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『この秋、旬のファッションアイテムとは限らない 』
ゼム ロバートaa0342hero002)&ウィンター ニックスaa1482hero002


 日常生活で服装に困った、という記憶はない。
 ゼム ロバートにとって、服は動きやすければ充分だし、戦いに支障をきたさなければ問題いものという認識。
 なので、今日もゼムが所属している部隊『レイヴン』にて女性陣がファッション雑誌を開いてなにやら盛り上がっている様子を遠巻きに眺めていた。
(何が楽しいんだか……)
「お。今日はゼム殿が先だったか」
 そこへ、長い青髪に金の角という目立つ出で立ちの青年が顔を出した。ウィンター ニックスだ。
 レイヴンに所属する第二英雄では、ゼムとウィンターしか男子がいない。貴重な同性枠である。 
「何やら賑やかだが……なるほど、そういう季節だったな」
「どんな季節だ」
「シーズンの先取りアイテムが店頭を飾る季節だ!」
「……?」
 女性陣の会話が漏れ聞こえ、それ1つで全てを察するウィンターに対してゼムは頭の中が疑問符だらけになる。
「要は『この秋、新しい服どれを買うー?』というヤツだな。ゼム殿も記憶にあろう?」
「ない。季節ごとに服を買いそろえる必要なんかあるか? 物持ちが悪いだけだろ」
「それも一理だな。しかし、新調すると外出も楽しくなるぞ!」
 ウィンターがニカッと笑うと、ゼムはキョトンとし、それから急に黙り込んだ。
(……外出、か)
「そういや、色男はその辺りピシッとしてるよな。オンとオフの切替っていうのか?」
 それも奇抜な服装ではなく、自身に似合うものを選んでいると感じる。その点は、純粋に見習いたいとゼムも思う。
「そう言われると照れるな! ゼム殿は――……」
(『一張羅しか持っていなさそう』、は言ってはいけないな!)
「あー。俺は深く考えたことがない」
 ウィンターが言葉を探す間に、ゼム自身が答える。
「ふむ。めったに買いに出掛けないのであれば、今年は考えてみないか? 某で良ければ同行しよう」
 提案を受けて、ゼムは愛用しているシャツの裾を引いて黙考した。
(……確かに、似たような物ばかり買っている、か)
 そのことに不足を感じたりはしないが――『たまに』違ったものを選ぶのも悪くないかもしれない。
「そうだな」
 自分へ言い聞かせるように、ゼムは頷いた。
「それでは、服選びのコツとやらを教えてもらおうか……」
「うむ! 日取りは次の休みで良いか? ゼム殿に似合いそうな服を置いている店を何軒か当たりを付けておこう!」
「……!?」
(1軒でまとめて買うんじゃないのか……!?)

 お洒落な色男の考えがわからん。
 しかして、こうして2人の約束は取り交わされたのだった。




 心地よい秋晴れの休日。
 賑やかな繁華街。
 待ち合わせは街中の公園。

「おい、色男。いつまで待たせるつもりだ」
 待ち合わせ時間になっても延々とナンパをしているウィンターの背へ、ゼムの声が冷ややかに投じられる。
「取り込み中のところを悪いが、時間だ」
 割り込んできた銀髪の青年。その眼付きの鋭さに、ウィンターと会話をしていた女性がビクリと怯えの表情を見せる。
「おぉ、これはすまない。某も約束を忘れたわけではないぞ! しかし、ここでこうして待っている間に麗しい女神が」
「良いから行くぞ」
 ゼムが、やや強引にウィンターの手を引く。それから麗しい女神に聞こえないように、ボソリと。
「ありゃ、男だ。それでも良いなら止めないが」
「!?」
「前に仕事がらみで行った店で見かけた」
「……今日は良い天気だな、ゼム殿! さぁ行こうか!!」
 ウィンターは何事もなかったかのようにゼムの背をバシーと叩き、女神にウィンクを飛ばして別れを告げた。


