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『とある一家の終焉、そして』
クフィル C ユーティライネンjb4962)&ラファル A ユーティライネンjb4620


「ラーちゃん待ってぇな、そないつれないこと言わんと一緒に……」
「っせぇくそ姉、ついて来んな!」
 クフィル C ユーティライネン(jb4962)と、ラファル A ユーティライネン(jb4620)。
 巷では、二人は仲の悪い姉妹として通っていた。
 そして実際、仲が悪い――と言うよりも、妹のラファルがほとんど一方的に姉のクフィルを毛嫌いしている、と言ったほうが正しい。
「あー、また逃げられてもうたわ……久しぶりに一緒にお茶しよ思ただけやのに」
 何故こうも毛嫌いされるのかと、遠ざかる妹の後ろ姿を見ながらクフィルはそっと溜息を吐く。
 理由は――わかる気がした。

「ラーちゃんは昔のこと、なんも覚えてへん言うとるけど……頭のええ子やしね」
 何とはなしに、勘付いているのかもしれない。
 クフィルが自分に嘘をついていることに。
「うちは……うちは、ほんとはな……」

 ずっと言えなかったこと。
 ひとりで抱えて来た秘密。

 言わなければ、あの子は心を開いてはくれないだろう。
 でも、言ってしまったら――

「……うちは、怖いんや……」
 今以上に嫌われてしまうことが。
 毛嫌い程度だったものが、はっきりと憎悪に変わってしまうことが。

 いや、それだけならまだいい。
 自分に対する罰として、甘んじて受けよう。

 しかし。

 それは同時に、ラファルが信じ続けてきたこと、支えとしていたものが全て、根底から崩れ去ることを意味する。
 その時、自分は彼女を支えることが出来るだろうか。

 いや、出来るかどうかではない。
 やるのだ。
「だって、うちはあの子の――」



 クフィルは、とある恩師のもとを訪ねた。
 拗れてしまったラファルとの仲を、なんとかしたくて。
「あの子も、ただ無闇に吠えとるわけやないんよ。仲のええ友達の言うことなら、けっこう素直に聞くみたいやし」
 身内に対して必要以上に態度を硬化させるのは、自分にも覚えのあることだ。
 だから、誰かに間に入ってもらえばきっと上手く行く。
「せやから、お願いや」
 仲直りは、無理にとは言わない。
 ただ、真実に耳を傾けてもらいたくて。

 そして暫しの時が流れ――



「だーっ、っせぇな! なんで俺がクソ姉のヨタ話なんざ聞かなきゃなんねーんだよ!」
 ラファルはいつもそう言って、姉と二人で会う場面を避けてきた。
 しかし、近頃何故か多方面からの圧力が激しく、無視できないほど鬱陶しくなってきた。
 そろそろ年貢の納め時というやつか。
「わぁーったよ、何だか知らねーが聞くだけは聞いてやる」
 とにかく聞くフリだけでもしておけば、この鬱陶しい圧力もなくなるだろう。
 そう考えて出かけた先には、いつになく硬い空気を纏ったクフィルの姿があった。

「なんだよ話って? 俺は忙しいんだ、聞いてやるからさっさと終わらせろ」
 そこはホテルの一室。
 ソファに座ったクフィルから遠く離れ、ラファルはベッドに腰を下ろす。
「ラーちゃん、ラーちゃんはうちのこと……どう思っとるん?」
「は? 今更それ訊くか? そんなもんクソ姉に決まってんだろ」
「せやね、うちもクソなんは否定できんけど……ラーちゃんひとつ勘違いしとるわ」
「何だよ勘違いって」
「うちのこと、お姉さんやて……なんでそう思うたん?」
 そんなに若くて綺麗に見えたのだろうか――などと茶化せる空気ではなかった。
「何が言いたい? 勿体ぶってねえでさっさと話せ」
 ラファルに促され、クフィルは語り始める。

 これは、とある一家の物語。
 多分それほど珍しくもない、喜劇と呼ぶのが相応しい悲劇。


 ・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥


 クフィルはその時、幸福の絶頂にあった。
 撃退士として活動する中で恋に落ち、結婚し、一児の母となり――今日は三人で出かける初めての家族旅行。
 まだ幼い娘を連れて出かけたのは、動物園と遊園地が合体したようなレジャー施設だった。
 他にはめぼしい観光資源もない、周囲を見れば田んぼや畑ばかりの田舎だが、それはつまり天魔に襲われる危険が少ないことを意味する。
「せっかくの親子水入らずや、無粋なヤカラに邪魔されるのは堪忍やで」
 娘は動物園のミニ牧場で乗せてもらったポニーと、園内を散歩していたペンギン達がいたくお気に召したようだ。
 一日中遊び倒して、宿に着いた途端に電池が切れたように眠りに落ちる――帰り際に買ってもらったポニーのぬいぐるみを抱え、ペンギン帽子を被ったままで。
 と、その時。
 クフィルに緊急の呼び出しがかかる。
 閉園後の施設に天魔が現れたというのだ。
「なんでや、ここなら安心やと思うたのに……!」
 正直、今は家族と離れたくない。
 しかし、撃退士として目前の危機を看過するわけにはいかなかった。
 ぐっすり眠る娘を夫に任せ、クフィルは現場へと急ぐ。

「なんや雑魚どもかいな、一家団欒の邪魔しくさってからに……!」
 多少の私怨も交えつつ、手早く片付けたクフィルは急いで宿に戻った。
 しかし、そこで待っていたのは――

