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『夢の国へ、手に手を取って 』
笹山平介aa0342)&柳京香aa0342hero001)&ゼム ロバートaa0342hero002)&賢木 守凪aa2548)&カミユaa2548hero001)&イコイaa2548hero002


 ひとたび門をくぐれば、そこは夢の国。
 現実世界の面倒なことは全て忘れて、楽しいパレードへ参加はいかが?
 ようこそ、どうぞ楽しい一日を!



「晴れて良かったですねえ♪」
 笹山平介は、心からの笑みを浮かべて晴天を仰ぐ。
「よくやった、平介」
 自らの手柄のように大きく頷いて、デジカメを手にした賢木 守凪はテーマパークの光景を楽し気に収めている。
「平介の手柄には感謝ね。福引で一等だなんて」
 平介と契約を結ぶ英雄である柳京香も、上機嫌でパンフレットを開いていた。

 小さな商店街で開催されていた福引抽選会。
 平介が何の気なしに引き当てたのが『大人も子供も楽しめる! 夢の国テーマパーク』ペア3組招待チケットだった。
 自身の英雄である京香とゼム ロバート。
 平介にとっても彼らにとっても、それぞれと縁の深い間柄である守凪と英雄であるカミユ、イコイ。
 合計6名の日程調整は少しばかり難航したけれど、結果として今日という日に恵まれた。

 動きやすさを考慮しラフな私服姿のカミユは、遊び慣れた大学生風――などと評しては怒られるだろうか。
「子供だましの遊園地だと思っていたけど、作りはしっかりしてるねぇ」
 茶化しているのか褒めているのかわからない彼の評は、『いかにも』な場所に対して素直になれない可愛い恋人・京香を思ってのこと。
「そうだな。まあ、悪くはないんじゃないか。人が多いのも休日なら仕方ないしな」
「ふふふ」
「イコイ。どうして今、笑った?」
「笑ってなどいませんよ。ふふふふ」
 カミユの言葉を額面通りに受け取っているゼムは、苦手とする団体行動や賑やかな周囲にたじろぎつつ弱みを見せまいと必死で、丸っとお見通しのイコイが彼の隣で隠すつもりもなく笑っている。
「それでは、どこから行きましょうか♪」
「時間は有限だからな、効率よく回ろう。俺はアレに乗りたい」
 守凪がスッと指先で示したのは、船を模した回転系アトラクション。
 一度に乗れる人数が多いため、待ち時間もほとんどないようだ。
「……あれか?」
 顔が引きつったのは、ゼムであった。
(こいつ……細っこいけど大丈夫なのか。貧血とか起こさないか? 盛り上げようと無理してないか?)
 深窓の令嬢の如き容貌のイコイの内面を自分なりに承知しているゼムにとって、今回のメンバーでは守凪が一番、線が細く感じられる。
 平介にとって大切な存在であることは知っているから、無茶をさせたくない。
「恐いのですか?」
「怖くねーよ。俺は、ただ……」
「皆で乗れるし、良いんじゃないかしら。守凪、たくさん写真をお願いね」
「ああ、任せろ京香。……平介、構わないか?」
「もちろんだよ、守凪♪」
 人によっては、写真に撮られることを嫌う。案じた守凪だったが、平介は至って上機嫌だ。取り繕っている風でもない。

(……よかった)

 守凪は平介の返答に安心し、平介は守凪が楽しんでいる姿に安堵する。
 カミユは京香の笑顔を見守り、京香はさりげないカミユの気遣いを嬉しく思う。
 ゼムは守凪のタフな様子に少しだけホッとして、イコイはそれを見て楽しい一日になりそうと確信した。




