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『白龍の巫女と蒼き転移者 』
Uisca=S=Amhranka0754)&瀬織 怜皇ka0684

●転移
 甲殻類なのか昆虫なのか海生生物なのか、形容しがたい姿や特徴を持ったヴォイド。
 正体不明、目的不明。分かる事は、その忌々しさに、人々の精神が崩壊するという事だ。
「ここは俺に任せて、先に避難して下さい!」
 狂気に侵された暴徒の侵入を防ぐように扉を抑えながら瀬織 怜皇(ka0684)は叫んだ。
 モールの裏側には軍が来ているはず……そう、怜皇は認識していた。
「あ、ありがとうございます!」
 暴徒からギリギリ、難を逃れた親子がお礼を言いながら奥へと避難する。
 女の子が、蒼い鳥をモチーフにしたぬいぐるみを怜皇のポケットに突っ込んだ。
「お守り! 後で、返してね!」
 ニッコリと笑った少女の笑顔に、怜皇は頷いた。
 そして、全身の力と共に雄叫びをあげて、僅かに開きだした扉を押し返す。
「キッチリ閉めて、鍵を掛けられれば……」
 そうすれば、一先ずは安心だ。
 避難した親子の後を追えば、お守りを返す事ぐらいには間に合うはず。
 そう思った次の瞬間だった。
 激しい爆発音と衝撃。怜皇は吹き飛ばされた。
 何が起こったのか分からない。視界を回すと、親子が避難した方角から光が差し込んでおり、そこに、おどろおどろしい不気味な目玉のヴォイドが姿を現していた。
「…………」
 抑えていた扉が開かれ、狂気に陥った暴徒が雪崩れ込んでくる。
 思考が停止し、呆然とする怜皇の視界に親子の無残な姿が映った。
 目の前に迫る目玉のヴォイドが光を放つ――。

●邂逅
 Uisca Amhran(ka0754)は、族長会議での出来事を思い返しながら、泉で心身を清めていた。
 日増しに勢力を拡大するヴォイドに聖地は既に包囲されている。辛うじて発動した転移門で飛んだUiscaは、聖地内の状況を報告したのだ。
 一刻も早く聖地救出の必要を訴える部族もいれば、それだけの兵力が無いと反論する部族もいた。
「……帝国や王国、同盟などの協力も必要なのに」
 上手くいかないというのが政治というものなのだろうか。
 しかし、絶望的な状況でもない。歯車がかみ合わないだけで、回りさえすれば、人類の力はヴォイドを超えられるはずだとUiscaは思っていた。
 同時にその為にはどうすればいいのか、その問いの答えをUiscaは持ち合わせていなかった。
「……」
 定められた手順に従って禊を行っていると、物音が聞こえた。
 エルフ特有の細くなった耳がピンと動く。
(誰……?)
 裸を見られた程度で驚くような、か弱い女の子ではないが、物音の正体が分からなければ警戒もする。
 Uiscaが居る場所は故郷の村からほど近い泉だ。聖域としての大事な場でもあるので、村人は近寄らないし、森の奥でもあり、旅人が迷い込むとは考え難い。
 となると、後は動物か……あるいは、ヴォイドか。
 身体が濡れたまま白い布を体に巻き付けるように着ると、物音のあった方を慎重に確認する。
「?」
 地に伏せている人を見つけた。
 木々の枝の上に登り、見下ろすような形で凝視するUisca。
「旅人にしては服装が変な気が……」
 その者はこの辺りの服装ではないようだ。
 どちらかというと、帝国にも似た服にも見えるが、明らかにその素材は帝国の物とも違う。
 静かに傍に近寄ると虫の息だと分かり、Uiscaは慌てて頭を抱える。
「大丈夫ですか!?」
「……うぅ」
 その人物はUiscaよりも幾つか年上の青年のように見えた。
 整った顔立ちが育ちの良さを感じさせる。
「逃げ……る……ん、だ……」
 青年の意識は混乱しているようだ。目を閉じたまま呻くように呟く。
 その手には、見た事がない蒼い鳥のぬいぐるみが強く握りしめられていた。

