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『月の雫は未来へ光る 』
不破 雫ja1894)&不破 十六夜jb6122


「これが変更手続きに必要な書類になります。二枚綴りと三枚綴りがありますから、押印を忘れずに」
「はい」
「学園との契約書・誓約書も改めて必要となります。外部から依頼を受けるにあたり必須ですので、内容にも必ず目を通してください」
「はい」
「それから、これが――……」


 久遠ヶ原学園、とある事務室。
 戸籍変更に伴い必要とされる様々な書類を抱え、雫はゲンナリとした表情で部屋を後にした。

「不破 雫さん」

 馴染みのある声が、後方より彼女の名を呼んだ。
「ソレ、大変でしょ?」
 フリーランス撃退士である筧 鷹政は笑顔のまま、雫の抱える書類を指す。
「学園へ連絡を入れたら、今日は引継ぎ書類を渡すって聞いたからさ。お手伝いに来ました」
「え、でも……」
「不破の家から報酬の入金を確認したよ。そのことも伝えたくてね。こういうことはお兄さんに任せなさい」
 書類の山の大半をヒョイと取りあげ、鷹政は先輩風を吹かせる。
「報酬は、依頼に対する正当な謝礼であって事前に交わした契約ですから。私的なことをお願いするわけには」
「でも、1人でコレ全部、片付けられる? 不備があれば再提出や訂正が必要だし、数日単位で呼び出されることにもなる。引き受けている依頼に支障が出ないとも言い切れない」
「……それは困ります」
「でしょう」
 雫が学園へ入った当時は、彼女が幼かったため学園の事務員が代行してくれた。
 しかし、現在――自力で手続きをするとなると、これほど大仰になるとは。
 『撃退士』として仕事をすること、『学園』に所属するということの責任を、文字通り身に染みて感じたところであった。
「それでは、お言葉に甘えて」
 しばし沈黙の後、雫は申し出を引き受けることにした。
「どこでやろうか。図書室あたりがいいかな」
「いえ、もし空いているなら筧さんの事務所の方が。個人情報を含みますし、図書室では雑談も出来ませんから」
「了解」




 雫も幾度か訪れている、鷹政の撃退士事務所。
 どこにでもあるワンルームマンションの一室を改装したものだが、随分と小奇麗になっていた。
「事務所の規模拡大後は、順調ですか?」
「おかげさまで」
 上下で借りていた部屋を無断で繋げていたことが管理人にバレて、あれこれあった。
 それに伴う案件を学園へ依頼を出し、雫も参加していたから事情は知っている。

 ――整理整頓は、日々の行動により保たれるものです。依頼されれば報酬も出ますし食いつく人間はいるでしょうけれど、これからは――わかりますね?

 そう説教をしたものだが、どうやらきちんと守られているらしい。
 上階の事務所を見せた後、鷹政は下階の休憩スペースへ案内する。
 大きなテーブルがあり、作業にはこちらが適している。
「さっき電話を入れていたみたいだけど、十六夜さん?」
「ええ、帰宅が遅くなりますから」
 それを聞いた鷹政の表情が、ふっと和らぐ。
「……どうしましたか?」
「いや」

 ――『生き別れのお姉さん』を探して、久遠ヶ原へやってきた不和 十六夜さん。話だけでも聞いてみてよ

 鷹政が、雫へ十六夜を引き合わせた日。
 喪っていた記憶の――否、魂の欠片とも呼べる相手との再会。
 あの時は、今の状況なんて想像もできなかった。
「記憶を取り戻してから……変わったことは、ある?」
 少し聞きにくそうに間を置いて、鷹政が問う。
 戸籍を戻した。
 それは、雫が得たものを受け入れ、認めた証。
 幼少期に三柱の天使によって奪われた記憶を取り戻し、現在の記憶と共に歩むと決めた証だ。
「演じた覚えのない主演映画を見せられた感じですね。知っているし関連の事を思い出せるけど、まるで実感が無いんですよ」

