▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『旅のお楽しみ 』
仁川 リアka3483

 風の吹くまま、気の向くまま…旅人がよく言うセリフの一つだ。
 だけど、この言葉はあながち間違ってはいないと思う。ふと思いついたら足が動く。
 思いつかなくとも歩を進めていれば、自然と新しいものに出会えるものだから気付けば仁川 リア(ka3483)はいつも旅をしていた。
(今度の街には何があるだろうね)
 上空を飛ぶ鳥を見上げて、彼は独りごちる。
 ここ数日野宿が続いていた。しかし、地図によればもうすぐ街が見えてくる筈だ。
 久方振りの人の空気、街は活気に溢れているだろうか。思いを馳せると自然と足運びも早くなる。
(美味しいものがあるといいな)
 携帯食料は味気ない。折角食べるのであれば、その一食一食を大事にしたいと思う彼であった。

 街につくとそこには大きな通りがあって、旅人目当てにそこかしこで呼び込みが繰り返されている。
 まだ日の高い時間であるから大人のお店の客引きはなさそうだが、店選びも慎重にならざる負えない。
(うーん、何処がいいかな)
 目に映る看板をざっと見る。
 彼の故郷の料理を出す店や同盟ならではの海の幸を推す店、そして野菜だけを扱った専門店なんかもあるらしい。人の行き来が活発な街らしく、多種多様な店が軒を連ねている。
「これは…迷ってしまうね」
 一人飯であるから他人を気にする事はない訳だが、逆に言えば気にしないでいいからこそ拘りたい。
 飲食店の前をウロウロしながら、彼はここぞという店を探す。
(ここのところ肉ばかりだったし、余り豪快なのは避けたいな)
 ハンターで、しかも疾影士であるから闇に紛れての狩りには自信があった。
 だから携帯食料の他に鳥や魚と言った野生生物も捕獲し、食してきたのだ。
(はぁ、困ったなこれは…)
 ぐぅと小さく音を立てる己の胃袋に苦笑しながらも、妥協はしたくない。
 そんな折、彼の目に留まったのはとても小さな店だった。
 飲食店が立ち並ぶ華やかな場所から少しだけ離れた場所にあって、真新しい幟を微かに揺れる。
 その揺れがリアを呼んでいる様にも見えて、気付けばその店の前まで来てしまっている彼。
(よし、ここにしよう)
 とても綺麗だとは言えない店構えだった。
 けれど、それが不潔という意味ではなく年季の入った佇まいであり、何処か懐かしさを覚えさせるから不思議だ。
 中に入ってもそれは変わらない。木の椅子に木のテーブル、カウンターも使い込まれているようで所々傷がある。
「いらっしゃい。空いている席へどうぞ」
 人当たりのよさそうな店員がそう声をかけてくる。
 リアはカウンター傍の対面二人席に座って、片方の椅子に旅の荷物をどさりと乗せた。
 するとさっきの店員が絶妙のタイミングでおしぼりとお冷を運んでき、そっと彼の傍に置いてゆく。
「有難う」
 リアはそう言葉し、早速メニューへ。
 如何やらこの店はリアルブルーにある『定食』と呼ばれるものを食べさせてくれるお店らしかった。
 主には焼き魚とフライをメインにしているようだが、希望があれば刺身という生で食べる料理も提供してくれるようだ。
(さしみ…ってのも気になるけど、ん、これは?)
 基本、ご飯と(こちらで言う)スープにメインの魚が付いているようだが、それに加えてもう一つ『お新香』なるものが付いてくるらしい。
(デザートか何かだろうか?)
 それが気になり他の客を見渡すが、時間が悪かったのかはたまた外れたところにあるから元々客が少ないのか確認する事が出来ない。ともかくリアは定食とやらを頼んでみる事にした。大体始めにあるメニューが人気だろうと予想して、アジフライ定食をオーダー。暫くするとカウンターの奥から小気味のいい揚げ音が耳を刺激し始める。
(うん、いい音だね)
 冒険に出なかったのはあれだが、ちゃんとした調理場でないと作りがたいフライもの。
 久し振りのサクサクが楽しみでたまらない。
「お待たせしました。アジフライ定食です。火傷に気を付けて下さいね」
 一つのトレーに全てが乗せられて、それは一つの作品だ。まだしゅわしゅわしている衣が一層食欲をそそる。
「いただきます」
 東方出身であるからか箸の使い方は心得ている。
 器用に箸を指に挟んで、まずはスープ…いや、粗汁をいただく事にする。
 立ち昇る湯気に乗せて薫るのは僅かな潮の香り。具には野菜も使われ、栄養バランスに配慮されているようだ。
(ん…優しい味だ)
 しっかりした魚の出汁に野菜の甘み、それに加えてリアには馴染みのないこの独特のコク…。
(何だろう、この味は)
 一口二口啜ってみても答えが出ない。
 けれど、この粗汁は濁っている事から魚だけから作られていないという事は彼にも判断できる。
「フフッ、気になりますか? それ、リアルブルーにある味噌っていう大豆から作る調味料を使っているんですよ」
 奥にいたらしい夫人がやってきて笑顔で言う。
 何でもこの店はリアルブルーから転移して来た覚醒者の旦那と一緒に営んでいるらしい。
 元は彼女の両親のパエリヤ食堂だったらしいが、彼の腕をかってこんな珍しい店に改装したのだと言う。
 幸せそうに笑う夫人に会釈して、再び料理と向き合うリア。そういえばお新香とは何だったのか。
 その答えはすぐ目の前にあった。小さな皿に乗せられた人参と大根…パッと見はただ切って出しただけの様に見える。
(いざ…)
 未知の料理に心が高鳴る。生とは違いうっすら透けた大根を箸で挟み、それを口へ。

