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『鬼さん達の海水浴』
鎬鬼ka5760)&蘇紅藍ka5740)&風華ka5778)&マシロビka5721)&一青 蒼牙ka6105)&アクタka5860)&ユキトラka5846


「ぅあっちぃ!!!」

 それが鎬鬼(ka5760)の第一声だった。
 出来たての料理をつまみ食いしたわけでも、風呂の湯加減を間違えたわけでもない。
 熱いのは足の裏だ。

 そう、小隊「千鳥」の愉快な面々は今、夏真っ盛りの海に来ていた。
「なんだこれ、新手の修行か!?」
 鎬鬼は慌てて日陰に舞い戻る。
「鎬鬼さま大丈夫ですか!? さあ、早くこの濡れタオルで足を!」
 族長大好き一青 蒼牙(ka6105)が、すかさず氷で冷やしたタオルを差し出した。
「夏の砂浜は焼けて熱いですから、裸足で歩くのは危険です」
 次いで差し出したのはビーチサンダル。
 しかし。
「あらぁ〜、そこを敢えて裸足で歩くのがイイのよ〜ん?」
 蘇紅藍(ka5740)が気怠げに、しかし楽しそうに微笑んだ。
「ほらぁ、火の上を平気で歩く人達とかいるでしょぉ〜? あの人達はねぇ、みんな真夏の砂浜で修行を積んだのよん。ほら、心頭滅却すれば火もまた涼しって〜」
「……しんとう、めっきゃ……?」
「無念無想の境地に至れば、火さえも涼しく感じられる――つまり修行を積めばそのような境地に至る事も可能ということですね」
 どういう意味だろうと首を傾げる鎬鬼に、マシロビ(ka5721)が助け船を出した。
「おぉ、さすがマシロビ姉! 物知りだな!」
「ただし火渡りを行う行者は砂浜で修行するわけでは――」
「そうか、やっぱり修行なんだな!」
 聞いてないし。
「よっしゃ! 俺もシンメートッキャクするぜ! そして火さえ恐れぬ強い男になるッ!!」
「なるほど、これも鍛錬ってわけか! ならオイラも負けてらんねーな!」
 永遠のライバル、ユキトラ(ka5846)参戦!
 こうなるともう誰にも止められない。
「思い込んだら一直線、だもんなぁ」
 蒼牙も諦めたようにそっと首を振る。こんな時には気の済むまでやらせるしかないと、これまでの経験で学んだ。
(「俺が完璧にフォローしますから、どうか鎬鬼さまはご存分に……!」)
 救急箱、よし。氷嚢、よし。浮き輪、よし。
 ばっちこーい!
「だ・か・らぁ〜、はい?」
 鎬鬼に向かって両腕を差しのべる、おんぶおばけ。
「そうか、修行だもんな!」
「よし、オイラもやってみっか! サスケ、来い!」
「わんっ!」
 ユキトラの背を駆け上がった柴犬は、左右の肩に後ろ足を乗せ頭の上に両前足を揃えて置く「犬かぶり」スタイルでちょこんと鎮座。
 重さの点では物足りないが、ほわほわ腹毛で首の後ろがもふもふ気持ちいいから許す。
「準備万端、行くぜシノ!」
「おう!」
 海パンいっちょで走り出す二人。
 しかーし。

 ピピーッ!