 七五三の衣装選びで、姉妹でケンカをしたこと。
 『月詠』を授かった日のこと。
 
「それより、この先が思いやられます」
「というと?」
 自分を作り上げた過去は把握した。大切に育てられ、幸せに育った。
 家族の元に戻ってメデタシメデタシ――であれば、どんなに良かったか。
「筧さんも見たでしょう、不破の家。……豪華すぎるんですよ」
 学園へ来てからの雫は、至って小市民の生活を送ってきた。歴史ある家に馴染むことがなかなかできない。
「たまに長く滞在すると、何があると思います? 華道やら茶道やら、お嬢様教育ですよ……」
「ぶは」
「今、笑いましたか」
「いえ、お茶が器官に入っただけです。雫さん、お代わり持ってこようか」
 雑談しながら書類へサインをしていくうちに、気づけば紅茶の入ったカップは空になっていた。
 少し休憩ね、と鷹政はカップを取り上げてキッチンへ向かった。
 雫は視線だけで背中を追って、それから大きく伸びをする。
 学園でもない、家でもない。特別、気を遣う相手でもない。
 ほんの少しだけ、気を緩めることができる。
「……中でも一番悔しいのが」
 天井を見上げてから、雫は目を閉じた。シュンシュンと、ケトルが湯気を立てている。
「お嬢様教育で私が失敗すると、十六夜が生暖かい視線で微笑んでる事です」
「あはははは!」
 今度こそ、鷹政は声に出して笑う。
「まるで、妹を見る様でムカッとしますよ」
「そっかー……よかった」
「よくありません」
 むっとして、椅子の背もたれに手を掛けて雫が振り返る。

 声音も、表情も。
 以前にはなかった柔らかさを纏っていることに、当の雫は気づいていないらしい。

「よかったよ。俺は嬉しいって思っているんだ」
 そういって、鷹政は穏やかな表情でティーカップを雫へ差し出した。安心する、甘い香りがした。




 書くべきものは書き終えたはず。
 鷹政は押印漏れの確認を、雫は契約内容の最終確認をしていると、事務所のインターフォンが鳴った。

「実家に役所から届いてた書類を持ってきたよ。まとめて片付けた方がいいよねっ」

 十六夜が、実家経由の追加仕事を手にやってきた。
「……書類」
「更にドン」
 雫と鷹政は遠い目をする。
「それでは、ここからここは十六夜に任せます。筧さんはこちらを」
「あれ!? ボクも手伝うの? だって必要なのはお姉ちゃんの――」
「十六夜。私とあなたは?」
「双子です」
「だったら同じようなモノでしょう。無駄口を叩く暇はありません」
「えええええええええ」
「今なら、お茶とお菓子もついてくるよ。まぁまぁ上がって」
 姉妹のやり取りを見守っていた鷹政が、十六夜を招き入れた。


「華道と茶道? 剣術には静と動のどちらも必要だからって、習わせられてるんだよね」
 内容ごとに分けた書類を広げ、十六夜が鷹政の問いに答える。
 十六夜が自然や動物を相手に打ち解けられるのは、アカシックレコーダーとしての資質も去ることながら、そうした生活習慣も影響しているのかもしれない。
「今は、お姉ちゃんと一緒に受けてるんだけど……ふふふふふ」
「十六夜」
「だって。抹茶を飲んだ瞬間に顔を顰めて『苦っ!』て言ったり、適当に花を活けてジャングルを生み出すとは思わなかったよ」
「十六夜?」
 ゆらり。雫から暗黒の殺気が立ち上る。
「いたたたたた、おねえちゃん、ぼうりょくはんたい!!」
「暴力ではありません、訓練です。自力で解いてごらんなさい」
 冷静な表情で、姉は妹に関節技を極めている。
「もーーーっ。誰にでも実力行使するんだから!」
「相手は選んでいますよ」
「ウチの門下生も?」
「…………」
 十六夜にとっては、他意の無い一言だった。
 しかし、それを機に雫は技を解く。
「ねー、聞いてよ筧さん。お姉ちゃんたらね、絡んでくる門下生を実力行使で鎮圧しちゃうんだよ。道場の裏手で何か揉めてると思ったら」
「……裏手で?」
「剣術には剣術で。私の我流剣術に興味があるというから、見せただけです」
 鷹政の表情が不安で曇るのを察し、なんでもないと雫は一蹴した。
「事情を知らない者から見れば、私は降ってわいた存在ですから」
「雫さん、それは」
「ですから、実力を見せるまでです」
「みんな、ボクには反発しなかったのになんでだろうね? 古くからいる人達に相談したら笑うし」
 ――反発
 ――実力を
 まったく気づかぬ十六夜が零した言葉が、雫の行為へ繋がる。
「がんばってるね、雫さんは」
「えっ、筧さん、そこって褒めるところなの!?」
 一足飛びの会話に、十六夜がついていけない。
「雫さんの作るジャングルは見たいね。まさかディアボロにはならないだろ?」
「なりません」
 いつぞやの調理事件を引き合いに出し、鷹政が笑った。




