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『おとなのはなし。 』
星杜 焔ja5378)&姫路 ほむらja5415

 久遠ヶ原学園、某教室、ある麗らかな午後。

「お紅茶がはいったよ〜」
 瀟洒なティーカップに、星杜 焔(ja5378)が紅茶を注いだ。
「わー、いい香りです」
 姫路 ほむら(ja5415)が礼を述べる。彼の目線の先、卓上に並ぶのは豪勢なアフタヌーンティーセットだ。彼等の部活の一環として作ったものである。マカロン、小さなサンドイッチ、スコーン――いずれも焔が作ったものだ。ほむらはなぜかゲル状のモノしか作れないため、プリンの作成を担当した。

 今日は二人の妻および婚約者が不在なため、男二人でのお茶会だ。こう書くと字面が酷いが、実質は花のような美少女(♂)と、涼やかで儚げな美青年なので、どことなく耽美な雰囲気がある。

「実は俺も結婚が決まったんですよー」
 お茶会が始まって間もなくだった。ほむらが唐突にそんなことを言う。プレーン味のスコーンに、とろとろのプリンと甘さ控えめ生クリームを豪華に乗せて頬張りながら。
「へえ、君たちも学生結婚するのか〜。おめでとう〜」
 ミルクティーにした紅茶を一口、焔がニコリと微笑んだ。「ありがほうございまふ」とスコーンをもぐもぐほっぺいっぱいに味わっているほむらが言う。即席プリンアラモードスコーンは最高においしい。
 そんなほむらの姿――まだまだあどけなさの残る表情を見て、焔はしみじみとした気持ちになるのだ。
「出会った頃は、君は小学生だったのに、時の流れってはやいものだねぇ……」
「あはは、まるで親戚のおじさんみたいな物言いですね?」
 口元にクリームを付けたままという可愛らしい姿だが、これでもほむらは列記とした高校生なのだ。
 そう、高校生……高校生。は、と焔はティーカップを置いて今一度ほむらを見やる。
「あれ、でも君はまだ十六歳だよね。結婚できるまであと二年あるのか〜。君の彼女のあの娘、ふり〜だむだから婚約早いの意外……」
「ちゃんと幸せにするつもりです。責任は取りますよ」
「責任、かぁ〜」
「そう、それで」
 口の中の甘い味を、ストレートの紅茶でひとつ飲みこみ。きゅうりと玉子のミニサンドイッチに手を伸ばしたほむらが続ける。
「今日は俺達しかいませんし、先輩にいろいろ教えてもらえたらなー、なんて」
「もちろんだよ〜。俺にできることなら何でも聞いて〜」
 ニコニコと、焔はマカロンをつまみながら笑顔だった。実際、心は微笑ましさで満ちているし、大好きな人と家族になれるということはいいことだ。幸せなことだ。だからこそ、『先輩』として彼のお手伝いをできれば幸いだと思ったのだ。
「実は……来年には、うちの親父もとうとうおじいちゃんになるというか。望くんとしばらく遊べなくて寂しがってたからか、これが案外喜ばれて」
「へぇ〜……、おや、君も依頼で子供を引き取ったのかい〜?」
 父親がおじいちゃんに、ということは、そういうことなんだろうか。焔と妻の子も、任務を経て引き取ることを決めた赤ん坊だったからだ。
 が。
「養子じゃないですよ」
 と、ほむらは答える。
「へぇ〜……、 …… え? 今……なんて〜……?」
「だから、養子じゃないですよ」
「? ……? ……???」
 首を傾げ、それから反対側に傾げ、最後に天井を仰ぎ、無言のままの焔。
 養子じゃない。
 と、いうことは。
 つまり、つまり……そういうことで。生命の神秘というか。神秘のアレだ。
「今日は体調がよろしくないみたいだな……幻聴が聞こえてしまったよ……」
 額を押さえてヤレヤレポーズ。頭痛が痛いイケメンの構え。
「幻聴……? 何を言ってるんですか先輩」
 ほむらが長い睫毛に縁どられた瞳を瞬かせる。
「空が黒くなって、世界がどうなるかわからないから、悔いのないようにしたい……世界を守る決意になるものが欲しい、って言うんで。やっとあいつも俺を男扱いしてくれるように……」
 そのまま彼は、食べかけのスコーン片手に惚気るようにそう言った。事実、惚気である。幸せそうである。だがしかし焔は唖然呆然の愕然だ。ウッカリ、ティーカップを落として割りそうになった。ドラマだったら手から落ちてスローモーションでティーカップが割れている。
「ばかな……。あの……あの……姫路くんが……、男に……なった……だと……。ついこの間まで女の子だったのに……」
「いや、俺はずっと男ですけど……」
 どうしたんですか先輩、とほむらは怪訝げだ。焔は手にしたマカロンを握り潰しそうになっている。
「……そういや君は、俺を追いかけてこの学園に来て、そのまま俺の寮の部屋に転がり込んできたり、俺に外国式の挨拶(意味深)をしてきたり……つっぱしる方だったか……」
 マカロンを凝視したまま呟く焔。「やだなあ先輩、挨拶は数に入らないですよ」とほむらが爽やか〜に笑う。
「うっ なかったことにしてきたトラウマが」
 焔はマカロンを粉砕する前に口の中に放り込んで、ぐーーっと紅茶を一気に飲んだ。はぁ。深々と溜息を吐く。そのまま空っぽになった自分のティーカップに紅茶を注ぐ様は、まるで「何かして気を紛らわせてないとダメな方向に思考が転がりそう」とでも言わんばかりだった。
「いやそれにしても……おじさんにはちょっと刺激が強いので……別の話をだね……」
 ひきつった笑顔で閑話休題。
「え? あ……はい。それで先輩、大人の男としての先輩に聞きたいんですけど」
「大人の……男?」
 ほむらに尋ねられ、単語を繰り返す焔。確かに焔は成人済みではあるが。
「やっぱりね、こう、やるからには上手にしたいし、向こうにも楽しんでもらいたい訳じゃないですか」
「ファッ……!? エ エ?」
 宇宙人みたいな言葉が出る焔。ほむらの相談は続く。
「けど練習するわけにもいかないじゃないですか? 一緒に上手になれるのが一番いいんでしょうけど……やっぱり女の子はリードしてあげたいじゃないですか、男として」
「オトコトシテ……」
「ネットで色々調べてみても、マユツバっていうか……いや、俺も恥ずかしいですよ? 他の人にこういう話するのって。でも先輩は信頼できますし、やっぱり実体験を聴くのが一番かなって」
「アリガトウゴザイマス……?」
「いえいえー。で、先輩はどうなのかなって」
「ど……どうって……何が……かな……」
「何って……ナニですよ」
 お父さん指を、お母さん指とお兄さん指でサンドイッチするほむら。が、純粋すぎる焔には伝わらない。焔は地球に迷い込んだ宇宙人のような挙動不審さで冷や汗をダラッダラと流し続けている。
「先輩は週に何回ぐらいしてるんですか? どれぐらいがいいのかなーって……レスにはなりたくないし、でも頻繁過ぎると向こうが大変でしょうし」
「姫路くん……ナニって……ナニカナ!」
「ちょっと、もう、言わせないで下さいよまだお昼なのに」
「えっちょ」
「上達のコツというか、こうしたら喜んでもらえるよとかそういう……秘訣、というか?」
「ヒエッ」
「あ! でもあの子には内緒にして下さいよ? 知られちゃったら、恥ずかしいじゃないですか……」
「ファ……」
「で、どうなんですか先輩? もったいぶらないで教えてくださいよー……一生のお願いです! 俺だって恥を忍んでお願いしてるんですからっ!」
「ちょっ……と待って」
 思考が追い付かなくなってきては、焔は掌を突き出し俯いた。「待ちますけど……」とほむらの声。そこからしばしの静寂。時計の針だけカッチカッチと進んでいく。
「……」
 焔はまだ俯いている。ほむらはおそるおそると声をかけた。
「あのー……先輩?」
「姫路くん」
「は、はい」
「……俺は……」
 はぁ……。重い溜息。
「俺まだ……大人だけど大人ではないので……」
「へ」
「……あと八年でダアトなので……」
「あっ……」
 察し。
 数秒間の沈黙。
「先輩……まさか、」
 口を開いたのはほむらだった。

