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『ハロウィンナイト・ダンシング・イズ・ブラッドプリンセス 』
松本・太一8504

ハロウィンナイト。
それは魑魅魍魎、妖怪、魔物に至るまで様々な仮装が許される祭り。
本来は人間が楽しむのが目的ではあるが、そこに『チガウモノ』が混ざっていたとしても気づかれないだろう。
そう、今夜だけは。
道行く仮装の行列、それを横目で見ていた女性がすれ違った男性が落とした物を拾い上げる。
暗くて見えないがそれは棒状の何か。
「あの。落としましたよ?」
「ありがとう、どうもくっつきが悪くてね……」
男は棒状の物を受け取ると、自らの左腕の付け根にそれをくっ付けた。
「ずいぶんと本格的な仮装なんですね」
「ああ、今日は……そういう日だろう。くっくっく」
怪しく微笑んだゾンビ姿の男は去っていく。
その腕からは血液が滴ってたのだが、今日はハロウィン。
それを可笑しいと思うものは、誰一人いないのであった。



都内某所、ハロウィン会場。
そこではある企業主催でハロウィンパーティーが開催されていた。
「おお、なんと美しい……」
「か、彼氏とか……いるのかな!? あぁッ! でも声かけられないあんな美人!」
吸血鬼の仮装は数あれど、その人物が身に纏う衣装は漆黒の吸血の花嫁……まさに吸血姫である。
彼女が歩くたび、その美しい立ち振る舞いと美貌に多くの者達が魅了されていく。
だが当の本人は溜め息を一つ。
それもそのはず、彼女――もとい彼は悪ノリした友人達によって女装させられていたのだから。
「いつものこととはいえ、なぜこの様な……はぁ」
溜め息をつきながら、手に取ったグラスのワインを血を飲む吸血鬼の如く松本・太一は飲み干す。
と、その時会場の端から悲鳴が上がった。
それは演出などではない、本気の悲鳴である。
松本が視線を向けるとそこには数体のゾンビが会場になだれ込んで来た風景があった。
ただならぬ雰囲気を感じた彼は姿勢低く走る。
異界が発生したらしく、次の瞬間そこにはもう彼とゾンビ達しか姿はなく悲鳴を上げた一般客達の姿はない。
「全く、様式美とでもいいたいんですか!」
ゾンビの一体を跳ね飛ばし、壁に叩きつける松本であったが背後からの奇襲への反応が遅れ背中を爪で深く切り裂かれた。
赤い血が滴り、床に数滴滲んだ染みを作った。
「くっ……思った以上に動き辛いですねっ」
本来の彼ならばこの程度のゾンビ達に後れを取ることはない。だが今の彼は仮装している状態で動きに制限が掛かっている。
力を発動させてしまえば事は済むのだがそうなればこの異界の空間ごと破壊され、現実世界への影響は計り知れないだろう。
上手く動けない状態ながら松本は飛び掛かるゾンビの攻撃を紙一重で躱し、まだある程度自由が利く腕をダンスの様に振り回し彼らを吹き飛ばす。
痛覚のないゾンビは倒れても倒れても起き上がり、彼へと飛び掛かる。
「グゥゥゥアアアアア!」
「まだ動くか、それならっ!」
松本は衣装を破かない最小限の動きで腕を突き出し、掌底の要領で迫るゾンビの顎を打ち抜いた。
衝撃でぐきりと折れたゾンビの首があらぬ方向を向き、そのままどさりと崩れ落ちて動かなくなる。
「やはり頭をどうにかすれば、行動が止まりますか」
それから何体倒しただろうか。
次から次へと湧き出るゾンビを相手に松本は立ち回り、すでに衣装はぼろぼろで肩で息をしながらなんとかその場に立っているという状態であった。
そこに拍手と共に声が聞こえてくる。
「いやぁーブラボーブラボー! 吸血姫のダンス、この目でしかと見届けさせてもらったよ。うん、汚れた姿も実に美しいね」
「どなたですか……?」
「ん? ああ、自己紹介がまだだったね、私はゾンビィィィール48世。ゾンビ一族の末席に置かせてもらっているものだよ」
そう言った彼の右腕がぼろりと落ちるがゾンビールはそれをまるでいつもの事の如く、ひょいっと拾い上げてくっ付けた。
