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『狐の宝玉 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

「この辺で一区切りかしらね。じゃ、ここの箱は全部しまっておいて」
「はーい!」
 仕入れた魔法薬の材料を確認していたシリューナが指示すると、ティレイラは素直に応じる。シリューナが確認を済ませてラベルを貼った小箱を抱え、倉庫に向かう。
「いつも返事は気持ちいいくらいなんだけど」
 苦笑しつつもシリューナは、キッチンで茶菓子の用意を始めた。
 悪い子ではないのだ、まったくもって。ただ好奇心が強くて、凡ミスをしやすくて、そのくせ懲りないものだから繰り返してしまうだけで。
「……これはこれで、問題な気もするわね」
 とは言いながらも、シリューナの方も本気でティレイラに改善してほしいとまでは思っていないところがある。
 本当に問題があったり危険だったりするものには近づけないようにしている。その上で何かヘマをすれば……

「おーわった!」
 小箱をすべて倉庫にしまい終えると、その場でティレイラは伸びをした。小さくて軽いが数が意外と多く、うまく整理し終えると開放感がある。
 視線が上を向くと、さっきから気になっていたものが改めて目についた。
「きれいだなー」
 宝玉であった。乳白色の珠は、光の当たり具合によって様々な色を発して見飽きない。大きさは、現在人型であるティレイラの握りこぶしより少し大きいくらい。
 金銀財宝に心惹かれるのは竜族の習性か。まさか、シリューナの倉庫で盗みを働き逃げ出すような真似をするわけもないけれど。
 その宝玉は、狐がくわえている。もちろん本物ではなくて像である。さらにその像の下には封印をされた大箱。今のティレイラが楽々入れそうなくらい大きくて、頑丈そうな箱だ。像と箱にはあまり関係がなさそうで、像の手頃な置き場所になっている感じ。
「あれ、外せるのかな?」
 宝玉は狐の口にすっぽりと収まっていて、まるであつらえたよう。最初から一体化して作られているのだろうか。でも材質が違い過ぎるようにも見える。
 気になって気になって、結局、好奇心が赴くに任せた。
「直接触ると汚れそうだけど……あ、これでいいか」
 大箱の蓋の一角にふんわりした感触の布が置いてある。布巾か何かだろう。
 大箱の上に立つ。思った通り、ティレイラが乗っても壊れそうにない。
 そして像を手に取り、宝玉に触るため、足元の布を拾い上げようとして。
 ぺりり、と何かが剥がれる感触があった。
「え?」
 布を掲げてよくよく見ると、それは呪的な文字や記号が書かれたお札だった。
「あ」
 大箱が、内側からがたがたと騒ぎ出す。
 落ち着いてよくよく観察すれば、箱を内側からこじ開けたり壊したりするほどの勢いはないとわかったろう。けれどそんな判断ができるほどティレイラは冷静でいられなかった。
「えっと、このお札を元の位置に貼って、あ、でもこの像をどこかに置かないと……うわ!」
 ふと傾けた拍子に、像の口から宝玉がポロリと外れて落ちていく。
「危ない!」
 お札を放り出して、その手で直接宝玉を掴んだ。
「よかったぁ……」
 安堵の息を吐いたのもつかの間。
 ふわりと漂ったお札が、大箱の、元とは別の位置に落ちる。
 その瞬間に蓋が跳ね上がり、ティレイラは宝玉と像を抱えたまま床に引っくり返った。

「よくまあここまでできるわね……」
 騒々しさにシリューナが様子を見に来れば、予想を上回る惨状だった。
 幸い、被害というほどのものはない。預かりものの狐の像と宝玉は無事。大箱に封じていた素材は、落ち着ききらないうちに飛び出てしまったせいで外気に晒されてしまったが、駄目になってしまったわけではない。また収納して、外気の影響が抜けきるまで少し余分に時間をかければいいだけの話である。
 ただ、問題はその散乱がひどく広範囲に大量になってしまっていることで。
 ――でも、まあいいか。
 シリューナがそんな風に思える理由は、床でしおらしくなっていた。
「ご、ごめんなさい……」
 床に転がっていたティレイラが、抱えていた像と宝玉をシリューナの指示で脇に置きつつ、起き上がろうとして苦戦していた。
 骨格などが微妙に変わっているせいだろう。
「宝玉、直接触っちゃったからよ」
 細工した手袋越しに宝玉を拾い上げて狐の口に嵌めながら、シリューナはティレイラを楽しく観察する。