「三十路のダアト伝説を検証する為に、自らを犠牲に……!?」

 ぐさっ。
 安定した防御能力を誇るディバインナイトの焔にダイレクトアタック。クリティカル。

「すげー、誰にも真似できることじゃないですよ、結婚もしてるのに! すごい!」

 ぐさぐさぐさっ。
 防御性能も虚しく貫通攻撃、オーバーキルである。
 それはまさに虐殺、壮絶な惨劇だった。

「ガハッ」

 突然、大量吐血する焔。
「せ、先輩ーーー!?」
 これには流石のほむらも仰天。「ライトヒールしますか!?」とオロオロしている。
「……」
 が、焔は無言のまま、そして笑顔のまま、ゴボゴボ吐血したまま、ふらっと席から立ち上がった。
「あれ、先輩!?」
 どうしたものかとほむらが狼狽えている中、彼はそのままフラフラ〜っと歩き出して――しまいには走り出したではないか。鬼道忍軍もビックリの速度で。
「ちょっ 先輩どこ行くんですかーーー!? 先輩ーーーっっ!?」
 ほむらの声が学園に響く。

 その後、焔の姿を見た者はいない……。

 ……というのは誇張表現で。
 実際のところ、焔はあの後、精神的重体で倒れてしまったのだ。
 そんな焔は、保健室で目を覚ますこととなる。曰く、野良メディックが助けてくれたとかなんとか。だがしかし、野良メディックにも治せないものがある。それは心の重体だ。実際、焔は回復するまでかなりの日を要したという。回復までのその間、焔はずっと遠い目をしていたそうだ……。

 はたして焔は無事にディバインナイトになれるのか。
 彼の戦いはこれからだ!



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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星杜 焔(ja5378)/男/18歳/ディバインナイト
姫路 ほむら(ja5415)/男/16歳/アストラルヴァンガード
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エリュシオン
2017年10月12日

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