「はっはっは、すまないね。どうも私の右腕は付きが悪くて……」
戦闘態勢を崩さずに松本は目の前のふざけたゾンビへ問いかけた。
「それで、そのゾンビが何の用なんですか?」
「それはわかりきったことだよ。モンスターやクリーチャーの分類で我々ゾンビは最下級に位置している。人間相手なら脅威だが、同じ異形相手ならばザコ同然だ。それはいかんともしがたい事態なのだよ。古参である我々が!吸血鬼や狼男、ましてやミイラ男などに負けているという事態は許せんのだッ!!」
そう叫んだゾンビは剣を投げ、松本の足元に突き刺した。
そして自らも腰に帯刀していた豪奢な剣を抜く。
「何の真似ですか……?」
「わからないかね、決闘だよ。正々堂々とした、ね。我らゾンビが振興クリーチャーでもっとも名が知れている吸血鬼……いや吸血姫と呼ぶべきか、まあ君を倒せば地位向上も夢ではないという事だッッ!!」
完全に勘違いされている気がしなくもないが、異界を放置するわけにもいかず松本は目の前の剣を抜いた。
「それでいい、吸血姫よっ! さあ、死合おうぞぉぉーッッ!」
ゾンビールは左手で剣を振り被ると瞬く間に松本との距離を詰めた。
咄嗟に危険を察知した松本は後ろに体を逸らすと、先程まで上半身があった位置をゾンビールの剣が斬る。
返す刃で切り上げてくるその剣を自らの剣で受けるとぎりぎりと松本とゾンビールは鍔迫り合いとなった。剣が擦れあい、軋む様な音を立てる。
「どうした!? 吸血姫ェッ! この程度だというのかぁッ!!」
「こっちだって、色々あるんです……!」
くすくすと誰かに笑われている気がするが、松本は彼にしか聞こえないその声を今は無視する。
ゾンビールを履いているヒールで蹴飛ばすと、松本は体勢を崩しているゾンビールに狙いを定め彼を両断した。
ずしゃりとその場に崩れたゾンビールは動かなくなり、戦い――決闘は松本の勝利となったのである。
「見事だ……そして、実に良い、なが……」
「なッ!?」
驚く松本が下を見るとゾンビールの首はスカートの中、松本の真下にあったようだ。
どうやら両断した際に転げ落ちてそこに至ったらしい。
「これぞ至高の……ぶべらぁっ!」
鋭く尖ったヒールの踵がゾンビールの頭を踏み砕き、彼はさらさらと霧散していった。
次第に異界が通常世界へと戻っていく。
深い溜め息をつきながらが松本は事件解決に安堵するのであった。
背後から友人達が彼に声をかける。
「おい、どうしてそんなボロボロなんだよ? そんな趣向だったっけか?」
まじまじと傷をよく見ているが戦慄する様子はない。
どうやら友人達は血が固まりかけている背中の傷も他の傷も特殊メイクか何かだと思ったようである。
「ええ、ちょっと」
「ちょっと?」
「……ゾンビとダンスを踊ってきたんです、今日はハロウィンナイトですから」
そう言うと松本はテーブルにあったグラスを掴み、くいっとワインを飲み干すのであった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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1003373/松本・太一(8504) /男/48/会社員/魔女

【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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遅れまして誠に申し訳ありませんでした。
次回以降、このようなことがないように致します。
初のOMC作品となりますのでつたない所もありますが、
楽しんで読んで頂けたら幸いです。
ご注文、ありがとうございました。
東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2017年10月03日

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