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『夢で逢えたら・前編 』
小宮 雅春jc2177

ー2019年 1月ー

 その日は朝から冷たい雨がしとしとと降る寒い日だった。

「Happy birthday to me〜!」

 重く垂れこめた空に声を上げ今日も公演をこなす。
 小宮 雅春(jc2177)は学園を卒業した後、こうして奇術師として活動していた。

「ジェニーちゃん?!」

 ステージの上から懐かしい姿を見つけた彼は公演終了後、外へと走り出た。

「お久しぶりね」

 聞き覚えのある声。
 ずっと聞きたかった声。
 幼い彼の心を慰め温めてくれた自称「お人形」の女性が立ってこちらに微笑みかけて駆け寄る雅春を迎えてくれる。

「お誕生日おめでとう。こんなに大きく……いえ、雅春くんに失礼な言い方だったわ。ごめんなさいね」

「ううん。ジェニーちゃんは全然変わらないんだね」

 お人形だもの。そう言って小さく笑う姿もあの頃のままだ。
 雨だから楽屋にでも……そう言って雅春は空に掌を向ける。

「?」

 いつの間にか雨はやみ、まるで雅春の心の様に空は晴天になっていた。

「あ、そうだ。ねぇ聞いて、ジェニーちゃん。……」

 話したいことも聞きたいこともたくさんあった。
 それでも口をついて出るのはあの頃と同じ、たわいも無い話題ばかり。

「そう、それはよかったわね」

 あの頃と同じようにニコニコとしながら聞いてくれるジェニーちゃんを前に話す雅春は自分の心が温かくなっていくのを感じていた。
 どこにいても何をしていても満たされることのなかった心が満ちていく。

『素敵な誕生日だ』

 どんなにカッコいいロボットも、可愛いお人形も、綺麗な花もかなわない。今までもらったどれよりも素敵なプレゼントかもしれない。
 そう心から雅春は思った。

「どうしたの?」

 ジェニーちゃんが首を傾げると同時に指を彼の目尻にあてる。

「え?」

「泣いているのわ」

 その言葉と彼女の指先の光に雅春は慌てて目元をこする。

「目にゴミでも入ったかな。なんでもな……」

 いつものように誤魔化そうとして雅春は首を横に振った。

「僕、また会えてすごく嬉しいんだ」

「私もよ」

 その声とともに優しく抱きしめられる。

「うん……」

 彼女の背に腕を回す雅春は満ち足りた穏やかな笑顔を浮かべていた。

「ジェニーちゃん。ずっと言いたかったことがあるんだ……」

  ***

「……ん……宮さん……小宮さん」

 誰かに呼ばれた気がして瞳を開けると、目の前には白い天井があった。
 規則的な電子音と消毒液のような独特のにおい。

「小宮さん、分かりますか?」

 目の前で手を振る看護師に首を縦に振る。

「良かった。先生を呼んできますね」

  ***
 
「奇跡的に大きなけがもありませんし、2、3日様子を見て問題なければ退院出来ますよ」

 看護師の話によると誰もいない方向へ女性の名前を呼びながら車の前に飛び出したのだそうだ。

「あの日は朝からずっと雨でしたし、何かと見間違えたんじゃないかって警察の人が言ってました。ああ、そうだ。これ警察の方から預かってたんです。お返ししますね」

 看護師から渡されたのは修復不可能なほどに大破した木偶人形。
 ずっと連れ添った相棒が返ってきたのにもかかわらず、雅春の表情は変わらない。

「この人形が身代わりになったのかも……なんて夢見すぎですね」

 その様子に看護師は、変なこと言ってごめんなさい。そう苦笑して部屋を出て行った。
 一人残された部屋。
 その中でくつくつと彼の喉が笑う。
 スクリーンに流れる物語を見る観客のような、通りすがりの他人に起きた出来事を目撃したような、とにかく自分のことではない、他人事のようで。
 それが何故か可笑しくてたまらない。

「見間違い……」

 温かく満たされていたはずの心は冷たく冷え切ってぽっかりと穴が開いた様だ。

「『ジェニーちゃん』など、初めからいなかったのでしょう。きっと、どこにも」

 あれは幻。
 あれは夢。
 最初から全部『僕』の考えた絵空事。

「夢を見るのはおしまい。愚かな『僕』にもさよならです」

 冷たい笑いを浮かべ呟くような言葉を彼の手の中で人形だけが聞いていた。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 jc2177 / 小宮 雅春 / 男性 / 29歳 / 夢の誕生祝い 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご依頼ありがとうございます。
 こちらが前後編の前編になります。
 冒頭の一部は小宮様がご参加になった依頼を参考に致しました。

 お気に召されましたら幸いですが、もしお気に召さない部分がありましたら何なりとお申し付けください。

 今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
 後編でどんな結末を迎えるのかもうしばらくお待ち下さい。
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龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年10月20日

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