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『ハロウィンは大騒ぎ 』
アリア・ジェラーティ8537)&石神・アリス(7348)
「ハッピーハロウィン!」
 中身をくりぬいた小さなペポかぼちゃの中にカボチャアイスを詰め込んでお客さんへ手渡し、ミニ丈の魔女服をまとったアリア・ジェラーティがふわりと笑んだ。
 普段はぽやんとしているアリアだが、商売になればスイッチが入る。実家のアイス屋さんの店頭に立ち、ハロウィン仕様のアイスを華麗に捌いていく。
「いらっしゃ――アリスちゃん」
「がんばっていますね」
 人波が途切れたのを見計らってアリアへ手を振ってみせたのは、大のなかよしである石神・アリスだった。
「アリスちゃん、学校……は?」
 あっという間に普段の感じへ戻ってアリアが小首を左へ傾げた。
「今日はテストでしたから早上がりなんです。それにせっかくのハロウィンですもの。アリアさんと楽しみたいって思うわたくし、おかしいでしょうか?」
 くぅー、アリアさんてば今日もたまんないーっ! このままお持ち帰りたい!! 心の中でじたじたしつつも顔は平静を保ち、アリスはすました声で応える。
 今日こそ“なかよし”や“おともだち”の一線を越えるのだ。この石化の魔眼でアリアを捕らえ、誰も入り込むことのかなわない場所に飾って所有者と所有物の関係に!
 そんなアリスの思いに気づく様子もなく、アリアはかくり、右へ小首を傾げなおしてうなずいて。
「おかしく、ない」
「ですよねーっ!! いえ、おかしくなんてありませんよね。アリアさんの魔女衣装、とてもよくお似合いです。わたくしも持参した仮装がありますので」
 そしてアリスはゴシックな風情のヴァンパイアに姿を変え、店番をお母さんに交代してもらったアリアと共にハロウィンオレンジあふれる街へと向かうのだった。

「トリック・オア・トリート?」
 とりどりの仮装で趣向を凝らした人々が言葉をかけ合い、手から手へとお菓子が行き交う。
「いたずら、だめ。お菓子、どうぞ」
 お母さんに手を引かれた子どもにカボチャ型のアイスボンボンを差し出すアリア。「ありがと」と小さな手を挙げる子どもに手を伸べるが。
「アリアさん、いたずらはいけませんよ?」
「う……」
 掌に集めた冷気を散らして普通にハイタッチした。
「かわいいからってお持ち帰りは禁止です。みなさんが見ているんですから」
「うう……」
 遠ざかっていく子どもを見送り、うなだれるアリアに、アリスは思わずぞくぞくと背筋を震わせた。
 トリートよりトリックしたい! ああ、でもアリアさんのあのペンダントをなんとかしないとトリックできない! などと悩みつつ、アリスはほうと息をついた。
「……アリスちゃん、どうか、した?」
「いえなにも。それより今日はパレードがあるそうですよ。お菓子を配りながら歩くのも楽しいでしょうし、お菓子をいただくのも楽しそう」
 アリアはアリスの手を取り、歩き出した。
「アリスちゃんと、いっしょだったら……それだけで、楽しい、よ?」
 もうーっ! ほんとにまったくアリアさんはもうーっ!! 音にできない絶叫を胸中に響かせ、アリスはアリアのひんやりした手を強く握り返した。