 2つほどアトラクションをまわった辺りで、平介は振り向いた。
 ゼムとイコイが居ない。
「あの2人なら、勝負がどうのといって逆方向へ行っちゃったねぇ」
 引き留めるつもりはなかったらしいカミユが、のんびりと平介へ告げる。
「なるほど……。2人らしいというか……」
「仲がいいのか悪いのか、だな。子供じゃないんだ、連絡手段もあるし時間までに合流できればいいだろう」
「そういうこと。ここからは二手に分かれようかぁ。全員で全部を網羅も難しいし、それぞれに楽しんだ報告をするのもいいんじゃないかなぁ」
「あ、それは良いですね♪」
 平介は、カミユと京香の関係を知っている。2人きりにさせてあげるには良いタイミングだろう。
 ゼムについても、何も告げず姿を消したことに驚きこそすれ心配はしていない。
「二手……か。よし、わかった」
 まったく気づいていない守凪だが、平介とはゆっくり話したいと思っていた。それが許されるのなら、幸運とも言えよう。
 


●その先に、見たいと願うは
「少しは楽になりましたか?」
「うるせぇ……」
 テーマパーク特有の賑やかさに参り始めていたゼムの手を引いたのは、イコイだった。
『仏頂面で、空気に水を差す作戦ですか?』
 などと言われてしまえば、ゼムとて挑発とわかっていながら乗らないわけにはいかない。
 誰もが楽しみにして、楽しんでいることは感じ取っているのだから。
『邪魔になるでしょうからね』
 付け足されたイコイの言葉から、平介と守凪・京香とカミユを思ってのことだと把握して、ますます従わないわけにはいかなくなった。
 不本意だが。非常に不本意だが。
「……ぜってぇ負けねえぞ」
「はいはい、勝てるといいですよね。応援してますよ」
「この…… ……ここにはゲームセンターもあるのか」
 中性的な容姿で儚げなのに、綺麗な口調で太々しい言葉を吐き出す相手へ、ゼムがいつも通りの闘争心を煽られたところに渡りに船。
「よし、勝負だ」


 晴天の屋外アトラクションに比べれば、屋内のゲームコーナーは人も少ない。
 BGMが賑やかであることに変わりはないが、ゼムの顔色もだいぶ良くなっていた。
 幾つかある対戦ゲームから、ゼムが勝負に選んだのはパンチングマシーン。
「それで良いんですか……?」
「悔しかったら、俺に勝ってみろ」
(と、言われましても)
 長い銀髪をサラリと揺らし、イコイは一度だけニコリと笑った。

「どうだ!!」

 最高得点をたたき出したゼムは、得意顔で振り返る。
「はいはい、すごいですね」
「なんだ、そのやる気のない拍手は」
「それより、早く名前を入力しないと記録を残せませんよ」
「む? ……。……お前が入れろ」
 入力の仕方がわからない。とは言わない。
「勝ったのは俺だからな、せめて入力の権利くらいお前にやるよ」
「わーうれしい」
 まったく感情のこもらない声と表情で応じつつ、イコイはしばし考える。
(得意分野としても、私の上がれない土俵では勝負以前に共有できないでしょう)
 面白くない。
 相手に負けたくない、という気持ちはイコイもゼムと同じように抱いているが、少しベクトルが違う。
(面白くありません)
 表情には出さないまま、イコイは胸の中で繰り返す。
 それから綺麗な指先で、名前を入力した。
『0』
 ゼロ。
 勝負の提案、0点。
「よし、これで俺の記録はずっと残るわけだな」
 なお、ゼムはきちんと自分の名を入力してもらえたと――イコイを、信じている。

 
 次のゲームを探す途中で、イコイが足を止めた。
「写真を撮っていきましょう」
「はぁ?」
 写真とは、守凪が持っていたようなカメラで撮影するものではないのか。
 小部屋のようなマシンへ向かうイコイの背を見て、ゼムは首を傾げつつ後ろを歩く。
『好きなコースを選んでね!』
「!?」
 機械が喋った。
 そして、写真にコースとは。
「もう少しこちらに来ていただけないと写りませんよ?」
「わ、わかってる」
 イコイに腕を絡められ、正面のモニタにゼムも納まり――……これが写真になるのだろうか。
 謎に謎が重なり、ゼムの眉間は渓谷のように深くなる。
 そんなことお構いなしに、イコイは慣れた様子で綺麗な笑顔を浮かべていた。
 