「しかし、お前が相手だと待ち合わせに困らないな」
 金の角を指し、ゼムは喉の奥で笑う。
「便利であろう。ただ、悪いことができぬ。目撃証言ですぐ特定されるからな!」
「お前が悪いことを? まぁ……仕事が結果的にそうなる場合もあるか。大変だな」
「……ゼム殿」
 ウィンターの軽い冗談だったというのに、ゼムの横顔は真剣そのものだ。
 彼の誠意を笑ってはいけないが、和む。
「手始めは、この店だ。ゼム殿の好みが知りたい、まずは自由に選んでみてはくれぬか」
「お。おう」
 話している間に、目的地に到着していた。
 大きなファッションビル。今日は、このビル内を巡る予定だ。
「自由に……か」
 1軒めは、一般的なカジュアルファッションの店。
(これは生地が固い……走りにくいな。こっちは色が目立ちすぎる、戦場で的になるつもりはない)
 普段の思考回路でゼムが手に取っていくのは、ウィンターも見慣れた『いつものゼムの服装』。
「お客様〜、今日はどのようなものをお探しですか?」
 そこへ、気さくな女性店員が近寄ってくる。
「……しまった」
 『いつもの』ものばかり手にしていたとゼムも気づく。
「普段はこういったものを選びがちだが、『秋らしい』ものとなれば、何が良いだろう」
 客の目つきの悪さに店員は怯える様子もなく、つま先から頭まで、じっくりと見てからゼムが選んでいた服を受け取る。
「そうですね……。今年の流行とお客様の普段のお召し物から考えますと――……」
 帽子、ジャケット、シャツ、パンツ、ベルト、靴、アクセサリー類。
 一式を3パターン程、ズラリと並べ試着室へ。
「……なるほど。これは悪くないな」
「お姉さん。こちらの服の他の色が見たいのだが、探してもらっても良いだろうか?」
「は、はい、かしこまりました!」
「!? まだ探すのか。これで良いんじゃないか?」
 その場で全て買い上げようとしたゼムに、ウィンターが首を突っ込む。
「上から下まで固めたものを買ってしまうと、応用ができなくなるのだ」
「おうよう」
「この店ではシャツを買うことにしよう。何色か持っていると便利だぞ」
「べんり」
 言葉の意味は分かるが、それを服装へ当てはめる意味が解らない。
 ゼムは、ウィンターの言葉をそのまま繰り返す。
 ウィンターにすれば、トータルで購入させようとする・購入しようとする店員と客の様子に危険を感じたことが大きいのだが。
 靴やアクセサリーまでとなれば行きすぎだろう。参考までにというつもりだとしても、ゼムは真正面から受け止めてしまう。
「さて。次の店へ向かうぞ、ゼム殿!」




(ゼム殿は暗色系が好き、か……。それをベースに、デザインで変化を付けるのが良いだろうな)
 パンク系が普段の好みに近いのでは、とウィンターは見当をつける。
 かといってゴテゴテしたもので街中を歩くのは威嚇して回るようなものだし、ライトな路線を扱う店へ。
「……おぉ」
 一歩入り、ゼムの目の色が変わる。ウィンターの考えは的中したらしい。
「お客様には、こちらが似合うかと」
「このシャツに合うようなアウターはあるか?」
 厳ついジャケット数点を持ってきた男性店員へ、ウィンターは笑顔で先ほど購入したシャツを見せる。
「なるほど……少々お待ちください」
「凄ぇな、色男」
 カドを立てず相手へ的確な要求を示す姿に、ゼムは素で感心している。
「これが『応用』だな、ゼム殿! 上着は1つだが、中のシャツを変えるだけで印象が違ってくる」
「……ほう」
(『便利』とは、そういうことか……。確かに便利だな)
 店員が持ってきたのは、パーカー・革ジャケット・ロングコート。どれも、先に比べて尖りすぎないデザインだ。
「中に着るものが決まっていれば上着も違うのか」
「うむ。では、パーカーとジャケットをキープしよう。また来る!」
「え、ここで買わないのか」
「もう少し見てから決めよう。このビルは広いからな!!」
 ウィンターの対応へ店員は気を害するそぶりもなく、笑顔で2人を見送ってくれる。
(こ、これが服選びのコツか!)
 自分には全くない発想だ。ゼムは、迷いなく進むウィンターの半歩後ろをついてゆく。