 マシロビが鳴らす警告の笛が響き渡る。
「なに、お説教!?」
「オイラ達なんかした!?」
 まだ何も怒られるような事はしていないはず、と思いながらも身体は条件反射でその場に正座――
「あっぢぃ!!」
「誰が正座をしろと言いましたか」
「いやあの、つい」
「海を甘く見てはいけません。冷たい海にいきなり飛び込んで、事故でも起きたらどうするのですか」
 はい立って、隣の人と両手がぶつからない程度の間隔を取って。
「何をするにもけがをしないよう、準備運動はしっかりしましょう」
 まずはストレッチから、はい、いちに、さんし!
 念入りに、周到に、全身の筋肉と神経を目覚めさせましょう!
「……マシロビさん、もうそのくらいでいいのではありませんか?」
 暫しの後、風華(ka5778)がそっと声をかける。
 今日の風華は子供達を見守る母ポジション、海に入る気はないらしく長い黒髪もそのままにリゾートスタイルのワンピースに身を包んでいた。
「海で遊ぶ前に疲れ果ててしまっては、却って危ないでしょうし」
 見れば鎬鬼もユキトラも既にひと泳ぎして来たかのように全身びっしょり、息も絶え絶えのグロッキー寸前。
「そうですね、ではこれくらいで――」
 正直、もう少し早く止めてほしかったと思いつつ、お許しが出たところでフラつきながらも駆け出そうとする二人。
 だがしかし。
「しー、日焼け止め忘れてるよー」
 日陰に置いたビーチパラソルの下から、既に半分溶けかかったアクタ(ka5860)が呼び止めた。
「俺はいいよ、そんなの」
「しーの事じゃないよー」
 野郎共の肌がどうなろうと、どーでもいい。
 しかし無頓着そうな女性陣にはお世話をしてあげたい気分。
 というわけで、アクタは準備運動の間もおんぶおばけしていた紅藍の背中や腕など露出部分にぺたぺた――勿論、おんぶしたままで。
「海はさー、冷たくて気持ち良いけどさー、でも入るまでがすっごく面倒臭いんだよねー」
 出た後もわりと面倒だけどね、髪の手入れとか。
「はい、できたー」
 今度こそもう誰も止めないからね、思う存分に泳いでくるといいよ!
 そして存分に焼けてくるといいよ、後でお風呂に入るのが楽しみだね!

「っしゃ、行くぜユキトラ!」
「おう!」
 あのキラキラ光る青い海に向かって、ダァーーーッシュ!!!
「っちぃ!」
「あぢぢ、あぢぃっ!」
「だ、だめだユキトラ、熱いって言うと余計に熱くなる! シンメートッキャクだ!」
「そうか! あ、熱くねえ! むしろ冷てぇ! うおーつめてーーー!」
「さみー! つめてー!」
「こごえしぬぅーーー!」
 ばっしゃーーーん!

「「――つめってぇーーーっ!?」」

「……あー、最初は冷たく感じるんだよね、すぐに生ぬるくなるけど」
 大きなタライに張った氷水でスイカを冷やしながら、蒼牙は波と戯れる仲間達を生温かく見守る。
 直後にはもう、鎬鬼とユキトラは子犬のように波打ち際を走り回っていた。
 マシロビは波と追いかけっこをするように、打ち寄せる波から逃げ、引き波を追いかけ――時々転んでは頭から波を被ったりしている。
 白を基調にした水着はセパレートだが、タンクトップにスカートを合わせた露出が少ないタイプ。
 いつも和風の装いを見慣れているせいか、新鮮かつ可愛らしい。
 と、その視界の端に蠢くビーチパラソルの姿が。
「……アクタか……」
 暑さに(寒さにも)弱いアクタは、長袖膝丈のロングパーカーの前をしっかり閉じて、頭からフードをすっぽり被っている。
 パラソルと共に移動する足が極端に遅いのは、スコップで熱い砂を掘りながら進んでいるせいだろう。
 ようやく波打ち際まで来ると、パラソルの柄を砂に刺して固定し、いかにもダルそうにふらりと出て来る。
 その姿は一見すると可愛い女子だが、パーカーを脱げばあら残念。
「一応、泳ぐ気はあるのか……いや、泳いではいないか」
 波間にぷかぷか漂うだけで、あっという間にパラソルの下に戻るし。
「日焼け止め、塗ってたよな」
 直射日光は天敵とか言っていたが、夜の眷属か。
「あんなにはしゃいで皆子供だなあ」
 今日の蒼牙は風華同様に保護者気分。
「俺はそういうの興味ないけど……まあ、鎬鬼さまが楽しそうだし、付き合ってあげるよ」
 さて、そろそろ遊び疲れて戻って来る頃合いかな?

