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『夢で逢えたら・後編 』
小宮 雅春jc2177

 数日後。

 木偶人形は壊れたまま小宮雅春(jc2177)の部屋にあった。

『僕』の考えた空想の象徴でもあるこの人形を捨てれば完全に夢から覚める。
 確信めいた思いと人形を手にしたままずっと雅春は迷っている。

 人形を眺めればずっと傍にいて欲しかった『ジェニーちゃん』のことが頭に浮かぶ。
 そして、その度に『本当に捨てるのか?捨てられるのか?』と問いかける様にチリッと小さく胸が痛むのだ。

「ジェニーちゃん……」

 ふと、雅春は学園でのことを思い出す。

 付き合っていた女性を忘れられないと、彼女の好きだったアーティストを追いかけている生徒がいた。
 彼女のいる片思いの男性への想いを捨てきれないからとその男性と同じ煙草を吸う生徒がいた。
 彼らと同じように幼い頃からあっただろう『ジェニーちゃん』への淡い想いを人形に重ねているんじゃないだろうか。

「ねえ……。僕は君にあの人を重ねてるのかな」

 無意識に木偶人形へ手が伸びる。
 手の中でも木偶人形のジェニーちゃんは何も言わない。でも、その首が小さく縦に動いた気がした。
 そしてそれと同時にその頬を涙が伝ったように見えた。
 デッサン人形のような姿のジェニーちゃんに目はない。
 それでも彼女は確かに泣いている。
 そう彼には感じられた。

「ごめんね」

 ジェニーちゃんの向こうで想い人である『ジェニーちゃん』の泣き顔が見えた。

「ごめんね。痛かったよね……よしよし、もう泣かないで」

 そっと抱きしめ、ジェニーちゃんに慰めの言葉をかけながら優しく撫でる。

 どうして彼女の存在を児戯だと切り捨てたりしたのだろう。
 幼い頃の思い出も、人形のジェニーちゃんと一緒にいた日々も、『ジェニーちゃん』への想いも、今の自分を形作るものなのに。
 その全部を否定するなんて、そんな酷いことを。

 後悔の念と共にそんな自分に嫌気がさす。
「本当にごめんね……」
 謝罪の言葉を投げかけながら雅春はずっと人形の傷ついた身体を撫でていた。

 いつの間にか眠ってしまったのだろうか。
 気が付くと辺りは夜の闇に包まれていた。

ーコンコンー

 また聞こえるノックの音。
 音のする方、窓を見て思った。

『あぁ、これは……夢だ』

 窓の外には垂れ下がるロープとそれに捕まる女性。視線が合うと彼女の口が動いた。

「こんばんは」

 窓を開けると猫のようなしなやかさで入ってくる姿まであの頃と同じまま。

「こんばんは、ジェニーちゃん」

 ***

「ごめんね。ジェニーちゃんが忘れていったずっと返そうと思ってたのに……」
 胸の中にあった人形をそっと彼女に見せる。

『殺してしまって』

 そう思っているのに言えない。
 言ってしまったらこの女性は僕に幻滅する。そんな思いが言葉を口の中で留まらせてしまった。

「ずっと持っていてくれたのね。ありがとう」

 優しい言葉とともにそっと頭に置かれる手はそのまま雅春の茶色い髪を何度も滑る。

「……怒らないの?」

「どうして?」

「僕が悪いことしたから」

 ジェニーちゃんは一瞬キョトンとした後、あの頃と同じように穏やかに微笑んだ。

「私は雅春君が悪いなんて少しも思ってないわ。また会ってくれてありがとう。ずっと雅春君に会いたかったの」

「僕……も。僕もずっと会いたかった」

 視界がかすんで彼女の表情が見えない。
 それでも彼女の表情が優しいのが分かった。
 その穏やかな表情も、優しい声も、少し冷たい手も、全部覚えている。

「ありが……とう」

 頬を流れる涙は嗚咽交じりになり、あふれだす感謝の言葉は自分でも聞き取りにくいことこの上なかった。
 それでも、抱きしめられている身体は温かく、背中をさすってくれる手は優しく、子供の頃に戻ったようだと雅春は思った。

 ジェニーちゃんとの最後の夜もその時も雅春は泣いてしまって、彼女は眠るまでこうしてくれていた。

『あぁ、あの夜からずっと僕は動き出せていなかったんだ』

 満たされていく心で彼はそう思った。

 大人になったような気になって未熟な自分から、自分の本当の気持ちから目をそらしてきた。
 だけど、ちゃんと未熟な自分を見ようと、自分の気持ちに正直になろうと雅春は思った。
 あの頃と変わらないジェニーちゃんの優しさに心から感謝しているから。
 
「僕、ずっと言いたかったことがあるんだ」

 朝には覚めてしまう夢だとしても今度はちゃんと。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 jc2177 / 小宮 雅春 / 男性 / 29歳 / 再び歩き出そう 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご依頼ありがとうございます。
 こちらが前後編の後編になります。
 
 今回、小宮様が参加されたシナリオ等も拝見し、出来るだけハッピーエンドに近い形で終わらせたいと思いながら書かせて頂きました。明るい未来が小宮様に訪れますことを心からお祈りしています。

 お気に召されましたら幸いですが、もしお気に召さない部分がありましたら何なりとお申し付けください。

 今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
 またお会いできる事を心からお待ちしております。
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龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年10月20日

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