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『彼女は知らない(4) 』
水嶋・琴美8036

 実験施設を壊滅させた翌日、琴美は再び戦闘衣装に身を包み夜の中を駆けていた。彼女の走りに合わせ、女性としての魅力を詰め込んだ魅惑的な胸は揺れる。
 この短時間の間に、また一人失踪者が出た。しかも、琴美の部隊に所属している少女……最近部隊に入ったばかりの、新入りの彼女だ。
 その知らせを知った直後、琴美は司令へと呼び出された。言い渡された任務は、失踪事件の犯人の居場所に行き相手を暗殺する事。新入りの少女にもしもの時のためにと発信機をつけていたため、犯人の現在の居場所の特定は容易だった。
 連日の任務になってしまう事を謝罪し琴美の身を案じる司令に、黒の髪の少女は笑顔で首を振ってみせた。何も謝る必要などない。琴美にとって、任務が続く事は苦ではなく、むしろ嬉しい事なのだ。
(私も早く、この事件を解決したいと思っていたところでしたもの)
 過去へと思いを馳せていた琴美は、ふと背後から何者かの気配を感じ現実へと意識を戻す。どうやら、琴美がきている事に気付いた黒幕が、わざわざ出迎えにきたらしい。
「……やはり、あなたでしたのね」
 神秘的な夜のような色の艶やかな髪が揺れる。振り向いた琴美は、相手の姿を見て凛とした声で言葉をこぼした。
「あれ〜? 気付いてたんですか? さっすが先輩」
 そこに立っていたのは、最近部隊に入ってきたばかりの新人の少女だった。彼女はさらわれたわけではなく、自ら姿を消したのだ。実験施設という拠点としていた場所を失ったため、態勢を立て直すために。
 この少女こそが、今回の事件の犯人。失踪事件の黒幕だ。
「ええ。最初から、あなたには違和感を感じてましたの」
 違和感は徐々に大きくなり、少女が姿を消した時に予想は確信へと変わった。念のためにと、彼女に発信機をつけたのは他でもない琴美である。
 正体を明かしたというのに驚く事もなく冷静さを崩さぬ様子の琴美に、黒幕である少女はつまらなそうに溜息を吐いた。
「アンタの焦った顔見れると思ってたのに、何そのリアクション。つまんな〜い」
 今までの謙虚な態度とは打って変わり、不躾な態度で口調も荒くなった少女。恐らく、こちらの姿が彼女の素なのであろう。
「あなたが部隊に入ってきた時には、すでにあなたが近頃起こっている失踪事件の犯人であるのではないかと私は疑っていましたわ」
 積み重なる違和感。そして、微かに感じる消しきれなかった……異形の気配。
 その場で退治する事も出来たが、さらわれた者達の正確な居場所を調べ上げるまでは念のために琴美は近くで少女を監視する事にしたのだ。下手な刺激を与えるとさらった者達に危害を加える可能性がある事を危惧し、少女の前ではそんな素振りを全く見せなかった琴美だが、気付かれぬように少女の事を警戒し続けていた。
「ふーん、やっぱりただ者じゃないわね、アンタ」
 ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、敵の少女は琴美の扇情的な肢体をまるで舐めるように見やる。くふふ、と笑いを抑えきれぬ様子で、少女は楽しげに語り始めた。
「アタシ、ペットがほしいのよね。でも、ただのペットじゃつまらないじゃない? 凶悪で凶暴で、邪悪なやつが欲しいの。だから、適当な動物達をさらってキメラちゃんを造る事にしたってわけ」
 自らの欲望のために命をまるで玩具のように弄ぶ。あまりにも勝手、あまりにも残酷な少女の言葉に、琴美はクナイを持つ手に力をこめる。目の前にいる悪を体現したような少女を見る宝石のように美しい色をした瞳は、自然と険しい目つきへと変わった。
「でも、さらってきたやつらはぜんっぜん駄目。普通の動物じゃ元の体が弱すぎて、耐久力も知性もない失敗作しか作れなかった。処分するのも面倒くさくて放置してたら、ちょうどあんたがきて助かったわ。拠点も、そろそろ新しい場所に移そうかと思ってたところだったしね」
(……なるほど、そういう事でしたのね)
 前日に感じた違和感は正しかったのだ、と琴美は思う。実験施設に見張りの一人もいなかったのは、黒幕にとってもう捨て置いていても構わないものだったからだったのだろう。
「アタシの目的は、アンタよ。水嶋琴美せーんぱいっ。前から狙ってはいたけど、アタシの最強のキメラちゃんを造るためにはやっぱりアンタが必要だわ!」
「……お喋りはもう十分でしょう? そろそろ、決着をつけませんこと?」
 長々と自分語りを続ける相手に、琴美は辟易した様子で肩をすくめた。相手の品のない笑い声を、これ以上聞くのは苦痛だ。
 武器を向けてきた琴美に、黒幕の少女は「そうね」と頷き、自らも戦闘の構えを取り始める。そして、まるで吠えるように叫んだ。場違いな程に楽しそうに、狂った少女は狂った声をあげる。
「キャハハハ! でも、残念なお知らせを一つしてあげる。……アンタじゃ、アタシには勝てないわ。絶対にね!」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8036/水嶋・琴美/女/19/自衛隊 特務統合機動課】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターのしまだです。ご発注ありがとうございます。
連作の四話目です。引き続き、よろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2017年11月09日

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