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『ハロウィンでの一日 〜魔女と狼男の場合〜 』
羊谷 めいka0669)&レナード=クークka6613

 夜空に蔓延る亡霊の灯。町を練り歩く怪物の行列。
 ただし――それは歪虚ではない。怪物は仮装であり、ジャック・オー・ランタンも親しみやすいデザインを施される。
 そう。つまり、有体に言って今夜はハロウィン・ナイト。今夜ばかりは子供達も夜更かしを許されるだろう。
「楽しそうなお祭りっていうんは知っとったけど、不思議な感じやんねぇ」
 感嘆の息を吐くレナード=クーク(ka6613)に、羊谷 めい(ka0669)はにこりと笑い返す。
「わたしの故郷では、ハロウィンって完全にお祭りだったのですよね。場所によってはお彼岸……? お盆? も兼ねていたらしいのですけれど」
 要するに、死者が現世に現れると信じられていた。
 それだけではなく、悪い精霊や魔女にちょっかいを出されない為の儀式でもあったのだという。
 ここクリムゾンウェストでも同名の祭事が伝わっていくが、リアルブルーと同じく一般的には形骸化し、単純なお祭りとして機能している。
「へぇ〜、お菓子を貰うだけやない所もあるんやねぇ……めいちゃん、物知りや……!」
「ふふふ。このくらい、自慢する程ではありませんがっ」
 謙遜しているようだが、少し得意げでもある。
 祭りの夜というのは誰しも高揚するもので、めいも例外ではなかったのだ。
「そうそう。確か仮装をせなあかんかったねぇ。予め聞いとったからやってみたんやけど、どうやろか?」
 レナードの頭には二つのふさふさの耳。おしりにはもっとふさふさの尻尾がついている。
 くるりと回って見せると、腰に両手を当てニンマリと笑う。
「どや、狼男やでー。えへへ、ふさふさでかっこええやろー!」
「ふふっ、レナードさんにぴったりですねっ。わたしの方は……どうでしょう?」
 スカートの裾を両手でつまみ、会釈して見せる。
 説明するまでもなく、めいのコスチュームは魔女をモチーフにしたものだ。
 もちろん、優先すべきは魔法威力や魔法命中ではなく、ましてや邪悪さでもない。
 愛らしい彼女には似合いの、“魔女っ子”とでもいうべきデザインである。
「うんうん、フリフリでとっても似合っとるで!」
「ありがとうございますっ」
 片手で魔女の三角帽子の鍔を持ち上げ、にこりと笑顔を見せる。
 いかにもな箒にはおばけのチャームがぶら下がるこだわりようだ。
「うーん、僕ももうちょっと仮装してきた方がよかったやろか?」
「レナードさんはそれくらいでも大丈夫ですよ。ちゃんと狼男に見えます……ちょっとかわいいですけど」
 最後の方はボソっと呟いたが、狼男に見えるのは事実だ。元々の外見に助けられている……つまり、似合うという事だ。

「さて、仮想をしたらハロウィンの第一段階はクリアです。この後はお待ちかね、お菓子をねだりに行きますよっ」
「貰う為には、えーっと……“トリックオアトリート”、やんね!」
「ふふふ……いい感じですね。ちなみにお菓子を貰えない場合、いたずらをしてもよい事になっています」
 めいが懐から取り出したのはかぼちゃのお化け――ジャック・オー・ランタンの描かれたシールだ。
「いたずらと言っても人を害するような事はしてはいけませんからね。私はこれを貼っちゃいます」
「僕はこれやで!」
 一方、レナードが取り出したのは水彩のマジックペン。
「これでちょちょいっとラクガキするで。洗えば消えるのやから、安心したってね」
「ふっふっふ……レナードさんがひどいいたずらをするとは思ってませんよ」
「あっはっは……めいちゃんもなー」
 しかし、笑いあう二人の瞳には何かこう、若干ヨコシマな光が輝いている。
 いたずらというのは、何歳になってもワクワクしますよね。
「ではでは、さっそく……」
「僕らも行ってみよかー!」

「「 トリックオアトリート! 」」
「ですよっ!」
「ふふふ、お菓子をくれない子はいたずらするでー?」
 わざとらしく狼男を気取って両手の爪を立てるレナード。
 めいは三角帽子を目深に被り、箒を振って軽い威嚇の姿勢。
 今夜は誰もがお菓子を手にして待つのがマナー。お菓子を入れる為に用意した籠は、どんどん重みを増していく。
 しかし中には先客のおばけにお菓子を渡しつくしてしまった人もいる。
「そんな人には……いたずら、しちゃいますね?」
 右のほっぺに魔女がシールをぺたり。
 左のほっぺに狼男がペンをキュキュキュ。
 いたずらされる人は皆困ったように笑うが、心から嫌がる者はいない。
 なのに誰かにいたずらをするとそれだけで胸が高鳴り、二人は慌てて走って逃げるのだった。