 アリアとアリスはパレードの後ろにくっついて歩く。
 街のお店をまわって選び抜いたお菓子を詰めた小さなバケットを手に、人々へお菓子を配っていく。でも、同じくらいお菓子をもらうものだから、いつまで経ってもバケットからお菓子が減らなくて。
「このままでは逆にお菓子が増えてしまいそうです」
 苦笑するアリスにアリアは薄笑みを返した。
「よかった。みんな……笑ってる、ね」
「はい。それよりも疲れていませんか? ずいぶん歩きましたもの」
「大丈夫」
 アリアを気づかい、アリスはお菓子を配る役へ回る。
 そして指がバケットの底に触れて、気づいた。
「どうして……いきなりお菓子が」
 なくなってしまっていた。見れば他の参加者も同じらしく、困った顔でざわめいている。このままではパレードが続けられない。
「……いたずらした子、いるんだね」
 アリアがきゅっと手を握る。その顔に表情はなかったが、アリスにはわかる。アリアが怒っているのだと。
「いたずらにはお仕置きしてあげましょうか」
「うん」
 アリアが目を閉じて空気を嗅ぐ。
 彼女の隠された力――人外のにおいを嗅ぎ取る鼻が、いたずらした子を探して、探して、探して。
「あそこ」
 見つけた。
『やべ! 見つかってるし!』
 魔眼を巡らせて見れば、お菓子を抱えて飛び立つ小妖精たちの姿が。
「待ちなさい――っ!?」
 踏み出したアリスがべしゃりと倒れ伏した。いつの間にか左右の編み上げブーツの紐が結び合わされていたのだ。
 同じように紐を結ばれたり、髪を引っぱられたりマスクの目を塞がれたりして大騒ぎする人々。
 その間にお菓子をつかんだ小妖精たちは逃げていく。
「逃げちゃ、だめ!」
 アリアの呼び出した冷気が小妖精の羽を凍りつかせて墜とすが、混乱した人々の足元へ逃げ込まれて見失ってしまった。
『トリックトリックトリーック!』
 しかも小妖精たちはあちこちから風の魔法を投げつけてきて、アリアのミニ丈の魔女服の裾を大きくめくりあげるのだ。
「いたずらは、もっと……だめ!」
 アリアのカボチャパンツは衣装の一部。
 だからまったくはずかしがらないアリアに、小妖精たちは大ブーイングだ。
 一方、痛そうに鼻を押さえて立ち上がったアリスが石化の魔眼を小妖精に向ける。
「お菓子を返さないなら返させるだけです!」
 しかし小妖精は視線を避けて駆け回り、直撃させてはくれなかった。
「ああ、もう! すばしっこいですね!」
 顔をしかめるアリス。その衣装の裾がぶわっとめくれあがった。かわいらしい下着が思いきり露になって、彼女は思わず「もう!」、赤くなる。
 これが見たかった小妖精は今度こそ大喜びで跳ね回った。
「みんなから、引き離さないと……」
 魔法を大きく展開するには人目が多すぎる。
 アリアとアリスはうなずき合い、小妖精たちへ向かった。
「あっちに行きました!」
「……そこ」
「ああ、今度はこっちに!」
「アリスちゃん、危ない……」

 あちらこちらへ駆け回り、魔法合戦を繰り広げていたアリアだったが。
 気がつけばとなりにいたはずのアリスの姿はなく、独りぼっち。
 でも、魔法が使える自分はまだいい。問題は強力ながら限定的にしか力を発揮できないアリスのほうだ。
「探さなきゃ……」
 まわりに誰もいないことを確認し、アリアは自分のまわりに凍気を展開。いたずらしようと近づく小妖精を凍りつかせながら街へと戻りゆく。

「アリアさんは無事なの?」
 辺りに目線を巡らせ、アリスは唇を噛み締める。
 右往左往する人々の隙間から顔をのぞかせては引っ込める小妖精たち。力ではこちらのほうが上だと思い込んでいたが、認めよう。自身の特性を熟知し、それを最大限生かして攻めてくるあの子たちは強敵だ。
「わたくしも本気を出すんだから」
 ざわり。アリスの黒髪が沸き立ち、金瞳が鋭く輝くと。
「……」
 人々の顔から表情が抜け落ちた。
「いたずらする子を捕まえて」
 アリスの声を合図に人々が小妖精へ跳びかかる。アリスの魔眼が持つもうひとつの力、催眠によるものだ。
 いくらすばやい小妖精とはいえ、これだけの物量作戦でかかられてはかわしきれない。
『放せよー!』
 押さえ込まれじたばたもがく小妖精の前にかがみ込んだアリスは怪しく微笑み。
 小妖精たちを石像へと変えた。
「わたくしがいいと言うまで反省なさい」
 彼らの意識は残してある。動かない体の中で、せいぜい嘆くといい。
 と。
「え?」
 立ち上がろうとした脚が動かない。
 肉が、血が、別のものに置き換えられている。石化じゃなく、凍結でもない、これは――
「蝋化!?」
「トリックのジャマするいい子ちゃんはキャンドルになっちゃえ!」
 この声は小妖精のものじゃない。だとしたら。
「あなたがこの騒ぎの」

 アリアは人々を巻き込まないよう注意しながらアリスを探す。
 妖精をあしらいながらアリスの魔眼のにおいに集中。ひどく薄いが、大丈夫。辿れる。
 そして。
「アリスちゃん、見つけた」
 ハロウィンの飾りに紛れた大きなキャンドル。カボチャで偽装してあるが、まちがいない。アリスだ。
 カボチャを押し退け、蝋人形と化したアリスを発掘したアリアははたと動きを止めた。
「アリスちゃん……かわいい」
 跪いたまま天をあおぐヴァンパイア姿のアリス。蝋のしっとりとした艶が彼女の未成熟な造形美を際立たせている。
「連れて、帰りたいな」
 ふるふる。いけない。街を放っていくなんて。今はがまん。がまんがまん。
「写真だけ……」
 スマホにベストショットを収め、ついでに手触りを確かめてから、アリアはアリスを凍結した。これで彼女を蝋化した魔力はアリアの魔力の統制下に入った。
「もう、一枚だけ」
 撮影となでなで。名残惜しい気持ちをこらえて解凍した。
「――助かりました」
「アイス、いる?」
「今体が冷えていますので」
 ぶるりと震えたアリスにアリアが問う。
「アリスちゃんのこと、いじめたの……誰? 妖精さん?」
「いえ。あの子たちだけならこんなことにはならなかったのですけど。あの子たちを裏で操っている魔法使いがいます」