(不破 雫……か)
 書類仕事も終わりに近づき、十六夜は胸の中で姉の名を復唱する。
 ようやく、ようやく……認めてもらえた。家族になれる。
 戸籍上、書類上のことと言ってしまえばそれまでだが、これまでの雫の姿を見ていれば夢のように思う。
(お姉ちゃん)
 離れ離れになって、ずっと探していた。
 いつか見つけ出せると言い聞かせなければ、心が折れそうな日もあった。
 見つけ出してからも、消えない不安があった。
「どうしました、十六夜?」
 トン、と郵送用の書類をまとめた雫が呼び返す。声には出していなかったはずなのに。
「んーん。なんでもないよ。遅くなりすぎないうちに帰らないとね」


 1人だったら越えられない夜も、2人なら大丈夫。
 1人では終わりの見えなかった書類作業も、3人がかりでようやく終えて。
「それでは、失礼いたします」
「うん、帰り道には気をつけて」
 学園へ提出する書類は雫が、帰る途中で郵送する書類は十六夜が手にして、事務所を後にする。
「あ、そうだ。お姉ちゃん、ちょっと待ってて。事務所に忘れ物してきちゃった」
「……十六夜。しかたありませんね」
 そそっかしい妹の背を、あきれ顔で雫が見送る。

「筧さん!」
「おっと。どうしたの?」
 自動ドアの向こうに消えようとしていた背へ、十六夜が呼びかける。
「あの天使達は、お姉ちゃんに記憶以外にも何かした?」
「任務完了報告後、俺は特に聞いていないけど……。変わったことでも?」
 心配なことなら相談に乗るよ。身をかがめ、鷹政は十六夜へ視線を合わせた。
「この前、一緒にお風呂に入った時なんだけど。お姉ちゃんの背中の傷痕が薄れてたんだ」
「……傷痕?」
「あっ、今、お姉ちゃんの裸を想像したでしょ! 筧さんの破廉恥!!」
 ぺちーん、十六夜が鷹政の頬を平手打ちする。
「想像も何も、雫さんの背に傷があるのは俺も初耳だし」
「え。そうなの」
 そういえば雫は、十六夜と2人での入浴も頑なに拒んでいた気もする。見られたくないものだったのかもしれない。
「けど、そうか……。天使たちのなんらかの『思念』が、雫さんに痕を残していたのかもしれないね」
 記憶を奪い、爪痕を残す……それほど、執着する存在だったのだろうか。
 しかし、天使は全て葬った。
「いつかきっと、傷跡はなくなると思うよ。俺の憶測でしかないけど」
 その時こそ、雫は過去と現在、そして未来へ繋がるあらゆる鎖から解放されるのかもしれない。

「困ったことがあったら、いつでもおいで。俺から依頼することもあるだろうけど」

 鷹政は、十六夜へメタルマッチを握らせた。
 姉が持っているものと同じだった。





 雫と十六夜、並んで歩く帰り道。
 紫から濃紺へとグラデーションの掛かる空に、雫型の月が輝いている。
 2人の行く先を、未来を、導くかのように。




【月の雫 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja1894 /   雫   / 女 / 11歳 / 姉 】
【jb6122 /不破 十六夜/ 女 / 11歳 / 妹 】
【jz0077 / 筧 鷹政 / 男 / 32歳 / フリーランス 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
記憶を巡る物語『月の雫』、最終話をお届けいたします。
共に追いかけることができ、嬉しく思います。お楽しみいただけましたら幸いです。
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2017年11月02日

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