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『闇夜佇みて、喰らうモノ 』
海原・みなも1252

「行方不明者の捜索、ですか?」
 海原・みなもは首を傾げた。
 ここは草間興信所。みなもは、所長で探偵の草間・武彦とデスク越しに向き合っていた。最近この街で起こっている連続失踪事件。武彦は被害所の人数や最後に目撃された場所など、豊富な資料を有していた。
「すごい。これ、全部草間さんが調べたんですか?」
「いや、本職サンの捜査資料」
「……って、警察ってことですか!?」
 まさか、違法な手段で? 顔を青くするみなも。武彦は半眼になって首を振った。
「そっち方面にはちょっとしたツテがあってな、自分から売り込んだんだよ。それでまぁ……俺の『実績』が認められて、捜査協力を依頼されたって訳だ」
 言葉に反して、なぜか不本意そうに話す武彦。みなもは、はっとした。
「つまり、この世ならざるものが関係している……ということでしょうか?」
「俺はそう睨んでる」
 彼の探偵としての勘は本物だ。本人の意思に反して、それは心霊関係の事項に特別よく働く、ということをみなもは経験上よく知っていた。
「そういう事件に、草間さんが自分から売り込むなんて珍しいですね」
「この事件はヤバい香りがする。おそらく命に係わる案件だ。となれば放っておけない」
 言いながら、胸ポケットに手を伸ばす。しかし次の瞬間には「あ」の形の口をして手を戻す。
「草間さん……」
 みなもは彼の動機を察し、ちょっぴり残念な気持ちになった。
「何だよ、その眼は。別にタバコ代ほしさとかじゃないからな」
 かくして彼らは、多数の目撃証言があった緑地公園へと向かった。



 異変は到着後まもなく起こった。公園内には小さな森とでも呼びたくなる木の密集地がある。その木立の間を横断する小路を二人が並んで歩いているとき、みなもの姿が忽然と消えたのだ。
 驚いた武彦だが、すぐに気持ちを切り替える。みなもに声をかけながら木々の間を駆けまわり、彼女がどこにもいないことを確かめた。
「まさか目と鼻の先で、怪奇現象をお見舞いしてくれるとはな」
 武彦は歪に口の端を上げることで、思考を曇らせる苛立ちを覆い隠した。

「ん……ここは?」
 不思議な感覚を伴いながら、みなもは目を覚ました。自分は立ったまま眠っていたらしい。額にかかった髪を払おうとして、腕が上がらないことに気が付いた。腕どころか、足も、首も、体じゅうで動く部分などほとんどない。瞼くらいのものだ。
(そうだ。あたしは、草間さんと事件の捜査に出かけて……)
 草間の声が自分を呼んでいる。遠いような、近いような、まるで壁一枚隔てたようなその声。彼女は自らの状況を理解する。
(……あたしは“塗り込め”られて、身動きが取れません。草間さん……!)
 浮上した意識がまた沈んでいきそうになる。自分を捕らえた何者かに、精気を吸い取られているのだ。
(嫌! ……怖い!)
 子どもの様に泣き叫びたくなる。しかし唇は動かず、力は抜けていくばかり。
(助けて……草間さん……)
 信頼する彼の名を心の内で呼ぶ。みなもは鼻から深く息を吸うと、そっとまぶたを下ろした。

「もしかして、ぬりかべってやつか?」
 妖怪の中でも、特に有名なその名を武彦は呟く。その対処法も彼は頭に入れていた。
(タバコでも吸って一服してれば、そのうち消えちまうってのがひとつ)
 もうひとつは。
(棒で足元を払う、だったか? けど、問題は……どっちもぬりかべに出会った本人にしかできない対処法ってことだ)
 彼は舌打ちする。ぬりかべは道行く人の前に突如として立ちはだかり、道をふさぐ妖怪。見えない壁のようなそれは、いくら横に移動しても途切れず、おそらく上方向にも果て無く続く。
(いつまでも解放してくれないということは、俺の記憶にあるモンとは少しちがうようだ)
 見えずとも、目の前にあれば対処ができる。そうでなければ――どうしたものか。彼は考えをめぐらす。
 その時。
「これは……冷気?」
 この時期にしてはあり得ない冷気が足元を流れてきたのだ。
「……でかしたぜ」
 彼はみなもから聞いていた。今年の夏、ひょんなことから出会った妖怪に氷雪の術を伝授してもらったと。水を操る彼女が媒介にしたのは、森に降りた夜露だろう。
 武彦は手近にあった木の枝を折る。ちょうど彼の大きな手のひらになじむ立派な枝だった。
「そこだ!」
 手ごたえはなかった。空振りしたバッターよろしく、武彦の体は回転する。が。
「おう、無事だったか」
 さく、と草をかき分ける軽い音。
「……ええ、おかげさまで」
 澄んだ少女の声がした。振り向くと、みなもが地面にへたり込んでいた。
「よく頑張ったな」
 武彦の声に安心したのだろう。みなもの目に涙がじわりとにじんだ。
「あはは。正直言うと、ちょっとだけ怖かったです」
 気丈にもにこりと笑うみなもの頭を、武彦が乱暴に撫でた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【海原・みなも(1252)/女性/13歳/女学生】
【草間・武彦(NPCA001)/男性/30歳/草間興信所所長】
東京怪談ノベル(シングル) -
高庭ぺん銀 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年10月12日

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