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『The Symphony 〜騎士の歌〜 』
アルaa1730

 夏休み真っ只中の小夜霧音楽大学は、普段とあまり変わらない賑わいを見せていた。防音の練習室は数に限りがあるからだろう。通常の教室や廊下からも様々な楽器の音が聞こえてきた。
 時刻はまもなく14時。初秋とは名ばかりの暑さがアルの体にまとわりつく。若き音楽家たちの熱意は、暑さごときで挫けはしないらしい。アルもまたその中の一人だった。
「えっと……この部屋かな?」
 階段状に席が並んだ大教室では、すでに数名の学生が待ってくれていた。
「こんにちは! 今日は集まってくれてありがとう!」
 彼らはアルの呼びかけに応じてやってきたメンバーだ。今起きたばかりなのだと寝癖を直している学生もいれば、大学祭に向けた練習を終えた帰りという学生もいた。
「あ、汐里ちゃん! アルちゃん、もう来てるよ!」
 ヴァイオリンケースを持った女子が、入り口に向かって手を振る。アルがここにいる大学生たちと親しくなったのは、何度も大学に足を運ぶ機会があったからだ。汐里はギター専攻の学生であり、アルにアコースティックギターを教える『先生』でもあった。
「サマーフェス、どうだった?」
 汐里は、先日行われたグロリア社主催のライブイベントについて聞いた。アルが出演することは本人から聞いていたのだが、大学関連の用事と重なり行くことができなかったのだ。
「すごく楽しかった! 他のメンバーから良い刺激も貰えたしね」
「やっぱ私も見に行きたかったよ〜! ねぇねぇ、当日はどんなことしたの?」
 アルはユニットでのライブや森の中でのステージについて、感想を交えて話した。学生たちの協力を得て作った曲『黄金色のプリンス』を演奏したことを報告すると、彼らは嬉しそうに顔を見合わせた。
「新曲のアイディアをお客さんから募る、ってアイディアも実現できたんだ。でも……」
「どうしたの?」
 言葉を詰まらせたアルに、汐里が心配そうに尋ねる。
「素敵なテーマは集まったんだけど……いざ歌詞って形にしようとすると、中々纏まらなくて」
 力不足を嘆くように、アルは眉を下げて笑った。
「……だからね、皆さえ良ければ、また曲作りを手伝ってほしいんだ」
 汐里は他の生徒たちを見回し、頷き合う。ふっと顔をほころばせた彼女は、笑顔でアルの肩を叩いた。
「お姉さんたちに任せときなさい!」
 他の学生たちも乗り気のようで、次々声をかけてくる。
「いいね、面白そうじゃん!」
「アル&小夜霧大の夢のコラボ、第二弾ってわけだな!」
「私、前の時はいなかったのー! いつもはクラシックばかりだけど頑張るね」
「ま、大船にのったつもりで居ていいぜ!」
 ひとしきり盛り上がったあと、汐里が軌道修正してくれた。
「曲作りはどこまで進んでるの?」
「簡単な音源と振付はもう出来てて。後は詞を付けるだけなんだ」
 学生たちのリクエストで、アルは仮音源に合わせて踊ることになった。テクノサウンドで構築されたダンスミュージック。その向こう側にかすかに聞こえるのは、管弦楽の音色だった。
「まるで戦ってるみたい……」
 生徒の一人が呟いた。振付は力強く、直線的な動きが多用されている。特に印象的なのは、まっすぐ前を見据え、勢いをつけて腕を伸ばす動作。この曲のテーマを象徴するように、何度も繰り返されている。アルはつかみどころのない微笑みも、弾けるような笑顔も封印し、終始きりりと引き締めた表情を浮かべていた。



 踊り終えたアルに拍手が送られる。スピーカーから曲を流しながら、さっそく作詞を始めることにする。
「作曲家さんにお願いしたキーワードは【気高き心】【永遠の親友(とわのとも)】【英雄】」
 客たちのアイディアをもとに、決めたテーマである。
「それから……ボクの書いた歌詞はこんな感じ」
 アルは作詞用のノートをぱらぱらめくる。思いつくままに言葉を並べては二十線で消したページが何枚も続く。最後に現れたのはたった4行だけが埋まったページ。

――貴方を守る盾となり剣となる
船を漕ぐ櫂となる
迷ったら羅針盤に
暗闇に身を囚われたなら貴方を導く歌になろう

「さっきはこの歌詞を意識して踊ってみたんだ」
 額をつき合わせ、言葉を咀嚼する学生たち。彼らの顔を眺めながら、アルはゆっくりと言葉を紡いだ。
「ボクなりのリンカー像、かな」
 学生たちの中にリンカーや英雄はいなかった。しかし彼らは昨年の夏前に小夜霧で起きた事件の際、エージェントたちと関わったメンバーだった。
「あの姿はまさに『英雄』だったよね」
 色白の男子学生が、細い声で言った。いかにも芸術家らしい雰囲気を纏う彼は、歌う愚神に魅せられかけた人物でもあった。
「迷う者に光を与えてくれる希望の戦士。それなら戦う相手は闇や絶望……かな。物語っぽく表現するなら獰猛な獣とか、妖しい魔物とか」
 アルは少し考えた後、さらさらとペンを動かす。他の学生たちも、彼の意見とアルの歌詞をもとにいくつか案を出した。

――獣たちの襲来

――波も風も魔も恐れることなく

――哀しみ払うための『剣』

――迷いを蹴散らす『羅針盤』

「戦士がいるなら、守る相手も必要だよね。それが【永遠の親友】?」
 汐里の視線がアルに注がれる。
「【永遠の親友】は戦友ってイメージなんだ。……そうだ」

――永遠の親友(とも)よ 貴方がいるから
僕は戦場(ここ)に立ち続けていられるんだ

「主人公は思ったより普通の子ってイメージね」
 女子学生の呟きに、アルは頷きを返す。
「そうだね。超人的な力を持ってるリンカーや英雄にも、人間らしい弱い部分があったりするものだし」
「世界のために戦う、というのはこの主人公には似合わないかもね。大好きな人や場所を守りたい、みたいな……?」
「うん、その方向で行こう!」
 ちらばった言の葉の欠片を拾い集め、歌詞(うた)が組み上がっていく。

――遠くで聞こえる唸り声 獣たちの襲来
もう迷ってる暇はない 立ち向かうのが使命
機械仕掛けのこの街で 僕ら出会った
守りたいと思う理由は それだけで十分だろう

 アルは彼らの暖かな声を頼もしく思う。一人では見つけられなかった道が、拓かれていく。人と人とが織りなすハーモニーは美しく、新たな可能性に満ちている。

――命がけの戦いに足は震えて それでも
僕は英雄になりたい 気高き心、胸に宿して

 個性豊かな音たちは重なり合って一つの作品が生まれる。それは、オーケストラの姿に似ていた。

――僕は希望を示す盾 未来を掴むための剣
暗闇に身を囚われたなら 貴方を導く歌になろう

――僕は嵐に挑む櫂 前を見据える羅針盤
暗闇に身を囚われたなら 貴方を導く歌になろう

 だから。彼らと共に作り上げたこの詞に、共に戦う親友たちを描いたこの詩に、『交響曲』の名を与えよう。
 曲のタイトルは『The Symphony』、副題は『騎士の歌』だ。

――I will sing forever.(僕は戦い続けるよ)
The Symphony makes me brave. (貴方といれば、僕は勇敢でいられる)


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【アル(aa1730)/女性/13歳/命中適性】
【汐里/ NPC 】
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2017年09月26日

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