「あ、あれ?」
 ティレイラは立ち上がろうとして、自分の身に起きている異変に気づく。
 まずは上半身を起こしてお尻をつこう、そう思ったのに何かが邪魔していつものようにすんなり座れない。
 振り向けば、ふさふさの尻尾が生えていた。金色というか、橙色というか、赤みを帯びた茶色というか……要するに、狐色の毛並み。
 それを探ろうとして伸ばした手も変化していた。犬のような猫のような、つまりは狐のような、指が短く毛に覆われていて肉球のある手になっている。
 頭頂、竜の姿の時に角が生えている辺りに、何かがポンと生じた気配。慣れない手で恐る恐る探ると、そこには毛を生やしてすっと三角形に伸びたものが。わさわささらさらと毛と毛が触れ合う音がよく聞き取れて、ああ耳なのかと理解させられる。
 靴と靴下の中、足も変容していくのが感じ取れた。つま先部分が小さい足となり、人の姿ならば足の裏に相当する部分が長く伸びて新たな脚の一部となる。
 仕上げとばかりに、顔全体が変わっていく。口と鼻が共に前へ長く伸び、口の中で歯が鋭い牙になり、顔全体に毛が濃く生じていき、口元からは特に長く数本の髭がピンと生え揃った。

 すっかり狐の獣人と化したティレイラに、シリューナはご満悦。
 宝玉の妖力を受けて変わっていく自分に戸惑う姿も実に良かったが、変わってしまってもティレイラの面影がはっきり残っている辺り、この宝玉は実にいい仕事をしている。
「さて、詳しく説明してもらおうかしら」
 言いながら、シリューナはティレイラのお尻から生えた新たな器官を撫でさする。
「ひゃんっ!」
 ティレイラは初めての刺激に驚き、可愛い悲鳴を上げた。たまらない。
 頭をなでなでしたり、肉球をぷにぷにしたり、堪能しつつ事情を聞き出す。
「わ、わざとじゃなかったんですよぉ……ひぅっ!」
「ティレが悪い子だなんて思ってないわよ」
 少し暑そうにしていたので服を脱がせてみると、肩や背中も毛皮に覆われていた。心地よくてつい頬ずりしてしまう。
「でも、悪気がなくてもミスをしちゃったことはわかるわね? 後始末がけっこう大変なことも」
「はい……」
 決定打になったのはお札の扱いだった。所定の位置に貼らなければ箱の内部とのバランスが崩れて吹っ飛ぶようなものを使った自分も悪いと言えば悪いのだが……布巾と間違えて無造作に剥がしたティレイラも悪くないとは言えないだろう。
「だからお仕置き」
 抱きしめていたティレイラから少し距離を置くと、彼女を魔力で包み込む。毎度おなじみ石化の呪術。いつもと違う狐なティレイラをじっくりたっぷり鑑賞したい。
「やっぱりこうなっちゃうの〜!?」
 嘆きつつも、今回は非を認めてか、おとなしくお仕置きを受け入れようとしているティレイラ。それを見て、シリューナは呪術を弱めた。
「お姉さま?」
「まあ、預かりものをしっかり守ってくれたのは感心だし、術に抵抗できたらお仕置きはなしにしてあげてもいいわよ」
「デレ?! お姉さまいよいよツンからデレに移行!?」
「世迷い言を言ってる暇があるならがんばりなさい」

 そして、数分後。
「惜しかったわね」
 結局抵抗しきれず石像になったティレイラを眺め、シリューナは言う。
 ティレイラはがんばった。精一杯の魔力を用いて石化にあがいた。術には直接関係ないけれど、石になりつつある身体も懸命に動かして、最終的な石像のポーズは非常にダイナミックな躍動感を見る者に与えてくれる。
 そして、それこそはシリューナの提案に秘められた狙いでもあった。
 石化しない選択肢があれば、きっと必死になるはず。うまくやり遂げれば、それはそれでティレイラが喜ぶからよし。そして力及ばず石になっても……
「やっぱりティレイラは元気なのが一番!」
 感嘆の声を上げ、シリューナはティレイラを思う存分愛でまくる。動いているティレイラには遠慮してしまってできないようなことを、あれこれしてしまう(そう聞かされたらティレイラは「普段からアレなのに、一体何してるんですか?!」と卒倒してしまうかもしれないが)。
「耳とか口とか、普段とは違うけど可愛いわぁ。竜とは違う尻尾を持て余してたのもポイント高いし。……」
 シリューナは高揚し、夢中になって狐ティレイラを味わい続けるのだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3785/シリューナ・リュクテイア/女性/212歳/魔法薬屋】
【3733/ファルス・ティレイラ/女性/15歳/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびはご依頼ありがとうございます。
 遅くなってしまいまして申し訳ございません。
 シリューナの口調には少し悩みました。他にもご不満がございましたら、お手数をおかけして申し訳ありませんが、リテイクをお願いいたします。

東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2017年10月20日

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