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『悪戯転じて甘さを得たり 』
アーク・フォーサイスka6568)&クラン・クィールスka6605

 数日の雨ののち、空が秋晴れを取り戻した。
 久々の青く高い空に目を細めながら、アーク・フォーサイスはクラン・クィールスとふたり、街へと向かっていた。雨を理由に先延ばしにしていた買い出しを済ませるためだ。
 数日前に比べ、外気はずいぶんと冷たくなったけれど、晴れあがってしまえばまだ分厚い上着がなくとも過ごしやすい季節だ。秋風に吹かれた洗濯物が白くはためく住宅街を抜けると、次第に商店が多くなる。
「缶詰は、どこに売っているんだったかな」
「もう少し先の、赤い屋根の店だ」
 アークがひとりごとのように呟いた言葉に、クランが答えて道の先を指差す。パンも買わないと、それから洗剤も、などと買い物の確認をしながら、ぶらぶらと歩く。歩きながらアークは、なんとなく、街の雰囲気がいつもと違うな、と感じた。しかし、どう違うのか思い浮かばない。決して悪い方向への違いではなく、むしろ、華やいでいるような、と、考えていると。
 前方から随分と賑やかな声がしてくることに、ふたり同時に気がついた。なんだろう、とどちらかが口にするよりも早く。
「!?」
 歓声を上げながらかけてきた、六、七人ほどの子どもたちに、ふたりは取り囲まれたのだった。そして、その子らは。
「Trick or treat!」
 と声をそろえた。
「え」
 一瞬ぽかんとしたアークだったが、ああそうか、と気が付く。
「そういえば、ハロウィンなんだなあ」
「今日だったか」
 クランもハロウィンのことは頭になかったらしく、今気がついた、という顔をしていた。
「もー、お兄さんたち! 聞こえてるのー?」
 黒いマントを着た少年が頬を膨らませた。その隣には、妖精のつもりだろうか、ひらひらとしたピンクのドレスを着た少女。その隣はシーツをかぶったオバケ、そのまた隣は海賊の帽子、と、子どもたちは様々な格好に仮装していた。
「うん、聞こえては、いるけど」
 アークが苦笑して、隣のクランと顔を見合わせた。ふたりとも、菓子を持ち歩くような習慣はない。つまり。
「もー、仕方ないなあ、もう一回言うよ! せーの、」
「Trick or treat!」
 と、言われたら。
「残念ながら」
「お菓子は持ってない」
 と、おとなしく降参するしかない。ふたりそろって両手を挙げるポーズをし、無抵抗を示すと、黒いマントの少年がニヤリとした。
「よーし、皆! 悪戯だ! かまえー!」
 少年の号令で、子どもたちは仮装衣装の下から、カラフルな拳銃を取り出した。
「撃てー!」
 そこから一斉に発射されたのは、弾ではなく水だ。ふたりの顔面に向けて容赦なく浴びせてくる。
「わ、っぷ!」
「つめたっ!!」
 アークもクランもつい、素でリアクションを取ってしまう。それに満足するわけのない子どもたちが、水鉄砲の攻撃を続ける。
「くらえー!!」
「うわわわわわ!!」
「降参だー、助けてくれー!」
 アークとクランが大げさに手を動かして頭を振って騒いで見せると、子どもたちの笑い声が大きくなった。どんどん勢いを増すかに思われた水鉄砲の攻撃は、しかし、次第におとなしくなった。
「あーっ、なくなっちゃった」
 白いシーツの下から、残念そうな声がする。弾切れならぬ、水切れである。
「よーし、このくらいにしといてやろうぜ!」
「そうだな、このくらいにしといてやるよ!」
 男の子たちが楽しそうにそう言って、子どもたちは新たな標的を見つけるべく走り去って行った。去り際、大きな声で「ハッピーハロウィン!」と言うのも忘れていない。
「あーあ。雨を避けて出かけなかったっていうのに、まさか晴れの日にびしょ濡れになるとはね」
「確かに」
 前髪から、あごから、しずくを滴らせるお互いを見て、ふたりは笑う。一部始終を見ていた、花屋のおかみさんがタオルを差し出してくれた。
「水も滴るいい男、とは言うけどさあ。良かったら使っておくれよ」
「ありがとう」
 ふたりは丁重に礼を述べてタオルを借り、歩いていても不審に思われない程度に水気を拭って、買い物を再開した。
ハロウィンだ、と一度気が付いてしまえば、それにちなんだものは街にあふれていた。街の様子がなんとなく違う、と感じられたのは、そのせいだったようだ。カボチャで作られたランタン、ホウキで飛ぶ魔女が描かれた看板、コウモリのオーナメント。店によっては「Trick or treat!」を言ってくれた客にオマケする、なんていうサービスをしているところもあるらしく、ハロウィンが決して子どもだけのイベントではないことを物語っていた。
