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『極彩色の街の彼が、白銀の地に住む彼へ 』
アーク・フォーサイスka6568

 北の大地は、早くも一面白銀の雪や氷に閉ざされていた。鏡面のように輝くその上を素早く横切る影が一つ。黒髪の少年を乗せた青き飛龍だった。
 金の双眸が、行く手に目指す渓谷を映す。

「あそこか……」

 彼――アーク・フォーサイス(ka6568)の呟きは、白い吐息となって舞った。



 西方の同盟『極彩色の街』育ちのアークが、何故単身北方で飛龍を駆っているかと言えば、この北の要職にある友人を訪ねて来たからだった。
 けれど事前に約束もしておらず、会えるかは分からない。友人が多忙すぎて約束を取り付ける事もままならないのだ。会おうと思ったら、こうして訪れてみるよりなかったのである。


 龍園を訪れたアークはまず、通りがかった眼鏡の少女龍騎士に友人の居場所を尋ねた。

「隊長でしたら、今日はずっと北の小屋にいらっしゃるかと」
「小屋?」

 訊けば北の渓谷に、狩人達が暖を取ったり、警邏中の龍騎士達が休憩に使う小屋があるのだと言う。けれどずっと居ると言うのだから、警邏中というわけでもなさそうだ。
 内心首を捻っていると、彼女は連れていた飛龍の手綱を差し出した。

「この子をどうぞっ。徒歩では日が暮れます」

 何の疑いもなく飛龍を預けようとする彼女に、アークは慌てて頭を振った。

「ありがたいけれど……大事な飛龍だよね?」

 彼女はふふっと笑い眼鏡を押し上げる。

「前に宴で演舞を披露された方ですよね、素敵でした! それに隊長のお友達なら安心ですもの」
「!」

 まさかそんなにハッキリ覚えられていようとは。その上不意打ちのように褒められ、アークは面映い思いで一礼すると、そそくさと飛び立って来たのだった。



 目指す渓谷を改めて眺める。谷底の川は凍りつき、切り立った崖の間では龍騎士達の駆る飛龍が飛び交っている。がなり散らしている男の声には覚えがあった。ダルマだ。新米騎士達の訓練中であるらしい。
 邪魔せぬよう高度を落とすと、件の小屋を見つけた。飛龍を脇に着け、労ってから戸を叩く。

「はい」

 中から返ってきた声音は確かに友人のものだった。ホッとして待っていると、カツッと妙な音混じりの足音がして戸が開かれる。現れた雪色の髪の青年――龍騎士隊隊長・シャンカラ(kz0226)は、アークを見ると驚きに声をあげた。

「アークさん!? 一体どうしてこんな所へ、」
「君こそ、その脚は、」

 アークも目を瞠る。彼は訓練中の龍騎士達の傍にいながら、武具を解いた普段着姿だった。その左脚は固定され幾重にも包帯が巻かれている。先程の妙な音は、松葉杖を突いた音だったのだ。
 アークの短い言葉の中に気遣う気配を察したシャンカラ、苦笑して脚を見下ろした。

「一昨日の戦闘で少々怪我を……情けないですね」
「酷いのかい?」
「いえ、皆が大袈裟にしただけですよ。もう痛みはないのに、訓練や警邏に出る事を許してくれないんです」

 拗ねたように眉を寄せた表情はどこか子供っぽくて、アークは思わず苦笑を零す。シャンカラは見た目こそ20代半ばだが、実際はアークとそう変わらないのだ。
 と、不意に彼は手を伸ばし、アークの髪をはらりと払った。

「っ?」

 驚くアークに「動かないで」と柔らかく言い置き、黒髪を丁寧に指で梳いていく。するとアークの髪からはらはらと雪片が落ちた。

「こちらは寒いでしょう? 雪が降っていない日でも、上空を飛んでいると吐息に含まれた水分が凍って、髪や肩に付くんです。こんな風に」
「そういう事か、突然だったから驚いたよ……ありがとう」
「すみません、先に断れば良かったですね。どうぞ暖炉の傍へ、温かいお茶でも淹れましょう」
「俺が淹れるよ」

 松葉杖を鳴らしつつ支度にかかろうとする彼を押しとどめ、暖炉前の椅子に座らせる。それからアークは外套を脱ぐと、戸棚を物色し始めた。
 手早く茶葉やカップを取り出す手際の良さに、シャンカラは感心ながらもすまなさそうに頭を下げる。

「お客様にお茶を淹れさせてしまうなんて、」

 アークは少々悪戯っぽく目を細め、

「気にしないで。無理に動かして酷くなったら、ダルマさんに叱られるんじゃない?」
「確かに」

 シャンカラは思わず吹き出した。



 そうして、アークが淹れた紅茶のカップを手に、ふたりして暖炉の前へ並んで座る。暖炉の中ではパチパチと薪が爆ぜ、時折火の粉が散った。火の上にかけられた薬灌はしゅんしゅんと湯気を吹き、外の寒さが嘘のような暖かさだ。
 いただきます、と小さく会釈してから紅茶を啜ったシャンカラは、

