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『晴天、霹靂、ときどき濃霧 』
青霧・ノゾミ8553)&伊武木・リョウ(8411)

「リョウ先生!」
 後ろからかけられた元気な声。研究に勤しんでいた伊武木・リョウは緩慢な動作で振り返る。そこには、青霧・ノゾミ――リョウが生み出した愛しき生命体がちょこんと立っていた。時間の感覚などとうに手放していたが、ノゾミが昼食やら夕食の心配をしてくれているのでおそらく夜なのだろう。そんなことを考えていると、ノゾミはリョウにずいと顔を近づけて言った。
「リョウ先生、お盆休みとらなかったでしょ。休まなきゃダメだから!」
 クマができていると呟きながら、ノゾミはぱっちりとした目を半分ほどの大きさに細める。
「ボク、いいトコ見つけたんだ」
 かと思えば、ぱっと笑顔を浮かべる。くるくる変わる表情は見ていて飽きない。
「いいトコって?」
 答える代わりにノゾミが見せてきたのは、何やら賑やかな色合いのホームページ。
「遊園地? 俺は賑やかな場所が苦手なんだが……」
 言うだけは言ってみるが、ノゾミが聞くはずがないことはわかっている。何より――。
「デートの約束、何度もすっぽかしてるしな。わかったよ、一緒に行こう」
 いつ行くつもりなのかと問うと、ノゾミは「明日!」と答えた。急がなくても、逃げも隠れもするつもりはないのだが。
 聞けば、どうやら明日は平日らしい。少しでも客足が落ち着いていることを願いつつ、リョウはデートの約束を承諾した。



「いらっしゃいませ! ハピネスランドへようこそ!」
 カラフルに彩られた遊園地と青い空のコントラスト。研究室という穴倉を住処とするリョウにとって、そこはまるきり異世界だった。
「大人2枚」
 受付に軽く会釈をし、リョウが言う。2の形で指を立てた彼の腕に、横から細い腕が絡みつく。
「スタッフさん、ボク達カップルなんです!」
 ノゾミのお目当ては、ハピネスランドの名物『カップルキャンペーン』に参加することだった。事前に相談していた訳ではなかったが、リョウはすんなりとノゾミの発言を受け入れてくれた。
「お似合いのカップルさんですね」
 受付のスタッフはにこやかに言った。お世辞だとわかっていても、心が弾んでしまう。
「こちらのバッジを提示されますとフード類が割引になります。是非ご利用くださいね」
 ピンク色のバッジにはハートマークに囲まれたカップルの文字。
「これはこれは……」
 苦笑いするリョウの隣りで、ノゾミは満面の笑みを浮かべた。
「まずはどこに行くんだ?」
「お化け屋敷!」
 ノゾミは即答する。
「お化けって……普段見慣れてるだろうに」
「それとこれとは話が別だよー」
 誰かがはしゃぐ声。朗らかなスタッフのアナウンス。きらきらとおとぎ話めいた音色を奏でるBGM。なんとなく浮かれた気分で景色を眺めながら、二人はファンタジーエリアへと歩を進めた。