 飛び散った赤い飛沫と、こと切れた夫の姿。
 その腕に守られた娘は辛うじて息があるようだがが、クフィルは二人のもとへ駆け寄ることは出来なかった。
 目の前に立ち塞がる、黒い翼の異形。
 悪魔だ。
 その爪から滴り落ちる赤い雫を観た途端、クフィルは反射的に飛び出していた。
 冷静に考えれば、相手がかなりの高位の存在であることは確認出来ただろう。
 いくら「伝説級」と言われたクフィルでも、ひとりで太刀打ち出来る相手ではないことも。
 だが彼女は悪魔を追い詰めた。

 しかし、そこで予想もしない事態が起きた。
 辺りに溢れる白い光が、動くもの全てを蹂躙していく――人も悪魔も、大人も子供も見境なく。
 悪魔のみに意識を集中していたクフィルも共に薙ぎ払われ、薄れ行く意識の中で、見た。

 致命傷を悟った悪魔が、死に瀕していた娘と融合するのを。


 ・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥


「……その娘が……ラーちゃん、あんたや」
 そう言われても、ラファルは特に何も感じなかった。
 何かを感じるべき部分が麻痺してしまったかのように。
「まあ、そりゃね」
 ラファルは鼻で笑う。
「姉なんて俺の記憶のどこひっくり返してもねえんだから、それを考えたら当然なわけだ」
 そんなことは、どうでもいい。
「だから何だってんだ。てめーが血も涙もない人でなしなのはかわんねーだろ」
「ラーちゃん……」
「そうだろ、俺が死にかけて、肉体の8割をなくして、死ぬ思いで撃退士やってきたときも見舞いにも来やしねーんだからよ」
「それは……うちも生きとったんが不思議なくらいで」
 直後に来援した撃退士と天魔の戦闘でホテルが灰燼に帰したことも知らず、眠り続けていた。
 目覚めた後も入院は長期にわたり、かろうじて能力は維持できたものの、かつての戦闘力は残っていなかった。
 そして、風の噂で知ったのだ。
 娘がハーフ悪魔として生き延びたことを。
 それでも足りずに肉体の8割を機械化していることを。
 自分を姉と記憶違いしていることを。
 悪魔を、そして一番苦しいときに側にいてくれなかった自分を憎んでいることを。
「どうでもいいんだよ、そんなことは!」
 床を蹴り、ラファルは立ち上がる。
「で、俺を殺した悪魔は俺と融合してんの? そりゃ見つかる訳ねーよな」
 今まで散々探して、探して、憎しみを溜め込んで。
 なのに、ここにいる?
 冗談にしてもタチが悪すぎる。
「俺が死ねば敵討ちできるってかよ。ふざけんなーーーふざっけんなぁぁーーーっ!!」

 そのまま、ラファルは飛び出して行った。
 床と壁、そしてクフィルの心に大穴を残して。



「ふざっけんな……」
 カウンターに叩き付けたグラスが粉々に砕け散る。
 力を加減してさえこうだ。
 ガラスの破片を握り締めても、血の一滴だって出やしない。
 こんな身体になってまで生きのびた。
 復讐のために。
 自分の仇をとるために。
 それが何だ?
 そいつが自分の中にいる?
「ふざけんなよ……」
 追加の酒を瓶ごと引ったくり、喉に流し込む。
 空になった瓶を壁に叩き付ける。
 とうとう店を追い出された。
「くっそ気持ちわりぃ……」
 身体のオイルが全てアルコールに置き換わったような。
 胃の中身を吐き散らかしても、ちっともスッキリしない。
 挙げ句、酔っ払いでもないのに留置場の世話になる羽目になった。

「俺は未成年じゃねえぞ!」
「ええ、わかっていますよ」
「酔ってもいねえ!」
「ええ、ええ、そうでしょうとも」
 警察官はまともに取り合おうともしなかった。
「今夜はここで酔いと頭を冷ましましょうね、明日になったらご家族に迎えに来てもらいますから」
「……家族なんかいねえ」
 その訴えも、見事に聞き流されてしまった。

 夜中になっても、まだ酔いは醒めない。
 当然だ、元々酔ってなどいないのだから。
「受け入れられるわけ、ねえだろ……俺の20年はなんだったんだ……」
 返せ。
 返しやがれ。
 時間も、記憶も。
 自分にも「幸せな時間」というものがあったなら、その全てを。
「返しやがれぇェェェ!!!」
 ラファルは吠えた。
 吠えて、泣き喚いて、それでも涙などろくすっぽ出やしない。

 もういい、もう何もかも消えてなくなっちまえ――!!



 いつの間に夜が明けたのか、覚えていない。
 迎えが来たと言われた時、ラファルは思った。
 地獄からか、とうとう来やがったか、と。
 まさか天国のはずもないし、来たとしてもお断りだ。

 その耳に聞こえた声。

「ラーちゃん、おはようさん」

 クソ忌々しい声。
 あれはきっと、幻聴だ。
 目の前のアレも幻覚に違いない。

 からっぽの心に一滴、何かの雫が広がった気がするのも、気のせいに決まってる――



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb4962/クフィル C ユーティライネン/女性/外見年齢22歳/母未満】
【jb4620/ラファル A ユーティライネン/女性/外見年齢16歳/娘以前】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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エリュシオン
2018年01月15日

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