の良心が痛んだ。しおらしい態度の裏では、どうやって景久を逃げられない泥沼に引き込むか考えているのだから報われない。そもそも、この程度で引き下がるメンバーならば、とっくに解散しているはずである。初春を気にしつつもぷりぷりと帰り支度を始める景久を見やりながら、リィェンが呟いた。
「だが彼女は知らない……すでに第2第3の企画が裏ではすでに進んでいるということを……そしてまた拉致られることを」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【島津 景久(aa5112)/?/17歳/攻撃適性】
【ファリン(aa3137)/女性/18歳/回避適性】
【世良 杏奈(aa3447)/女性/26歳/生命適性】
【月夜(aa3591hero001)/女性/16歳/ソフィスビショップ】
【天城 初春(aa5268)/女性/6歳/回避適性】
【リィェン・ユー(aa0208)/男性/22歳/攻撃適正】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お届けが遅くなってしまい申し訳ありません。高庭ぺん銀です。この度はご発注ありがとうございました。
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2017年09月26日

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