「うぉー、のど渇いたーーーっ」
「はい鎬鬼さま、そう言うだろうと思って用意しておきましたよ、かき氷」
 仕方ないから皆の分もね。
 削りたてのふんわりシャクシャク氷に果肉の粒がゴロゴロ入った甘いイチゴシロップ、これが美味しくないわけがない。
 二人は競うようにかぶりつき――
「「うおぉ、うめぇっ……ッ、ぐおぉぉキターーーーーっ!!!」」

 キィィィィーーーン!

「コレだよコレ!」
「くうぅっ、たまんねー!」
 しゃくしゃく、キーン。しゃくしゃく、キーン。しゃくしゃく……
「ちょっと鎬鬼ぃ、妾にもちょうだぁ〜い?」
 相変わらずおんぶおばけな紅藍が甘い声で耳元に囁く。
「おっと、すまねぇ紅姉すっかり忘れてたぜ!」
 ほいっと差し出されたスプーン、しかし紅藍は首を振る。
「んもぉ鎬鬼ぃ、妾の好み知ってるでしょぉ〜ん?」
 そう言えば去年はウィスキーをかけて食べていたような。
「でもそんなの持ってきて――」
「ありますよ、鎬鬼さま」
 ウィスキーの小瓶を差し出す蒼牙、さすが用意周到と言うかそれも全て鎬鬼さまのため。
「はい、じゃぁ食べさせてぇん?」
「ええっ俺が!?」
 背中から降りて自分で食べるという選択肢はないのか。
 あるわけないな。
 半分も食べないうちにただの薄めたウィスキーに成り果てそうだけれど――
「紅姉、美味いか?」
「ん〜、美味しぃ〜〜〜」
 薄めたウィスキーはともかく、ポジション的に。

 かき氷を堪能したら、次は……何して遊ぶ?
「海と言えばスイカ割りだな!」
「そう言うだろうと思って、冷えたスイカを用意しておきましたよ鎬鬼さま!」
 ほら、そこのタライに……あれ?
「これですね、どこに運びましょう?」
 その声に目を向ければ、そこにはスイカを両手で抱えた風華の姿が。
 綺麗なお姉さんが重そうなスイカを抱えた姿は絵になるけれど、問題がひとつ。
「風姉、落ち着いて! そーっと、そーっと!」
「え?」

 ぐしゃぁっ!

 手遅れだった。
 と言うかもしかして声かけのせいで変に意識しちゃった?
「ひいぃっ、ステゴロでスイカをジュースに……」
「あ……ど、どうしましょう、どうしましょう……」
 ガクガク震える鎬鬼、オロオロ狼狽える風華。
 しかし、そんな事もあろうかとスイカは二つ用意しておいたのさ!
 それもこれも全ては鎬鬼さまに楽しんでいただくため!
「って何してんだよアクタぁ!」
「えー? 食べやすいように切っといてあげたのに、なんで怒るのさー?」
 だってスイカ割りに使ったスイカって、ぐっちゃぐちゃになっちゃうでしょ?
 だからキレイに食べられる分もあったほうがいいかなーって。
 何も悪い事してないよね?
「く……っ」
 そこにタイミングよくスイカ売りが!
 値段はボッタクリだが、よく冷えて美味そうだ!
「あ、お会計は私が……」
「いや、ここは俺が」
 申し訳なさそうに財布を取り出した風華を押し止める蒼牙。
「わー、そー太っ腹ーオトコマエー」
 アクタに言われるとなんか腹立つな?

 改めて準備完了、さて一番手は――
「俺!」
 颯爽と手を上げる鎬鬼。
「じゃあオイラが誘導するな!」
「っしゃ、ど真ん中ホームランしてやるぜ!」
 目隠しをした鎬鬼はそこらで拾った流木を構える。
「シノ、こっちだ!」
「こっちってどっちだよ!」
「声のする方だよ!」
「わっかんねーよ!」
 耳元で囁くおんぶおばけの声が方向感覚を狂わせる!
「ここかぁっ!」
 思い切り叩き付けられる流木、舞い上がる砂!
「惜っしい!」
「いや惜しくねーだろ!」
 こんなに離れてたと、ユキトラは大きく腕を広げてみせる。
「ここはオイラが手本を見せてやるぜ! サスケ、オイラをスイカのところまで案内してくれ!」
「わん!」
「見える、見えるぞ! サスケの動きが!」
 さすが相棒、一心同体!
「よし、ここだな! どおぉりゃぁぁぁっ!!」

 ずばぁぁぁん!