 撮影の後、小部屋の外でモニターに向かってイコイが何がしか書きこんでいる。
 ややあって、小さな写真が吐き出された。
 ゼムには意味も用途も、まったくわからない。
 見ようによっては恋人同士のようにも解釈できるような2人の姿にも気づかず、今日の日付と名前がイコイの文字で書きこまれているそれをただただ感嘆して眺めるばかり。
「半分どうぞ。要らないなら、私が全部いただきますが」
「誰がやるか。俺の取り分なんだろう、受け取るぞ」
「ふふ」
 はさみで切り分け、半分をゼムに渡して。イコイは、嬉しそうに目を細めた。
「よくわからないもので喜ぶんだな、お前は」
「そうかもしれませんね。……モノが残ることは好きです」
「そうか」
「はい」


 外の空気を吸いに出た頃には、パーク内の喧騒も気にならなくなっていた。
 2人で軽く食事をとり、賑やかなアトラクションは遠目に眺めてゆったり歩く。
「勝負、というわけではありませんが」
 目に入った建物を、イコイが指し示す。――ホーンテッドハウス。
(単純なものに、良い反応をしてくれる気がします)
 イコイは、ゼムを不愉快にしたいわけではない。
 喜怒哀楽で分類できない、様々な表情を見たいだけ。それを引き出すための手段を選ばないだけ。
「ふん……いいぜ」
 血飛沫の飛ぶおどろおどろしい建物を前に、ゼムは不敵な笑みで応じた。

 墓地の上に建てられた、一家殺害事件があったという屋敷。
 今なお無念を訴える数多の魂が棲みつき、囚われた殺人鬼もまた逃れるために凶器を手に徘徊しては入り込む者を手に掛けているという。
 2人を乗せたトロッコがガタゴトと暗闇の中を進む。
 遠く近く女の悲鳴が響く。
 前方にオレンジ色の灯りが見え、自ずと視線をやると――
 ――ゴトリ
 天井から上半身だけ突き出す形で逆さになっていた女の首が切り離され、2人の眼前を横切る。
「!?」
 ゼムの肩がビクリと跳ね上がった。そのタイミングでトロッコは何かに躓いたようでピタリと止まる。
 どういうことかと左右を確認すると、壁には血に濡れた斧を持つ殺人鬼が――……
「手を繋いで差し上げましょうか?」
 しばし睨みあう二者の姿に、イコイは楽しいことこの上ないといった声で申し出た。
「驚いただけだ」
「強がらなくていいのに」
 驚いて恐がって、縋りついてくれたら楽しかったのに。
 予想に反するリアクションに、イコイは不機嫌になるが――
(いつまで睨みあってるつもりなのでしょう)
 斧が振り下ろされ間一髪でトロッコが動き出すまで、ゼムは殺人鬼を睨み続けていた。相手は機械なのに。
(まるで、目を逸らしたら負けを認める野良ネコのよう)
 次に出てくる怪物へは、どんな反応をするのか。
 改めて楽しい気持ちになって、イコイは肩の力を抜いた。




●魔法の時間
 どこか行きたいところはある?
 京香が問うから、
 京香さんにお任せするよぉ
 のんびりと返す。
 普段は『頼りがいのある女性』という印象が強く自覚もある京香が、カミユの前でだけ素直な一面を見せると知っているから。
 カミユは、京香が希望を口にしやすいように手を差し伸べる。
「……笑わないでね?」
 ほら、やっぱり。
 『みんなと一緒』では、言い出せなかった行きたい場所。
 あなたが望むなら、空の果てまで行こうじゃない。