「先程の店とは少しばかり系統が違う。ここも覗いてみよう」
「おう。……色合いが明るめのモノが多い……のか?」
 3軒目は、グランジの店。
「今年でしたら、こちらが流行のコーディネートですね!」
 ウィンターが止める間もなく、ベテラン女性店員がゼムを拉致する。
「む……。少し重い気もするが、着心地は悪くない」
「……ふむ」
 試着室から出てきたゼムを、ウィンターは腕組みをして眺める。
 悪くはないが、ゼムの顔立ちを含めると印象がよろしくないのでは。やや荒っぽい服装に思う。
 ゼムは気に入っているようだし、どうしようかとウィンターが悩む。それを、ゼムは違う方向へ解釈したらしい。
(流行とは言っていたが、嘘なのか……?)
 眉間に皺をよせ、店員を軽く睨む。
 ゼムは、この世界のセンスについてよく解かっていないものだから、口車に乗せようとされても気づけない。
 女の店員に悪意があるとは思えないが、先の店員とは違う雰囲気だけは感じ取れた。
 『ゼムに合うもの』を選んだわけではないのでは。という疑念が浮かぶ。
(いや、それでも俺なら何を着ても似合うが)
 売り手の考えが、好かない。
「ここは出るぞ、色男。次の考えを知りたい」
「承知した」
 流行が全てではない。
 ゼムの中の『信じる相手』が、店員よりウィンターへ比重が大きく置かれた瞬間を察して、色男は御機嫌に笑顔を返した。


 4軒目。ここで最後にしようとウィンターが案内したのは、ライダー系ファッションの店。
「取り置きをしてる店よりは機能的なモノが多いな。靴や小物類はここで揃えられると思うぞ」
「たしかに、動きやすそうだ!」
 デザインはシンプルなものが多いから、『何を着てもいつも同じ』印象に陥りやすいところが難しい。
 シンプルと機能性を兼ね備えた良い部分を、ここでは取り入れたい。
(装飾は、シルバーや革系が好きそうだな。全身のイメージが整ったら選ぶとしようか!)
 靴の履き心地を確認するゼムを見守りながら、ウィンターは1人で頷いていた。




 左胸にファスナーが2本入った立て襟タイプの黒革ジャケットに、細身のジーンズはライトグレー。
 足元はハーフ丈のライダースブーツでカッチリと。
 インナーを替えることで、重くもカジュアルにも印象付けができる。
 秋から冬にかけて、長く使えるはずだ。

「……おおお」
 大まかなチョイスはウィンターだが、それぞれ決断はゼムに委ねた。
 結果的に『ゼムが自分で選んだ服装』である。
「アクセサリーは某からのオマケだ。安物だがな。今日は楽しかったぞ!」
 シルバーのバングルを左手首に嵌めてやり、仕上げとばかりにウィンターが告げる。
「いや、世話になったのは俺だろ!?」
 ほぼ半日、付き合わせてしまった。その上、オマケをもらうなど。
 ゼムはしどろもどろし――
「そうだな……。そろそろ腹が減らないか。何か美味いものでも食って帰るか」

 あんたは何が食べたい、色男?
 素直ではない礼の申し出に、やはりウィンターはカラッとした笑いを返すのだった。 




【この秋、旬のファッションアイテムとは限らない 了】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0342hero002/  ゼム ロバート  / 男 / 26歳 / 初心者 】
【aa1482hero002/ウィンター ニックス/ 男 / 27歳 / 熟練者 】


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2017年10月11日

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