▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『無限地獄を共に征く』
ミツルギ サヤaa4381hero001

 剣である。が、切れ味は無いに等しい。刃に、指を普通に触れる事が出来る。
 なまくら、である。さもなくば模造刀だ。
 斬れぬ刀身には「死」を意味する梵字が刻まれているが、この剣そのものがすでに死んでいるのではないか。あるいは、最初から生きてなどいない。
 それが私ミツルギ・サヤの、この剣に対する第一印象である。
 死出ノ御剣。
 この剣の名称だが、私の名前に似ている。
 ミツルギ・サヤというのは、ちなみに本名ではない。
 無口で、ぶっきらぼうで、他人とろくに会話をしないせいで舌の回りもよろしくないあの男では、私の本名を発音する事が出来ないので、言いやすいよう訳してやったのだ。
 あの男と行動を共にするようになって以来、だから私はずっとミツルギ・サヤである。こちらが本名でも構わない、とさえ今は思う。
 死出ノ御剣。
 この斬れぬ剣にそんな名前が与えられている事を知った時、だから私は、いささか面白くなかった。
 お前は、なまくらだ。誰かに、そう言われたような気がしたのだ。
 そんな剣を、しかし私は手に取って、叩き折る事も放り捨てる事もせず、とりあえず携行し続ける事を決めた。
 柄を握った瞬間、おかしな気分になったからだ。
 懐かしい、というのが最も近いであろうか。
 片手でも両手でも握れる長さの柄が、私の五指と掌に、何故だかよく馴染んだ。手の中に、しっくりと収まる。
 あの男と初めて『共鳴』した時と、感じが似ていない事もなかった。
 あの時以来、私は『剣』である事に徹してきた。あの男の、道具であり続けた。
 私が、そう望んだのだ。
 剣として、武器として、道具として、役に立つ。そういう存在であり続ける事が、私の望みだ。
 私は剣だ。斬れ味が落ちた、と思ったなら打ち棄ててくれて構わない。お情けで使い続けてもらおうとは思わない。
 最初に私は、あの男に強くそう言っておいた。
 打ち棄てられる事もなく私は、あの男との『共鳴』関係を続けている。
 私があの男にとって、役に立つ道具であり続けているのかどうか、それはわからない。
 ぶっきらぼうで情け知らず、他人の事には無頓着。そんなふうに振舞っている、あの男の欠点の1つである。結局のところ、お情けで色々とやらかしてしまうのだ。
 そのやらかしに、私も付き合わされる事になる。
 この間の戦いも、結局はそういう事だ。
 あの戦いで私は初めて、この剣を使ってみた。
 触って平気なほどなまくらな刃が、何人もの能力犯罪者を装備品もろとも切り裂いた。
 防弾・防刃装備も、その下にある人体も、まるでパスタマシンに放り込んだ麺生地のようであった。
 模造刀が、霊力を注入された瞬間、本物の剣に変わったのだ。戻った、と言うべきなのか。
 乾物を戻す感覚に、似ていない事もなかった。ちなみに私は料理もやる。あの男が、しばしば家事を溜め込むからだ。
 この剣を使って私は、あの能力犯罪者たちを賽の目や膾に料理した。
 斬れ味が無いに等しい真鍮色の刀身が、霊力の輝きを得た瞬間、黄金色に彩られつつ鉄をも切断する。
 戦いが終われば、真鍮色のなまくらに戻る。
 私のような剣だ。私も、こうありたいと思う。
 一度、鞘から抜き放たれれば冷酷に、鋭く、容赦なく。
 戦いの無い時は、鞘の中のなまくらで構わない。私は剣なのだから。
 あの男は言った。お前この剣とは全然違うぞ、と。
 戦いの無い時だってお前、勝手に鞘から出て来て色々ぶった斬ってくれるじゃねえか、と。
 言われてみれば確かに、最近の私はそうだ。以前は、あの男だけではない、人間そのものに干渉しないよう心がけていた。
 戦いの無い時は、ただ幻想蝶の中で眠っていたものだ。鞘を被せられた刃のように。
 そんな私のように今、この剣は鞘に収まっている。
 死を意味する梵字が刻印された、真鍮色の刀身。それを包み込む鞘には『輪廻』と刻まれている。同じく梵字でだ。
 輪廻が、死を内包している。
 何度も死んで、幾度も生まれ変わる。ある意味、それは無限地獄だ。
 死と生まれ変わりの繰り返しから脱却し、高次元の存在へと至る。すなわち解脱。それを至上の目的とする考え方もあるようだが、私とは今のところ縁の無い思想であった。
 鞘の中で、この剣は今、眠っている。
 私は、すらりと抜き放ってみた。
 抜いても、まだ眠っている。戦いとなって霊力を活性化させない限り、この剣は真鍮色の模造刀でしかない。
 真鍮色の鈍い輝きの中に、微かな、だが確かな、煌めく何かがある。
 この剣の、歴代の所有者たちが積み重ねてきた、儚く純粋な思い。
 繰り返される死と転生の中で、儚いものが無限に積み重ねられてきた。そして今、微かに煌めく何かを成している。
 それが、霊力を注入された瞬間、黄金色の光となって活性化し、能力犯罪者を、従魔や愚神を、斬り裂いてゆく。
 悪しきものを、闇へと沈め、光で浄める。
 私が戦いに倒れた時、この微かに煌めく何かに成れるのだろうか。
 それは、わからない。倒れるまで、この剣を振るい、戦い続けてみなければ。
 私は、剣を鞘に収めた。輪廻が、死を包み込んだ。
 無限に繰り返される、死と生まれ変わり。そこから解脱するのは素晴らしい事なのだろうが、私にはまだ必要ない。
 無限地獄の中を、この剣と共に……それにまあ、あの男とも一緒に、彷徨い歩く。
 今の私は、それでいい。

ORDERMADECOM EVENT DATA

登場人物一覧
【aa4381hero001/ミツルギ・サヤ/女/20歳/カオティックブレイド】
シングルノベル この商品を注文する
小湊拓也 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2017年10月25日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.