 ――ギュン、と強い回転と共に風がカミユの頬を弄る。
 ティーカップにあるまじき速度である。
「いっぱい回すわよ♪」
 中央テーブルを操る京香は、御機嫌絶好調だ。
「風が気持ち良いーっ」
 時には空を仰いで、遠心力を堪能し――それから、ハッとなる。
「カミユ!?」

 酔ってしまったカミユの背をさすり、京香は冷たい飲み物を差し出す。
「ご、ごめんなさい……ついはしゃいで……」
「大丈夫だよ。ちょっと目が回っただけだし」
 小さく咳き込んでから、カミユはペットボトルのキャップを捻った。
(なるべく京香さんに心配かけたくないんだけどなぁ……)
 年下という現実が、こんな時カミユには重く感じる。
 いや、年齢は関係ないのかもしれない。
(ボクが強かったら……)
 心配なんてさせずに済む。安心して、彼女は彼女らしく振舞えるんじゃないか。
 そう考えてしまう。
「そんな顔しないで。時間はたっぷりあるからさ、次は何処へ行こう?」


 おとぎ話の世界のような、甘く優しいメロディが流れる。
 まわるまわる、メリーゴーランド。
「それでは夢のひと時をどうぞ、お姫様?」
 カボチャの馬車へ乗る女性には、可愛らしいティアラが貸し出される。
 長く波打つ京香の髪に、それは柔らかに収まった。
「ドレスみたいなのもあったらいいんだけどねぇ」
「さすがにそこまでは……でも、王子様のカミユも素敵だったでしょうね」
 可愛らしい白馬、花に彩られたブランコ、女王の玉座が、メロディに合わせてゆったりと踊るよう。
(うん……京香さん、お姫様ドレスとか似合いそうだなぁ)
 キラキラと眩しい舞台へ目を輝かせる横顔は、少女のように純粋で。
 自分の前だけでいいから、そんな姿を見て見たいと、向かい合って座るカミユはボンヤリ考える。
「カミユ……私の行きたい所に付き合ってくれてありがとう……」
 馬車のふちに手を添える京香の、頬がいつになく染まっている。俯いているから表情は良く見えない。
「京香さんの喜んでくれる場所が、ボクの行きたいところだよぉ」
 可愛いな。そう思う。愛しいと、思う。
 彼女の強さも、内に秘める柔らかさも。
「……そうやって、甘やかすんだから」
 だって、甘やかしたいのだから仕方がない。
 魔法の時間が終わりに近づく。
 メロディが変調するのと同時に、京香はカミユへ振り向いた。その時は、既にいつもの彼女の表情だった。
「ね。次はカミユの行きたい所、行きたいわ♪」
 ぎゅっと、両の手でカミユの手を握って。
「ボクの行きたい所……? ……そうだなぁ」
 カミユは遊園地に興味がないわけではなくて、京香が喜んでくれるのならどこだっていいと素で考えていた。
 だから、個人的な願望は薄いのだが――
「あそこがいいかなぁ……♪」
 せっかく、2人きりで行動しているのだから。
 静かで、ゆっくりできる空間で過ごすのも良いだろう。