●幾か月後――
 薪を割る音が響く。規則正しい一定の間隔は、最近になってからだ。
 Uiscaは汲んできたばかりの冷たい水と焼きたてのパンを持ってやってきた。
「もう……すっかり、慣れたようですね」
 その言葉に怜皇は作業の手を止め、倒れた自分を助けてくれたUiscaに視線を向ける。
 あれから、何か月か経っていた。
「怪我の方もだいぶと良くなってきたので。Uiscaのおかげです」
「私がもっとちゃんと回復魔法を扱えれば良いのですが」
 白龍の巫女であるUiscaは、巫女として必要な力を修行してきた。
 それでも、やはり力量ある巫女と比べれば差があるのは仕方がない事。
「充分だよ。正直、魔法というものに凄く驚いているし」
「リアルブルーには、魔法ではなくカガクという文明があるという話に私は驚きましたけど」
「転移、か……」
 空を見上げる怜皇。異世界に転移したと聞かされた最初は信じられなかった。
 だが、Uiscaの話や村の事を見て、これは現実なんだと受け入れ始めている。
 そして、この世界もまた、ヴォイドという共通の敵に脅かされているとも……。
「……」
 怜皇は斧を持つ手に力を込める。
 “また”自分は無力なのかと。故郷の世界でも、転移した異世界でも、ヴォイドに立ち向かう術がない。
 柄を握り壊してしまうのではないか力を入れた手に、Uiscaは自分の手を重ねた。
「あまり気負わないで下さい。それより、また、リアルブルーの話を聞かせて欲しいです」
「もう、殆ど話した気がするけど」
 助けて貰ってから、Uiscaは興味津々にリアルブルーの事を訊いてきていた。
 数か月経過しても彼女の興味は尽きる事がないようだ。
「竜の話が聞きたいです。鳥は竜が進化したという話を」
「Uiscaはその話が好きだね。それに、竜は竜でも、恐竜なんだけど」
 この世界の竜とは異なる存在なのだろうが、白龍の巫女には気になる事なのかもしれない。
 怜皇の隣に並ぶと、Uiscaの美しい金髪がふわりと舞って、心地良い香りを漂わせた。
「沢山、知りたいのです」
 ニッコリと笑ったUiscaの表情。それに怜皇は妹の面影を重ねていた。
 故郷の世界の行く末と強い不安が心の奥底で渦巻くと同時に、何かと気を遣ってくれるUiscaに対する申し訳なさ。
 このまま此処で、ただ時が流れるままで良いのかと……そんな思考を押し殺しながら、怜皇は微笑を浮かべて頷いた。
「分かりましたよ。Uiscaの気が済むまで」
 二人は陽の光が差し込む柔らかな中、一緒に長椅子へと座った。

●覚醒
 突如の轟音に、二人は目を丸くして視線を合わせた。
 音の方角は村の出入り口の方だった。続けて、警報を知らせる鐘の音が響く。
「この鐘の音は……」
 村には緊急を知らせる鐘を鳴らす事があったが、怜皇の耳には今まで聞いた事がない音が入っていた。
 険しい顔でUiscaが口を開く。
「これは……この鐘は、ヴォイドの襲来を知らせるものです」
「なんだって!?」
「私が行きます!」
 そう言い残して走り出したUisca。
 跳ねるように軽快な足取りの中、一瞬だけ振り返った。
「先に避難していて下さい!」
「だったら、一緒に!」
 怜皇の呼び止める声が虚しく鐘の音と共に流れる。
 あっという間にUiscaの姿は見えなくなった。白龍の巫女としての厳しい修行の中には戦闘に関するものもあったと聞いている。
 自分が行った所で、Uiscaの邪魔になるだろう。
「ヴォイド……」
 それでも、このままで良いのだろうかと怜皇は心の中で思った。
 巻き割り用の斧が彼の視界の中に映った。

