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『紅から黒へ 』
シルヴィア・エインズワースja4157

「これから全ての仕上げをするわ」

 シルヴィア・エインズワース(ja4157)と黒い少女が廊下を歩いている。
愛しい人は白い少女にどこかへ案内されていって隣にはいない。

「仕上げ?」

 これまでも様々な『仕上げ』を受けてきた。
 自分で言うのもあれだが、愛される姫としてかなり完成されているとシルヴィアは考えている。

「これ以上仕上げが必要なのかしら」

少女に手を引かれるままにやってきた部屋で、そんな疑問をぶつける。

「それはもっともな質問ね。確かに色んな部分を仕上げてきたわ。でも、全体を仕上げる事は一番大切じゃないかしら」

 その説明で、シルヴィアはなるほど。と納得した。
 それぞれのパートがどんなに素晴らしくても、全体のバランスが取れていなければ良い音楽にはならない。
 学園で音楽を専攻しているシルヴィアにはそれがよく分かる。

「と言っても、いつもとそんなに変わらないのだけれどね。幾度かの夜を私と過ごしましょう。その間に 、より姫に相応しくなる様に導いてあげるわ」

 貴女の恋人はもう一人がちゃんと導いてるから心配しないで。そう続ける少女に、変身を遂げた恋人との対面を想像する。

『離れている時間が想いを育てるということもあるものね』

 シルヴィアが少女に意識を戻すと、少女は豪奢なドレスに身を包んでいた。

「いつも思うけれど、魔法のようね」

 似合っているわ。と微笑むシルヴィア。
 しかし、いつもなら返ってくる子供らしい笑顔とお礼は返ってこない。

「……何をしているの。跪きなさい」

 威厳のある高貴な物言い。いつもの彼女にある茶目っ気は微塵もない。
 その言葉に、シルヴィアは思わず膝を折っていた。
 彼女の意思で、と言うよりは言葉に体が反応した。と言う方が正しいかもしれない。

 綺麗な半円を描き広がるドレスにつられて動いた空気が自分の行動に戸惑う彼女の鼻を懐かしい香りがくすぐる。
 いつか、本当の愛の形を確信した時にも香っていたほんのりスパイシーな甘い香り。
 あの時のことを思い出し、頭を垂れたまま、そっと左の薬指に視線を移す。
 ここに輝く指輪を見るたびに、彼女との絆を感じることが出来る。
 先程の少女と同じ様に、命令をくれる彼女は今、何をしているのだろう。

「……?」

 無言で取られる手。
 視線に先に写っていた絆がシルヴィアの指を滑り、少女の手の中に収まって見えなくなった。
 何をするのかと顔を上げるが少女は何も言わない。

 冷ややかな視線のまま、シルヴィアが冠していたティアラも少女の手によって外される。
 どちらも確かに少女の手にあるはずだ。
 それなのに見えないのはなぜだろう。周囲にテーブルの類もないのに……。
 いや、この店では不思議なことばかり起こる。きっとその一つだろう。
 シルヴィアはそう考え直す。
 目の前の少女が自分を悪い様にした事はない。
 それよりも、終わったらちゃんと返してもらわなくては。
 あれは大切な女王との絆……

 ーパチンー

 彼女の思考を打ち消すように少女の指がなると、真紅だったドレスが一瞬で純白へと戻った。

「え?」

 急に色を失ったドレス。
 自然と視線はドレスの裾へと注がれる。
 赤いドレスは大切な彼女との……。

『……?大切?彼女が?』

 どうしてそんなことを思ったのだろう。シルヴィアは内心首をかしげる。
 確かに彼女とは親しい間柄だ。だがそこまで入れ込む様な相手だろうか?
 過去はともかく今はとてもそうは思えない。

ーパチンー

 再びなる指。
 その音に呼ばれた様な気がしてシルヴィアは再び顔を上げる。

「あぁ」

 その瞬間、溢れた声は確かに熱を帯びていた。
 この感情の名前は分からない。
 だが、こんなに素敵な人が近くにいるのにどうして気がつかなかったのだろうと心からシルヴィアは後悔した。

『でも、良かった。まだ遅くないみたい』

 視界の端に映るのは自分のドレス。
 純白だったそれは白と黒のモノトーンに変化している。
 その黒がチャンスをくれているような気がしたのだ。
 先程までとは違うティアラが少女の手によってシルヴィアの頭を飾ると心から安堵の息が漏れた。

『この気持ちは中世を誓えることへの喜び。そして』

 何をすればいいのかなど、シルヴィアには分かりきった事だった。

 左手を差し出す事に躊躇いはない。
 理由はわからないが、幼い女王の手にある指輪は自分のものだと言う思いが彼女の中に溢れていた。

 左手の薬指に収まった指輪に愛おしそうに口付けるシルヴィア。
 その表情は愛する人と結ばれた事への喜びに溢れていた。

「誓いの言葉を」

 黒の少女、もとい女王の言葉に佇まいを正しシルヴィアは口を開いた。

「私、シルヴィア・エインズワースは、その命が終わるまで貴女だけを愛し、貴女だけに仕える事を誓います」

 なんて素敵な事だろう。
 自分の言葉を耳で聴きながら、これこそが自分がここにやって来た本当の理由だとシルヴィアは感じた。

 朧げだった気持ちが急速に固まり彼女の心に刻まれた瞬間だった。

 漆黒のドレスを見にまとい、女王からの口づけに喜びうっとりとした表情で受ける彼女の姿はまさに黒の姫であった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja4157 / シルヴィア・エインズワース / 女性 / 23歳 / 塗り替えられた心 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは。 お久しぶりです。
 今回もご依頼頂き本当にありがとうございます。

 シルヴィア様の心が変わっていく情景をお楽しみ頂ければと思い執筆させて頂きました。お楽しみいただけたら幸いです。

 お気に召されましたら幸いですが、もしお気に召さない部分がありましたら何なりとお申し付けください。

 今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
 またお会いできる事を心からお待ちしております。
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龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年10月05日

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