(ハロウィン、か)
 缶詰を選び、カウンターで支払いをしながら、アークはふと、クランの顔を見た。
 友人のような、相棒のような。この関係性にどう名前をつけたらよいのか、そんなカテゴライズはともかくとして、アークはクランのことを心底信頼していた。その信頼の上に行われるべきは、重い任務だけではなくて、こうした季節のイベントであってもいいのではないだろうか。
「どうした?」
 アークの視線に気がついたクランが、店の外へ足を運びつつ怪訝そうに尋ねるのに、少し微笑んで。
「Trick or treat!」
 そう、言ってみた。言われたクランは軽く目を見開いたあと、苦笑して言い返す。
「持ってないと知ってるだろうに」
「知ってるさ」
 当然、とアークは頷く。菓子など持っていないことを百も承知で言っているのだからそれはつまり。
「悪戯は、どうしようか?」
「どうしようか、って」
 呆れたように苦笑しつつも、何かされるのかと身構えるクランが少し面白くて、アークは笑った。
「残念ながら、水鉄砲は持っていないから……っと」
 アークは缶詰の詰まった袋を足元に置いて、がばり、とクランの脇に手を差し入れてくすぐった。
「うわっ!」
 くすぐったい、というよりは驚いたのだろう、大きな声を出して身をかわすクランに、アークは容赦なく追撃をかける。
「っはは、おい、アーク! わかってるのか?」
「わかってるって、何が?」
「アークも、菓子は持ってないだろう」
 クランはそう言って口の端を少し持ち上げた。両目が、きらりと光ったような気がし、あ、とアークが思ったときにはもう遅い。
「Trick or treat!」
 叫ぶようにそう言うと、クランは返事も待たずにくすぐりの反撃に出た。それはそうだろう、待たずとも答えなど、それこそ百も承知なのだから。
「っははははは、あー、クラン! 降参!!」
「ずいぶんと降参が早いな」
 クランが苦笑して引き下がると。
「と、見せかけて」
 アークがまたクランをくすぐる。
「ずるいぞ、アーク!」
 そうやってくすぐりあうふたりは、先ほどの仮装していた子どもたちにも負けないくらい無邪気に見えた。行き交う人々がくすくす笑っているのに気が付いて、ふたりはようやくくすぐり合戦をやめる。
「はー、なんか疲れたよ、クラン」
「アークが最初に仕掛けたんだろう」
 走ったあとのように上がった息を整えながら、ふたりは顔を見合わせて少し笑った。町の往来で青年ふたりがくすぐり合戦。ずいぶん滑稽な光景であったろうと思うが、しかし。
(こういうのも、悪くない)
 アークは、そんなふうに思うのだった。
「パン屋の隣の菓子屋で、何か買って帰ろうか。カボチャのお菓子が、あるかもしれない」
 カボチャのランタンばかり見ていたから、食べたくなってきたのである。クランは、アークの提案に頷いた。
「そうだな。菓子を持っていれば、今度は水鉄砲で襲撃にあわずにすむ」
「あれはあれで、楽しかったけど」
「じゃあアークは菓子を買わずにいたらいい」
「買うよ、買う買う」
 いつもより口数の多いクランの、楽しげな様子が妙に嬉しくて、アークは買い物袋を抱えなおした。
 そしてふたりは、ハロウィンのあたたかな、橙色の光に満ちた秋の街を、並んで歩いた。次にあのセリフを言い合うときは、きっと、菓子を差し出し合えるだろう。

「Trick or treat!」


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6568/アーク・フォーサイス/男性/17/舞刀士(ソードダンサー)】
【ka6605/クラン・クィールス/男性/18/闘狩人(エンフォーサー)】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ごきげんいかがでございましょうか。
紺堂カヤでございます。この度はご用命を賜り、誠にありがとうございました。
ハロウィンの楽しい一日を過ごす手助けができましたならば光栄に存じます。
ハッピーハロウィン!
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ファナティックブラッド
2017年10月24日

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