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『―流されて夢の島・11(Survive Ver.)― 』
海原・みなも1252

 見渡す限りの視界に広がる大海原。前も後ろも右も左も、見えるものは完全に凪いだ波ばかりだった。
 そんな只中にポツンと浮かぶ、一艘のイカダ。その上に、人影が二つ。
 ――いや、一方は半人半蛇の肉体を持つ、幻獣であったのだが。そのような事は実に些末な、取るに足らない話であった。
「やっぱり、大きな船とこんなイカダとでは話が違うって事かな?」
「少々、無理があったかも知れませんね……水や食品の備蓄も難しいし、日照りになっても身を隠す場所が無いですから」
 二人は、例えれば極寒の高山にハイキングの装いで赴いたような、我が身の軽率さを心底から悔いていた。
 人間――魔術師の少女は、そのトレードマークであるローブをマスト代わりの支柱に掲げ、帆の代わりとする事を考えて実践に移したが、その面積が小さすぎる上に強度も不足していて、役を成さないままそれを喪失していた。
 獣人――人間の上半身に蛇の下半身を持つ少女は、やはり純粋な人間と比べればフィジカル面で優るのか、さほど疲労感は観られない。しかしメンタル面は人間と変わらない為、時折弱音を吐く事もあった。
 彼女たちが絶海の孤島を脱出し、海洋を旅するようになって、約一カ月が過ぎようとしていた。魔導士の少女が大型船に便乗し、獣人――幻獣ラミアの姿を持つ少女・海原みなもの住む孤島付近に到達するまでに要した時間は、二週間であったと云う。しかし、それは設備の整った船舶での話。ただ船の体を模して、浮かぶだけの代物ではその機能までを再現する事は難しかったのだ。
 幸いな事に、食料調達に関しては、みなもの活動によって賄われていた為、彼女たちは飢えだけは凌ぐ事が出来ていた。が、真水の確保には難儀していた。何しろ、自分たちを囲む環境は水の上ではあったが、それを飲んで渇きを癒す事は出来ないからである。
「太陽は真上から正面へ進んでいるから、方向は合っています。でも……」
「分かってる、動力が無いから進まないんだよね」
 今はまだ、こうして会話をする体力も残っている。しかし、それもいつまで持つか……彼女たちの命運は、その大半を成り行きに任せるしかない段階にまで来ていた。まさに、命を懸けた大博打となってしまったのである。

***

 その夜、彼女たちのイカダは叩きつけるような豪雨に見舞われていた。もう少し勢いが弱ければ『恵みの雨』と成り得たのだが、此処まで強い勢いなら、それは脅威となる。
「ラミアさん! 右舷の床がまた一枚、脱落しました!」
「くッ、マストも折れちゃったし……波も高くなってきた。このまま翻弄されたら、こんなイカダじゃ持たないよ!」
 どのような構造物も、手入れのできない状態が続けば劣化する。彼女たちのイカダを構成しているロープや楔も、海水と天日に晒され、ジワジワとその強度を奪われていたのだ。そこに、この嵐である。普段より強い衝撃が、脆くなったイカダを弄ぶ。いよいよ駄目か……二人がそう思った時、彼女たちの視界の片隅に、何やら大きな黒い影が写り込んでいた。
「あそこまで、行けるかな!?」
「分かりません……でも、このままでは二人とも助からない! やってみます!」
 魔術師は、普段はアンカー代わりに利用している呪術『光の糸』を、その黒い影に向かって射出した。その影が幻ならば、彼女の術はそれを通り過ぎていく筈である。が、その影の向こうまで光が伸びて行く様子は無い。それどころか、しっかりとした手応えが得られ、それを手繰り寄せる事すら出来たのだ。
「かなり丈夫な構造物のようです……このまま行きます、しっかり掴まっていてください!」
「大丈夫だよ、お願い!」
 魔導士の放った『光の糸』は、術者の意思によってその長さを変える事が出来る。つまり、固定された標的との距離を縮める事も可能なのだ。普段はイカダをその場に固定したり、海中の魚介類を捕獲したりするために用いていたその術に、全てを託して……彼女たちはその黒い影に向かっていた。因みにその時、その影の正体が何であるかという『警戒』の意思は、二人の思考から消し飛んでいた。

