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『夢中エスコート 』
エクトルaa4625hero001)&アクレヴィアaa4696hero001

「レヴィアお姉ちゃん、こっちこっち!」
 晴れやかなスカイブルーのワンピースが、アクレヴィアによく似合っていた。心の高揚をはっきりと感じながら、エクトルは彼女に手を振った。ふんわりとした膝丈のスカートを翻して歩く、可憐な少女の姿をしばし眺める。
「お待たせしました。今日はよろしくお願いしますね」
「うん、こちらこそよろしくね!」
 ここは都内某所にあるレジャーランド。ちょうど夏休み期間ということもあり、子供たちの姿が多くあった。
「今日のお洋服とっても似合ってるね!」
 素直に感想を口にすれば、アクレヴィアは嬉しそうに礼を言う。すぐそばを中学生くらいの男女が手を繋いで通り過ぎていく。こほんと咳払いしたエクトルは、そっと手を差し出した。
「では参りましょうか、レディ?」
 淑女の微笑みを浮かべたアクレヴィアは、エクトルの手に自分の手を重ねた。

 親愛なるレヴィア嬢に『でーと』のお誘いをしたのが数日前。快諾してくれた彼女のため、エクトルははりきってデートコースを吟味した。目的地に来めたのは、今人気のレジャーランド。詳しい計画は内緒にし、入り口の前で待ち合わせをした。
 二人が最初にやってきたのは、様々な種類のプールのあるエリアだった。
「まずは波のプールに行こう!」
 エクトルは言った。海のような波が体験できるのだと説明すると、アクレヴィアの瞳が輝いた。手にはレンタルした大きめの浮き輪、水着は花柄のワンピースデザインだ。
「わ、波が来たよ!」
「ふふ、冷たくて気持ちいいですね」
 波打ち際に足を浸すと、ざぶりと言う音と共に人工の波がふくらはぎ辺りを撫でていく。視界いっぱいに、波に身を任せてたゆたう人々の姿が見える。壁にはブルーのイルカや、真っ赤なタコ、カラフルな魚たちなど、ディフォルメされた海の仲間たちが踊っている。
「もう少し深い所に行ってみようか?」
 浮き輪に体を通し、透明な水の中に腰ほどまで浸かってみると、先ほどとは段違いの波の勢いを感じられた。思わずエクトルは後ろへたたらを踏む。
「大丈夫ですか?」
 アクレヴィアが振り返る。自分も、気を抜いたらあらぬ方向へ流されてしまいそうだ。
「うん、平気。ちょっとびっくりしちゃったけど」
「このままだとうっかりエクトルとはぐれてしまいそうです。よかったら手を繋いでもらえませんか?」
 精一杯背伸びをして、自分をレディとして扱ってくれるエクトルの気持ちが嬉しい。彼のエスコートはありがたく受け取りつつも、これくらいのさりげなくサポートくらいは許されるだろう。
 しっかりと手を繋ぐと、ちょうど次の波がやって来た。ふたりの体は、同じタイミングでふわりと浮き上がる。ふたたび水底に足がつくと、顔を見合わせて笑う。まるで宙に浮いているような感覚だった。時間にして数秒、距離はたったの数メートルの空中浮遊を、彼らは繰り返し楽しんだ。
「ここから滑り降りるのですか? 面白そうですね」
 長い階段を昇ってやってきたのは、ウォータスライダー乗り場。高く歓声を上げて客たちが滑り降りていく。
「ここのスライダー、超怖いって兄ちゃんが言ってたよ」
「えー! お前先に行けよ!」
 前に並んでいる子供たちが騒いでいる。不安になったのか、エクトルの表情が少し曇った。
「わたし、こういうものに乗るのは初めてなんです。早く滑ってみたいです」
「じゃあ、レヴィアお姉ちゃんが先に行く?」
「はい。お言葉に甘えて」
 勢い良く滑っていくと、道のりはあっという間だ。ゴールの浅いプールにたっぷり水しぶきを上げて飛び込む。アクレヴィアは濡れてしまった髪をかき上げると、スライダーの上のエクトルへと呼びかける。
「とっても楽しいですよー!」
「……うん! 今行くね!」
 勇気をもらったエクトルがコースの淵から手を離す。風を切りながらの空の旅。波のプールでの浮遊感とはまた違って面白い。
「どうでしたか?」
「お姉ちゃんの言ったとおりだった!」
 前に並んでいた子供たちは既に階段を上っていた。どうやら彼の兄は悪戯好きらしい。
「もう一回、行かない?」
「いいですね!」
 そんなことを言いながら、エクトルとアクレヴィアは微笑み合った。