 一周30分ほどの大観覧車。
 4人乗りということだが、多くは2人組だ。カミユと京香も然り。
 広々としたゴンドラに、2人並んで腰を下ろす。
「ここから平介達探せるかしら……♪ 何てね……冗談」
 徐々に高度が上がってゆき、視界も拓けてくる。自分たちが歩いていた場所を見下ろしながら、京香はカミユの肩へそっともたれかかった。
(暖かい……)
 カミユは、あたたかい。優しい。
 体温を感じて、存在が確かなものと実感して、京香は目を伏せる。
(なんて平和なのかしら)
 文字通りの、夢のような時間だと思う。
 『この世界』へ来る前も、京香は戦いばかりの生活に身を置いていた。
 終わりの記憶はあいまいだが、いずれ優しく甘いモノとは縁遠い。
 現在は、本当に現実なのだろうか。そんな不安に駆られる。
(戦わなくてもいい世界になったら……自分は消えちゃうのかな……)
 この世界へ来たことに理由があるのなら、それは『戦うこと』なのだろうと京香は思う。
 世界はいつだって、平和を求めている。平和を願い、求め、戦う。矛盾しているようだけれど、いつかは戦いにも終わりが来る。
 その時は――この世界で得た、ぬくもりは――……
「今日、楽しかった? 京香さんが楽しかったなら良かったんだけど」
 京香の胸に不意に湧いた不安を、カミユの声がかき消した。
「ボクは京香さんと一緒ですごく楽しかったから」
 レンズの向こう、緋色の瞳が優しく笑みをかたどる。
 その向こうには、暮れ始めた空があたたかいオレンジ色に染まっていた。
「ええ、幸せよ……とても」
 あなたがいて良かった。出会えてよかった。
 『今』を愛しく思える幸せを、京香は抱き締めた。




●これから先も
「もう一回だ!」
「よし、乗ろうか♪」
 守凪はジェットコースターが気に入ったらしい。パーク内をぐるりと巡る長距離コースターは、スピードやスリルだけではなく自然の景色も楽しめる。
(風をきる……やっぱり早いものが好きなのかな?)
 目を輝かせて列へ並ぶ守凪の後ろを歩きながら、平介は以前、友人たちと訪れた際も守凪が同様に喜んでいた様子を思い出す。
「平介は大丈夫か? 気分が悪くなったら大変だからな」
「楽しんでるよ♪ このテーマパークは、開放的で気持ちいいねぇ♪」
「よかった」
 コースターは閉所暗所ではないから、守凪もずっと乗っていられる。隣に居るのが平介だから、安心感も強いのかもしれない。
 ――しかし。
「これでは写真を撮れないか」
 眼前の楽しさに囚われて『思い出を残す』ことを失念していた守凪が、そのことに気づいた。
「え? 今、なんて?」
 乗り込んだコースターが、ゆっくりと動き始める。音に紛れ、平介には呟きが聞こえなかった。

「まあ……写真に残らない思い出も、悪くないんだろうな」
 


 絶叫系を幾つか堪能し、2人はフードコートへ向かった。
「…………」
「さすが遊園地、ラインナップも賑やかだね〜♪」
 目移りするけど、守凪はどれを食べる?
 平介が視線を落とすと、選択肢の余りの多さに硬直している守凪の姿があった。
「……平介と同じ物が良い」
 考えて考えて、守凪は絞り出すように答えた。

 焼きたてチュロスにオリジナルハンバーガー。
 テーマパークのマスコットキャラクターを模したピザは2人でシェア。
「乾杯♪」
「乾杯!」
 昼間の屋外、ジュースで乾杯。遊び疲れた体に、冷たい炭酸が染みる。
「ここでしか食べられないというのは貴重だな」
 どのブースも、趣向を凝らしたオリジナルのフードを提供している。
 チュロスに使っているハチミツは、近郊の養蜂場で採れるものを使用しているのだそうだ。
「花の香りがするぞ、平介!」
 ベタベタ甘いイメージで噛付いたら意表を突かれ、守凪が目を見開く。
 あれこれ手を取る度に新鮮な反応をする彼を見守ることが、平介にとってささやかな幸せだった。
「作ろうと思って作れる物でもないだろうし」
 感嘆し、守凪はテーブルの上に並べたフードを写真に撮る。
 ボリュームのあるハンバーガーにはポテトとピクルスが添えられていて、程よい口直しになる。
「外遊びの醍醐味だね。うん、美味しい♪」
「美味い!」
 同時にバーガーへかぶりつき、顔を見合わせて笑う。
「午後は……守凪はどこに行きたい?」
「スピード系はたくさん乗ったし、写真に残せる場所もいいな」
「そういえば、撮る暇がほとんどなかったね」
 守凪が勇んで持ってきたデジカメの出番が少ないことを思い出し、平介は肩を揺らす。
 食べ物が片付き始めたテーブルにマップを広げ、2人は現在地とアトラクションとを見比べた。
「行きたい場所は、いくつかあるが……最後に乗りたいものがある」
 ほんの少し沈黙した後、思いつめたように守凪は希望を告げた。