「うわ、けっこう怖いねー」
 廃校を舞台としたお化け屋敷の中、言葉の割にのんびりとした口調でノゾミが言った。つかず離れずの位置をつけてくるのは、口から血を垂らした長い髪の女生徒。彼女は脅かし役と案内役を兼ねてゴールまでついてくるらしい。お供のスタッフによって違ったストーリーを楽しめるのが、このアトラクションの売りなのだ。
「寂しい……」
 ぶつぶつと呪詛を吐く姿はなかなかの迫力だ。
「素敵な人……わたしに、ちょうだい?」
 振り返ると、女生徒はリョウのことを凝視していた。
「ダメだよ! この人はボクの恋人だから」
「そういうわけでね。ご期待には沿えないんだ」
「寂しい……寒い……」
 彼女は腕を伸ばしてこちらへと迫ってくる。
「まずいな。怒らせたか」
 リョウが人の悪い微笑みを浮かべると、ノゾミもいたずらっぽい瞳で見上げてくる。
「逃げよう、リョウ先生!」
 ノゾミはリョウの手を掴み、足を速めた。優しく握り返されて、胸の奥がきゅんとうずく。薄暗くうすら寒い空間の中で、その手の温度だけは確かだった。二人は少女に追い立てられる形で、木造校舎の中を進んでいった。
 平和なデートに暗雲が立ち込めたのは、一つ目のミッションを達成した時だった。廊下に落ちていた本を図書室に返すというものだ。返却ボックスに本を入れると、上から紙が落ちてきた。
「次は理科室、だな」
 顔を見合わせて頷き合う。リョウはノゾミを一歩下がらせ、慎重に図書室の戸を開ける。こういう場面は脅かしの定番だからだ。しかし。
 長い髪の幽霊は、地面に体を横たえていた。
「これ……!」
 ノゾミは息をのむ。リョウは顔色一つ変えず、スタッフの前に膝をついた。
「気を失っているだけみたいだな。だが……」
 ノゾミがリョウの隣に屈みこむと、スタッフの首に青黒い手形がついているのが見えた。
「おそらく、霊的な干渉を受けている」
「気づいちゃったからには、放っておく訳にもいかないよね。……ボクらには関係ないのに」
 二人きりの時間を邪魔され、ノゾミは不満そうに口をとがらせる。
「けど、やるんだろ?」
「うん。スタッフや一般のお客さんもいるだろうから、はやく原因つきとめなきゃ」
 頷けば、ぽんぽんと頭を撫でられた。喜ぶべきか、子ども扱いを不満に思うべきか。それでも、一歩下がってついてくるリョウを見れば奮起せずにはいられない。彼が頼ってくれるのは、純粋に嬉しいことだ。
「……どこから湧いて出たのかわからないから、一匹ずつ始末してくしかないね」
 どうやら『本物』のお化け達は、個体で散発的に出現しているようだ。
「倒しながら校舎内を進もうか」
 華奢なくせに頼もしい背中を見つめながら、リョウは心中でひとりごちていた。
(一般人に気を使うか……弱点にならなきゃいいけど)
 小さな子供、赤ん坊を抱いた母親、枯れ木のような老人。木造校舎には似つかわしくない、統一感のない霊たちを滅しながら進む。
「次は……」
「ノゾミ、そっちは順路じゃないよ」
「え?」
 気づいた時には、先客らしきカップルと鉢合わせしていた。
「あ、道、間違えちゃったかなー……あはは」
 ごまかそうとしたところへ、タイミング悪く着物姿の幽霊が現れる。
「なんで校舎に和風の幽霊?」
「な、なんか入るごとにストーリーが変わるって話だから。演出だよきっと!」
 慌てるカップルを横目に、ノゾミはきゅっと唇を結ぶ。
(これも本物……!)
 一般人の前で力を使うのは好ましくないが、そんなことも言っていられない。鋭い氷の針を敵の額へと撃ち込んだ。霊は恨みがましい断末魔を上げ、ノゾミを睨みながら消えていく。ノゾミはまるで動じていない様子でべーと舌を出した。
「すっげ……」
「こ、これも演出?」
 あっけにとられた様子のカップルが、そろってノゾミへと視線を注いだ。問いには答えずに、ノゾミはにっこりと笑った。
「高校生退魔士、出動中です」
 カップルたちを安全な方向へ誘導すると、彼らは再び気配を辿る。
「大物はあっち、かな?」
「地図によると……そっちは体育館だな」
 ゲームに例えるならボスキャラ。その瘴気に惹かれてか、雑魚たちの気配も多い。
「観衆を蹴散らしてステージジャックしておいで。ノゾミが一番素敵だよ!」
 リョウの声に呼応して、青い霧が密度を増していく。誰がこの空間を支配しているかは、一目瞭然。
「さ、観念してよ! ボク今、機嫌が悪いんだから!」
 『ボス』はどろどろとした液体を纏った黒い人型だった。複数の悪霊たちが混じりあったキメラ、といったところか。禍々しいうめき声を上げ、ノゾミへと手を伸ばそうとするが、立ち込めた霧がその動きを阻む。おまけに視界までが奪われ、悪霊は忌々し気に腕を振る。
「無駄だよ」
 うなじに突き刺さったのは、冷たい視線。否、身震いするほど冷たい氷の針。溢れんばかりだったチカラが霧消する感覚。穴をあけられた風船のように、あっけなくソレは消え去った。
「さすがだね。……ん?」
 リョウはふと、壁にある落書きに目を止めた。
「魔法陣か。悪戯にしてはタチが悪い」
 無造作にちぎって無効化する。
「これが原因ってわけか」
 ノゾミはリョウに問うような視線を向ける。どう対処すべきか迷っているらしい。
「誰にも言う必要ないんじゃない? 僕らは一般客だしね」
 集めた霊たちを放置していたことを考えると、何か目的があってやったことではないのだろう。悪質な悪戯としか言いようがない。
「ほら次のアトラクションに行こう」
 暗い校舎内から、光あふれる屋外へと踏み出す。悪霊の干渉さえなくなれば、スタッフたちもすぐに正気を取り戻すことだろう。
「おなかすいちゃったね。まずはお昼にしよっか?」
「だな。頑張ったご褒美に、好きなもの頼んでいいからな」
 ノゾミは頷く。
「食べ終わったら、ジェットコースターと、ゴーカートとー……そうだ、足漕ぎボートも乗ろうね!」
 デートの定番、とノゾミは目を輝かせる。いったいどこで覚えてきたのやら。
「3時にはスイーツ食べて、観覧車に乗って夕日と夜景を見て……時間足りないかも!」
 ぐいぐいと腕を引くノゾミ。
「大丈夫、まだお昼になったばかりだよ。ノゾミのやりたいこと、全部やろう」
「本当? ……じゃ、手つないで?」
 ノゾミが振り返って手を伸ばす。服につけられたピンクのバッジがなんだかおかしくてリョウは笑う。
「今日はカップルだからな」
 言い逃れはできようもない。白い手を包み込むと、ノゾミの頬が朱色に染まった。
「別に今日限定じゃなくていいんだけどなぁ」
 甘える子猫のような『恋人』の視線が、隣から注がれた。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【青霧・ノゾミ(8553)/男性/16歳/研究室専属警備員】
【伊武木・リョウ(8411)/男性/38歳/研究員】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、高庭ぺん銀です。この度はご発注ありがとうございます。
口調や行動などの違和感、その他不備などございましたら、お手数ですがリテイクをお掛けください。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしています。
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2017年10月02日

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