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『『初めての誕生日』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 流されるままに生きてきた生き方との決別、という意味で誕生日は自分で決めてほしい。
 そうアレスディアに言われて、ディラ・ビラジスは深く考えた……。
 固い。彼女は堅いのだ。ディラとしては、いつでも全然構わず、彼女に祝ってもらえるのなら薄着の季節がいいよなー程度にしか考えていなかったのだが。
 そう言われてしまうと、何か理由のある日じゃないと失望されてしまいそうで。
 ……選ぶのなら、アレスディアと合った日か、アレスディアと旅に出た日なのだが『重い』と思われてしまいそうで。
 カレンダーを見ながら、随分と悩み、決めた日は――。
 8月15日。今滞在しているこの国の、終戦記念日だった。

 その日の夕方に、アレスディアはディラと待ち合わせて、街に買い物に出た。
 夕食の買い物客で賑わうスーパーで、食材を選んで、籠に入れていく。
「これも」
 アレスディアが食材を選ぶ傍らで、ディラがアルコールや、酒のつまみを入れていく。
「こんなに高価なものを……」
「自分で払うからいいだろ」
 ディラが悪戯っぽく言い、アレスディアは仕方ないなと笑う。
 会計を済ませて、1袋ずつ袋を持って、スーパーを出る。
(共に食事の買い物をして、共に帰るなんて……家族みたいだ)
 ほのぼのと心の中が和んでいることに気づき、アレスディアはすぐさま(何を呆けたこと考えているんだ私は)と、心の中でひとりツッコミを入れていた。

 彼女の部屋は、家具付きのアパートのようにシンプルで飾り気がなかった。
 武具博物館のようになってはいないかと、ちょっと心配もしていたディラだが、さすがにそんなことはなかった。
 部屋にはささやかなキッチンと、ダイニングを兼ねたテーブル、2シーターのソファー、それから収納兼ねたオットマンが在った。
 あとは何故か、勉強関連の本がちらほらと。
「手伝えることがあれば、手伝うが……そのまえに、プレゼント」
 期待を込めた眼差しで、ディラがアレスディアを見た。
「う、むぅ……」
 食材を出す手を止めて、アレスディアはしばし悩む……が、約束は約束。してしまったものは、果たさねばならない。
「……あいわかった」
 彼女はディラに、ソファーに座って待っているように言うと、彼からもらったエプロンドレスを取り出して着用していく。
 ピンク色の、フリルがついた可憐なエプロンだ。
 そして、食材を準備し、器具を用意して、料理を始めようとするのだが……視線が気になる。
「ディラ殿、適当にその辺の本でも読んでたらどうだ? 出来るまで暇だろ」
「全然。クッキングの観賞楽しいし」
「料理、ではなく……」
 どうしてもディラの視線は自分に向けられているように思える。
「その……あまり、見ないでくれぬか……?」
「見られて何か困るのか?」
「困りはしないのだが……」
 料理をしようとするアレスディアだが、手が滑ってじゃがいもを床に散らばしてしまう。
「どうした? アレスらしくないな」
 言いながらディラが近づき、散らばったじゃがいもを拾っていく。
 彼の視線が間近に迫り、アレスディアは薄らと赤くなった。
「……見られるのは、嫌か?」
「……嫌、と、いうものかは、わからぬが……」
 アレスディアは湧き上がる良く分からない感情に戸惑いながら、蚊の鳴くような声でこう続けた。
「恥ずかしい……」
 彼女のそんな反応に、楽しげだったディラの視線が、何故か真剣なものに変わっていった。
「料理、しにくいから……本でも読んで待っててくれ」
「あ、ああ。早く食いたい。俺は飢えてるんだ」
 そう軽い笑みを見せて、ディラは大人しくソファーに戻っていった。
 それからは、本を見ながらちらちらアレスディアの方を見る程度で、対して視線が気になることもなかった。

 数十分後。
 出来上がった料理を、アレスディアはテーブルに並べる。
 バゲットに、キャベツと玉葱、ウインナーに調味料を加えて煮込んだポトフ。それから、炒めた大豆肉と玉葱をスープで煮て、トマトピューレ、カレールー、生クリームで煮込んだゲシュネットツェルテスという料理。
 先ほど買ってきたばかりの地元農家の新鮮な野菜が綺麗に盛られた生野菜のサラダ。
 苦みのある小さなショコラケーキと、アールグレイティーは買い出しの時に、2人で選んだものだ。
「コース料理かよ!? なんか……すまん」
 カレーに福神漬けで十分という感覚だったディラは、アレスディアが自分の為に、相当準備をしていてくれたのだろうと気づき、申し訳ない気分になった。
 もちろん、それ以上に凄く嬉しくて感激していた。
(ありがとう、アレス、良いお嫁さんになれそうだ……とか、可愛いとか言ってみたいが言えない、言えるわけがない)
 ディラは咳払いを一つして「ありがとう」と、感謝の言葉だけ口にした。
「食べてもいいか?」
「ああ……その前に……もう脱いでもいいか?」
 真剣な目でアレスディアがディラに問う。
(むしろ俺が脱がしてやる。食事の後で、中の服ごと……)
 など不純な考えがディラの脳裏に渦巻くが、ぐぐっとこらえてディラはこう答えた。
「それ着て料理を作ってもらうって約束だったしな。ありがとう素敵なプレゼントだった。この先は視覚ではなく味覚で楽しませてもらう」
「そうか……そこまで自信はないが、こっち(料理)のプレゼントの方が、ディラ殿の好み、だとは思うぞ」
 言いながらささっとアレスディアはエプロンドレスを脱いで、綺麗に畳んだ。
 ディラはそんな彼女の様子を楽しげに見ていた。

 彼女の料理は、ディラが普段食べることのない、暖かみのある手作りの味だった。
 程よい辛みがあるが、味付けに何故か優しさを感じる。
(なんか……外で食うのとは違うんだが)
 じんわりと感じる暖かな料理の感想をディラには上手く表現できなかった。
「ん、確かに俺好みだ。美味いよ、今まで食ったものの中で、一番」
 ディラの素直な言葉と淡い笑みに、アレスディアの心も暖かな喜びに包まれた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸です。
ぎりぎりのお届けとなり申し訳ありません!
ディラの気持ちを高ぶらせるプレゼントと、暖かな手料理、ありがとうございました。
この後もディラは不健全な妄想をいろいろしてそうですが……健全に夜が更ける前に帰ったのでしょう。
ご依頼、ありがとうございました!
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年10月12日

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