 昼食を済ませた後は、遊園地エリアへやって来た。お化け屋敷が人気アトラクションの一つらしく、行ってみることに決めていた。蔦が壁を這う灰色の洋館。西洋の城を思わせる外装は、エクトルに不思議な懐かしさと、それを塗りつぶしてしまう程の恐怖心を抱かせた。
「レヴィアお姉ちゃんのことは、僕が守るからね」
 少しうるんだ瞳は、強い意志を持ってアクレヴィアを見据える。アトラクションに行くこと自体を断ることもできたが、アクレヴィアは彼の勇気に応えることにした。
 幽霊メイドに扮した案内係に見送られて重い扉を開く。一歩踏みこんで扉から手を離すと、きぃい、と不気味な音を立てて閉まった。その瞬間、低く重々しい声が聞こえてきた。
『小さき人間どもよ、ようこそ呪いの館へ。この扉を潜ったからには、もう後戻りはできぬ。貴様らに魔を恐れぬ心があるというならば、進んで見せよ!』
 二人は真剣な顔で頷き合う。頼りないランプの明かりが、レンガの壁と床を飛び飛びに照らしている。最初の一本道は何事もなく進み、曲がり角へとたどり着く。
 道の先に気配はないようだ。ひそかにそう判断して、アクレヴィアは足を踏み出す。
「だ、誰!?」
 突如、現れた人影。エクトルは短く叫んで、とっさにアクレヴィアを背にかばう。アクレヴィアがエクトルの肩越しに相手を観察すると、鎧甲冑であることがわかった。
「どうやら、置物のようですね」
「え……? 本当だ」
 恥ずかしそうにエクトルが眉を下げる。
「本物の敵だったら危ないところでした。かばってくれて、ありがとうございます」
「えへへ……どういたしまして!」
 物言わぬ甲冑は廊下の先にずらりと並んでいた。第一のチェックポイントは調理室。戸棚の中から鍵を見つけ、再び廊下にでる。そのとき。
「う、動いたぁ……!」
 先ほどの甲冑の一つがのっそりと動き出した。
「このお化け……なかなかよくできています」
 アクレヴィアは妙に冷静に呟いた。前の世界での彼女は成人であり、勇敢な騎士だった。この程度の仕掛けでは驚くことはない。
「はやく逃げなくちゃ!」
 エクトルに手を引かれて我に返る。甲冑おばけのターゲットは明らかにエクトルと自分だ。捕まってしまえばストーリーはバッドエンドとなってしまうだろう。
「次は、書斎でしたね」
 鍵に添えられていたメモを思い出して、アクレヴィアが言う。
「うん! あのお化けから逃げきったら探してみよう」
 息を切らしながらエクトルが答える。二人分の靴音が廊下を駆け抜けていく。
 アクレヴィアが騎士として在ったころ、この少年は彼女の後見人だった。筋骨隆々の壮年男性だったはずの彼は、この世界に来た際に愛らしい少年の姿となった。多くの記憶を失い、見た目通りの無邪気さを振りまく彼に戸惑いを覚えなかったと言ったら嘘になる。けれど今は、弟のような存在として彼を大事に思っている
 書斎にある隠し扉を開けると、白銀に輝く剣が安置されていた。添えられたメモには『聖なる剣にて魔を祓いたまえ』と書かれていた。
「これで悪いお化けを倒せるんだね」
「そのようです。この剣はあなたが持っていてくれますか?」
「うん、任せて!」
 エクトルもまたアクレヴィアを姉のように慕い、また一人の淑女として敬い、騎士として彼女を守ろうと思っていた。
 大広間の扉を開けると、天井近くまで届きそうな悪魔の姿があった。壁に映写された立体映像らしいが、その迫力にはアクレヴィアも感心した。
『うまそうな人間たちだ! ひと呑みにしてくれようぞ』
「そうはさせない!」
 エクトルが身の震えを抑えながら剣を構えると、アクレヴィアがそっと手を添えてくれた。
「聖なる剣よ、僕たちに力を貸して!」
 白銀の剣が強い光を放つ。力を込めて振り下ろすと、悪魔の姿が真っ二つに裂けた。騎士たちの勇気が魔に打ち勝ったのだ。

 デートの最後は、メリーゴーランドで夢の時間を。
「お手をどうぞ」
 エクトルは、白い馬に乗ろうとするアクレヴィアの手を取り、恭しく手助けする。
「あ……」
 アクレヴィアは小さく声を漏らす。いつかこんな風に手を取ってくれた人がいた。
(……姿形は違えど、この温かさは変わらないものですね)
 それは記憶の中に生きる『大人のエクトル』。
「レヴィアお姉ちゃん?」
 エクトルは隣の黒い馬へと跨る。
「……何でもありませんよ」
 白い馬に横座りしたアクレヴィアは、スカートを直す素振りでそっと目をそらす。一瞬だけ、瞼の裏で『父』の姿を思い描く。猛々しき騎士であり、実の娘のように愛してくれた優しき養父。今は弟の様に可愛い、エクトル。彼女を夢の中へと誘うように、幻想的な音楽が流れ出した。
「綺麗ですね」
 天蓋を飾るきらきらとした装飾をアクレヴィアが見上げる。エクトルは彼女が急に大人になってしまったように錯覚した。其処には――きらびやかな夢の世界には、在りし日の二人が去来していた。

 あっというまにお別れの時間が来てしまった。夏の太陽は大きく首を傾げて、空に浮かんでいる。
「今日はとても楽しかったです、本当ですよ? また、誘ってください」
 ちょっぴり照れくさくて、何よりも嬉しい言葉。エクトルの頬が上気する。
「もちろんだよ! また遊びに行こうね!」
 満面の笑みを浮かべるエクトルと優しく微笑むアクレヴィア。二人の姿を黄金の太陽がまぶしく照らしていた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【エクトル(aa4625hero001)/男性/10歳/ドレッドノート】
【アクレヴィア(aa4696hero001)/女性/12歳/シャドウルーカー】
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2017年10月10日

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