「はぁ、ふぅ……。ふふふ、さっきのおじさん、すごく面白い顔をしてましたっ」
「あはは、そーやね。あんまり笑っちゃ悪いんやけど……ぷ、くくく……っ」
 少し走って、二人はどちらから言い出すでもなく、広場のベンチに腰掛けた。
 周りではまだまだ取り立てに満足しない小さな怪物たちが走り回っている。
 ふと――レナードは空に浮かぶ月を見上げた。
 別に本当に狼男になってしまうわけではなく。しかし、その笑顔はどこか寂しげだ。
「レナードさん……?」
「めいちゃん、今日はありがとうな。僕、すっごく楽しいわ!」
「はい。私もすごく楽しいです。お菓子もいっぱい貰えましたし」
「そうやねぇ。……トントンって、扉をノックすると、みーんな当たり前に開けてくれる。それってスゴイ事やね」
 それは、レナードの故郷では考えられない事だ。
「お祭りって、ええもんやねぇ。すごく開かれた感じがするんや。みんながちゃあんと、一つになっとる」
「……そうですね。皆が楽しい気持ちを共有しています。でも、その空気も皆が作ろうとして、初めて成り立つんですよね」
 昔のめいは……こんな風にハロウィンを楽しめただろうか?
 見ず知らずの誰かの家の扉を叩いて、お菓子を貰う。
 ハロウィンという行事は、人と人の信頼と寛容さによって成り立っている。
 それを信じられなければ、とても楽しく参加などできないだろう。
(僕一人やったら、こんな楽しい事知らんままやったかもなぁ……)
(昔のわたし一人だったら、こんな風にハロウィンを楽しめなかったかも……)
 ぼんやりと月を見ていた二人の視線は、息を合わせたように互いに降る。
「なんか、“ふたり”ってええな!」
「はい。一人じゃないって、素敵ですねっ」
 にっこりと笑いあう。思い起こした景色は全く別だが、至った結論は同じ。

 やっぱり――二人で参加してよかった。

「…………はっ!? そういえば僕……お菓子持ってこおへんかった!」
 突然レナードが思い出したのは、一番自分の近くにいた彼女にお菓子を渡していないことに気づいたからだ。
 少しきょとんとしためいだったが、何かを思いついたように胸の前で手を合わせ。
「レナードさん、わたしにもあの言葉、言ってみてください?」
「あのって、アレやな。あの……うん、わかった……」
 咳ばらいを一つ。それからレナードは身を乗り出し。
「めいちゃん、トリックオアトリート!」
「はい、狼男さん。お菓子をどうぞ♪」
 威嚇するポーズのまま、狼男は固まっていた。
 めいはちゃんとレナードに渡すお菓子も用意していたのだ。
「少しだけですけどね……ふふふ」
「さ、さすがはめいちゃんやな……うぅ」
「それでは今度はわたしの番です。狼男さん、トリックオアトリート!」
 びしりと突き付けられた言葉にレナードはぎくりと後ずさる。
 さっき宣言した通り、めいに渡すお菓子は忘れてしまったのだから。
「うぅ……僕、お菓子持っとらんわ。ごめんなぁ、めいちゃん……」
「仕方のない狼男さんですね。それでは狼男さん、目を閉じてください」
 言われた通りに瞼を閉じるレナード。目は見えないが、めいが何かをごそごそとしているのは聞こえる。
「……狼男さん、もう少し屈んでもらえますか?」
「こんな感じー?」
 すると、頬に少し冷たいめいの手が触れるのを感じた。
「レナードさん。今日は……付き合ってくれて、ありがとうございます」
 囁くような声の後、ペタリと頬に何かが張り付く感覚。
「もう目を開けていいですよ」
 頬に触れると――間違いない。頬にはかぼちゃのシールがくっついていた。
「あはは、何をされるのかドキドキしたわー。でも、これで仮装に箔がついたんね。ちょうど物足りないと思ってたとこや。ありがとな、めいちゃん」
 それからへにょっと眉尻を下げ。
「それと、お菓子なくてごめんなあ?」
「いたずらしちゃいましたから、その件は帳消しです。それに、戦利品は沢山ありますからね」
「でも、めいちゃんにいたずらしないで済んでよかったわあ」
 ペンを取り出し、それを指先で回しながらレナードは笑う。
「めいちゃんの綺麗な顔に、ラクガキしとうないもんなあ」
「……ふ、ふふふ……っ」
「あははははー」
 二人は同時に笑いだす。そうして満足するだけ笑うと。
「今日は他のハンターの皆さんもハロウィンを楽しんでいる筈です。このまま知り合いの皆さんにも会いに行きましょうか?」
「そうやな。そんで皆でお菓子を食べたら最高や! そうと決まれば……」
 レナードは快活に笑い、自然な動作でめいの手を取る。
「一緒に行こうな、めいちゃん!」
「……はいっ!」
 狼男のリードで、魔女は不思議な夜に踊り出す。
 靴は羽のように軽く、つないだ手はしっかりと二人を結び付けていた。
 それは魔法のように胸を弾ませ、ワクワク、ドキドキ、楽しい時間を運んでくる。
 ハロウィン――それは誰にとっても特別な日。
 そして二人にとっては当たり前の、幸せな日。

「せーのっ」
「「 トリックオアトリート! 」」
「ですっ!」



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0669/羊谷 めい/女性/14/聖導士(クルセイダー)】
【ka6613/レナード=クーク/男性/17/魔術師(マギステル)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度は発注をいただきまことにありがとうございます。

実は僕はハロウィンに参加した経験がありません。
引っ込み思案な子供にとっては、楽しめというのは難しい話でした。
ハロウィンを楽しむには、気心の知れた人と一緒でなければなりません。
それはきっと当たり前の、しかし特別なことなのだと思います。

僕も一度は言ってみたいです。トリックオアトリート。
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ファナティックブラッド
2017年10月16日

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