 適当な物干し竿を掴んでUiscaは村の中を走る。
 既に幾人かの怪我人も出ているようだ。治療を施したいが、先に脅威を排除する必要がある。
(雑魔程度なら……)
 ヴォイドの中でも下位の存在である雑魔ならなんとかなるかもしれない。
 そんな淡い期待は、小屋の脇から姿を現したヴォイドによって、すぐに打ち砕かれた。
「あ……あぁ……これ、は……」
 Uiscaの眼前に現れたのは形容しがたい目玉のヴォイドだった。
 残酷な人間の目玉が真っ黒な血に染まって、浮いている――そんな、イメージを抱く。
 足がすくむ。それでも、Uiscaは手に持った物干し竿を槍のように構えた。
 体に染み込まれた修行の成果だ。意を決して突き出す。
 不気味にフワッと上昇してヴォイドは避けた。
「あ……」
 何かを言おうとしたUiscaよりも早く、ヴォイドが光の筋を放った。
 それはUiscaの目の前の地面に直撃すると大きな爆発を起こす。それだけで、Uiscaは吹き飛び、小屋の壁に叩き付けられた。
 訓練と実戦は違うと今ので分かった。このヴォイドには勝てない……と。
 ならば、せめて、村の人達が避難できる時間ぐらいは稼ごうと、よろよろと立ち上がる。
「Uisca!」
 呼び声に振り返ると怜皇の姿が見える。
 こっちに向かっているようだ。
「逃げ……」
 叫び返そうとした時、Uiscaは殺気を感じて正面に視線を戻した。
 いつの間にか、目の前、すぐにでも触れられるような位置に、目玉のヴォイドが迫っていた。その嫌悪感にUiscaは震える。
「い、いやぁぁぁ!!」
 ペタンと座り込んだUiscaの悲鳴。
 少女の名を叫びながら怜皇は斧をヴォイドに向かって投げつけた。狙いが良かったのか、目玉の側面に直撃する。
 その攻撃が効いたのか、ヴォイドがゆっくりと怜皇に向き直った。
「こいつは……」
 転移する直前の事が蘇った。
 助けられなかった親子。力無き自分の不甲斐さ。蒼鳥をモチーフにしたぬいぐるみ――。
「……もう、失わせたりしない!」
 彼の強い決意が、これから起こるものを呼んだとすれば、それは奇跡ではなく、必然だったかもしれない。
 脳裏に浮かんだ蒼鳥が大きく羽ばたき、龍へと姿を変えた。イメージのままに具現化すると、蒼き龍が渦巻くように怜皇の身体を包み込んだ。
 銀色だった髪が淡い蒼色に、青色だった瞳が輝かしく銀色に変化した。
「おぉぉぉぉぉ!!」
 雄叫びと共に突き出した右の拳が輝く。
 同時に放たれるヴォイドの黒い光が再び爆発を引き起こした。
 土煙の中、Uiscaが見たのは、マテリアルの光を発しながら戦い続ける怜皇の姿だった。

●旅立ち
 心地良い子守唄が聞こえる。
 怜皇が意識を取り戻したのは、Uiscaの膝の上だった。
 ヴォイドの姿はなかったが倒したという実感はあった。無我夢中で戦った結果、体力を使い果たして倒れたようだ。
 体を動かそうにも痛みで動かないが、切れた所からの出血は止まっていた。
「……Uisca?」
 名を呼んだ時だった。それまで堪えていたものが溢れだすように、Uiscaは怜皇に抱き着いた。
 突然の事に困惑する怜皇。
 ポンポンとUiscaの背中を叩きながら周囲を見渡す。
 辺りには回復魔法を発動させる為か、幾重にも巡らされた魔方陣やら小道具が散乱していた。
 Uiscaが術式を幾度となく展開したのだろう。
「俺は死にかけたのか……ありがとう、Uisca」
 顔を近づけてきた少女にお礼を告げる。
 少女は首を横に振った。
 礼を言うべきなのは、自分の方だと。
「レオ……」
 優しく発した声と共に、Uiscaは唇を怜皇と重ねた。
 そこで、怜皇は気が付いた。少女の想いと……自分の心の中の変化に。
 妹のように思って接していた。頭のどこかで、いつか、元の世界に戻る事を考えていたからかもしれない。戻る時に、別れが悲しくなるのならと。
 けれど、この少女は違った。想いを大切にしている。だったら、自身も応えるべきだろう。
「イスカ……」
 二人は額を合わせながら、見つめ合う。

 そして、二人は再び、一つになった。





 後日、二人は旅立つ。
 Uiscaの姉から、リゼリオでハンター登録できるという情報を聞いたからだ。
 ハンターという職に就くというのもあるが、覚醒者としての正しい知識や能力も身に着けられる。それは魅力的だった。
 そして、なによりも二人には大切な想いがあるのだから。
「イスカも、この世界も、失わせたりしない」
「レオも、レオの世界も」

 確りと手を繋ぐ、寄り添った人影が、大地に映り、どこまでも広がる大空に、青い鳥が飛んでいった――。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0754/Uisca Amhran/女性/16/巫女】
【ka0684/瀬織 怜皇/男性/18/転移者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっています。赤山です。
お二人の馴れ初めを描く……という事で、ご指名頂きまして、誠にありがとうございます!
描く前からワクワクドキドキしていましたが、書いている間もワクドキが止まりませんでした。

私にとっても、とても思い入れのあるお二人ですので、どんな出会いが良いのか、どんな絡み方が良いのかと悩みつつ、このような形となりました。
イメージ的には、洋画をギュッと煮詰めた感じです。ご期待に副える内容になっていればと思いますが、お気になる点があれば、お気軽にリテイクをお申し付けください。

この度は、素敵なご依頼戴き、ありがとうございました。
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2017年11月08日

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