 飛び散る果肉、噴き上がる果汁!
 跡に残るはクレーター。
「……アルェ?」
 全力、出し過ぎたかも。
 でも大丈夫、予備はまだまだあるからね!
「次は私の番ですね」
 すっくと立ち上がったマシロビの運動神経は悪くない……が、良いとも言えない微妙なライン。
 と言うかスイカ割りに運動神経はあまり関係ないかもしれない。
「よし、俺が誘導するな!」
 鎬鬼の声に従って、あっちにフラフラこっちにフラフラ。
「マシロビ姉、そっちじゃなくて……ああっ、行きすぎ! 戻って、いや戻りすぎ……ってくるくる回り始めた!?」
 マシロビ、迷走中。
「やべえ、回し過ぎてあらぬ方向へ……」
 そっと逃げ、ようとしたけれど何故か追って来るマシロビ。
「マシロビ姉、ちがう! これ目隠し鬼じゃねーから! 鬼さんこちらじゃ……っ」

 ばしぃーーーん!

「残念、外れでしたか……」
 あ、勿論狙っていたのはスイカですよ?
「皆さんは頑張ってください!」
 はい、じゃあ次は……蒼牙さん?
「いや、俺はいいよ」
 風華さまは――
「私も遠慮しておきますね」
 確かに、勢い余ってうっかり海とか割りかねな……いいえ何でもありません。
「では……紅藍さま、どうぞ」
 手渡された流木はしかし、流れるように鎬鬼の手に。
「鎬鬼ぃ。ほぅら、妾の代わりにがんばってぇー」
「俺!? でもいいか、さっきのリベンジだ!」
 今度は耳元で惑わせる声も聞こえない、これなら――

 ぐっしゃあぁ!

「おぉ、風姉レベルの破壊力!」
 でもこれじゃ食べられる部分が残らないな!
 スイカはもうひとつあるけれど、その運命も既に見えた。
 この面子に「適度に」とか「手加減」とかいう概念は多分ない。
「ほらねー、ひとつ普通に切っといてよかったでしょー」
 パラソルの下でアクタが得意げに胸を……張ろうとしたけれど、ぐにゃりと伸びた。
「あーつーいーーー」
 でもスイカ割りはちょっと楽しそう、かも。
「ボクもやってみようかなー」
 パラソルと一体化した傘おばけが、のそのそと近付いて来る。
「しーはこれで誘導お願いー、ゆーはこれ持ってー」
 鎬鬼にスコップを渡し、ユキトラにはパラソルを。
「ボク、しーが作った道歩くからー。ゆーはちゃんと日陰作ってねー」
 じゃ、いきまーす。
 アクタは熱い砂が取り除かれた道をフラフラ進み、フラフラしながら流木を振り上げる。
 その時、わりと不思議でも何でもない現象が起きた。

 すぽーん!

 アクタの手を離れ、あいきゃんふらいする流木。
 過去、杵と鍬も飛んだ。
 流木だって飛びたいよね。

 どすっ!

 それが蒼牙の鼻先をかすめて足下に突き刺さるのもお約束。
「……アクタ……」
「あー、またやっちゃったー」
 てへっ☆

 そうして恙なく最後の一個も粉砕し、アクタのお手柄(?)で残されていたスイカで喉を潤して。
「紅姉、ほい、お酒もいいけどスイカも美味えぞ!」
 不動のおんぶおばけにお裾分けしつつ、鎬鬼が皆の顔を見る。
「で、次は何して遊ぶ?」
「ビーチバレーなど、どうでしょうか」
 マシロビがカラフルなビーチボールを取り出して言った。
「びーちばれーって何だ?」
「オイラ知ってる、ボール落とした奴は顔にスミ塗られるんだよな!」
「ユキトラ、それ羽根突き……だけどそれ良いな!」
 三人は輪になってトスを上げ、レシーブを返し、逸れたボールを追いかけ――
「くっ、ダメだ追い付けねぇ……っ」
 そこに飛び出した忠犬サスケ!
「わん!」
 猛ダッシュからのジャンプ、そして鼻先でアタック!
「いいぞサスケ!」
 だがボールは大きく逸れて、見守る風華の足下へ。
「風姉、わりぃそれ取っt――」

 ぱぁん!