 パリッ…パリパリパリッ

 歯触りのいい軽快な音、あっさりとした塩味の中に大根本来の甘さが姿を現してくる。
「美味しい…」
 メインをそっちのけでもう一つ。今度は人参を咀嚼すれば、大根とは違った音と味が味蕾に広がる。
(生の様に見えるのに生じゃない。でもこの適度な硬さは一体?)
 その謎に迫りたい所だが、ここでまた話しかけたら長くなりそうだと判断し、リアはひとまず食事に集中。
 勿論メインのアジフライも絶品だ。丁寧に捌き開かれた鯵の身はやわらかく揚げているから骨も気にならない。新香とは違うサクサク感が耳に嬉しく、自然ともう一枚手を伸ばしたくなるし、焚き上げられている御飯の硬さも計算されているのかという位丁度いい。つやつやで少し弾力のある米が全ての食材を包み込む。
(ここに入って正解だったね。こんなおいしい料理に出会えるなんて…)
 港が近いからこそ出せる料理…各地を旅して美味しいと思うものは数あれど、ここの料理は間違いなくその中にランクイン決定だ。
「ごちそうさまでした」
 粗汁に始まり粗汁で〆て…ほっこりとした余韻が残る中、彼は丁寧に箸をそろえ感謝を持って食事を終える。
「ふふ、こちらこそお粗末様でした」
 その声が聞こえたのか夫人が軽く頭を下げて、にこりと笑う。
「あ、うん…本当に凄く美味しかったよ」
 聞こえていた事が恥ずかしくなって、少し視線を逸らしつつ彼が言う。
「有難う御座いますね。こんなに綺麗に食べて下さったんだもの、主人も喜びます」
 まだ知名度が少ないからか客は多くはないものの、味はいい。そのうちこの店は繁盛するに違いない。
「また来るよ」
 そうなる前にもう一度…今度は別のものが食べたいなと思いつつ、彼が言う。
「ええ、ぜひ」
 夫人はそう言って、会計と共に次回使えるサービス券を渡してくれる。
 何の事はない普通の一日。けれど、こんな幸せな気分になれるのだから、やはり旅はやめられない。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【ka3483/仁川 リア/男/16/疾影士(ストライダー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

こんにちは、奈華里です。
食べる料理は何でもいいとの事だったので、
クリムゾンウェストの方には馴染みなさそうな和食をチョイスしてみました。
大根はラデッシュ表記した方が…と言うツッコミはなしで。
オマケと絡めて楽しんで頂けたら嬉しいです(^^♪

それでは、これからのリアさんのご活躍を祈って…
この度は発注、誠にありがとうございました。
誤字等ありましたら、お手数ですがご一報ください。
シングルノベル この商品を注文する
奈華里 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2017年10月17日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.