「ところで、アークさんはどうしてこんな所へ?」

 当然の事ながら不思議そうにアークを見つめた。金と碧の瞳が交わる。

「それは、」

 アークが答えかけたその時、ノックもなしに背後の戸が開かれた。だが言いかけた言葉は止まらない。

「君に会いたかったから」

 それからふたり、同時に後ろを振り向いた。そこには戸に手をかけたまま硬直しているダルマが。ダルマはハッとなって目を泳がすと、

「く、訓練終わったぜ。邪魔したなッ」

 勢いよく戸を閉め出て行ってしまった。
 その様子を見て、アークは己の発言が口説き文句のようだったと気付いた。赤くなった頬を隠すよう俯く。言葉があまりにも率直過ぎたのだ。
 だがシャンカラの方はきょとんとして、

「変なダルマさん。どうしたんでしょうね?」

 なんて、顔を覗き込んでくるものだから堪らない。

「……さあ?」

 と誤魔化し、まだ熱い紅茶を一息に喉へ流し込んだ。

「?」

 彼はまだ不思議そうにしていたものの、先程聞いた理由を思い出し心底嬉しそうに微笑む。

「わざわざ龍園の外まで訪ねて来てくださるなんて……この寒さの中飛龍を駆るのは、西方の方には堪えたでしょう? それなのにアークさんは僕に会いに来てくださったんですよね。本当に、本当に嬉しいです」

 噛みしめるように言う藍玉の双眸を、アークはちらりと盗み見る。社交辞令ではなく心から喜んでいるのだと窺えて、来てみて良かったと胸を撫でおろした。
 と、彼の視線がアークの刀に留まった。今日アークが佩いてきたのは、幾多の花で飾られた鞘の美しい一振り。

「前とは違う刀ですね? 水のように透き通った刀も素敵でしたが、この刀は鞘からしてとても綺麗です」

 身を乗り出して眺めるシャンカラ。アークは話題が逸れた事に密かに安堵すると、腰から外し、

「持ってみるかい?」
「えっ、良いんですか!?」

 彼の両手の上にそっと刀を横たえた。恭しい手付きで受け取ったシャンカラは、指先で鞘の模様をなぞり、感嘆の吐息を零す。

「なんて繊細な細工……素晴らしい」
「抜いても良いけれど、鯉口を切る時に指を斬らないよう気を付けて」
「コイクチ?」

 アークは思い出した。東方由来の刀は、北方ではとても珍しい物なのだと。抜き方など知るはずもない。
 断ってから刀を受け取ると、立ち上がって再び腰に佩き鯉口を切った。東方の桜花を思わす薄紅色の刃は、暖炉の火を反射して周囲に光の花弁を振り撒く。抜き身を手にしたアークは凛と張り詰め、端整な顔立ちが一層際立つようだった。
 刀身の雅さ、そしてアークの張り詰めた剣士としての美しさに見惚れ、シャンカラはしばし声もなく見入る。
 ややあってようやく口を開いた。

「本当に素晴らしいです……そういえば以前お友達と来られた時にも、休日なのに帯刀してらっしゃいましたね?」

 アークは刀を収めると椅子に座り直し、

「……嫌なんだ、」
「嫌?」
「その……刀を持っていなかったせいで、『助けられるべきものが助けられなかった』……なんて事になるのが」
「ああ、」

 シャンカラは共感を込め首肯する。

「分かります。僕も剣が傍にないと落ち着かないタチなので」

 彼が指した先には、壁に架けられた大ぶりな大剣が。気の合うふたりは視線を交わし、どちらからともなく微笑んだ。


 それからふたり、時を忘れて様々な事を語り合った。
 互いの地域の冬の様子や名物の事。アークが持つ様々な刀の事や、シャンカラの剣の事など、話題は尽きない。
 アークは言葉少なだが、表情のわずかな変化や視線は真摯に物事を伝えていたし、シャンカラはそれを汲み丁寧に応えていく。
 炎の音をBGMに、友人と過ごす温かな冬のひとときを満喫したのだった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6568/アーク・フォーサイス/男性/17歳/誰が為に花は咲く】
ゲストNPC
【kz0226/シャンカラ/男性/25歳/龍騎士隊隊長】
【ダルマ/男性/36歳/年長龍騎士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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寒い北方の冬。そんな中、ふたりで過ごす友人達の物語をお届けします。
照れるアークさんと照れない(察せられない)シャンカラ。彼は無欲故になかなか疎いようです。
暖炉の炎にお茶、そして重ねる言葉と絆。極寒の中でも温かな時間をと思い、書かせていただきました。
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。

この度はご用命下さりありがとうございました!
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2017年10月23日

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