 うん、知ってた。
「ごめんなさい、新しいものを買って来ますね……」
 手に残った残骸をしょんぼり見つめ、ふらりと立ち上がる風華。
 しかしマシロビは慌てて首を振った。
「だ、大丈夫です風華さま!」
「でもボールがなくては遊べないでしょう?」
「そろそろお昼の支度をしなくてはと思っていたところですし、あの二人は……もう別の遊びを見付けていますし」
 見れば、例の流木を旗に見立てたビーチフラッグスで盛り上がっている。
「せっかくですから昼食は皆でバーベキューをしようと思って……もう手配は済んでるんですよ」
 海の家で食材から何から一式を貸し出していると聞いて、朝一番で予約しておいたのだ。
「でも私ひとりでは重くて運べそうになくて……風華さまに手伝っていただけると、とても助かります」
 それを聞いて、風華の表情がぱっと輝いた。
「はい、力仕事ならお任せください」
 ちょろ――いやいや頼りにしてます!

 食欲をそそる匂いが砂浜を漂い始めると、食べ盛りの二人がさっそく釣れた。
「おぉっ、美味そう! 焼きもろこしと焼きそばいっただきー♪」
 しかし、伸ばした手はマシロビにぺちっと叩かれる。
「鎬鬼さん、ユキトラさんも、砂だらけじゃないですか。食べる前に手を洗ってシャワーを浴びて来てください」
 ついでにおんぶおばけも。
「はぁーい」
「ほんと、カザハナの姉さんそっくりだよなぁ」
 ひそひそ。
「うん、むしろ最近じゃ風姉のほうが大人しいって言うか」
 こそこそ。
「……何か?」
「「いいえ何でもありませんっ!」」
 声を揃えてダッシュでシャワー室へ、そして詰め込む肉、肉、肉。
「あ、お肉ばかり食べていてはだめですよ! しっかり野菜もバランスよく食べましょう!」
「俺はちゃんと食ってるぞマシロビ姉!」
 肉の亡者になってるのはユキトラくんです。
「えっ、違う、俺じゃなくてサスケが!」
「わふぅ、ぐるるる」
 あ、怒られた。
「はい、ちゃんと野菜も食べます」
 もくもくもく……。
「蒼兄の作ってくれたフルーツポンチも美味ェなー!」
「ありがとうございます鎬鬼さま」
 そりゃもう鎬鬼さまのために心を込めて作りましたから!