 敷地の外からも見える、テーマパークのシンボルとも呼べる大観覧車。
 同じ列にカミユと京香も並んでいることを、平介も守凪も知らない。
 たくさん遊んで、歩いて、笑って、陽が傾き始めて。
 夢の終わりが、近づいている。
(これに乗ったら……)
 帰る時間。現実へ戻る時間がやってくる。
 守凪は寂しさと、これから向き合うべき不安を抱きながらゴンドラへ乗り込んだ。

 外の喧騒が嘘のように、ゴンドラの中は静かだ。
 徐々に徐々に、空へと近づいてゆく。地上から離れてゆく。
 一周30分ほど。それは、長いようで短い。黙っていても始まらないと、守凪は口を開いた。
「……俺は」
 平介と向かい合いながらも、目を合わせることができない。
 それでも、話したかった。2人になって、伝えたいことがあった。
 何がしかを感じ取ったようで、平介は静かに守凪の言葉を待つ。
「俺は、人の命を奪って自由を得ていた。……だから、ここにこうして居てもいいのかとも思う」
 ――これからいくらでも自らの手で紡いでいける
 『檻』を出て、自由になったはずだった。
 それでも過去が消えるわけではない。
 今に至る足跡が、今の己を作り上げているのだから。
「償い方は……まだ分からない。……ただ」
 青い目を伏せ、ゆっくり、ゆっくり、守凪は抱える悩みを言葉にする。一度切って、間を開ける。

「平介がいいと言ってくれるなら、こうして……傍に居たい」

 パチン、と2人の視線が交わった。
 平介を見つめる守凪の表情は、今にも泣き出しそうだった。
 楽しい思い出を積み重ねていくためには、しっかりとした土台が必要なのだ。
 目を背けず、向き合っていくことが。

「もちろんです……」

 守凪の思いを受け止め、平介は静かに答えた。
 彼らしい穏やかな表情。けれど……何かを隠すかのような、笑顔。



 

 パレードが始まる前に、6人は待ち合わせ場所へ揃っていた。
「迷子にならなくてなにより♪」
「バカにしているのか、平介」
「大人数だと、何があるかわからないってだけよ」
 平介を睨み付けるゼムの頭を、京香がポンとなでる。
「本当に……ゼムが、まさかあんな……」
「イコイ。脚色するな」
「今のうちに集合写真を撮るぞ。パレードが始まったらそれどころじゃなくなるだろう」
「張り切るねぇ、カミナは……。ま、楽しいのが一番だねぇ」
 悪くない。カミユは薄く笑みを浮かべ、京香へ振り向く。


 夕と夜の狭間、曖昧な時間。
 美しいグラデーションを背景に、忘れられない一枚を。
 そうして、夢の終わりを告げるパレードが始まる。




【夢の国へ、手に手を取って 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【aa0342    /  笹山平介 / 男 / これから先も、共に 】
【aa0342hero001/  柳京香  / 女 / 魔法の時間を2人で 】
【aa0342hero002/ゼム ロバート/ 男 / その先に、見たいと願うは? 】
【aa2548    /  賢木 守凪 / 男 / これから先も、共に 】
【aa2548hero001/  カミユ  / 男 / 魔法の時間を2人で 】
【aa2548hero002/  イコイ / ? / その先に、見たいと願うは? 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご指名、ありがとうございました。
夢のテーマパークでの一日をお届けいたします。
お楽しみいただけましたら幸いです。
八福パーティノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2017年11月01日

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