 この後ふたりがとった作戦はシンプルだった。
 片端から小妖精を石と氷に変えてひとつところに集め、オブジェ兼捕虜として晒す。
「アリアさんはにおいに気をつけて。わたくしは目と耳で探します」
 アリスが先に聞いた声を思い出す。たとえ声音を変えているのだとしても、そうそう口調までは変えられない。あのしゃべりかたは少女のものだった。おそらくはアリスやアリアと同じ年代の。
「……いっぱいに、なっちゃったから。ちょっと、壊しちゃおうか、な」
 アリアがぽそり。もちろんこれも作戦だ。小妖精を砕くと脅して誰かの反応を見るための。きっと少女は近くにいるから。
 そして案の定、騒ぐ人々の合間でびくりと眉根を跳ね上げた少女がいた。
「アリアさん!」
 アリスに促される先へ視線を向けた瞬間、においを捕まえた。アリアは氷の壁を少女のまわりに張り巡らせ、その逃げ道を塞ぐ。
「見られてるのになに考えてんの――!」
 少女は叫んだが、残念ながらその心配はないのだ。
「みなさん、その子を捕まえて」
 すでにアリスに催眠をかけられていた人々が一斉に動き出し、少女をふたりの前へ引きずり出した。

「さて、どうしてこんなことをしたのか聞きましょうか」
 縄代わりのモールでぐるぐるに縛り上げられた少女にアリスが訊くと。
「ハロウィンはトリックでトリートぶんどる日でしょ! わざわざ妖精界から来てあげたってのにぃ! 早くあの子たちの魔法解きなさいよこの頭でっかちいい子ぶりっこ!」
 なるほど、この少女はハロウィンに惹かれてこの世界にやってきた妖精か。子分を引き連れてきたということは、それなりにえらい妖精なんだろうが。
 反省の色がまったくないのはいただけない。
「わたしだってトリックしたい気持ちを抑えてるのに……これはもう、お仕置きですね」
「うん……おしおき、だね」
 うなずき合うアリスとアリア。
「げ! ちょ、あ、あんたたち」
 アリアの氷結魔法が少女の足先を凍らせた。
「なな、なにすんの!?」
 アリスの魔眼が氷と少女の足の境目から踝までを石化した。
 氷結と石化が縞々模様を描き、少しずつ少女を凍らせ、固めていく。
「ちょっと! これマジでやばいってば! やめろーっ!!」
 答はもちろん。
「「だめ」」

 こうしてお菓子を取り戻した人々はパレードを再開し、アリアとアリスも手をつないでその端っこを行く。
「なかなかよくできましたね」
「うん……いい、感じ」
 ふたりがちろりと視線を道端に投げれば、そこには石と氷の小妖精像が交互に置かれた中で立ち尽くす氷石の少女像が。
 青白い氷と黒みがかった石とで縞を成す像は、その造形の完成度もさることながら「どうやって造ったんだろう?」と人々の注目を集めていた。
「これで、反省……してくれる、かな?」
 アリスはあいまいにうなずいて少女像を見続ける。
 アリアの魔法とのコラボで、予想以上の像に仕上がった。ぜひ持ち帰ってライティングを整え、飾ってみたい。
 ――問題は氷の保存よね。でもこのまま置いていくのは惜しいし……
「アリスちゃん」
「え? あ、はい?」
「もっといっぱい、楽しいこと、しよ? ハロウィンだもん、ね」
 アリアがつないだ手を引っぱった。
 そうか。今は像のことを考えているときじゃない。だってハロウィンはまだまだ終わっていないんだから。
 アリスは前へ――まだまだ楽しいことが待ち受けているだろう1秒の先へ踏み出した。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【アリア・ジェラーティ(8537) / 女性 / 13歳 / アイス屋さん】
【石神・アリス(7348) / 女性 / 15歳 / 学生(裏社会の商人)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 楽しい。其はとなりで笑う誰かがいてこそ。
 
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電気石八生 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年11月01日

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