 食べて飲んで、ふざけて叱られ、また食べて。
「ふぃー、もう腹いっぱいだー」
 でも食べてすぐ寝ると牛になるからな!
「ユキトラ、腹ごなしにひと泳ぎだ! アクタ! お前もとろけてねーで一緒にいくぞ!」
「えー、やーだーあーつーいーーー」
 でもちょっとだけ、海に入りたい気分、かな。
 と言うか波打ち際のプールにのんびり浸かりたいから誰か掘って。
 だめ?
「しょーがないなー」
 アクタはパラソルを持ったまま、ちゃぷん。
 そのままゆらゆら波間に揺れる。
「ユキトラー、あの岩場までどっちが早く着くか勝負なっ」
「おうっ、望むところだ!」
 ユキトラはサスケを背に乗せ、その真似をしてレッツ犬かき!
 しかし!
「うっ」
 鎬鬼の横っ腹が急に痛み出す!
(「くっ、腹いっぱいで急に動いた所為か……!」)
 やばい沈む!
(「でも、紅姉を道連れにするわけには……!」)
 むしろ紅藍を背負っているせいで加速度的に沈んでいる、という考えには至らない修行脳。
「……なんだ、鎬鬼さまの様子が……?」
 ライフセーバー蒼牙が気付いた時には既に力尽き、波間にぷかぁしていた。
「……って、鎬鬼さまが沈んでる!!? 紅藍姉何やってんだよ! 鎬鬼さま殺す気か!!?」
 おんぶおばけしてないで助けろよ、背中の重さで顔が沈んでるじゃないか、なんかブクブクいってるぞ!?
 いや、だめだ。あの人は頼りにならないって言うか楽しんでるよね絶対。
 風華も今はハラハラオロオロしているだけだが、助けるつもりで海を割られたらきっと助からない。
「鎬鬼さま! 今浮き輪投げますから……っ!」
 ぽーい!
「あー浮き輪だー、そーありがとー」
 嬉々として受け取ったアクタはユラユラしながら、沈みかけた鎬鬼を指さしてケラケラ笑う。
「って何でアクタが捕まってんだ!! お前に投げたんじゃないよ!!」
「大丈夫大丈夫、みんなこのくらいへっちゃらだよー」
 ほら、あそこでもぷかぁしてるし?
 指さした先には泳ぎに夢中になり過ぎて途中で力尽きたユキトラの姿が。
「ユキトラはどうでもいいんだよ!」
 ひどいな。
 まあ確かにサスケがポニテ咥えて岸まで泳いでくれたけど。
「ん? オイラなんで砂浜に寝てんだ?」
 まあいいかと、サスケと一緒にぶるぶると身体を振るわせて水気を払う。
「そーれ犬ドリルー!」

 そして気が付けば、鎬鬼と一緒に条件反射で正座していた――焼け付く砂の上に。
「ヤバイ焦げる、白鬼の干物になっちまうゥゥゥ!」
 水、誰か水かけて!
「水なら先ほど、嫌というほど飲みましたね?」
 見下ろす笑顔がめっちゃ怖い。
「マシロビ姉のおにちく……いえ、何も言ってまっせん!!」
 なお紅藍は懲りずにおんぶおばけ。
(「二人分の重さで一層足が焼けるぅぅ! でも紅姉を焼け砂の上に落とす訳にはいかねえ……っ」)
 根性見せるぜぅおあぁぁあっぢぃぃ!!
「鎬鬼さま、大丈夫ですか!? 俺の上に乗ってくださ……ってだからなんでアクタが乗るんだよ!!」
 マジギレする蒼牙に、しかしアクタは涼しい顔。
「ボクなんも悪い事してないもーん」
 良い事もしてないけどね、多分。

 そんな鬼っ子達の賑やかな、夏の思い出のひととき。
 しかし楽しい時は過ぎるのも早く、気が付けば足下の砂も既に冷たくなっていた。
「あっとゆー間の時間だったけど楽しかったな!」
 留守番組のために綺麗な貝殻や石を拾う手を止めて、鎬鬼はそれを夕陽にかざす。
「必殺のお説教タイムも過ぎてみれば楽し……うん、楽しかったな!」
 泣いてなんか、ない。
 この思い出を活力に、明日からまた頑張ろう。

 しかし鎬鬼もユキトラもまだ知らない。
 風呂や布団の中で、日焼けした肌がどれほど傷むかを。

 それは多分、一瞬の痛みで済む焼け砂のほうがよほど優しかったと思えるほどの――



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ka5760/鎬鬼/男性/外見年齢10歳/背中はセーフだけど何この変な焼け方】
【ka5721/マシロビ/女性/外見年齢15歳/師匠を超えたと噂の】
【ka5740/蘇紅藍/女性/外見年齢20歳/おんぶおばけれべるつー】
【ka5778/風華/女性/外見年齢26歳/まだまだ弟子には負けないはず】
【ka5846/ユキトラ/男性/外見年齢14歳/お風呂怖いお布団怖い】
【ka5860/アクタ/男性/外見年齢14歳/真のおにちく?】
【ka6105/一青 蒼牙/男性/外見年齢16歳/マモレナカッタ……】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お世話になっております、STANZAです。
いつもありがとうございます、今回も楽しく書かせていただきました。

口調等、気になるところがありましたら、ご遠慮なくリテイクをお願いします。
イベントノベル(パーティ) -
STANZA クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2017年10月16日

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