***

 月明りすら無い、真の闇の中。二人は『光の糸』を手繰り、遠目に見えていた黒い影の元に到達した。
 まず、彼女たちが触れたものは、壁である。しかも、その壁もまた、自分たちとは異なる周期で揺れているのだ。少なくともその壁が海面に浮かぶ人工構造物である事は、その時点で判別できた。そして……
「こんな大海原に浮かんでいる、人工のものと言えば……」
「船舶、で間違いありませんね。しかし妙です、全く光を灯さずに航行する船などありはしません」
 左様、船舶はその存在を自ら示し、他の障害物との接触を避ける為に、夜間でも目印を示すのが普通だ。が、彼女たちが見付けたその船舶には、それが無いのだ。
「この風雨で、ランプが消えたとか?」
「考えられますね。魔術で作った灯りならそんな事はありませんが、普通の火なら消えてしまいます」
 波と雨、それに暴風が奏でるノイズによって、呼び掛ける声も届かないのか、船上から顔を出す者も居ない。しかし、二人のイカダは、もう限界に達しようとしている。一刻の猶予も許されない状況だ。
「甲板に上がろう、人が居たら事情を話せばきっと分かってくれるよ」
「賛成です、このままでは二人とも……急ぎましょう!」
 魔導士が、外壁に取り付けていた『光の糸』を手早く外し、それを上に向かって射出する。同時に二本放つ事が出来れば良いのだが、そう都合よくは出来ていないらしい。
 舷側の手すりに糸が掛かったのを確かめると、二人はそれを手掛かりにしてイカダを離れた。そして甲板によじ登ると、そこで漸く一息つく事が出来た。
 見たところ、客船では無いらしい。甲板上にそれらしい構造物は見当たらず、船尾に操船用の船橋があるだけだ。但しマストは頑丈で、畳んではあるが帆も健在のようである。
「貨物船、かな?」
「とにかく、人を探しましょう。乗船許可を貰わないと、不審者と見做されて最悪は……」
 魔術師の意見は尤もだった。乗員でない者の侵入は、許されざる事なのである。それが助けを乞う場合でも、まずは事情の説明が必要になるのだ。
「入り口は……ブリッジの下だね」
「それにしても、大きな船……私が乗ってきた船と同じぐらいの規模があります」
 魔導士が乗って来たのは、大陸の軍隊が所有する船……いわゆる軍艦であった。が、それと同等の規模を持っていると、彼女は言っているのだ。
 入り口を潜り、船内に入る。しかし内部にも灯りは無く、人の気配は感じられなかった。
「誰か、誰か居ませんか!」
「船が難破して、漸く辿り着いた者です! 乗船を許可してください、お願いします!」
 二人は大声で叫んだ。が、返事は無い。これはいよいよ以て、妙である。これだけの大型船に人っ子一人いない、なんて事は普通考えられないからだ。
「乗員は居ないの?」
「そんな、おかしいですよ! では何で、この船はこんな外洋に浮かんでいるんですか!?」
「……幽霊……」
「キャー! や、やめてください! 私、私……」
 魔導士は本気で怯えていた。が、しかし。イカダは既に粉微塵、もう戻る事は出来ない。
 みなもは魔導士に『朝を待とう、明るくなったら散策しよう』と提案した。海に放り出される危険は去ったのだから、と言い聞かせながら。

<了>

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【1252/海原・みなも/女性/13歳/女学生】
【オリジナルNPC/魔術師/13歳/女性/黒魔術師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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連作になります。
海洋サバイバルを、小さなイカダで展開するのには流石に無理がある為、作中設定にて乗り物を変えてみました。
もう少し遊び心を出しても良いかな、とは思ったのですが。
他に登場人物を出す訳にもいかない条件の下で物語を紡いでいるので、この辺が限界でしょう。
モブキャラが多数存在し得る地上に到着するまで、新たな出会い的な進展はお預けとなります。ご了承くださいませ。
東京怪談ノベル(シングル) -
県 裕樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年10月24日

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